もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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第三十八話:蒼き爪に煌めく白雷

 

 

 

 淡く蒼に光る爪が両腕に巻き付くように展開され、黒い三角錐の角のような結晶が小さな体躯に追随しながら二つ、宙でくるくると舞う。

 術を唱えて爆発的に溢れた魔力は並みの魔物では圧倒されるしかなく……ただの腕の一振りだけで、放たれた六つの術を全て“大気ごと削り上げて”しまった。

 

 ガチリ、と装備された爪に嵌った黒の結晶が怪しく光れば、まるで待っていたと言わんばかりにその結晶から白銀の魔力が漏れ始める。

 混ざり合う魔力は一体で出せる力では有り得ないモノ。しかして発動した術はたった一つである、そう誤認しているからこそ、その場に居る誰しもが目の前の魔物の魔力なのだと思い込む。

 

 

 暴虐の魔獣は此処に、雷を纏いて敵を屠らんとす。

 

 

 震えあがる魔物達の前で、満足そうに結晶を撫でた魔物が……は、と小さく息をつき

 

 それを合図に、一斉に状況が動き出した。

 

 

 瞬きをするな、と言われたチェリッシュは意識を最大限に尖らせて目の前の光景を見ていた。

 その余りに圧倒的な力に、チェリッシュは言葉を失くすしかなく。

 

 

 両腕に装備された爪は彼の肘程の長さがあり、宿している大きな魔力だけで敵から撃たれる全ての攻撃を消し飛ばしていた。

 六体もの魔物からの攻撃は一つも当たらず、肉弾戦を仕掛けられても一つも掠らせもせず。

 傷一つ、否、汚れ一つつくことなく戦う姿を見れば、その力量がどれほど高いのか分かるというモノ。

 

 貫通力のある速い攻撃が放たれた。腕を軽く振るうだけで霧散してしまった。敵の魔力の残滓は回転と雷に喰われたように跡形もない。

 

 いやらしくも彼を捕縛しようと蔓が幾重も迫ってきた。こともなげに全てを切り裂いて塵にしてしまった。大地に残る爪痕は乱雑で、焼け焦げた跡さえ残って。

 

 質量を持ったギガノ級の術が前後から時間差をもって放たれた。爪を使う必要もないとばかりに、どちらも蹴り上げて空の星にしてしまった。肉体強化ではないはずなのに、単体の力だけで吹き飛ばしてしまったのだ。

 

 二体のコンビネーションでの体術を仕掛けられた。彼はわざわざ大きな爪で相手を傷つけすぎないように(・・・・・・・・・・)しながら全て避け、どちらもの頭を同時に掴んで大地へと引き倒し、二体共に爪に纏った雷を入れて意識を刈り取ってしまった。

 

 消えた、と思えば距離を取った魔物の後ろに居て、ギガノすら吹き飛ばす蹴りの連撃を叩き込んでいき、三十を超える攻撃を加えた後に先ほど引き倒した魔物に重ねてしまった。

 

 そうと思えば宙を飛んでいた妖精のような魔物の後ろに跳び、急いで放ったビームの方向を無理やり他の魔物の方へと変えさせ、途切れたのを見て笑って他の魔物が焦って撃ったギガノ級の術へと投げ捨てた。

 ギガノを受けた妖精型の魔物が大地に落ちる……前に蹴りを叩き込んで頭を掴んだ。バチバチと光る白銀の雷にビクビクと痙攣した魔物は、先ほど積み重ねた魔物の方へと蹴り飛ばされる。

 

 

「ふん……やはりか」

 

 

 つまらなそうに呟いて、最後に残った魔物へと歩いて行く。

 

「う、うそでしょ……? 千年前の魔物達はみんな頑丈なはずなのに。な、なんであんな簡単に動けなくなっているのよ!」

 

 宙に浮かぶ少女の魔物が怯えた声を出した。

 その隣では、悔しそうに、そして憎々しげに歯噛みする敵がいる。

 感嘆の表情で腕を組んでいる星の魔物は嬉しそうで、武者震いをする身体を抑えているようにも見える。

 

『ば、バカな、こ、こんなことが……しかもこの魔力……ベルの雷と森の魔獣の混成魔力だと!? そんな、そんなことがあってたまるかっ』

 

 信じたくないと首を振っても目の前で起こっていることこそが真実。

 

 最後の一体は肉体強化を唱えるも、素の状態の彼に一つも攻撃を当てられず。

 

 また一つ、大きな肉体強化を唱えた。先ほどよりも強い術のはずなのに、やはり攻撃は一つも当たらない。

 

 業を煮やしたその魔物は、至近距離で最大の術を使った。使うしかなかった。

 

「そんな術で埃を撒き散らされるのはごめんだ」

 

 ガギリ、と嫌な音が響く。バチバチと雷光が煌めく。術の始点を爪で押さえつけた彼はそのまま……敵の最大術が完全に発現する前、否、溢れてくる術のエネルギー全てを削って焼いて行く。

 

 最後にやはり蹴り飛ばせば、

 そうしてすぐに……六体の魔物の山が出来た。

 

 全てが白目を剥いて気絶していて、再び彼の姿が掻き消える。

 瞬く間に鳴った六つのうめき声と、大地に倒れる音。

 その一瞬で魔物の本の持ち主六人を気絶させたのだとすぐにわかった。

 

「なるほどな」

 

 六つの本は別に拾う必要もないとばかりにそのまま。

 

「魔物同士が攻撃し合えないように人間側に縛りをかけてあるのか。更には意思もない。最低限の抵抗しか出来ないし魔物が倒れたら指示さえ送られず思考能力のない単純行動しか出来ない。なら……本当にただのお人形というわけだ。これでオレ達(・・・)を倒そうなどとは本当に――」

 

 ゆっくりと魔物の山へと歩いて行った彼は……ゼオンは不敵な笑みを浮かべて腰掛けた。

 尊大に、優雅に脚を組む。

 ばさりとひらめいたマントと蒼く輝く爪に白銀の雷が薄く走る。

 

 その姿はさながら、玉座に腰かける王のよう。

 

「――あくびが出るぜ」

 

 この程度かと言わんばかりの態度。

 チェリッシュが同じことをしろと言われても出来るわけもない。

 バカげた実力だった。コレとこの先で戦うことになるのかと思うとぞっとする程に。

 

 坊やなどと……本来は呼ぶことすらできるはずの無い存在だった。

 

 敵が来るから変装をすると言って少女の姿になったことには笑ってしまったが、敵であるゾフィスとの会話を聞いていてチェリッシュはそこまでする理由に予測がついてしまった。

 

 雷帝―――それがゼオンの正体。

 

 人型なのに魔獣型の魔力を纏っているのはとある理由の為。大切そうに首から掛けていた首飾りが友達のモノであるのは教えて貰っている。それを使うことで敵からの詮索を偽装しているということ。

 そして戦いを見ていても、“ゼオンが決して友の爪で相手を傷つけることなく、唯々己の肉体と雷だけで傷を付けていた”のもその理由に含まれる。

 思い返せば理解が深まる。

 ベルの名は王家の象徴なのだ。学の無い自分でも、ダウワン・ベルという魔物が魔界の王であることくらいは知っている。

 

 初めの自己紹介の時に一度だけ名乗ったその名。弟だと言っていた子にもついているその名。

 王族であることを孤児である自分に悟らせないようにと考えてのことだったのだろうと彼女はやっと理解した。

 

 きっと王族であると知れば、チェリッシュは此処まで深くゼオンのことを知ろうとは思えなかった。

 きっと笑い合うことも、一緒にご飯を作ることも、同じ料理を食べることも、子供達と遊ぶことも、同じ屋根の下で寝ることもなかっただろう。

 

 そしてきっと……雷帝ゼオン・ベルではなく、“ゼオン”という年相応の子供の顔をちゃんと見ることもできなかったのだろう。

 

 そうなれば弟を思う兄の心を知れたこともなかったのだろう。

 

 彼の圧倒的な実力の前に震えそうになった心は、彼の想いを知るが故に落ち着いて行く。

 

 兄で居たいと言った彼の瞳を思い出す。

 

――あんたがどれだけ強くても、あんたがどんな立場のヤツだって……私は――

 

 チェリッシュは、片方の拳を握った。

 

 そうしてゼオンに向けて、グッとサムズアップをして見せた。

 

 恐怖などない。畏れなどない。同じ食卓を囲んだ仲間として、チェリッシュとして、彼女からゼオンにこれからも同じように接するぞという意思表示を。

 

 チラリと視線を向けてすぐに逸らした彼の心はどうだろうか。チェリッシュはしょうがないなと苦笑を漏らす。

 彼女の行動が嬉しくて、少し頬が緩んでしまいそうになったとは、デュフォー以外気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランス!!」

「ファルセーゼ・バーロン!」

 

 

 

 このまま戦闘が終わると思った所で、最後の一人となった千年前の魔物が術を使う。

 

 あたり一面に散らばる星。

 何の術なのかと思えば、大量の星を生み出すだけのモノなようだった。

 

 しかし、それが何を意味するのかをデュフォーとゼオンは聡く気付く。

 ヒュンヒュンと音を立てて回転し始めたソレは夜空で自由自在に動き始める。

 

 目を細めたゼオンは小さく息をついて……にやりと笑った。

 

「“オレ達の力”を見て尚、向かってくるか」

「ふふ……“そんな羨ましい力”を見せられるとな。オレも見せてやらなければと思ったまでだ」

 

 パムーンの発言から瞳を覗くと、其処には羨望が確かにあった。

 ゼオンの使った力が何なのかを彼は読み解いたのだ。

 

――雷のベルとしての力ではなく……友と創り上げた証だということに気付くとは、さすがはパムーンか。

 

 そう、ゼオンが纏った爪はレインの術によるモノ。

“バドス・ディオル・アボロウク”という術の……“副次的な効果”を利用してゾフィスを欺く為の策と成していたのだ。

 

 人間が創り上げた叡智……通信機器があれば、遠く離れた場所に居ても術の発動媒体を介して発動する術があったのだ。

 レインの爪は魔力媒体として一番のモノであり、彼が魔力を込めていればその残滓だけでゾフィスを欺くことも可能なほど。

 そして術を使えば……それが剥がれた爪にすら効果のあるモノであったなら……現地に居ないレインの術を、ゼオンが使うことも可能であった。

 

 本来のその術はレインにとって肉体強化の上位術。

 軽くとも頑強で魔力を通しやすい爪と牙を鎧として纏い、自在にカタチを操ることの出来る爪の武器を使って戦う術なのだ。

 

 今ゼオンが使っている鉤爪型、中距離用の突撃槍型、力で叩き割ることを目的とした大剣型、広範囲を守りつつ突撃も出来る盾型、回転を加えて更に削りを強化出来るドリル型などなど多彩にある。

 複数の爪を組み上げて創り上げる武器によってさまざまな戦況に対応出来る、まさに万能の強化術であろう。

 

 魔物の術とは、魔物の種族によって決まっているスキルツリーとは別に、それぞれの個体が内に秘める願いによっても形作られる。

 レインの願いは……唯々、友の為。“己の力で傷つける”ではなく……“己の全てで戦い、護る”ことを望んだ。

 

 故に発現した上位の肉体強化術。己が傷つくことすら厭わない彼だけの術。ゼオンと出会ったからこそ現れた術だった。

 

 デュフォーによるツボ圧しと助言によって、レインもあの時より強化された。ただでさえ強いレインが武器の扱い方を覚え、野生と理性の両方で戦えるように磨き上げられつつある。だからこそ、ゼオンの模擬戦の相手が務まっているのだ。

 

 

 ゼオンが使っているのはレインの術本来の鎧はなく、武器も一回り小さいモノである。 

 あくまで副次的効果にすぎないから術の効力は本家に比べればかなり劣る。ただ……ゼオンもレインもこの使い方は気に入っており、現在の内心は二人共が高揚していたりする。

 

――弟を助ける為に一緒に戦える力……いいモノだな、これは。

 

 術者本人だけでなく他者すら扱える術というのは珍しい。

 レインとゼオンはその術を二人で使えると知った時、同じ願いを持つからこその力なのだと笑いあった。

 

 そんな二人の絆を見抜いたパムーンの慧眼を評価し、ゼオンは上機嫌に語る。

 

「ゾフィスのお人形遊びに付き合っているままでいいのか? 如何に貴様が千年前の優勝候補であろうと、この戦いは魔物だけで戦える程甘くはないぞ。ましてや、オレ達が相手だ」

 

 あくまでレインとの力ではなく、パートナーとの術なのだという体を見せて。

 チラリとゾフィスを見てからパムーンは苦笑を零した。

 

「……こいつも分かっているだろうさ。だからこそ、オレを連れてお前に会いに来たのだから」

 

 ゾフィスの狙いがなんであるかを知るパムーンはそれ以上語らず。

 ひゅんひゅんと星が唸りを上げる。

 回転の速度が増し始めた。

 

『……勝てますか?』

「“術一つに縛られている”ならば勝算はある。しかし他の術を多用してくるとなれば……本気を出せなければオレであっても時間稼ぎのジリ貧がせいぜいだろう。上位の魔物同士の戦いというのはそういうモノだ」

『なるほど……では』

 

 焦りをどうにか抑え込んで、ゾフィスは目を細めた。

 

『貴方の力、見せて頂きます。その如何によっては“彼ら”の望みも叶えましょう』

「言質は取ったぞ」

『約束は守りますとも。そうでなければ他の魔物にも示しが尽きませんからね』

「ふん……どうだかな」

 

 宙で行われる会話を一言一句逃さず聞きつつも、デュフォーはぼそりとマイクへと語り掛けた。

 

「カイル、レイン。此処からはオレの指示通りに頼む」

『分かったよ! 絶対に勝つって分かってるから!』

『任せろ。ゼオンと散々練習したからな。実践でも必ずうまくいくさ』

 

 声を聴きながら、デュフォーの思考が廻る。

 

――パムーンとゾフィスの取引の“答え”は……人間達の意識の解放……なるほどな。月の魔物と変なカタチの魔物の願いを叶えてやろうとしているわけか。つまりは……

 

 “友の為”。

 

 それが答えを出す者(アンサートーカー)で得た答えだった。

 

 そこまで出してから漸く、後で深く考えようと意識を切り替え始める。

 

 ゆっくりと降りていくパムーンが大地に立った。

 並んだ人間――ランスの目に生気は無い。

 ゼオンも魔物の山から下りてデュフォーに並ぶ。

 

「本当はよくないことなんだろうが、少しだけ……ワクワクしている」

 

 ぽつりと呟いたパムーンは何処かすっきりしたような表情。

 

「千年だ。千年ぶりに……」

 

 コキコキと首を回してから、彼は右手を前に構えを取った。

 

「本気を出せるんだからな!」

 

 溢れる魔力はゼオンの纏うモノを遥かに超えて。

 爪を構えたゼオンも、黒の結晶に吸収させる雷の魔力の出力を上げた。

 

「行くぞ!」

「来い」

 

 ひゅんひゅんと回転していた星たちの動きが一斉に止まり、規則正しいフォーメーションへと瞬時に変わった。

 

「ファルガ!」

 

 高速の光線が数多。たかだか下級の術なのに、その数は十を超える。

 たった一つの術にしては有り得ない出力がゼオンの元へと襲い来る。

 

 呼吸を一つ。

 静かな吐息が落ちれば、ゼオンはその高速の光線を軽く舞うように避けていく。

 

 当然とばかりに笑い、パムーンは叫ぶ。

 

「避けていいんだな!」

 

 本気と言ったからには、彼は全てを賭けてこの戦いに臨んでいた。

 生ぬるいことなどしない。魔物の戦いに於けるセオリーを……そう、本の担い手である人間をも彼は狙っていたのだ。

 ただし、

 

「当然だ。オレの自慢のパートナーを舐めるな」

 

 バカにしたように笑ったゼオンは、光線を潜りきってパムーンをかく乱してから、ランスへと駆けた。

 奇しくも考えることは同じ。出来上がる結果は……

 

「ファシルド!」

「……」

 

 ランスは盾の術によってゼオンの攻撃を防ぎ、デュフォーは迫る光線を最小限の動きだけで避けきった。

 

「“ランサー”!!!」

 

 デュフォーの声と同時、ゼオンはパムーンへと迫っていた。

 爪が形を変える……その姿は、凶悪な槍へと。

 

「そっちこそ……オレを舐めるなよ!」

「オルゴ・ファルゼルク!」

 

 瞬時に動いていた星のいくつかがパムーンの身体へと纏わりつき、彼の肉体を強化した。

 ガギリと音を立てた星と槍。

 しかして、ガリガリと槍の穂先の魔力が星を削っている。

 

 にやりと笑ったゼオンに呼応するように黒の結晶がひと際大きく輝いた。

 

 白銀の雷が穂先へと流れ、槍を防いでいる星へと流れ込む。

 

――このままでは幾つか壊される。

 

 それを察知して、パムーンはゼオンへと拳を振り上げる……が、ふっと瞬間移動によって回避した。

 バサリとマントが揺れる。

 

「ファルガ!」

 

 回避先へと放たれる幾本もの光線。逃げ道を防ぐように今度はレーザーのように放出を続けられていた。

 

「“セイバー”!!!」

 

 しかしそれも、変化した武器によって防がれる。

 大剣は光線を弾き、剣の腹で受けたまま星の一つに近付き……バシッと大地へとはたき落とした。

 

「ふっ!」

 

 そのままの振り下ろしにより一つ星が砕け散った。

 大地に出来るクレーターは、大剣の振り下ろしの威力を物語る。

 

 更に追撃は続く。土煙の中から飛び出したゼオンと、星を身体に纏ったパムーンが激突する。

 薙ぎ払いも、袈裟斬りも、切り上げも、パムーンは上手くいなしていく。

 

 弾き合い、距離が出来た時には星は並べられていた。

 

「デーム・ファルガ!」

「浅いな! パムーン!」

 

 格子のようにビームが迫る中、星の整列を剣で崩して結界を解き、瞬時にパムーンへと肉薄する。

 自由に星を回転させて追撃することも出来たが、肉薄されては使えない。ゼオンの判断が早かった。

 

「肉体強化と通常の術を同時に使えるとは珍しい。星の加護の力か?」

「一族の修練の成果だ。長い年月をかけて鍛えて来たからこそ、星の意思が宿り、十全に星の力を引き出せる」

「ふふ……まだこの程度ではないわけだ」

「お前こそ出し惜しみをしていいのか?」

 

 互いに強化をして互角。言葉を交わしながらの目まぐるしい応酬の度に光が散る。

 

「“クロウ”!!!」

 

 デュフォーの声を受けて再び爪に戻った武器で連撃を繰り出すも、パムーンには通じない。

 数十回もの攻撃のあと、拳と蹴りがぶつかり合い、二人の距離が離れた所で膠着するかに思えた。

 

「ラララァアアァイ!!!」 

 

 オルゴ・ファルゼルクで身体についていた星を操り、ゼオンへと鞭のような攻撃を仕掛ける。

 術の性質を瞬時に判断した彼は、武器で迎え撃とうとした……が、それはブラフ。

 

 星の鞭はゼオンに当たる前に軌道を変え、デュフォーへと向かっていく。

 

――己で操るモノだからこそ人間側を捉えられると踏んだか。

 

 思考が廻る。

 

 マントで防ぐか――否、粘着性の鞭をわざわざ受ける方が悪手。

 爪で弾くか――否、途中で分離する可能性を考慮するとそれもまた悪手。

 ならばデュフォーの元に向かうか――

 

 そこまで一瞬で至って、ゼオンはあえて右手を構えた。

 

――思考をリンクさせろ。考察を一致せよ。己の頭脳の“レベル”を上げろ。

 

 共に過ごし、鍛えて来たからこそ出来ることを。相方が選ぶ“答え”にこそたどり着けと。

 

 信じている。それだけが心を染め上げる。

 

「“セット”!!!」

 

 頼れる相方の目は、迷わずにゼオンを見ている。変形した武器がゼオンの右腕に全て集った。

 奇しくもその掛け声は、彼の大切な宝物に、そのパートナーが掛ける声と同じだった。

 

 肘に黒の結晶が二つ付き、右肩は衝撃から守られるように防護され、右手は拳に全てを賭けるように……。

 

 ぞわり、とパムーンは嫌な気配を感じ取る。

 人間などに構っている場合ではないのだと。

 

 瞬時に判断出来たのは正しい。星を多く集めたのも正しい。防御に全てを当てたのも、やはり正しかった。

 

「“ブリット”!!!」

「クエア・ファシルド!」

 

 爆音と雷光が轟く。

 音速かと見紛うほどの速度で放たれた一撃は、パムーンが十にも張った障壁と星を穿ち抜いて行く。

 

 ガラスの割れるような音が幾重も重なってすぐ……

 

「ごはぁっ!」

 

 深く、パムーンの腹へと拳が刺さった。

 そのまま吹き飛ばされるも、大地から足は離さず、パムーンは倒れない。

 

 レインの術を使っての奥の手。衝撃を音速の拳と共に叩き込む必殺の一撃。

 肘の結晶にため込まれた雷の魔力を暴発させ打ち込まれる拳の絶技は、ゼオンの身体能力と戦闘センスがなければ身体が引きちぎれてもおかしくないモノ。

 術を扱う本人のレインでさえ、この技だけは未だに本気では使えないという反則的なモノ。

 上位の盾の術を使って尚も砕けた星の数がその威力を物語っている。

 

 しかし、衝撃をある程度吸収してもダメージを受けたパムーンは、口の端から血を流しながらもゼオンへと指を差した。

 その目は、まだ戦う意思を失っていない。

 

「……捕まえたぞ」

「なにっ」

 

 攻撃を受けながらも、ダメージを受けることも承知の上で行われた行動。

 ゼオンの足を大地へと縫いつける二つの星があった。

 

「座標移動は無駄だ。星に含まれる魔力は座標到達地点をずらす。両足とお別れしたくなければ使わないことだ……集中!」

 

 ゼオンの瞬間移動さえ、上位の魔物であるパムーンは看破していた。

 大きく息をついたパムーンはビシリと星をクロスさせて揃えた。

 

「喰らうがいい! 我が星の力を!」

「エクセレス・ファルガ!」

 

 動けない状態で使われる敵の強い術。

 間違いなくパムーンは強敵に相応しい。

 このままでは術が直撃するのは間違いない。

 これほど強力な術を受けてしまえば、変装も、レインとの共同の術も、全ての化けの皮が剥がれてしまうだろう。

 

 だが……ゼオンは笑った。

 

「其処か……やっと、オレにも“見えた”ぞ」

 

 自分達の都合で力を縛っているとはいえ、極限状態に置かれるからこそ、ゼオンはまた一つ階段を上る。

 翡翠の奥、紫電の瞳がパムーンの術を捉えていた。

 

 ゆるりと構えた右手。

 また、武器が変わる。

 

「“ドリル”!!!」

 

 最適解に力を添えるのは信頼する相方と頼りになる友の術。

 立ち塞がる理不尽の壁も、邪魔な術も、全てを穿ち、削り抜けと彼らは言う。

 

 ゼオンには見えた。

 デュフォーの見ているモノの一つが、その時確かに見えたのだ。

 

「“弱所”は……其処だ」

 

 迫るエクセレス・ファルガに怯むことなく、ゼオンは嬉しそうに“四人の力”を構えて……突き出した。

 

 

 極大の光線は大地をも焼き付ける。

 

 しかしてその小さな体躯を焼くこと叶わず。

 

 術が終わった先では……首飾りに戻った爪を握りながら彼が少しだけ焦げ付いたマントをなびかせて笑う。

 

 

 

 

 

「クク……まだやるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

「化け物……」

 

 パティから見てその少女はまさしく規格外。

 たった一つの術と体術だけで傷も汚れも一つもなく千年前の魔物達を圧倒し、あまつさえ、千年前の魔物達の中でも最上位の実力者のパムーンとたった一つの術で渡りあっているのだ。心の奥底には、その実力が刻み込まれてしまう。

 

「どうするんだ、ゾフィス。オレはまだまだ戦えるが……“ランスがこのままの状態だと”結局待つのは敗走だぞ。あの本の輝きを見ろ。単純に出力負けをしている」

 

 己の実力ならばこのまま戦えると自負する星の子パムーンは、口の端から垂れた血を拭いながら言う。

 勝てないとは言わないまでも、本来の実力を出そうにもパートナーの状態が今のままでは無理だと言っていた。

 デュフォーの本の輝きは衰えることなく、パムーンのパートナーであるランスの本の輝きは消えてはいないが最初から今まで常に一定だった。

 

 ゾフィスはわなわなと震えている。彼は己の傍に置いてある机の上、二つの水晶(・・・・・)をチラリと見やった。

 あっても同程度だと思っていた少女の魔物が、まさか千年前の魔物複数でも傷一つ与えられない程強いとは思わなかった。ましてやパムーンとのあれほどの戦闘を見せつけられては……。

 溢れた魔力はゾフィスを軽く凌ぐモノで、体術は魔物同士で模擬戦をしていたツァオロンに勝るとも劣らない。星の使徒と一つの術で戦い切っているのもまずありえないモノだった。

 

 少女を敗北させるという目的を果たせず、術の情報も一つしか得られず、千年前の魔物を六体も倒された。何の成果も得られず、これでは道化ではないか。

 

――此処でパムーンに命じて試作のアレを……いえ、それでも勝算が薄すぎる賭けにしかならない。やはり最適解は……

 

 悔しさと屈辱で頭が茹りそうに成りながらも、彼は一つの判断を下す。

 

『……撤退します』

「ふん。尻尾を巻いて逃げるのか、お似合いだな」

 

 ゼオンがまた挑発を投げるが、ゾフィスは憎悪を籠った視線を向けるだけで言葉を返すことは無かった。

 

「パムーンと最後まで戦えなかったのは残念だが仕方ない。まあ、面白い情報が幾つか分かったからよしとしよう。それに……」

 

 言いながら彼は少し離れた所に居たデュフォーの横に並ぶ。

 パムーンはもはや戦う必要はないとランスを宙に浮かし、パティの横に並んだ。

 

「今日のオレは気分がいいからな。こいつらは返してやる」

『な……なんだと』

「……そうか」

 

 さすがに倒された魔物たちはそのまま魔界に返されると思っていたゾフィスは驚愕を禁じえなかった。

 パムーンが複雑な表情をしたのを確認してから、ゼオンは言葉を紡いだ。

 

「タダとは言わない。貸し一つだ、ゾフィス。今日の襲撃の分も含めて……貴様がイヤがるタイミングで貴様の策の邪魔をしてやろう。約束したからには雷帝が直接危害を加えることはないが、オレが貴様の張り巡らせている策をぶち壊す一助をしてやろう。趣味の悪いお人形遊びをこれだけ盛大にやっているんだ……きっと……敵も多いことだろうしな、ククク」

 

 悪辣な笑みを浮かべ、まるでおもちゃを見つけた子供のように笑った。

 続けて彼は……ゾフィスが予想だにしない一言を投げやった。

 

「逃げられると思うなよ。貴様の胸糞悪いお人形遊びは……オレとブラゴ、そして他の魔物達が必ず終わらせてやる」

 

『ヒッ……』

 

「何処へ逃げようと、何を企もうと、だ。せいぜい足掻いてみせろ」

 

 カタカタと歯を鳴らして震え始めたゾフィスは、自分が恐怖する魔物とゼオンが知り合いなことに更に恐怖を重ねた。

 彼は唇を噛みしめてからパムーンへと指示を出す。

 

『絶対に後悔させてやる』

「違うな……後悔するのは、貴様だ」

『ぐ……帰ってきなさい、パムーン、パティ! 戦闘データは十分です!』

 

 パムーンの星で気絶した魔物と人間達を浮かせられる。

 そうして立ち去ろうとしたその時、ゼオンは思い出したようにふっとその場から消えた。

 

 現れたのは、パティの目の前。

 

「な、なななな……」

 

 パティは恐怖と焦りで言葉がしどろもどろになる。

 透けるような白い肌。翡翠の奥の怪しい輝き。その顔立ちが誰かさんに似ていたのも理由かもしれない。

 ゼオンはパティと目を合わせ、真剣な顔で彼女へと語り掛けた。

 

「魔界の貴族が誇りを忘れて悪事に手を染めているとはな……貴様は何故、ゾフィスとつるんでいるんだ」

 

 純粋な疑問をぶつける彼は、パティという少女の立場を思って問いかける。

 魔界貴族の跡継ぎであるならば、相応の教養を身に着けて育たなければならないモノ。現状と未来を憂いての問いにパティはむっと顔を顰めた。

 

「別にどうだっていいでしょ?」

「いいや、答えて貰う。何故だ」

 

 有無を言わさぬ圧力。実力を見ていることもあってか、たじろいだ彼女は歯を噛みしめてから紡いだ。

 

「……見返してやりたいから」

「ほう」

 

 きゅっとドレスを握ったパティは、力強い瞳でゼオンの目を見た。

 続きが紡がれたら、誰かにとっての地獄の窯の蓋を開けることになるとは露知らず。

 

「私のことを忘れた恋人を……あんなに濃密な時間を過ごして愛し合っていたのに私の存在すら忘れやがったガッシュ・ベルのあんちくしょーを、ぎったんぎったんのけっちょんけっちょんにして、絶対に後悔させてやらないと気が済まないからよ!」

 

 あ、と声を漏らしたのはチェリッシュとニコル。

 まずい、と声を漏らしたのはデュフォーだった。

 

 能面のように無表情となったゼオンは、まるで塵を見るような視線をパティに向けた。

 

 デュフォーとチェリッシュとニコルが動こうとした。

 しかして……ゼオンは静かに目を閉じて、心を落ち着かせる。

 

 今は敵の目の前。ゾフィスの目と耳があるこの場所で迂闊な発言は出来ない。

 本当なら全てを正せるようにパティを拘束している所を、ゼオンは我慢した。

 

 彼は弟の過去のことは分からない。まだまだ弟の過去を知れていない。この少女が本当のことを言っているのかも分からない。

 一つだけ分かるのは……どういった想いであれ、弟のことを想っていた魔物が此処にも居たこと。

 

 故に彼は、目を開けて彼女に最後にこんな言葉を掛けた。

 静かな怒りを携えた目は、パティをまた怯ませた。

 

「……今のお前のその姿は、その行いは、想い人に誇れるか? その為に流れる涙を理解しているか?」

 

 少女の心に少しでも波紋を残せるよう。

 パティはハッとしたようにゼオンの瞳を覗き込む。

 

 あの時、襲撃した時に怒っていたガッシュが被って見えたから。

 

 ふっと消えた彼は、またデュフォーの隣へと戻る。

 

「また会おうパムーン。今度オレと会う時は全てが終わる時だ」

「ふ……またな」

 

 もう話すことは無いとばかりに背を向けたゼオン。

 ゾフィスの映像はいつも間にか消えていて、そうして彼らは空へと消えていった。

 

 

 唐突な襲撃は、誰一人として消えることなく幕を閉じる。

 

 ゾフィスの心には焦燥と恐れを。パティの心には迷いの波紋を。

 

 パムーンには己の力の証明と希望を見せた。

 

 

 

 

 長い夜がもうすぐ終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くしゃりと、ゼオンの頭をデュフォーの手が撫でる。

 

「……今日は疲れたが、最後に一つだけ仕事が残っている」

「ああ」

「まだすることがあるのかい?」

「今日はもう休んだらどうだ」

 

 心配するチェリッシュとニコルを見たデュフォーは、マントを翻して早着替えをしたゼオンの隣で語った。

 

「襲撃はあいつらだったが……それとは別に“観測していた魔物”が居る」

「もう逃げたようだが魔力を消しても無駄だ」

「オレとゼオンからは……逃げられない」

 

 ばさりとはためかせたマントに乗ったデュフォー。小さく吐息を零したゼオン。

 月がもうすぐ大地へと眠る。

 

「ゾフィスが動いた以上、明日でお前達とも別れになる。チビ達との最後の時間を楽しめるようにお前達はしっかり休んでおくがいい」

「朝には戻る」

 

 そう言って消えた二人。

 ぽかんと口を開けた彼女達は、既に通常の唯我独尊な彼らに戻っていることに対して盛大なため息を吐いてから、孤児院へと帰っていった。




読んで頂きありがとうございます。

レインのオリ術はこんな感じで如何でしょうか。
本体が使う場合は鎧+武器+黒結晶。
黒結晶は友達の力になりてぇっていうレインの想いから生まれた装備型の魔力吸収結晶です。友が込めた魔力だけを纏えます。つまり竜の友達が増えたら……
バレットではなく“ブリット”なのは作者の趣味です。

パムーンくん描いてて思うんですが強すぎる。なんで星全部から術が出て、複数の術を同時に使えるんだ。しかも人間の心の力がちゃんと籠ってない状態でアレ。


やられたらやり返すの精神のため、お兄ちゃんの介入が確定しました。
逃げられるとは思わないことだゾフィスくん。

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

  • リーヤ
  • リオウ
  • ザルチム
  • ファンゴ
  • カルディオ
  • チェリッシュ
  • ギャロン
  • ジェデュン
  • ロデュウ
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  • キース
  • テッド
  • モモン
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