もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第四十一話:液晶越しの弟

 

 デュフォーは清麿という人間のことを高く評価している。もちろんゼオンもだが、デュフォーの評価はゼオンのソレとは一線を画す。

 答えを出す者(アンサートーカー)の発現と過度の実験によって脳のレベルが上がっているデュフォーまでとはいかなくとも近しい思考能力を持ち、“バオウによって能力の制限が掛かっている”ガッシュを下級術だけで勝ちへと導き、どれほどに過酷な戦いであろうと己の欲ではなく他者の願いと救済の為にその身すら賭けて飛び込んでいく。

 実際に情報を聞き、イギリスの時に“答え”を出した上で……今、更にデュフォーは清麿という人間の評価を数段階上げた。

 

 綿密な遺跡の図面ですら自分で創り上げ、敵の配置や自分達の戦闘行動をどうやって行うかのシミュレーションを幾つも立てた上で此処に来ている。

 歩きながら図面を広げて説明をする彼に、遺跡の詳細情報を追加で与えてはいるがほぼほぼ手を入れることはなく、清麿の出した“答え”に答え合わせをするカタチで助力を続けていく。

 

 並列思考を組み立てながら、デュフォーは思う。

 

――これがガッシュのパートナー、高嶺清麿……か。

 

 ゼオンの最愛の弟を護っているのがどんな人間なのか。それを知りたかったのはゼオンだけではなく彼も同じであった。

 能力の高さも、心の強さも、他者を思いやる暖かな部分も、全てがデュフォーの考えていたモノよりも上。

 答えを出す者(アンサートーカー)だけで得た情報でなく、己の頭で精査し、実際に語って感じたことで、清麿という人間を深く把握できた。

 

 そこで、より正確になった人物評価を頭に入れて、デュフォーは清麿へと一つ質問を投げ渡すことにした。

 

「ナゾナゾ博士からキャンチョメに渡された情報……魔物達を回復させるナニカを突き止めることが“今日”するべき目標か?」

「っ! どうしてそう思う、デュフォー?」

 

 自分の考えていたことと同じことを言われて、皆へと意識が行き渡るように清麿が会話を繋げた。

 

「それがある限り、一日で此処を完全に攻略するにはこちらの戦力が少なく、相手の戦力がどれだけなのか不明瞭だからだ」

「ウヌゥ? 悪いことをしている魔物を倒し、操られている人達を助けに来たのではないのか?」

「いや、それについては間違いないんだガッシュ。だけどデュフォーが言う通り、オレ達は今日、全てを攻略するのが目標じゃない」

 

 ガッシュからの素朴な疑問に清麿が答えた。

 そのまま頷いたデュフォーを見てから続けていく。

 

「威力偵察といって、古来から戦争では敵の戦力や出方を伺う為に、初めに軽く敵と戦うことがよくある。戦いは情報を持っているのと持っていないのでは勝敗に天と地ほどの差が出るから、まずはお互いの情報を確認し、より確実な勝利を得ようとするんだ」

 

 かいつまんで説明する清麿は全員に飲み込ませるようにと言葉を選んでいく。

 

「例えばティオ」

「ふぇっ?」

「ガッシュと戦うのと、ロップスと戦うのと、どっちが戦いやすい?」

「それは……ガッシュ、ね。ガッシュは一緒に修行もしてるし、どんな術を使ってくるのか知ってる。でもロップスが本気で戦ってるところは見たことがないし、軽い術の紹介だけでどんな強い術を使ってくるのかも全く分からないわ」

 

 分かりやすく、術の分かっているガッシュと術が不明なロップスを例えに上げれば、ティオはなるほどと言った様子で頷いた。

 まだ出会って日が浅いから、事前の打ち合わせで軽い説明を受けているとはいえ、ロップスがどれほどの実力を備えているのかティオには分からない。

 

「そうだ。つまり、オレ達の目的を達成させるにはまだまだ敵の情報が少なすぎる。ナゾナゾ博士が言うように、此処に敵を回復させるナニカがあるっていうならオレ達はそれの正体を突き止めて作戦を立て直さなきゃならない。キャンチョメが持ってきてくれた情報はオレ達が日本で立てた計画を崩してもいいくらい重要なんだ。先に侵入して後で博士達と合流するプランよりもその方がいい」

 

 アポロや恵たちと共に日本で立てていた計画では、遺跡内部という空間的に限定された状況を利用し、隠れて休みつつ長期戦を行って立ち回る予定だった。

 しかし敵が回復を早める何かを持っているのなら話は変わる。

 

 テレビゲームにある宿屋のようなモノを敵だけ持っている状態で戦うことが、どれだけ最悪なことかを清麿は間違わない。

 

 更に……デュフォーが彼らにとって悪い情報を付け足す。

 

「戦力についてだがオレのパートナーからの情報も伝えよう。この世界に取り残されていた千年前の魔物には、ブラゴと同等かそれ以上の力を持つ魔物が五体いる。そしてそいつらもこの遺跡に居るだろう」

「な……」

「うそだろ……」

「そんな……」

 

 戦う前に不安にさせることをふつうなら言うべきではない。士気も下がるし不安や焦燥によって心の力も鈍るだろう。

 それでも伝えたのは、

 

「もう一度、自分達の覚悟を確かめておくことだ。リタイアしてもいい。逃げ出してもいい。戻ってもいい。その選択肢もお前達は持っている」

 

 全員に視線を向け、デュフォーはキャンチョメを長く見て、そして最後にウマゴンをじっと見つめた。

 清麿はそれだけで何を言いたいかが分かった。

 

――キャンチョメだけじゃない。デュフォーはウマゴンの心も見抜いてるんだ。

 

 いつも臆病なキャンチョメだけでなく、ウマゴンの心の事情さえ理解しているのかと、清麿は驚愕に支配された。

 長く一緒に居た自分だから、ウマゴンが戦いに対してどういった想いを抱いているのか理解できた。

 だがデュフォーは今初めて出会っただけ。そっと、清麿はアポロへと視線を移し……そういえばと思い至る。

 

――もしかしたらデュフォーはアポロと似たような不思議なチカラを持っているのか。

 

 以前に戦ったアポロは他者の心情を読み取ったり、危機を回避したりする不思議なチカラを持っていた。

 清麿に見られていると気付いたアポロが微笑みながら頷いたことで、その予測は確信に変わる。

 

「メ……メル……」

「……」

 

 静かにウマゴンへとしゃがんだデュフォーは、小さな声でそっと耳打ちを一つ。

 

(レインからの伝言だ。親友を任せたぜ、と言っていた)

 

 ビシリと固まったウマゴンの頭をくしゃりと撫でて、他の皆に見られないように俯かせた。

 

 魔界でのガッシュの友達は二人。レインとウマゴンだけ。

 ガッシュがウマゴンに対してよく話していた大きな魔物――“もう一人の友達”からの言伝は、ウマゴンの心に一筋の棘を植え付ける。

 

 心の苦悶を理解しながら、デュフォーはウマゴンに言葉をつづけた。

 

(オレからも頼む。ガッシュが危ない時は力になってやってくれ。お前の力こそ、必ず必要になる)

 

「メッ……!?」

 

 驚きと戸惑い。

 いろいろな感情が孕んだ瞳で見上げたウマゴンは、ずっと感情の感じられなかったデュフォーの目から、大きな感情を感じ取る。

 

 少しの間だったが、確かに感じた感情をウマゴンは見抜く。

 長い間、ずっと共に居て感じて来た暖かなモノと似ていた。

 

 ウマゴンの僅かな変化を感じたらしいデュフォーは次に、

 

「キャンチョメ。お前はとても素晴らしいチカラを持っているな。清麿……地図を」

 

 キャンチョメへと言葉をかける。

 地図の一言で、デュフォーが何をしようとしているか理解した清麿はバサリと皆に見えるように地図を広げた。

 

「現在の時刻ならばここと……ここに、敵が配置されている。勘の鋭い魔物からの確かな情報だ。この遺跡に居る敵の配置はほぼ変わらない。清麿ならばこの遺跡での戦いに於いてある程度の作戦を立てているはずだがどうだ」

「ああ……恵さんやアポロ達と組んで戦うつもりだったけれど……キャンチョメが居てくれるおかげで戦略の幅が大きく広がる。この配置なら、キャンチョメの術で勝率はグッと上がることだろう」

「えぇっ!? ボ、ボクかい!?」

「そうだ。オレ達にはお前の力が必要だ、キャンチョメ」

 

 驚くのも無理はない。

 いつも自分が非力な足手まといだと己で認識してしまっているキャンチョメからすれば、ガッシュを常に勝利に導いてきている清麿からの言葉はすぐに信じられるモノではない。

 

「ナゾナゾ博士も言っていたんじゃないか? お前が必要だと」

 

 自然と追い打ちをかけるように紡がれたデュフォーの言葉に、キャンチョメはハッとする。

 彼が此処に来たのは、自分が必要とされて嬉しかったからだ。

 故に清麿とデュフォーの言葉は、彼の心にあるちっぽけだった勇気を大きく広げていく。

 表情の変わったキャンチョメを見て、優しく笑った清麿は作戦を語っていった。

 

「いいかみんな。魔物が複数いる場合、誰か一体の魔物が仲間を呼びに行ったらオレ達は終わりだ。デュフォーのくれる情報の通りなら、初めに接触する魔物は二体。そこで誰かがこの大きな部屋へと魔物二体をおびき寄せなければならない」

「え……う……もしか、して……?」

「ああ、そのおびき寄せる役目がキャンチョメだ」

「えふっ、うぶふぅぅぅぅ」

 

 泣き崩れる彼を見て、清麿は少しもんにょりと表情が落ち込む。だめかもしれない、と。

 

「だだだ、大丈夫だ、私も居るから!」

「ふぉ、フォルゴレぇ……」

 

 ガタガタと震えながらの二人に、やはりダメかもと清麿は口をすぼませる。

 

「お前は……まだ自分の隠された力の凄さを理解していない」

 

 トンと肩に手を置いて、デュフォーは言う。

 不思議と心が落ち着いたキャンチョメは彼の言葉に聞き入った。

 

「ナゾナゾ博士からお前の力は聞いているが、化ける力とは……敵にとって最も厄介で、味方にとっては強力な武器となる。ブラゴ程に強い魔物でさえ、お前の力の前には敗北することもあるくらいにな」

「……ほんとに?」

「ああ、本当だ。そして清麿の頭脳と無敵のフォルゴレの力が加われば……まさに最強だ」

 

 ほわぁ、と目を輝かせ始めたキャンチョメ。その様子から、清麿はデュフォーの人心掌握術を学んでいく。

 味方を鼓舞することはリーダーの務め。うまい具合に清麿へとバトンタッチされた会話は、そのまま清麿の作戦への信頼度を上げる要因にもなる。

 

 清麿は思う。

 

――オレだけじゃなくて第三者からの言葉があればそれは確信へとより近づける。デュフォーは……オレの考えすら全部計算して話しているのか。

 

 凄まじい……否、恐ろしい、と。

 

 横で見ていたアポロも、デュフォーが会話の流れの全てを操っていることに気付いてたらりと冷や汗を一つ流していた。

 

「最強……かぁ……」

「やってくれるか、キャンチョメ?」

「まま、まあ、作戦だけ聞いてみるよ」

「ありがとう……じゃあ作戦を説明する」

 

 つらつらと綴られていく作戦に、キャンチョメも初めは涙目だった。しかし自分にしか出来ないと知るや、彼は勇気を奮い立たせて皆へと胸を叩いて示す。

 必ずやり遂げて見せるという彼の顔は、友と救いを待つ人達の為に覚悟を決めた表情だった。

 

 

 

 心理誘導と掌握はデュフォーにとって造作の無いことだが……デュフォーが共に居ることの真の利点を、清麿がまだ理解することはない。

 目の前の敵の対処の他に、大きな敵に対しての策を行い始めていることを知るまで、あともう少し。

 

 

 

 

 

 作戦も決まり、遺跡の内部を歩きながら、デュフォーはこそりと一人にだけ話しかける。

 

「お前の危機察知能力を理由に別行動を取らせることに不満はあるか?」

 

 相手の能力から、清麿へと別の作戦を指示したことに対してどう思うかを問いかける。

 問われた相手は緩く笑った。

 

「ふふ、ないよ。これも必要なこと、なんだろう?」

「かう~」

 

 なんでもないと示すアポロとロップスは、デュフォーに全てを任せているように信頼を向けて。

 

「……テラスの二階上に“例の魔物”が待機している。そいつとの戦闘が今日の最大の山場となる」

「キミのこの遺跡に入る前の口ぶりからすると“ディオガ”を超える術を操る魔物、ってことだよね。ああ、“ディオガ”についてはどれくらいの威力か知ってるよ。前に戦った相手が使って来たから。ガッシュ達だと確かにそんな魔物相手じゃきついだろうね」

 

 自分達の戦闘経験に基づいて語る。

 

「今のガッシュ達だと……そうだな……相手がよほど変な行動をしたり油断してない限り何人かは負けてしまう可能性が高いかな。“ディオガ”を使えるってことはそれだけ基礎能力や魔物本来の能力が高いってことだし、魔物自体が成長している証拠でもある」

「その通りだ。千年前の魔物達は人間が操られていることで戦闘というくくりで見ればお前達よりも制約が多く、術の発動や戦闘行動一つにしても隙が出来る……が、そいつは――」

 

 すっと目を細めたアポロが、デュフォーの語りの続きを繋げた。

 

「――人間が……操られていない。そういうことだね」

 

 頷きを見てため息が落とされた。

 

「……ボクがすることはなんだい?」

「清麿達も含めて全員で戦うことが前提だが、お前とロップスが主軸として戦闘を組み立てることになるだろう」

「その場で合せることは?」

 

 その質問に対して、デュフォーはぴたりと指を立てて言う。

 

「“お前達が”合せるんじゃない。“お前達に”あいつらが合せるんだ。そうでなければ全員が無事でいることは不可能だ」

「それほどか……」

「大前提として……お前とロップスにもオレの指示を聞いて貰うことになる」

 

 顎に指をあてて考えるアポロと、不安そうに首を傾げるロップス。

 ひょいとロップスを抱き上げたデュフォーは肩に彼を乗せる。

 

「あいつらの力になりたいか?」

「……かう」

「絶対に負けたくないか?」

「かうっ」

「なら……お前にオレの本当の力を貸そう」

「かう~♪」

「傷つくことも、危険に陥ることもあるし、ぎりぎりの戦いをさせてしまうかもしれない。それでも……必ず全員を生き残らせて見せる。信じてくれるか?」

「かうっ!!」

「もちろんだよ、デュフォー」

 

 力強く頷く二人。ふっと吐息が漏れたことをデュフォーは自分では気付かず。

 次いで静かにアポロへと説明を始める。

 

「オレの持つ能力はお前の持つ勘の鋭さの上位互換と考えろ。先ほどの計画通りに、ガッシュ達が初めに遭遇する二体の魔物の対処に追われている間、お前とロップスは付近の魔物の索敵と一掃。その時にオレの指示を聞くことの理由が理解できるだろう。そして、“ビクトリーム”との戦闘になると思われるテラスでの事前準備として―――」

 

 

 

 敵との遭遇はもうすぐに。

 デュフォーの心に油断はなく、慢心もない。

 

 “答え”を求め続けて模索するのは……ガッシュの周りの全員が生き残る最上の結末。

 

 あの時に無意味だと断じたアポロとロップスの存在が、自分にとって大きく頼りになる存在となっていることに理解を置く。

 

 “答え”を求める力では、ガッシュ達全員を駒として考えた動かし方を簡単に導き出せて、最小限の犠牲で最大限の成果を手に入れることは容易だ。

 しかして彼が“答え”として求め続けているモノは……それよりもはるかに困難な道であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コーラルQのモニターを食い入るように見つめているゼオンは、苛立ちに支配されていた。

 

「ちっ……デュフォーのヤツ、何をやっている。キャンチョメとかいう魔物を上手く焚き付けて戦闘に対しての恐怖心を軽減させたはいいが、清麿やガッシュにお前が指示をすればそんな魔物二体程度すぐに倒せるだろうに」

 

 其処には千年前の魔物との戦闘の開始が映し出されていて、舌打ちや膝を叩いたりとどうにかその戦闘に飛び出したいのを必死に抑えていた。

 

 ガッシュと清麿が戦いに突入する様子を見せられれば、過保護なゼオンにとっては拷問にも等しい。

 今まではガッシュが他の魔物の攻撃で傷つくところなどロップスの記憶くらいでしか見たことがなかった。

 こうして映像であるとはいえ目にしてしまうと、居てもたってもいられなくのは彼にとって仕方ないことだろう。

 

「少しは落ち着いて観るピヨ」

「うるさい。言われなくとも」

 

 呆れ声でコーラルQに言われて、ゼオンはすっと心を平静へと沈めていく。

 

――あの場にはデュフォーが居る。オレはいつでもあの場所へ飛べる。ガッシュの成長と雄姿を見る事は兄として誇るべきこと。弟の成長の邪魔をするなど兄としては落第。ガッシュを信じてやらずして何が兄か。

 

 デュフォーとの心の訓練……という名の自己暗示の練習。弟離れをするには自分に強く言い聞かすことでどうにか耐えることができるのだ。

 

“ゼオン・ベル、お前はガッシュを陰で支える最高の兄で在れ”

 

 そんな自己暗示の一言は、幼い子供心に芯を持たせるには十分なモノ。

 ヒーローとは違う、けれども最高にカッコイイ存在を思い描けば、ゼオンはソレを完璧にこなすことが出来るだろう。

 切り替わった彼は俯瞰的で客観的な視点で戦闘を確認し始める。

 

 冷えた頭が状況を見つつモニターに映る人物たちの評価を下す。

 

「清麿とやらは前評判通りの頭脳か。ティオという魔物は……守りの一族だな。あの術の具合ならパートナーの絆も上々だろう。シュナイダーは変化の魔物を助けに行った。さて……戦闘は……」

 

 セウシルでキャンチョメ達を通路に逃がした後、魔物二体からの攻撃が始まった。

 低級上位の術二つに破られたセウシル。瞬時に動いていた清麿とガッシュが敵魔物の片方に詰めていた。

 放たれたザケルガを見て……ゼオンは眉根を寄せる。

 

「……ザケルガの出力が……低すぎる」

 

 初めて見たガッシュの雷に、ゼオンは疑問を感じた。

 コーラルQも同じだったようで首を傾げていた。

 

「雷帝の弟とは思えない。落ちこぼれとはいえ、ベル一族でも最上位の血を引いてるなら基礎能力があの程度なわけがないはず……プピッ」

「人間に問題が? いや……心の力はいわばブーストのようなモノ。本気で放つなら術が強まることこそあれ、戦闘中にあんな低レベルな出力で放たれるはずがない」

 

 落ちこぼれの一言にコーラルQの脛を蹴ったゼオンは、今はいいと思考を戦闘に向けなおす。

 

 二度のザケルガで魔物を引き離し、人間から本を奪おうとしてもう一体の魔物によって阻まれた。

 

 惜しいなと思った後、千年前の魔物が声を荒げた。

 その様子に清麿達は固まっている。千年前の魔物自体も操られていると思っていたようで、その勘違いにゼオンはまた舌打ちを一つ。

 

「おい、デュフォー……それくらいは説明しておけ」

『清麿の頭脳と対応力、そしてガッシュの心の動きを見極める為に必要なことだ』

「……それならいい。ガッシュの術の出力が低いことに関しては――」

『今は置いておけ。それよりも……コーラルQの受信側の音量を上げてガッシュの声をよく拾っておいた方がよさそうだぞ』

 

 インカムのスイッチを入れて声を掛けると、恵の隣で状況を見ていたデュフォーから返答が帰ってくる。

 必要なことならばと呑み込み、他の指示にも従うことにした。

 

「音量を上げろ」

「ピッポッパ、了解だ。スピーカー、アップ」

 

 脇腹にあったメーターが上げられ、より鮮明に聞こえるようになったその場の音に耳を澄ます。

 

「あっ! が、ガッシュッ!」

『心配するな』

「清麿ォ! あの程度の術くらい術の名称から予測して避けさせろバカ者めぇ!」

『いや、あの不意打ちかつ連打術に対して致命傷を割けているのは清麿が相当に優秀な証拠だが……』

「ぐぬぬ……デュフォーならば避けている!」

『オレと比べてやるな。ほら、会話に集中しろ』

 

 ちょうど、敵魔物のガンジャス・ネシルガによって被弾した後。

 清麿の油断に対して声を荒げ、デュフォーによってどうにか落ち着きを取り戻す。

 まだまだゼオンは理想の兄像には程遠いようだとデュフォーは遠くでため息を落としていた。

 

 その間にもモニター内で会話は続いている。

 

『戦いを無理強い? 笑わせるな! オレ達はヤツのおかげで暴れられるんだぜ! 確かにクソうざってぇルールはあるが……少なくともオレはヤツに感謝してるぜ!!

 千年もの間動きもできず、魔界に帰ることもできなかったうっぷんを……こんな最高の形で晴らすことが出来る! しかもヤツの力のおかげで人間はオレ達の言うことに逆らわねぇ!』

 

 敵の魔物の言葉と、その語る表情にゼオンの顔が僅かに曇る。

 

『そうさ、こいつらは心の力のバッテリーよ! こんなに都合のいいのはねぇぜ!

 さあ、くだらねぇこと言ってないで戦いやがれ! 軟弱な現在の魔王候補どもが!!』

 

 その魔物の顔にあるのは恐怖と悲哀と、絶望。

 怒りと嘲りのそぶりで隠してはいるが……ゼオンは気付けてしまった。

 

 そして続く言葉に、ゼオンはぎゅうと胸を抑えた。

 

『かかって来い!! オレ達は自分の意思で戦ってる!! そうさ!! 千年も……待ってたんだから!!』

 

 待ってたという一言が、泣きそうなくらいに悲痛だった。

 

『王様になったヤツだって、迎えになど来てくれなかったんだ……』

 

 コーラルQの術の無駄に高性能なマイクが拾ったのは、ぼそりと零された千年前の魔物の本音。

 ゾフィスに次いで当事者に近しい立場のゼオンは、彼らの言葉がより深く刺さる。刺さってしまう。

 

 悠久の孤独は魔物の心を歪めている。

 きっとこの魔物も元はいいヤツだったのかもしれない。

 ゼオンはそんなことを思った。

 

 何故なら、その魔物はガッシュに八つ当たりのようなそぶりを見せていても、一度も直接的な憎しみをぶつけようとしていないのだから。

 

『清麿……私も、千年も石に閉じ込められたら……あんなひどいことを平気で言えるようになるのかの?』

 

 ぽつりと零された言葉に、ゼオンはハッとした表情に変わる。

 

『さあな、オレ達には想像できないものだと思う。オレがガキの頃は、半日押し入れに入れられただけでおかしくなりそうだった』

『ウヌ……かわいそうだ、あの者……早く戦いから解放してあげようぞ!!』

 

 清麿とガッシュの会話。ガッシュの目に溜まった涙。震えるような二人の感情を見て、ゼオンの胸が跳ねる。

 ああ、と感情が高鳴った。

 

「部外者の綺麗事だな」

「うるさいぞコーラルQ」

「ノオゥッ!」

 

 無粋な一言にがっつりと力を込めて脛を蹴ったゼオンは、ニッコリと笑ってガッシュを見る。

 

(そうだ……それがお前だったな。ガッシュ)

 

 弟のやさしさが変わっていないことを確認できて頬が緩んでしまう。

 ニッコニコであった。それはもう、今までで一番な程に。

 デュフォーはゼオンの様子が見れなくてもそんな顔をしてるんだろうと小さく息を付く。

 

『よし、ガッシュ。ならあの呪文で行く。お前の好きなようにやれ』

『ウヌ!』

 

 そこで唐突に、デュフォーから声が届いた。

 

『ガッシュはどうやら敵の魔物に術での攻撃をしないつもりのようだぞ』

「……それがあいつのしたいことか?」

『あの魔物の悲痛な心を感じたんだろう。どうする?』

 

 ラウザルクが使われて始まった戦闘。ガッシュの様子や清麿の心を見て、もはやわたわたと慌てることを辞めたゼオンはデュフォーとの会話にも意識を半分割き始める。

 わざわざ提案してきたのなら、デュフォーが出した“答え”を知らなければならない。

 

「どうするもこうするも……あいつが決めたのなら好きにやらせろ。“お前が敵の魔物の不意を突いて人間達から本を奪うことなど容易い”としてもだ」

『いや、そっちじゃない。“バオウ”を使う状況にさせるかどうか、だ』

 

 ガッシュの無茶に対して、と思っていた。しかし違ったらしい。

 言われて、ゼオンはコーラルQを見た。

 ゼオンの紫電に睨まれたコーラルQは、耳の部分を手で塞いで自分は聞いていない、知らないというアピールをし始める。

 後で必ずコーラルQには約束させておこうと決めたゼオンはデュフォーへと返答を始める。

 

「暴走の確率は?」

『ゼロとは出ているが一応、更に上空へと待機場所を移しておくといい。ザケルガの出力具合から見ても、“お前が奪われている魔力”は封印された方へと蓄積されているだけで放出はされていないようだしな』

「……“バオウ”の発動によって共鳴しないか?」

『お前が“ジャウロ”以上を其処で発動させたら反応がありそうではあるが、それでも完全な解放とはならないと出ている。あっても共鳴効果で内部の魔力が出現し、“バオウ”が一度強化される程度だ』

「“バオウ”の目標がオレへと変わるケースは?」

『無い。“オレ達の隠し玉の一つ”とはわけが違う。安心していい』

「なら、現状の“バオウ”を確認しておいてくれ、デュフォー。それも目的の一つだ」

『そうしよう。直接実物を見ることで“答え”の幅もきっと広がる』

 

 ゼオンとデュフォーの一番の懸念であり目的。ガッシュの中に封印されている術の話。

 

 そう……。

 デュフォーが同行した理由の一つは……万全に万全を期した状態で、暴走など絶対に起こさせない状況で、デュフォーの答えを出す者(アンサートーカー)によって“バオウ”の情報を取得すること。

 

 更に高度を上げていくゼオンは、モニターを見つつコーラルQへと声を投げた。

 

「父の最強術くらいは知っているな?」

「ピピピ……バオウ・ザケルガ。ガッシュも同じ名の術を持っているとは思っていたが、まさか……」

「そうだ。継承タイプの術だ。ベル家の秘匿を知ったからには、お前がそれを口外することは出来ないぞ」

「なるほど。お前達の境遇も、現在の状況も……これである程度深く予測を立てることが出来たピヨ」

 

 ピッポッパと繰り返すコーラルQは、ジジーッと二枚の紙を口から吐き出してゼオンに渡す。

 

「その術に関することに関わらない契約書だ。さすがにそんな“危ない事案”に私は関わりたくないピヨ。ファウードとクリア以外の契約の追加は拒否する」

 

 名前の欄へとコーラルQが指印を捺して、ゼオンへと促した。自分はこれ以上厄介事に首を突っ込みたくないと言わんばかりの速さだった。

 文へと素早く目を通したゼオンは不備がないのを確認して、差し出してきたインクを付けて指印を捺し、一枚をコーラルQへと返す。

 

「賢い選択だ」

「高性能なロボットなので」

「……っ」

「ノオォウッ!!」

 

 ドヤ顔をして威張るコーラルQの脛をまた蹴ってモニターへと意識を戻す。

 

 

 其処からのゼオンは、ことある毎に言葉を零していた。

 

「そこだっ……違う! そうじゃない!」

 

 ガッシュが敵へと攻撃をせずに本を狙う戦い方をしているから、

 

「今だ。まずは転かせ! ああっ」

 

 ハラハラとしながらも先ほどのように焦りすぎることなく、

 

「おい清麿ォ! 違うだろうがァ! デュフォーならばもっとギリギリで引き付けて――」

 

 ただしパートナーには辛辣に、

 

「さすがガッシュだ! いいカバーだぞ。伸びしろのあるいい動きだ」

 

 弟にはひたすらに甘く、

 

「盾の術はそうじゃない! もっと効果的なタイミングでガッシュと清麿に合わせろ!」

 

 やはり他の魔物には厳しく、

 

「よーし! いいぞガッシュ! さすがはオレの弟だ! どうだコーラルQ! オレの弟はこんなにも――」

 

 そんな時間が過ぎていった。

 

 コーラルQはその横で、自分を倒した強者の姿をジト目で見つつ、

 

(録画しとこ。魔界に帰ったら目の前でガッシュに見せてこいつに仕返ししてやるピヨ。ピピピピピ)

 

 懲りずにその様子を録画してゼオンへのささやかな復讐を画策していた。

 女装しつつ白熱したエールを弟へと送るその姿は、きっと魔界に帰った時に彼を赤面させるだろうと予測しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テラスの更に二階上。

 待機している部屋にいる魔物は三体。

 

 おもちゃの車を使って遊んでいる“レイラ”。瞑想をしている“ダルモス”。そして……なぜかクルクルと廻りながらVを主張し続けている一人。

 

「今日はいつにもまして変ね。何をしているの? 一緒に遊びましょ?」

「うっとうしいから止まれ」

 

 二体から声を掛けられて、にやりと笑いながら彼は言う。

 

「ファーッハッハッハッ! ブァカめ! お前達にはわたーしの華麗なるVの高鳴りが分からねぇようだなァ!」

 

 尖った足先だからか、回転はキレイにその場だけで行われ、一部の隙も無いほどにVが廻っていた。

 其処に、一人の人間が櫛で主張の激しい髪を整えながら近づいて行く。

 

 

「くくく……許してやれよ二人共。あいつの張り裂ける程のビートが高鳴っちまってんのはいつものコトだろぉ?」

「モヒカン・エーーーーィィィス!」

「おうよ、相棒! アァァァァユゥゥゥゥレディィィィ???」

「レェェェーーーッツ……」

「「ダァァァンスィン!!!」」

 

 ピタリと止まった彼と、決めポーズをした男。

 男は両手の指をVの形にして、彼はいつも通りに美しきポーズで。

 

 そんな二人に、ダルモスは関わってられないと視線を切った。

 逆にレイラは……目を輝かせて二人の傍へと寄っていこうとした。

 

「アル? 私達も一緒に……」

 

 しかし自分のパートナーの腕を引いても動いてくれないことを知って、その場に座り込む。

 せめて手拍子くらいはと、彼女はパートナーの手を自分で持った。

 

「……今日のおやつはなんだ?」

「おいおい知ってんだろ?」

「その名を呼んでほしいのさぁ」

「その名を呼んでみたいのかぁ?」

「知っていてもォ?」

「分かっていてもォ?」

「「声に出したい、愛しいアイツゥ!!」」

 

 ミュージックスタートの声と共に、男が端末を操作して再生ボタンを押した。

 合わせてパチリと指が一つなれば、軽快なミュージックがその場に鳴り響く。

 

 パチパチと拍手を送るレイラは嬉しそうにその催しを見学しはじめる。

 

「「キャッチ・マイ・ハーーーーーート!!!」」

 

「ベリィ!!!」

 

 

 ズンチャカズンチャカと曲が鳴る。

 

 楽しそうに踊りと歌を披露する二人は心の底から楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 ただ。

 

 この遺跡に居る誰よりも、千年前の戦いを長く生き残った魔物である彼は、一人気付いていた。

 もうすぐこの遺跡に嵐が来ると。千年前の戦いで研ぎ澄まされた感覚が、この遺跡で起こっている全てを把握させてるのだから。

 

 今はせめてと、彼は新しいパートナーとの時間を過ごしている。

 

 この遺跡で、ゾフィスに次ぐ感知能力を持つ魔物。

 単身で後半のゴーレンとあと一歩の所まで戦い抜いた唯一の魔物。

 ふざけた見た目でアホだが……この遺跡でも最高レベルに強い魔物。

 

 その名は――ビクトリームという。

 

 




読んで頂きありがとうございます。

開幕はV様じゃないですごめんなさい。
ガッシュくんの戦いを観戦するゼオンくんは必要だったのです。
久しぶりのお兄ちゃん成分なため。

なんかもう私自身も我慢がアレでダメだったので最後にV様が待ちきれずに出ました。
この物語のモヒカンエースはこんな感じです。


これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

  • リーヤ
  • リオウ
  • ザルチム
  • ファンゴ
  • カルディオ
  • チェリッシュ
  • ギャロン
  • ジェデュン
  • ロデュウ
  • ブザライ
  • キース
  • テッド
  • モモン
  • アース
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