もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら 作:ちゃんどらー
誠に勝手で申し訳ないのですが、感想返信に時間を当てると続きを書くのが困難となっている為、少し感想の返信を控えて続きの執筆にとりかからせて頂きます。本当にもうしわけない。
魔本が半分ほど雪に埋まってしまうほどの時間が経ち。
足元の雪を紅く染めた血。自身の目から流れていたことを知り、涙を流して火照る目を冷ます為に雪に倒れ込む。
ヒヤリとした感触に包まれる。
寒くはなかった。訓練を重ねてきたマントに魔力を流せば、熱さも寒さもある程度は耐えられる。
身体を起こし、グイと頬をぬぐう。血涙の跡は消えただろうか。この吹雪では水を見て確認することも出来ないだろうから、ある程度雪の水分で拭ってから気怠い瞼の火照りを確認する。
熱の引き具合からもう腫れは取れたはず。
ようやく、オレは周りを見渡した。
一面の雪、雪、雪。
吹雪によって視界の悪い中、ぽつぽつと氷山のようなモノは視えるが、他には何もない寂しい環境。
人間界に転移した場所が生物の気配すら薄い場所とは……自分の慟哭が聴かれなかっただけマシではあるが、幸先の悪さに悪態を吐きそうだった。
足元で半分埋まっていた魔本を引き抜き、ペラペラとページを捲って確認する。
此処にオレの魔力が封じられている。魔界文字であるはずなのに読めないのは不思議だが、凍り付いたり濡れたりしないことにはほっとした。
本を閉じ、再び辺りへと目線をやる。
何もない。
耳を澄ましても吹雪の音だけ。
大きなため息は白く、雪と共に描き消える。
―――もう少し深く確認するか。
目を瞑り、魔力を高めていく。
本物の感知型の魔物の能力には劣るが、鍛えてきた為少しは真似事が出来るのだ。
高い感知能力を持つ魔物は、ちょっとした危機察知でさえ迅速にして的確。未来予知とすら思えるほどの素晴らしい能力だが、せいぜいオレに出来るのは魔力の感知と動物の気配の感知。振動、音などを従来よりも察知しやすくなるくらい。
この吹雪の中ではそれもあまり期待できないが、何もやらないで歩き始めるよりはマシだろう。
一分、二分と吹雪の音だけが耳に響く。
収穫がないのなら、雪の中にいても仕方ない。
次は場所を変えるかと、マントに魔力を込め、宙へと飛び立った。
幾分、この周りは雪だらけで何もないことが分かったのだけが収穫と言える。
闇雲に飛び回っても体力を消耗するだけなので、なるべく体力を消耗しないように歩きへと切り替えた。
此処に転移する前のことは考えないように。
嫌でも思い浮かぶのを無理やり意識を閉じ、雪と氷の景色へと感知の感覚を飛ばし続ける。
雷の力が使えればこの忌まわしい雪を分解でもしたり、雪雲を最大術で吹き飛ばしたりしてやるモノの、それも叶わぬ願い。
また幾分。
ふと、遠くに氷山とは違うナニカが見えた。
明らかに自然物とは違うカタチ。近づいてみると簡素な研究施設のようだった。
気配は……ある。
魔力は感じられない為、間違いなく人間だろう。
初めての人間との接触だ。書物からの知識では人間は魔物に身体的な能力で遥かに劣ると聞くが、それでも警戒するに越したことはない。
扉のようなモノの前に立つが反応はなく、ノックしてみても返事はない。ぐるりと回りを確認しても入り口は他にない。
「……いっそ壊して入ってもいいが初めての接触は穏便に済ませたい。しかしこのまま外に居てもいつかはオレの体力が尽きる」
さてどうしたものかと考える。このまま吹雪の中でのたれ死ぬわけにもいかない。
考え込んでいると……プツリと、入り口近くのモニターに年老いた人間が映し出された。
『さあ、“D”。お前の持つ才能も円熟期を迎えた。これより君をこの施設から出すことにする』
オレを見て話しているわけではないらしいその老人は、状況的に“D”という施設内の人間に話しているらしい。
―――施設の中で暮らしていた人間をわざわざ……この吹雪の中に?
疑問が浮かぶも、今は静観するべきなのかもしれない。
いきなりばったりと出くわすのも人間が驚くだろうからと、マントを身体に巻いて迷彩を施して隠れておく。
『外に出るまでの扉は七つ。それぞれの扉を開けるには、扉のコンピュータに出された問題を解くこと。
解答の正否はこちらでモニターしている数十名の学者で判断する。世界最大の難問と呼ばれるモノばかりだが、君なら解けるだろう』
どうやら“D”というのは頭がいいらしい。
粘り気のある老人の声はそのまま続く。
『なにせ、ここから出られたら、憎い私を殺すことが出来るのだからね』
その言葉の羅列に息が詰まり、オレの胸がズクリと疼いた。
その状態は、その状況は余りにも……誰かと酷似している。
いやらしく笑いながら、憎い自分を殺すことが出来るぞとのたまった老人の顔が誰かと重なる。
あいつは無表情だったが、言っていることは同じだ。
憎しみを持っている相手に対してわざわざ、自分を殺すことを是とした言葉を投げつけるのは……あいつと同じだ。
『君の“
夢のような能力だと思った。
それがあれば、オレはあいつの策略を打ち破り弟を笑顔にすることが出来るだろうか。
それがあれば、オレは大切な弟をこの過酷な戦いから守ることが出来るだろうか。
施設の中の気配が近づいてくる。
オレは、施設の中の人間がどんな感情を抱えているのか理解してしまう。
足音は早い。扉を開くたびに全速力で走っているのだ。
怒りと高揚がないまぜになったような気配は、オレが先ほどまで魔界で纏っていたモノと同じであるのだ。
だからその老人が嘲笑っている対象である“D”の結末を予想して……オレの握りしめ過ぎた拳から血が滲むのも当然のこと。
『まさにスーパーマンだ!! 君を敵に回したら、これほど怖い存在はないだろう。そこで我々は……』
遂に入り口の扉が、開かれる。
細身の青年が、たたらを踏んで雪の中に飛び出してきた。
『君をこの研究施設ごと、北極の地にて破棄することに決めた』
呆然とした顔は、吹雪を見て生気を失っていく。
思考すらも凍結しているのだろう。遠くを見つめる瞳は虚ろに過ぎた。
『君の頭なら、もう答えは出ているはずだ。じきに爆発を起こす施設、大自然の前での人間の無力さ。君がここで生き残れる可能性は0だよ。君が扉を開ける為に解いた問題の答えには感謝している』
振り向く。“D”はその虚ろな瞳で、音声を並べ続けるモニターを見た。
『本土で見ていた学者たちもみな満足するものだ。これでまた画期的な人殺しの道具が出来よう』
嬉しそうに語る老人の声は、青年から逃げられたことに安堵しているようにも聞こえて、欲に塗れた嬉しさに歪むその表情は、昔に見たガッシュを虐待していた老婆と重なって見えた。
『そう、最後に教えてあげよう。君のお母さんだがね……』
瞬間、言うな、と心の中で思った。
この後の言葉はきっと、“D”の心に癒せない傷を付けることなど分かりきっていた。
空気が変わる。施設から危険な感じがした。此処にいてはダメだと、オレの感覚が告げている。
モニターにくぎ付けの“D”はソレに気付いてるのか分からない。
語られるのは、“D”にとっての絶望の“答え”
『彼女はお金欲しさに、君を我々に売ったんだよ。一万ドルというはした金でね』
“D”の口の端が吊り上がっていた。
その目からは、涙が零れ始めていた。
『死ぬ前に君の最大の謎が解けたね』
その顔が、その表情が、その哀しい笑みが、その涙が、その絶望が……護るべき弟と、憎しみに染まりきったオレの二人が混ざった姿に視えてしまった。
熱の反応が高まっていく。
施設そのものが危険の塊で、“D”はこのままでは死ぬ。
そう考える前に……オレの身体は動いていた。
『おめでとう……“D”』
大きな、人間一人を滅ぼすことなど容易い爆発が辺りを包む。
吹雪さえ吹き飛ばして、人間を殺し切ろうとする悪意は辺り周辺を吹き飛ばす。
ガクリと膝をついた“D”を、オレのマントで守りきる。
爆風も、残骸も、熱も、何もかもから包み込むように覆った。
泣き笑いの顔で俯く“D”は、静かに涙を零し続けていた。
爆発の余波はすぐに落ち着き、“D”は絶望に染まる瞳でオレを見つめてくる。
ドサリと……オレは魔本を目の前に投げやった。
「お前……その本を読んでみろ」
これが運命だというのなら、この戦いを仕組んだモノはくそったれだ。
消えるはずだった命を救えた嬉しさなど微塵もない。
こいつの目を見れば分かるのだ。
こいつは……あの時のガッシュと同じで……
全てに絶望し、全てを諦めてしまっているのだから。
本を取ることは、ない。
“D”はただオレを見るだけ。本質的に見ているわけではなく、ただ視覚的に見ているに過ぎない。
オレの心が乱される。
オレの心が燃え上がる。
こいつはオレであり、ガッシュなのだ。
親に捨てられ、大人に利用され、憎む相手にも立ち向かうことさえ封じられ、愛するモノさえ持たされない。
嗚呼、嗚呼、と心が叫ぶ。
どうしてこんなにも救われない。どうしてこんなにも、世界は理不尽なのだろう。
魔界も人間界も変わらない。
理不尽にさらされる存在は、必ずいる。
ただ一つ、オレやガッシュとこいつの違う点がある。
だからそれを……その光をお前にも灯そう。
すっと、オレはそいつに近付いた。
思い出したように溢れるオレの怒りや憎しみは、今はどうにか抑え込む。
オレの中の憎しみはオレだけのモノで、こいつの持つ憎しみと重ねる必要はない。
父への憎しみよりも、今は優先すべきことが出来たのだ。
ガッシュが教えてくれた。
こういう時は、こうするのだと。
膝をついて呆然とする“D”の首に手を回し……壊れないように抱きしめる。
「……何も考えず、そのままでいろ」
抱きしめ返してはくれないが、跳ね除けることもされなかった。
ゆっくり、ゆっくりと背中を撫でてやる。寒さで震えだした身体に気付いて、マントで大切に包んでいく。
「なぜ……」
ぽつりと呟かれた言の葉。
何に対してなのかは分からない。意味のない言葉でいい。
何かしら反応してくれたことが少しだけ嬉しくて、背を撫でるのを辞めて少しだけそいつを抱きしめる。
「オレの名はゼオン。ゼオン・ベル」
ぽう、と魔本が僅かに光った。呪文を唱えなくとも、オレと魔本の魔力がこいつに共鳴した。
やはりそうなのだ。こいつこそが、オレと共に理不尽に立ち向かうパートナー。
ゆっくりと身体を放して、そいつの目を覗き込む。
絶望に堕ち切った目から、僅かにだけ光を取り戻した瞳。
オレの紫電の瞳で見つめても、そいつは視線をそらすことはなかった。
真っ直ぐ、ただ真っすぐに見つめる。
「初めましてだ、人間」
逸らされない視線の先で、そいつの瞳は揺れ動くことはなく。
「名を教えてくれ。お前の絶望を、オレが少しだけでも貰っていく為に」
お前が必要だ、とは言わない。
お前を救いたい、とも言わない。
大切な弟が押し付けてくれたように、自分勝手に絶望をかっさらってやろうと思う。
そんなオレの考えが届いたのか、そいつはしばらくオレを見つめた後に目を瞑りオレに寄り掛かってきた。
心の悲哀も絶望も憎悪も、きっとまだ渦巻いていることだろう。
それでもそいつはオレのお願いに対して、ぽつりと小さく返してくれたんだ。
「デュフォー」
心に刻む。これからしばらく共に歩んでいくモノの名を。
安心したように眠り始めたそいつの体温を腕の中に感じながら、オレは揺らめく炎をしばらく見つめていた。
読んでいただきありがとうございます。
弟との出会いがあったから、ディフォーくんとの出会いも変わる。
ゼオンデュフォーコンビの闇が深すぎる……
これからも楽しんでいただけたら幸いです。
下記のうちでどの魔物が好きですか
-
弟にとっても優しいお兄ちゃん
-
モフモフな親友
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竜族こそ最強よ
-
王をも殴れる男
-
ゴーーーーーー
-
御意のままに!
-
大・将・軍!
-
グロリアスレボリューション!!!