もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第三十五話:白銀と宝石と

 

 魔界の王を決める戦いにおいて、戦いが始まるその時まで平穏無事に日常を過ごせる魔物が全てではない。

 例えばガッシュの友人であるティオなどは、ガッシュ達と出会うまでは心の休まることのない日々を過ごしていた。

 仲の良かった魔物に着け狙われる毎日、いつ他の魔物に狙われるかも分からない。

 そんな状態であれば精神はすり減らされていくのは当然、まだ子供であれば尚のコト。

 早期にガッシュと出会い、頼れる仲間という存在を得られたティオはまさに恵まれていた。

 

 逆に、だ。

 彼女のように仲間を得られなかった子供はどうなるのだろう?

 

 自分よりも強い魔物が戦いに来るのが常ならば、早々に脱落していくのが自然ではある。

 だがしかし、強い魔物が来たとて跳ね除けられるような能力を秘めていたというのなら、はたまたそういった荒事の環境で育っていた実績を他の魔物達が知らなかったというのなら。

 きっとその魔物達は強くなっていくことだろう。

 

 人間のパートナーだけが信じられる、そんな“不可思議な孤独”に精神の成長をどこか歪められながら。

 

 

 

 

 

 

 

「あんた達……魔物とそのパートナーだね」

 

 街の中。静かなカフェで昼食を取っている時のこと。

 警戒を最大限に高めて問いかけてくる少女と、帽子をかぶった中性的な麗人がデュフォーとゼオンのテーブルへと近づいてきて放った言葉がそれであった。

 

 デュフォーもゼオンも彼女らの動きには気づいていたが、別段気にする必要もなかった為に優雅に昼餉を楽しんでいたのだ。

 いつでも会いに行けるし、いつでも話が出来た。街の散策と近場の保護区域の観光が終わってからでもいいだろう、そんなデュフォーの提案に従って起こったのが此度のこと。

 相手が警戒しているのは分かっていたから、どれくらいで存在に気付けるかと身に纏う魔力を徐々に上げていって試していた。

 

 逃げるもよし、戦いに来るもよし、それ以外でも別によし。

 

 必要だと言われたとて、ゼオンは彼女という魔物のことをさほど重要視していなかったから、相手の出方でこれからを決めることにしたのだ。

 デュフォーもそれを是として、そして今がある。

 ゼオンの後ろを取っている彼女とそのパートナー。

 デュフォーからはよく見えるが、魔物の背後を取れば確かに術などはすぐには使えない。

 

 昼時の過ぎた人の少ないカフェであるから人間達を巻き込むこともあまりなく、優位に立っているのはまさに彼女達であろう。

 

――相手がオレ達じゃなければ、だが。

 

 声を掛けられてぴたりと止まっているゼオンは、頼んだホットドックを手に取った所だった。

 少し不機嫌に寄せられたその眉を見て、デュフォーは小さく苦いため息を吐き落とす。

 組んでいた脚を組み替え、視線だけで食べていていいと伝えれば、ゼオンはそのままホットドックを口へと運び始めた。

 彼女達の警戒は更に増しても、魔物が皿にある料理を食べ始めただけという事態に困惑の空気が混じる。

 

「その通りだ。宝石の魔物とそのパートナー」

「なっ」

 

 答えた声は平坦。

 自分達の術の情報を唱えた声につられてデュフォーの瞳を見た彼女達は……息を呑む。

 

 その冷たい目は、彼女達を“敵”として全く見ていなかった。

 路傍の石を見るような粗雑さ。無関心さ。

 ぞっとするようなそんな目を、彼女もそのパートナーも今まで見たことは無かった。

 

――なに、こいつ?

 

 何処まで情報を持っているのか、自分達を知っているならどうしてこの街に来たのか……いろいろな疑問が頭に浮かんでは消えていく。

 緊張と警戒から固まってしまった二人に対して、ホットドックを一つ食べ終えたゼオンがようやっと口を開く。

 

「座ったらどうだ?」

 

 クイと指を差された先にある椅子とデュフォーを交互に見る。

 銀髪の小さな魔物は振り向くこともしない。

 動かない彼女達に向けて、小さく鼻を鳴らしてから彼は不機嫌そうに言った。

 

「机を囲んでまずは自己紹介からだ。オレもデュフォーもまだ戦うつもりはない」

 

 そんな彼の言葉に、彼女――チェリッシュは目を見開いて驚愕に支配された。

 今まではどんな魔物とも顔を合わせればすぐに戦いへと発展していたから。戦いの中でしか言葉を交わすことなどなかったから。周りは全て敵なのだから……先に話をするなんていう選択など取るはずもなかったから。

 

 肩越しに、銀髪の小さな魔物の紫電の瞳がチェリッシュを見た。

 

 彼の瞳の真っ直ぐさは、今まで人間界で出会ったどの魔物とも違って……それでいて、どこか見知った―――“自分のよく知る子”と似た輝きを宿していた。

 

 チェリッシュは心の中で安堵に似たため息を落とす。

 相手が小さな子供であることも、きっと彼女の荒んだ心に響いた理由。

 初めて話が出来る魔物と出会えた。それでも……警戒は最低限解かずに席へと進む。

 

 デュフォーは静かにゼオンの隣へと席を移し、相対するように彼女達は席へと着いた。

 

 待っていたのは白銀の魔物。

 

 紫電で真っすぐに射抜いてくる瞳と彼の纏う空気に、チェリッシュは驚きと納得を浮かべる。

 

 意地を張ったような挑戦的な瞳。誰にも屈しないと感じさせる自信あふれる気骨。そして……真っすぐにナニカを見据えている純粋さ。

 

 本当に“彼女と共に並んでいた子”と似ていたから。

 

 更にはゼオンが魔力と威圧を極力抑えているというのもあって、彼女にとっては年相応の子供に見えてしまった。

 よってすんなりと、チェリッシュは僅かに気を抜けた。

 

「非礼を詫びるわ。それと、ごはん時にごめんね、坊や(・・)

 

 口を突いて出てしまった言葉。見た目の幼さからチェリッシュは言ってしまっただけ。

 目の前のゼオンは驚きと困惑と羞恥と僅かな怒りから複雑な表情へと変わった。

 それが面白くて……デュフォーは口元を抑えて横を向く。

 

「おい、デュフォー」

「……なんだ、坊や?」

「きさまぁ!! やはり面白いとおもいやがったなぁ!?」

 

 笑われて怒るゼオンの不機嫌な顔も、チェリッシュにとっては近くに居た魔物の子が子供扱いするなと癇癪を起していた空気と同じに感じられて自然と笑みが浮かんでくる。

 

――バカね、私。こんな子を後ろから襲うような真似して……。

 

 同時に、“小さな子”へと敵意を向けていた自分を恥じる。

 

 和やかな空気にほっと胸を撫で下ろしたチェリッシュのパートナーは、そんな彼女の肩をそっと叩く。

 

「私達もお昼にしようか」

「ええ、そうね。ご一緒してもいい?」

 

 やいのやいのと騒いでいたゼオンと受け流していたデュフォーへと提案すると、二人は揃って彼女達を見る。

 

 恥ずかしくなったらしいゼオンは、ちっと舌打ちを一つしてからおとなしく椅子に座りなおした。

 それもまた坊やと呼ばれるに相応な子供らしい仕草なのだが、とはデュフォーも言わない。

 

「……いいだろう。それと……オレはゼオン。ゼオン・ベルだ。坊やなどと二度と呼ぶな」

「いいだろう坊やで」

「よくないっ!」

 

 デュフォーのからかいに即座に歯を剥いて唸る。そんな彼の様子が可笑しくて、チェリッシュはつい噴き出してしまった。

 

「ごめんごめんっ! もう笑わないから……ね?」

 

 ジトリと睨んでくるゼオンにどうにか繕って言う彼女は、子供を言い聞かせるような話し方になっていることに気付かない。

 そんな彼女の対応がどこかむず痒くて、ゼオンはまた舌打ちをして今度はそっぽを向いた。これ以上デュフォーにからかわれるのは御免だというように。

 

――ああ、いいな。

 

 デュフォーが心の中でつぶやく。

 気張っていたイトが解けたか、そう思って。

 そんなデュフォーのゼオンに向ける穏やかな表情は、先ほどまでのチェリッシュ達に向けていたモノとは別物。変化を見て取ったチェリッシュも彼女のパートナーも穏やかに笑った。

 

 日常的な穏やかな時間が、

 ゆるり……と、彼女達の心に余裕を与える。

 

 人間界に来てからの警戒と緊張が解けた彼女は、美しい髪を風に揺らせて二人へと芯のある声を渡した。

 

「初めまして、私はチェリッシュ。話が出来る魔物と出会えてとてもうれしいわ。こっちはニコル。私のパートナーよ」

「先ほどは失礼した。よろしく頼む」 

 

 気にしなくていいと言ったデュフォーとゼオンは、警戒を更に解けるようにと甘いモノとコーヒーを注文していく。

 それに倣って彼女達も注文を重ねていった。

 

 

 なるほど……と、能力から新たに知り得た情報にデュフォーは心の中で一人ごちた。

 

――捨てられた孤児達の育ての親。孤児達に希望の光を与え続けた少女。絶望に抗い、魔界の最底辺で曇らず光り輝いてきた宝石……か。

 

 チェリッシュの魔界での情報は、まさにゼオンにとって一番必要なモノだった。

 ゼオンの迷いを晴らすのにこれほどまでにふさわしい存在はなく、そして……

 

――母の愛を知らないゼオンにとって……扱いに最も困る魔物というわけだ。

 

 子供達の親代わりをしてきた彼女だからこそ、ゼオンに対して大きな変化を齎せるのだと確信する。

 

 また拗ねたようにそっぽを向いているゼオンを置いて、今度はデュフォーが彼女達へと口を開いた。

 

「オレはデュフォー。そしてこいつはさっきも言っていたがゼオンだ。少し怒りっぽいところがあるが普段はしっかりしているんだ。仲良くしてやってくれ」

 

 また食って掛かりそうになるゼオンは、デュフォーの意味ありげな目配せに口を噤む。

 必要なことだから、そう言われた気がした。

 

 ベルの名をもう一度強調しなかった点を見て、何が狙いかを彼は悟った。

 

 ただのゼオンとして、チェリッシュと話せ、と。

 

――いいだろう。それがガッシュの為に必要なことならば。

 

 プライドの高い彼であれ、大切なモノの為には何も厭わない。

 童にするようなむず痒い対応も呑み込んでやろうと心に決めて……ゼオンは小さく吐息をつく。

 

「よろしく頼む、チェリッシュ、ニコル」

 

 

 ただの休日のような、そんな昼時のこと。

 

 ゆったりとした時間が流れるカフェで、箱庭で育った雷の子は新しい出会いを重ね。

 

 宝石の少女は、“意地っ張りで力任せでバカみたいに真っすぐな子”を思い出して……“不可思議な孤独”が晴れ渡る。

 

 

 

――嗚呼、テッドは……元気にしてるかな。バカばっかりやってパートナーに迷惑かけてないかな。

 

 馬鹿にすんじゃねぇ、と拗ねたように怒られるだろうなと思いながら少女は苦笑しつつ、

 

――この子に聞いてみよう。テッドのことも。もしかしたら……

 

 似たような輝きを持つ目の前の子なら、そんな期待を込めて。

 

 自分も相手も、絶対に味方で、絶対に裏切らないと確信している少年のことを少しでも知っていたらいいなと、彼女は淡い希望を胸に抱きながら四人でのランチを始めた。

 

 




読んで頂きありがとうございます。


チェリッシュ・ニコルとの邂逅。

チェリッシュの今後の行動に新たなパターンとして“テッドを探す”が追加されます。ニコル・チェリッシュペアはゼオンくん・デュフォーくんと知り合いになりました。ゼオンくんはリオウを探してます。

ニッコリ


これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

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  • カルディオ
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