もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら 作:ちゃんどらー
少し短いですがご容赦を。
日本のとある場所。
激しい戦いが終わり、敵の情報を知った少年は吠える。
「くそおっ!」
大地に打ち付けられる拳。怒りの感情は大きい。
「ロードめ! よくもこんな惨いことを!
心を操るだと? 平気で関係ない人達を戦いに巻き込むだと!?」
その少年とパートナーの魔物にとってはあまりにも許せない敵の行い。
「正体を現しやがれ……千年前の魔物に戦わせてないで姿を現しやがれ! 必ずぶっ倒してやる! その顔おもいっきりぶん殴ってやる!」
被害に遭った人間達には記憶がない。攫われてから今までの記憶が全てなく、自分が何をしていたかもわからないのだ。
自分の知らない場所に、自分の知らない間に、自分の大切なモノもほったらかしにして、他者の目的の為に利用された人間達。
清麿達を心配する老人は自分が魔物と共にその傷をつけたのだと分からない。
スーツを着た紳士は娘の誕生日プレゼントを渡すことさえ出来なかった。
人の心を操るとは、他者の人生の時間を好きに使うということ。その人格も、生活も、きっと命さえも、何もかもを無視して。
ティオとそのパートナーである恵も、清麿とガッシュのように怒りに震えていた。
ナゾナゾ博士との出会いによって成長し、こうして清麿達二人の力になることが出来たとはいえ……彼女達二人が被害にあった人間達に出来ることは少ない。
やるせない気持ちを敵への怒りに。四人の心は一つだった。
そんな時に―――空が光ったのを清麿達は気付かない。気付けない。
魔物達の戦いに於いて最も有効な戦い方は何か。
答えは意識外からの攻撃。
気付かれることなく放たれた一撃が本を掠めることでもあれば、それ即ち敗北に直結する。
故に、清麿と恵は……例え敵が逃げたとしても警戒を怠ってはならなかった。
空に逃げた敵は清麿とガッシュ、そして恵とティオを捕捉している。
敵の魔物の救援が来たというのなら、他にも伏兵が居てもおかしくはない。
残忍で狡猾な魔物が敵である。当然のこと、使えるモノは全て使ってくる。
――善性を持つ人間であるならば……被害者を放っておくことなど出来ない。敵が逃げ、人間達の正気が戻ればそれを救おうとするのは当然のこと。
遠く―――遺跡の中。ビョンコの目を通してその戦闘を見ていたロードは口を引き裂いて嗤っていた。
――この戦いに参加しているもう一人の雷のベル。大したことのない落ちこぼれであっても不確定要素は早期に消すべきでしょう。故に……ここで……
今回、パティとビョンコはペアで動かしていた。
あくまで彼女がガッシュ本人に意趣返しをしたいからと言うから一人で行かせただけであって、ガッシュを消せなかったのなら予備プランに移行するだけ。
パティは怒るだろう。彼女自身が部下となる千年前の魔物を引き連れて絶望を味わわせてからガッシュの本を燃やしたいはずなのだから。
しかしロードにとってそれは些末事。
雷帝が手を出してこないとしても、万が一……億が一にも繋がりがあったなら……考えるだけでも嫌になるのだ。
ベル一族同士でつながられるくらいならば早めに消すべきと、彼はそう考えた。
もし……ゾフィスがリエムという雷帝の使いの少女と出会っていなければ此処まではしなかっただろう。
ゾフィスの心の奥底に……あの翡翠の奥にある怪しい紫の輝きが刻まれていなければ……。
遥か上空から打たれたのはギガノ・ビレイドだけでなく、その場に居る魔物達のあらゆる中級呪文をありったけ。
降り注ぐ術を喰らえば、人間達はただでは済まない。
ガッシュも、ティオも、清麿も恵も優しすぎた。傷ついた、傷つけた人間達へと意識を持っていきすぎる程に。
「き、清麿っ! 恵! ティオ! 上だっ!!!」
勘か、はたまた成長途中の才能故か……ガッシュは上空からの攻撃に気付くことが出来た。
しかしもう遅い。声を出した時に顔を上げても、ガッシュだけでは迎撃の術を出せない。
無関係の人間の有効的な使い方を……ゾフィスは間違えなかった。
始まりからシェリーに迷いなくラドムを打ったゾフィスが、用済みの人間達の安否に頓着することなどなかった。
悪意が、襲う。
「うそ……」
「くっ……そぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
見上げただけでは術を唱えるのに足りない。バオウ・ザケルガは打てない。上空からの攻撃にラシルドは使えない。ラウザルクでは防げない。ザケルガでは相殺などとてもできない。
セウシルでは全員を護れない。マ・セシルドでは余波まで防ぎきれない。何より傷ついた人間達に肩を貸している恵は……術を唱えられない。
――チェック・メイト、です。
清麿が戦闘中に行った台詞を真似て、ゾフィスが笑みを深めた。
咄嗟に本を守りつつスーツの人に覆いかぶさる清麿とガッシュ。ティオも恵と老人を守るように伏せさせ。
同時に。
「―――“オルダ・リグロン”」
少し離れた場所から聞こえた……聞いたことのある声。
轟音と、爆発。
上空で起こった術の爆発は、清麿達を傷つけることはない。
幾重に張り巡らされたロープが術の威力を吸収・分散させ、他のロープで清麿達を引っ張って余波の届かない所まで運んだ。
合計で八本のロープは計算されたように張られた上、それぞれの動きで術を完璧に防御しきった。
「お……おぉ」
「この……術は……」
「すごい……」
「……よかった」
バサリとスーツのジャケットをはためかせて歩いてくる青年を見て、清麿達の顔が綻んだ。
恵とティオだけではなかった。その事実に、清麿の目からまた涙が出てくる。
――オレ達には……たくさん、仲間が居る……
青年は優しい笑顔を浮かべて、肩で誇らしげに胸を張る小さな魔物を乗せつつ清麿達に言った。
「大丈夫だよ。ボク達も居る」
見上げた空の色は、太陽をよく移す綺麗で澄んだ色だった。
ガッシュの胸に、太陽のような大きな温もりが灯った。
彼が仲間の存在をより大きく感じた昼下がり。
○△○
じっとたき火を見詰めて考える小さな姿は此処数日でもう見慣れた。
日中もトレーニングと見分を広める為の街の散策において言葉を投げてくることなく、“問い”というカタチで必要な“答え”を求めて来ることもない。
あちらに行く。こちらに行く。
国と地域はデュフォーが決めているとはいっても、その後はただ短く意思を発するだけで行動の効率を求めることはなかった。
デュフォーはそれを止めないし、好きなようにすればいいと思っている。
ゾフィスとガッシュ達の衝突まではナゾナゾ博士やシェリー、アポロに流れを任せ、リーン・アシュロンという強力なペアと共に修行を続けるという筋道も
彼らの現在の位置はアメリカ南部。
世界中にゼオンの瞬間移動の為の拠点を作るという目的もあり、世界中の人間達の生活を見せて見聞を広げる意味合いもあって二人は南下していた。
ただ……デュフォーの狙いはもう一つ。
能力によってゼオンの成長と答えを求めたから……その小さな少年が必要としているモノがもう一つ其処にあったのだった。
ぱちぱちと火花が跳ねる。
焚き火を見詰めると心が落ち着くという。揺らめく炎にそういった効果があることをデュフォーはよく知っていた。
揺らめく火を見て、心を静めて、頭の中を整理する。きっとこの少年もそうしている。長い時間と大きな出会いがなければ解けない問題を解くために。
しゅんしゅんと鍋が噴きこぼれているが、味の変化を最適とする為にじっくりと時間を掛けて待ってから蓋を開ける。
深堀の皿に茹でた腸詰を入れてゼオンへと渡しながら、デュフォーは漸く言葉を投げた。
「明日には新しい街へとたどり着く」
「ああ」
「小さくて素朴な街だが、少しいった所に大きな野生生物保護区があるから観光においての発展具合もなかなかだ」
「ああ」
生返事をするゼオンに対して何も思うことはない。
自分の分の腸詰を皿に盛った彼は次にパンを取り出してゼオンの皿に乗せた。
「そして……その街には今、一体の魔物が居る」
ぴたり、とパンへと伸ばしていたゼオンの手が止まる。
「数体の魔物と交戦したことはあるらしいから戦闘経験は少しだけあるようだ。持っている力はギガノ程度。成長の具合から見てもうすぐディオガに達するだろうなといった所だろう。パートナーの人間の仕事の都合で丁度この国に来ている」
「……」
「人間の方は其処まで身体能力は高くないが、いい目を持っているし判断力も良さそうだ。魔物の術とも相性がいい。まあ、お前の敵ではないが」
説明だけを並べて淡泊に情報を伝える彼はいつも通り。
ゼオンは何事もなかったかのようにパンに手を伸ばす……ではなく、彼にその紫電の瞳を向けた。
「デュフォー……オレは……」
「戦うつもりはない、か?」
迷いの渦巻く紫電からの答えは分かっていたと、デュフォーは目を合わせることなく伝える。
「ああ、しばらくは……一人で考えたい」
目をまた炎に戻したゼオンは言う。
アシュロンとの出会いで出来上がった迷いを晴らすまでは戦闘を行うつもりはないという。
デュフォーはそう読み取る。
「戦えとは言わない。戦闘はしなくても話してみるだけでいい。人間の世界を見て回ることで学んでいるのは分かっているが、お前はもっと魔界のことも知るべきだ」
「……魔界のことなど知っている……どれだけオレが城で勉学に時間を費やしてきたことか」
軽い拒絶の感情。苛立ちを含んだソレは、まるで母親に宿題を急かされる子供のよう。
――これは……アシュロンの内面の大きさに少し打ちのめされている、か。
子供によくあることで、一人で何かを成し遂げたいという我が出る瞬間。それが今、ゼオンに起きていた。
なまじ自分でなんでも出来た彼にとって、アシュロンという先を行く魔物との出会いはそれほど衝撃だったということ。
心という一点に於いて、ゼオンは答えを出せなかった自分が嫌で仕方ないのだ。
デュフォーは考える。
此処で無理にでも踏み込むことがゼオンの成長に繋がるのか、はたまた引き下がって時間が解決するのを待つのが最適解なのか……。
――本当に使い勝手の悪い能力だ。”心の成長の到達点”が設定されていないからゼオンが右に進むでも左に進むでも“答え”になってしまう。
デュフォー本人がゼオンの心の行きつく先を理解出来ないから、その能力では“最適解”を導き出すことが出来ない。
思考を切り替え、小さくため息を吐いて彼は言う。
「……ゾフィス達、いや……千年前の魔物達はもう復活が終わっている。いつガッシュ達に対して行動を起こしてもおかしくない状態だ」
「博士とアポロの状況は?」
「博士の方はシェリー・ブラゴペアともうすぐ接触、被害者の人間達のケアの準備が整い次第ゾフィスの本拠地への攻撃日程を調整していく感じになるだろう。
アポロの方も同じように準備中だな。こちらはガッシュ達の仲間が間に合わない場合を想定して日本で活動しているようだ。あくまでガッシュ達には内密に」
「……最悪の事態には?」
「ならない。オレ達や竜族、ブラゴのような強い魔物の襲撃に備えてパムーンレベルの魔物をゾフィスは動かさないから、アポロ・ロップスペアがガッシュを確実に守りきれる。追い詰められることがあろうと、ガッシュのパートナーである清麿の頭脳とガッシュ達の繋がり、アポロの能力、そしてナゾナゾ博士達の事前準備により敗北は皆無だ」
「……そうか」
ならいいと、ゼオンはやっとパンに腸詰を挟んでいく。
同じようにホットドックを作ったデュフォーはカバンから取り出したケチャップとマスタードを付けた。
一齧り。
ほんのりと甘みと辛みが混ざり合う。呑み込んで視線を落とせば黙々と食べる少年はまた炎を見詰めている。
「ゼオン、美味いか?」
「……まあまあだな」
「そうか」
「ああ、そうだ」
なんてことはない会話。
沈黙は苦ではない。
それでいいとデュフォーも思っているし、ゼオンもこれでいいと思っている。
だけれども。
少しだけ、デュフォーの心にもやが掛かって。
だからだろう。
ふと、彼はゼオンの頭に掌を置いた。
「……最後は一人で答えを出せばいい。けれど、こうやってお前と食べるメシの方が美味いように、一人だけで答えを出さなくてもいいんじゃないか」
くしくしと柔らかい銀髪を撫でやって、すぐに撫でるのをやめたデュフォーはまたパンを齧る。
そのまま無言でお互いにパンを食べて、そうして食事が終わる。
ゼオンは、大きく息を付く。目を瞑ったのは数瞬。思考はすぐにまとまった。
紫電の中にある悩みは消えていないが、不敵さが僅かに戻っていた。
にやりと笑った彼は……デュフォーの胸に拳を当てる。
「ふん……忠告を聞くのも王の務めだ。会ってやろう……近くに居るらしい魔物とやらに」
少しだけ戻ったらしい彼の調子に、デュフォーは小さく息をついて頷いた。
「ああ、じゃあ情報を言おう。近くに居る魔物の術は宝石を―――」
心のもやは取れていた。
柔らかくなったデュフォーの空気を感じてか、ゼオンも頬を緩めて今度は炎を見るでなく目を合わせたまま。
彼らの会話は続いて行く。
旅の合間の夜のこと。
なんてことはない食事の一幕。
遠い地で弟と少年は仲間の存在を大きく心に刻み。
迷いに悩む兄と青年はパートナーの存在をより大きく感じ。
一つ、一つと彼らは歩みを進めていく。
読んで頂きありがとうございます。
ゼオンくんの行動の結果ゾフィスくんが本気。
こんな感じでチェックメイト返ししてきそうだなと思いました。
ガッシュくんと清麿くんは仲間、ゼオンくんとデュフォーくんはパートナーの存在をそれぞれ大きく意識した話です。
ゼオンくんは迷いの答えを出す為にこれからとある魔物と出会います。
あの子です。
これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
下記の内で好きな魔物は誰ですか?
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リーヤ
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リオウ
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ザルチム
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ファンゴ
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カルディオ
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チェリッシュ
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ギャロン
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ジェデュン
-
ロデュウ
-
ブザライ
-
キース
-
テッド
-
モモン
-
アース