もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。
遅くなりすみません。今回は少なめ。


第三十九話:絡むイトにて星は見えず

 

 南アメリカ、デボロ遺跡。

 出払っていた魔物達が帰還してすぐ、ゾフィスはパティに労いを一つしてからパムーンだけを自室へと呼んだ。

 

 中央の机の上に並べられた二つの水晶の横に、ランスが機械的な動作でもう一つ水晶をそっと置く。

 

「映像越しには見させて貰いましたが……さすが千年前の王候補筆頭の一人と言える戦いでした。戦闘の経験値、素のフィジカルの高さ、判断能力、術の理解度と応用力、どれをとってもそれこそ竜族に比肩する程でしょう。

 しかし、そんな貴方でさえあれほど追い込まれますか」

 

 ゾフィスは彼の実力を間違わない。

 千年前の魔物について、操っている人間を通じて術の全てを開示させている為、彼がリエムとの戦いで見せたモノが実力の全てではないと理解している。

 身体能力についても模擬戦を通じて把握しており、デモルトに勝るとも劣らない実力者であると考えているパムーンが追い詰められたことを重く受け止めていた。

 

 机の上で怪しく光る水晶を一瞥したパムーンは、静かに告げた。

 

「……約束通り、ランスの意識を開放しろ」

 

 ゾフィスとパムーンの間に制約は無い。

 彼の存在は千年前の魔物達にとってある意味での見せしめであり、ある意味での不和の種であり、ある意味での希望。

 彼の自由を認めることでこそ、ゾフィスと千年前の魔物の立場が恐怖だけで支配されないモノの証明となっていて、怒りと憎悪の矛先がゾフィスだけに向くことを防いでも居る。

 

 石に戻ることへの恐怖は千年前の魔物達に共通しているから、それを受けることのないパムーンは嫉みと妬みの視線を常に受けている。

 きっと千年前の魔物達の中でも力無い魔物は言う。何故助けてくれない。自由ならば何故オレ達を助けないのだと。

 正義を翳すモノや、清き心を持つ実力者に対して望まれるのはいつだって理不尽な救済だ。己を弱者とし、他者が救ってくれることを待ち、救ってくれなければ敵意を持つ。

 

 そういった心をこそゾフィスは支配・誘導し、魔物達全員の心を縛る鎖と成せる。ゾフィスにとってのパムーンとは、裏切りや叛意のリスクを鑑みてもメリットの方がより大きい存在なのだ。

 

 パムーンは間違わない。どれだけ嫉まれようが恨まれようが、彼は己の誇りと義を間違うことはない。ゾフィスに利用されることも理解の上。

 本当の意味で抗うというのなら、絶対に必要なモノがあると彼は知った。

 

 彼の隣で意思なく立っている人間の存在こそ……ゾフィスという巨悪を討ち滅ぼす為の最重要ピースである、と。

 

 パムーン並びに千年前の魔物達の本当の自由とは、パートナーの人間の解放なくして成り得ないと彼は考えた。

 ついえた夢の為ではなく、“人間界に来て得るはずだったモノ”を彼と彼の少ない仲間は欲し、失った千年の時間を満たそうとしているのだ。

 

 それさえあれば無敵で敵なしだとVの魔物は高らかに笑った。

 それさえあれば恐怖など微塵も感じることはないと月の魔物は胸を張った。

 彼は……それさえあれば、二度と卑劣な悪には屈しないと拳を握った。

 

 ゾフィスへの協力はあくまでもランスの心の救出の為。人間達の意識解放の先駆けの一環、雌伏の時ということ。

 

 まず第一にランスを開放する為として、リエムと呼ばれる強敵と戦うことが交換条件。倒せるとは彼も言わず、ゾフィスもそこまでは追及しなかった。

 今後も条件を呑みつつ他の人間を徐々に解放し、そうしてゾフィスを追い詰めていくのが彼の考えたゾフィス打倒までの道。

 

 机の上に並ぶ怪しい水晶はゾフィスが準備した人間達の心を解放する為の道具であり、試作として渡されたランスの持っていたモノは別の人間で効果を確認済みである。

 ベルギムのパートナーであるダリアの意識を戻し(あまり行動や叫び声は変わらなかった)、リエムと戦えばこれをランスに使うとゾフィスは言ったのだ。

 

 ニッコリと笑ったゾフィスは、音もなく移動してパムーンの目の前へと立つ。

 

「ええ、約束通りにしますとも。リエムとあなたの戦闘データが回収できましたし、現代の魔物達でさえ私の事前予測を上回ると知れた。竜族と王族を打倒するには貴方たち千年前の魔物が本気で戦うことが必須なご様子。ですが……」

 

 ゆっくりと、一つずつ指を立てていく。

 

「一つ。あのリエムという魔物だけは確実に貴方が相対し打倒する。

 一つ。ランスが術を唱えられるのは私の敵との戦闘行動に対して(・・・・・・・・・・・・・)だけという制約を掛ける。

 一つ。ランスの意識が解放されるのは彼が水晶を持っている間だけ。

 一つ。結託して反逆を企てた場合、彼の身に何が起こるか……。

 これらがランスの意識を自由にするに於いての条件……所謂縛りです。当然、飲み込んで頂けますね?」

 

 悪しき笑みを浮かべたゾフィスからの条件にも、パムーンは表情を動かさずに言葉を投げる。

 

「人質とでも言うつもりか」

「ふふふ、縛りを付けても貴方ならば何かしら仕掛けてくるでしょう?」

「……」

「あくまで“貴方の自由”は約束通りに保証しますよ。裏切りも内通もお好きにしてください。ランスの行動を縛ることについては、私も好きにする、というだけです」

 

 小さくため息を吐いたパムーンはランスを見る。

 人質のようなこの状況に、彼は苦い思い出をフラッシュバックしてしまう。

 千年の石の時間は、彼が敵の策略に嵌ったからだ。それも人質を使うという今と同じ状況に。

 

 それでも、と彼は呑み込む。

 

――ランスの意識を救う方が優先すべきだろう。何を迷うことがある。

 

 ビシリと彼は指を立てた。

 

「オレからも一つ条件がある」

「ふむ、お聞きしましょう」

 

 力強い眼差しは何を伝えるか。

 

「現代の魔物を一体脱落させる毎に、千年前の魔物のパートナーの意識を最低でも一人解放しろ」

 

 その言葉に、ゾフィスは少し面食らったような顔をしてから笑った。

 

「くく……いいですね。なるほどなるほど……その取引、お受け致します。貴方が積極的に働いてくれるならば、私にとって不都合などありませんからねぇ」

 

 言いながら水晶を手に取った。

 

「レイラとビクトリームについては個人個人に条件を与えています。それでもその条件を出してくるとは……ふふふ、仲がいいのはいいことです」

「ちっ……お見通しか」

「その程度であればね。ですが……まあ、ビクトリームについてはもう達成済みです。試験的に試すには複雑な術構成のレイラではなく単純に魔力の高い彼の方がいい」

「なに?」

 

 突然与えられた情報に、パムーンは少しの焦りを浮かべた。

 

「リエムだけでなく、強力な魔物が此処に向かってきています。他にも羽虫が何匹か向かってきているようですが……特筆すべき魔物はやはりブラゴとリエムの二体。どちらも侮れないとなれば、パートナーが万全の状態でのビクトリームの本気を確認するのが必要だと判断したまでです」

「そういうことか。お前が最も警戒している敵が来るわけだ」

「……ええ、そうですとも。ココの因縁の相手でもあります。他の魔物をぶつけて消耗させるつもりだとしても、万が一を考えておくことにしました」

「あいつの望みが一つ叶うのか……そうか」

 

 目を瞑った彼は嬉しそうに頷く。

 友となった魔物の……人間と共にまた戦いたいという願いが叶うことに嬉しくなった。

 

「ですので、貴方もリエムの打倒の為に調整をしっかりしておいてくださいね」

「ああ、分かっている。しかし、ランスが拒めばそれまでだ」

「いいえ、それは有り得ません」

 

 きっぱりと言い切ったゾフィスに疑問の視線を向けるも、楽し気に、厭らしくゾフィスは言う。

 

「ランスは貴方と同じく正義感が強い。だからこそ、意識を奪っているのです。貴方が語るというのなら必ず貴方に協力するでしょう」

 

 当然、とばかりに語られて、パムーンはギシリと歯を噛んだ。

 

「おお怖い。その殺意も敵意も、リエムや現代の魔物に向けてくれることを願いますよ。ランス……ついてきなさい。貴方の意識を戻しましょう」

 

 また音もなく移動するゾフィスの後にランスが続いて行く。

 その背を見送ってから、パムーンは大きくため息を吐いた。

 

「……ランスと共に戦えるとしても、これでいいのか。石に戻る恐怖がある以上、ゾフィスを屈服させてその不安を解消するしか術がない」

 

 一人言を呟きながら、部屋の隅でこちらを警戒しつつも壁にもたれて黙祷していたツァオロンへと近づいて行く。

 

「なぁ、ツァオロン。お前は……やはり協力してくれないか」

 

 全てを聞いていただろうと伝えても、片目を開いただけの相手は首を振って否を示す。

 

「お前の言い分は分かるがゾフィスを裏切るつもりはない。骨のあるヤツが此処へと向かっている。それだけで十分だ」

「だが……ゾフィスを倒せば――」

「確かに本気のお前とも戦えるしデモルトとも殺り合える。それでもオレはお前の話には乗らない」

 

 何故だ……と小さく零す。

 やっと両目を開いたツァオロンが呆れと共に吐き出した。

 

「骨のある現代の魔物と戦うことが楽しみというのが一番。それとは別に一つ……お前は最初からゾフィスの敵だからいい。だが、オレは違う」

 

 その目には、今まで以上に真剣な光が宿っていた。

 

「裏切るヤツの末路は大抵が碌なことにならないと相場が決まっている。ゾフィスを恐れているわけではなく、自分の矜持の問題ということだ」

 

 ドシリ、とパムーンの胸へと拳が押し付けられた。

 

「オレの武は善悪を選ばない。オレは信念を曲げることはない。武の頂を目指しているオレが、裏切りなんていう些末事に加担してどうする」

 

 他者の心など知ったことかと彼は言う。

 

「唯々、全てを蹴散らす。それが出来ずして何が魔界の王だ。助けてくれるなどという希望なんてあいつらに持たせるな。助けなど来ないことを、オレ達はよく知っているはずだ」

 

 その瞳の奥に、昏い光が灯っているのをパムーンは見た。

 

「千年の絶望、そしてそれ以上の絶望すらも跳ね除けられる……王を超える存在に、オレはなるんだ。オレは……“ベルのヤツとは違う”」

 

 闘志だけではなく、其処には確かに憎しみがあった。

 石への恐怖に縛られているのではなく、千年の間に煮詰められた憎悪の感情が誰かへと向いていた。

 

 パムーンはそれ以上何も言えなかった。

 

 なぜなら……彼もあの時にゼオンへと心の内を零してしまったから。

 

“どうして魔界の王様になったのに助けに来てくれなかったのか”

 

 千年前の魔物達が持つ当たり前の感情を突きつけられてしまっては、もうパムーンに出来ることは何もなかった。

 

 

 ゾフィスの高笑いが聴こえた気がした。

 魔界の情報を教え、千年前の魔物達の思考はもう縛られているのだ。

 

 レイラとビクトリームとパムーンの三人を孤立させる策でもあり、裏切るかを試されてもいる。

 

 幾重にも張られた罠を掻い潜るには……もう、銀の二人に頼るしかない。

 

 部屋を出たパムーンは、悔しさから拳を壁に打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共に過ごせる最後の日だと、そう唐突に告げたのは昼のこと。

 オレもデュフォーも少しの疲れからその時間まで寝ていたのでチビ達に伝えるのが遅くなってしまった。

 

 チェリッシュもニコルも伝えていなかったのは、きっとオレ達が直接言うべきだと考えたのだろう。

 

 一言でいえば大変だった。

 

 チビ共が泣き喚くわ離れないわマントに潜りこむわの大騒ぎだ。

 いや、無理に離すことは出来たんだが……許せとしか言わず、したいようにさせることにしたんだ。

 しかし思いのほかチビ共のわがままはすぐに収束した。

 

 オレにいつも突っかかって来ていたヤツが、なんとチビ共を言いくるめたのだ。

 

 この中で一番強い自分が止めてやる。それでも止められなかったら見送ってやれ、と。

 

 なんともまぁ……バカなヤツだ。

 

 おやつの時間に、その勝負は行われた。

 人間の子供なぞに送れを取るオレではないし、勝負は一瞬でつく。

 

 本当なら、一瞬のはずだった。

 

 でもどうしても……そいつの潤んだ瞳にたじろいでしまった。

 攻撃は喰らわなかった。

 前より少しはマシになった動きで向かって来たあいつに、オレはわざわざ、拳を受け止めてやってから……いつも通りに引き倒した。

 

 倒れた先で、目に腕を当てて悔しがるあいつの声は震えていた。

 

 勝負はお預けだぞ。次は絶対に負けないからな。

 

 そんな言葉にオレは何も返せなかった。

 

 哀しがるチビ共は、オレと一緒の絵を描くと言い始めて皆で大きな紙に描くことになった。

 夜までかかったその絵はどうにか完成することが出来、すぐにチェリッシュとニコルとデュフォーが用意してくれた夕食を皆で食べた。

 

 最後の夜だからと、皆で風呂に入り、皆で大部屋で寝ることになった。

 

 寝相が悪いチビ達にもみくちゃにされて眠れるわけはなく……夜半過ぎにオレとデュフォーは静かに其処を抜け出した。

 

 

 

 

 

 施設の外。

 夜空の下で歩き出そうとすると後ろから声が掛かった。

 

「せめてお別れくらい言わせてやればいいものを」

「まったくだね。朝にあの子達を宥める側の気持ちも考えてほしいんだけど」

 

 愚痴を言う二人に振り返って、大きなため息を吐き落とす。

 

「チェリッシュ、ニコル、世話になった」

「行くんだね」

「ああ」

 

 短くいうと、チェリッシュがオレの方へと近づいてくる。

 すっと出された拳に、オレは拳を合わせた。

 

「あんたなら何があっても大丈夫、そうだろ?」

「ふん、当然。オレとデュフォーは無敵だからな」

 

 どんなことが起ころうと、オレとデュフォーなら乗り越えられる。

 眩しい笑みを浮かべたチェリッシュと優しい笑みを浮かべたニコルが、それぞれオレとデュフォーを一度ずつ抱きしめた。

 

 そういったことをされたことがなかったオレ達は、突然のことに面食らってしまった。

 デュフォーも不思議そうな顔をしていた。

 

「頑張っておいで!」

「何かあれば連絡してくれ」

 

 温もりがじわりと残る身体。ふっと笑みを落として、オレはデュフォーの脚を叩いて彼女達に背を向ける。

 気恥ずかしさがあったが、満足感もあった。デュフォーもきっと同じだろう。その表情を見ればわかる。

 

 マントを巻いて、瞬間移動の準備に入る。

 デュフォーはもう一度振り返ってから……

 

「……またな」

 

 自分から、そう言った。

 

「また会おう」

 

 オレも重ねて、そうしてオレ達は彼女達と別れた。

 

 新しい温もりが、オレ達の心に継ぎ足された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾフィスの居る遺跡から近しい街の一つ。オレとデュフォーはその街に作った拠点の部屋に無事着地した。

 

 着いてすぐにコーヒーを淹れ、二人でベッドへと腰かける。

 

「……いい奴らだったな」

「ああ」

「子供達のことは……」

「すべてが終わってから、ニコルともう一度訪れると約束した」

 

 その全てが何かを、デュフォーもオレも分かっている。

 だからそれ以上言わないし問いかけない。

 ならいい。それでいい。

 

 オレはもうあいつらには会えないから、デュフォーがなんとかしてくれるだろう。

 今生の別れなど、教えてやらない方がいいんだ。

 

 少しだけしんみりした空気になったからか、デュフォーは話題を変えるように端末を取り出した。

 

 其処に映し出されていたのは新たなガッシュの写真。

 

 アポロ達と共にアメリカへの日程調整をしていたらしく、もうすぐこちらへ着くらしい。

 

 端末をもってじっくりと弟の姿を堪能する。

 

 チェリッシュ、ニコル、ガキ共との別れの寂しさも……ガッシュの笑顔が癒してくれる。

 なのに……少しだけ、寂しい気持ちは残ってしまう。

 

――ああ、これが別れか。ガッシュとの引き裂かれるような別れではなく……もっと違う……

 

 初めての経験をじっくりと消化する。

 オレにとって新しい体験で、新しい出会い。きっとこれを乗り越えることが必要なことなのだ。

 

 そんなコーヒーを飲むことも忘れて浸っていたオレへと、デュフォーは唐突に爆弾を落としてきた。

 

 オレの寂しい気持ちも吹き飛ばす、それはとても忌々しい言葉だった。

 

 もしかしたら……デュフォーも同じ気持ちだったのかもしれない。

 寂しい気持ちを紛らわす為に無理やりにそれを今切り出してきた。

 

 なら、少しは許してやろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッシュ達とゾフィス勢力の戦いだが……オレが単体であいつらの傍についてサポートすることにした。通信と写真は端末に送ってやる。お前は遺跡の上空で待機しておけ。しっかりとオレとガッシュで撮った写真も送ってやるから安心してくれ」

 

 

 

 いや……やはり許せん。

 

 




読んで頂きありがとうございます。

ゾフィス編のプロットをしっかりと組んでいまして更新遅れがちになります。



ゾフィスくんとパムーンくんのお話
理由のある憎しみがダウワンさんに向かうっ
ビクトリーム様が本気を出すようです。

デュフォーくんとガッシュくんのツーショット写真によって脳を破壊されるお兄ちゃんになりそうです。


次回から千年魔物編の本番。ガッシュくん達の視点が多くなります。

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

  • リーヤ
  • リオウ
  • ザルチム
  • ファンゴ
  • カルディオ
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