もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第四十二話:華麗なるその名

 

『エグドリス・ネシルガ!!』

 

 ガッシュの行動や戦いに業を煮やした敵から大きな術が放たれる。

 画面上に見える術の威力はギガノを超える。

 

(ガッシュのラウザルクでは受けきれん術だ……さあ、見せてみろ……あいつの術を)

 

 当然、大きくなった本の輝きを見れば清麿がどの術を放とうとしているかは理解出来た。

 翡翠のコンタクトの上からでも分かるくらいに渦巻く憎悪の彩りが、コーラルQをガタガタと震わせる。

 一つの情報さえ見逃さないというゼオンの鬼気迫る様子から、彼は何も口を出すことなく。

 

『バオウ・ザケルガァ!!!』

 

 遂に打ち出されたその術。

 ゼオンとデュフォーが警戒に警戒を重ねて準備してきた不安要素。

 最愛の弟と自分を引き離す最低な存在。

 世界をも滅ぼすとされる最悪の術。

 

 それはあまりにも……あまりにも……

 

「……これが?」

 

 ガギリ、と歯が噛み鳴らされる。

 

「この……術が?」

 

 バチバチと、術を放つ待機状態として白銀の雷を身体全体に帯び始めた。

 

「こんな……こんな術が……オレ達を……?」

 

 その術は……ゼオンとデュフォーの予測を超えて、遥かに拙いモノだった。

 

 今、ゼオンの怒りは計り知れないほどに大きい。

 デュフォーはマイク越しに伝わるその声を聴き、冷静な頭を保ちつつ語り掛けた。

 

「……封印状態でギガノを超える程度。ガッシュへの浸食は無し。清麿には……心の力と体力の莫大な吸収か。なるほどな」

 

 ギシギシと鳴らされる歯噛みを宥めるように言葉を並べていく。

 敵の術と相殺した所で清麿が倒れ込みかけ、それをすぐに支えたデュフォーが声を掛けた。

 

「その術を使うといつもそうなるのか?」

『……ああ、何故だが他の術とこいつは使い勝手が違うみたいで……』

 

 イヤホンから聞こえるデュフォーの声と画面から聞こえる清麿の声。

 ゼオンは心を落ち着かせるように息を整えていく。

 

『ギガノ・ディオデルク!!!』

『なっ!? もう一体の方の最大呪文!?』

『ハハハッ! これでオレ達の勝ちだ!』

 

 直後、もう一体の魔物がギガノの術を放ち、清麿が焦りから声を上げた。

 

「大丈夫だ。既にこの戦いは……終わっている」

『私の盾を、そうそう甘くみないでよ!!』

 

 デュフォーの言葉と同時、清麿達の前で手を翳したティオ。

 

『マ・セシルド!!!』

 

 突進系の術であったため、盾にぶつかった魔物は大きなダメージを負った。

 

『そう……最大級の術でも防げるように心の力を溜めておいたのよ。そしてあなた達は大技の連続で私の動きを見落とした』

 

 そうして驚愕に支配されている魔物の後ろで、ティオのパートナーの恵が人間達の本を奪って立っている。

 

『これで、決まった』

『ウヌ!』

 

 清麿とガッシュの力強い言葉の通りに、彼らの勝ちが確定した。

 

 

 目を細めて、ゼオンはじっと清麿の持つ赤い本を見つめている。

 その視線に含まれる憎悪は、今でもまだ煮詰められ続ける深く昏い色。

 唐突に、画面の中のデュフォーから合図が一つ。

 一つに視線を向けていても全体を見る訓練はしていたから、ゼオンはその指示通りに手を空へと向ける。

 

 此処はゾフィスの感知の聴かない遥か上空。なればこそ……試せるのなら試すべきだと。

 

「……バオウ・“ザケルガ”……といったか。あれがお前達の現時点での最高術。なるほど」

 

 ぼそりと零された言葉は、心の出力を最小限に抑えたモノ。ガッシュと同じ術を持つからこそ違和感なく唱えられた術の名。

 本が光りもしない程に小さな力の放出により。ゼオンの魔力を吸い取って育っていくザケルが空へと打ちあがる。

 

 同時、パシリ……とガッシュの髪に隠れた角に一瞬だけ白銀が光ったのを、デュフォーが見逃すことはなかった。

 幸いなことにガッシュに変化はなく、清麿にも害はない。

 すっと霧散したように白銀の雷が消え、それが何処へ行ったかをデュフォーは“答え”として出す。

 

「……立てるか?」

『わ、わるい……』

 

 肩を貸して清麿を立たせる途中……デュフォー自身も身体の違和感に気付く。

 

(これは……)

 

 彼は赤い本に触れないように細心の注意を払いつつ、普段よりも少しだけ“重い”自分の身体で清麿を支えた。

 

『あれ……? いつもより……力が入る……?』

「……疲労軽減のツボを圧している。あまり無茶はするなよ」

『そんなこともできるのか。ありがとう』

 

 これほどすぐに効果が出るモノではないがな、と心の中で呟きながら。

 

(“バオウ”は……やはりオレ達の力も求めているらしい)

 

 デュフォーの様子と違和感に、ずっと共に過ごしてきたゼオンだけは気付く。

 カメラ越しに視線が合わされば、何がいいたいのかも理解出来た。

 天を仰いだゼオンは……あまりにも大きな感情を漸く落ち着けて、自分が絶対に対処しなければならない敵を再認識する。

 

「あの術はあの程度……ではない。アレは……虎視眈々と今も尚、半分に分かたれたヤツの雷の力を取り戻そうとこちらを狙っている。そういうことか」

 

 それはあまりにも強大で、やはり自分達は間違っていなかった、そう確信した。

 

「アーアー、拒否。ノーセンキュー、ワタシハ・キイテナーイ」

「……ふん。どのみちお前如きの手に負える術ではない」

「プププ、あの程度のガッシュの実力にこの超絶有能ロボの私が負けることなどないが???」

「っ!」

「ノォォォウッ!」

 

 今までで一番強い蹴りを喰らって涙目なコーラルQを無視して、ゼオンはまた画面へと集中する。

 本に火をつけられた千年前の魔物達と会話をしている彼らを見た。

 

 内容はいくつか。

 戦いを楽しんでいる魔物がいること。互いに術をもって本を燃やし合うことは出来ないこと。心を支配されている人間たちが本を燃やされることを防ぐようインプットされていること。

 そしてゾフィスの掛けた千年前の魔物達への縛り。千年前の魔物達が石に戻されることを恐れているということ。

 

『まだ完全に石の封印が解けたわけじゃないのか!?』

『分からねぇ。だが、石に戻りかけたヤツを見たことがある。それが頭から離れねぇのさ』

『ならっ、此処を本拠地とする理由は!? この城にお前達が毎回帰ってくるのは何故なんだ!?』

『……まだ、石の封印から逃げられてねぇんだ。そうだなぁ……あの月の光があるからオレ達は帰ってくる。この遺跡にあるあの石が放つ光を浴びたら力が湧く……あの光があれば、オレ達は石に戻らないでいられるんじゃないかって思ってる』

『月の光? 石……力が湧く?』

 

 まだ消えるまでに猶予がある。他の質問もと考えた清麿が声を掛けようとして、デュフォーが清麿を優しく膝を付かせて支えを外した。そのままデュフォーは魔物達へと近づいて行く。

 魔物のパートナーも居ないただの人間を不思議そうに見る魔物は……すぐに驚愕に支配されることとなった。

 

 デュフォーは、すっと、二体の魔物の耳にイヤホンを差し込んだ。

 

 話すのは当然、彼である。

 

「―――、そして―――――。魔界に帰った時は、城へ行って軍の中将のラジンというモノを頼るといい」

 

 愕然と、二体の魔物の息が詰まった。

 千年前の魔物達以外に呼ばれることのない名前を呼ばれたのだから当然。

 

「現在の魔界の王がどういった対応をするか知らないが、ラジン中将ならばお前達を悪いようにはしないだろう」

『お、お前は……誰だっ!』

 

 焦り気味に声を上げた魔物へと、彼は静かに声を紡ぐ。

 

「……パムーンと繋がっているモノだ」

『パムーンと……? じゃあ、お前が……?』

「ああ。魔界の王からの遣いであり、千年前の魔物へのメッセンジャー」

『なんでてめぇはゾフィスを放置してる?』

「敵がゾフィスだけなわけないだろう。オレには他にもやるべきことがあるからだ。ゴーレンのような凶悪な魔物は……現代にも居るんだ」

『はっ……そうかよ』

 

 弾劾の言葉を突きつけられても、ゼオンは己の選択をもう後悔しない。例えどれほどに痛む胸があっても。

 苛立ちを吐き捨てる声を宥めるようにゼオンは話題を戻す。

 

「オレが直接関われずとも、選択がどうであれ、優しいパムーンはお前達を救おうとしていたはずだが」

『そう、なのか……』

「ゾフィスの狡猾が邪魔をしたようだな。一番最初に復活したパムーンは、同じ苦しみを味わったお前達の心も救いたいと吐露していたぞ」

『ああ、だからパムーンのヤツはオレらに待ってろって……ならわりぃことをしたかもな』

「魔界に帰ったら少しくらい話してやれ。パムーンはアレで抱え込むタイプのようだから……と、時間がないか」

 

 すっとさらに薄くなった魔物を見て、ゼオンが最後の話を伝える。

 

「王は、お前達を救う為に千年かけた。それだけは覚えておくといい」

『……助けにきて、くれなかったくせに』

 

 絞り出すように言われたその声には、やはり少しの憎悪が宿っていて。

 ゾフィスが何かしらの思考誘導をしたか、はたまた千年前の魔物達の共通認識としてそういった感情を抱いているのかは分からず。

 ただ、似た感情を持つ者として、ゼオンはふっと吐息を漏らして続ける。

 

「ああ、そうだ。あいつが何故助けにいかなかったのかは知らんが、救いにいかなかったのは事実だろう。怒りを呑み込めとは言わん。ただ、あいつがお前達を救いたいと願ったから“今”がある。その上で、事情なんか知るかと思うのなら」

 

 にやりと、ゼオンは口を歪める。

 

「オレが王となり帰る前に、お前達千年前の魔物みんなで先にあいつをボコボコにしておいてくれ」

 

 正しく、二体の魔物の思考は空白となった。

 まさかそんなことを言われるとは思わなかったから。

 

『……くっ』

 

 喉が鳴る。

 

『あはははははっ! そりゃいい!!』

 

 楽し気に笑う人型の魔物と、ぐつぐつと喉を鳴らして震える竜のような魔物。

 突然笑い出した二体に、清麿達はぽかんと口を開けるしかない。

 

「オレの分は残しておけよ。悪感情を抱いてるのがお前達だけとは思ってくれるな」

『くっ、くくく……ああ、分かったよ。ふふ……おもしれぇヤツだな』

「オレからは以上だ」

『おまえ、名前は?』

「……今は名乗れん。魔界に帰ったら必ずお前達全員に会いに行く。その時にちゃんと顔を見て名乗らせてくれ」

『ふっ、リョーカイ。パムーンに……よろしく言っておいてくれよ』

「いいだろう。またな(・・・)

 

 語りを終えて、再会の言葉を二体へ。

 満足した笑みを浮かべる魔物達の耳からデュフォーがイヤホンを取り外し、あと少しで身体が消えるという所になった。

 

『あばよ、ちっこいの。お前のパンチ、結構効いたぜ』

『ウ、ウヌ』

『負けんじゃねぇぞ』

『負けぬ! 約束する!』

 

 そうして消えようかという時に、二体の魔物は示し合わせるように頷き合う。

 竜の魔物は尻尾を動かし、ヒト型の魔物はふらりと立ち上がって歩き始めた。

 

 竜の尻尾が向かったのは野球のユニフォームに身を包んだ今のパートナーの人間。

 人型の魔物が向かったのは、倒れて動かない人間だった。

 

 男の背をするりと撫でた尻尾が静かに消え行く。

 ポンと頭へと手を置いた魔物は……小さく声を掛けた。

 

『悪かったな、人間。少しの間だけど、オレと戦ってくれてありがとよ』

 

 消え入ると同時に、震える声がその場に落ちた。

 

『ああ……名前、聞いときゃよかったなぁ』

 

 

 その寂し気な声が、清麿やガッシュ、他の皆の胸を打つ。

 

『デュフォー、いろいろと聞きたいことがあるが……』

「今日を無事に乗り越えたら話そう。今は……フォルゴレ達も無事に帰って来たようだ」

『……分かった』

 

 疑問も疑念も、今は呑み込む。まだ清麿はデュフォーのことを信じ切ることはしない。それでいいと、デュフォーも頷く。

 画面上でデュフォーが清麿に不信を向けられている中、ゼオンは空の上で瞑目して首を振った。

 

 そのまま、画面の中の倒れていた人間達が目を覚ます。

 

 暗闇の中で苦しんでいたという人間達の話。

 助けてくれてありがとうと、その言葉が皆に伝わる。

 救えたという事柄に、恵やキャンチョメは涙を流して喜ぶ。

 

 きっと、あの魔物の最後の言葉を人間達は覚えていない。

 

「……」

「全部が上手くいくことなんて無い。ただ……人間界での悔いは残したくないな、とは思ったピヨ」

「……」

 

 珍しくふつうの言葉を出したコーラルQの言葉に、思うところがあったらしいゼオンは小さく吐息を落とす。

 

 小さく、イヤホンに声が響く。

 

「魔界を救え。それがオレ達に出来ることだ。お前は間違っていないさ」

 

 誰よりも頼りになるパートナーの声が聞こえる。

 胸にするりと落ちた彼の言葉に、ゼオンの瞳は輝きを失わない。

 

 ガッシュと清麿、他の魔物達の成長が見て取れる。これが正解なのだと信じて走るしかない。

 

 真実を知り、“本当は自分達だけでゾフィスによる被害者の全てを救えた”としても……。

 

 先ほどに見た雷の龍の悪食を知った上で対処できるのは、この世界でゼオンとデュフォーだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定通り開けたテラスにて休息を取り始めた清麿達。

 地下水を引き込んだ水道のおかげで落ち着いて休めているらしいが、ガッシュ達魔物組は騒いでいる。

 

「わぁーーー! 首絞めティオだァ!!!」

「ヌグゥ、ふ、フハァァァっ」

『ガッシュ!! ガーーーッシュ! おいデュフォー! やめさせろォ! なんて握力なんだあの女! オレのガッシュを放せェ!』

 

 ゼオンがイヤホンで何やら騒いでいたが、大きな怪我になるわけでもなし、子供同士の戯れに直接の保護者でもない自分が介入するのは無粋だとチェリッシュ達との数日間で学んでいるためデュフォーは関与しないことにした。

 

「あんた達少しは身体を休めなさい!!」

 

 案の定、恵が的確な突っ込みをして止まり、清麿は何故かブリッジをしているフォルゴレと話していた。

 

 デュフォーはテラスの外を見ながら……大きな力が階段を下りてくることを知る。

 

「そういえば……アポロはまだかしら?」

「別行動で他のルートからの魔物が来るのを防いでもらってたけど、もしかしたら戦闘になってるのかも」

 

 今回の作戦に於いて、エントランス付近の魔物二体とキャンチョメ達が対処した一体と戦うこととは別に、他の魔物の参入を防ぐためにロップスとアポロには遺跡の通路を限定するように動いて貰っていたのだ。

 

 清麿も恵もアポロ達の実力を知っているから、ある程度の安心感をもって話しているが、それでも合流が遅いことで心配が膨らむのは仕方のないこと。

 

「大丈夫だ。アポロとロップスは無事だ。あちらの戦闘はつつがなく終わっている。他通路に対してブービートラップの設置などを終えてから来るため少し遅れているようだ」

 

 静かに伝えるデュフォーに視線が集まった。

 

「なるほど、確かにロップスの能力ならそういうこともできるのか」

「どういうことだい清麿?」

「ロップスの能力はロープを作り出して操る術。壁を脆くして置いたり、ロープが残るようになってるならいろいろな罠を作っておくことは出来るはずだ。キャンチョメの術みたいに多様性がある」

「へぇ、ロップスもボクくらいすごいんだね!」

 

 ロップスの能力を知らないキャンチョメから疑問が飛び、答えた清麿はデュフォーを真剣な眼差しで見つめた。

 

「デュフォー、その情報は……そのイヤホンからか?」

 

 ずっと耳に着けているイヤホンを指さして。先ほどの戦闘の終わりを見ていれば突きつけられる当然の答え。

 

「そうだ。オレのパートナーと協力者の魔物により、通信先でオレのパートナーがオレ達の現状を第三者視点で映像として把握し、情報共有をしている」

「……どうして言ってくれなかったんだ?」

 

 それを先に言ってくれれば作戦も違うモノが立てられるだろう、清麿はそう考える。

 不信感という種を出来る限り取り払いたいと考えての言葉に、デュフォーは小さくため息を吐いて答えた。

 

 “ヤツ”が来てしまったから。

 

「それも今日を乗り切ってからだ。どうやらアポロの到着よりも先に――」

 

「「ビクトリィィィィィ――ム!!!!!」」

 

 誰もがデュフォーに集中していたから、皆はテラスの出口でのその声を耳に出来た。

 テンションが振り切っているような二つの声。絶対に無視されることのない自信をもって為された名乗りがテラスに響く。

 

 世紀末に出てきそうな服装のモヒカン頭の人間と、ヘンテコなVの形をした魔物がポーズを決めて立っていた。

 

「ヤツと戦うことになりそうだから」

 

 振り向いた全員の背中に刺さったデュフォーの言葉。

 アポロはまだ来ない。

 

 全員の視線を受けてニッコリと嬉しそうに笑ったVの魔物は、カッカッと尖った足先を鳴らして歩いてくる。

 

「フハハハハハ! よぉく来たなぁ、軟弱な現代の魔物たちよ。まずは下の階の魔物達を打倒したことを褒めてやろう」

 

 ぱちぱちと拍手をした彼とモヒカンの男。

 そうして立ち止まり、ババッと彼らはまたポーズと取る。

 パチリ! と指を鳴らせば、何故か音楽が鳴り始めた。

 ズンチャカズンチャ、ズンチャカズンチャとリズムが響く。

 

「おやつの時間まであと少しぃ」

「愛しいあいつはまだ遠いぃ」

「レイラといつものティータイムぅ」

「無言はいけねぇアルベールぅ」

「友の笑顔が欲しいからぁ」

「戦うことだってしちゃうのさぁ」

「見せつけちまうぜオレ達のぉ」

「歌って踊って華麗なショータイム!」

 

 くるりくるりと楽し気に。彼らのショーは続く。

 手拍子をするガッシュとキャンチョメ、清麿と恵とフォルゴレは戸惑いから動けない。

 

「清麿」

 

 ぼそりと、デュフォーが清麿へと指示を出す。

 踊りが最高潮に達した時点で、相手の魔物も人間もテンションが振り切っていた。

 

「さあぶち上げていこうぜお前達ぃ! 千年ぶりの戦いだぁ!」

「おいおい待てよ相棒! 戦う前にやることあるだろ!」

「言っていいのかぁ?」

「言ってやりゃいいのさぁ」

 

 ズダッと動きを止めた魔物がVのポーズで固まった。

 何故か止まった音楽に、注目は全てその魔物が持っていく。

 何が始まるのかと皆が意識を集中させて、

 

「よぉくきけぇい! 我が相棒、モヒカンエースとぉ! 私こそがぁ! 華麗なる! ビク――」

「ザケル!!!!!」

 

 名乗りの途中で、雷が飛んだ。 

 

「ブルァアアアアア!」

 

 隙だらけの魔物に放たれた攻撃。ガッシュはまさにビクトリームに注視していたから攻撃を指示する必要もなく。

 デュフォーの指示により行われたその攻撃に、全員が唖然とした。

 打った清麿でさえ、自分が本当に撃ってよかったのかと戸惑いさえしていた。

 

 倒れて動かない魔物に対して、デュフォーが声を出す。

 

「清麿、もう一度だ」

「え、あ……ほ、ホントに?」

「もう一度だ」

「あ、ああ……ザケル!!!!」

「ブルァァアアアア!!!!」

 

 非情にも打たれたザケルが魔物を襲う。

 あまりにも卑劣で悪辣な行いに、清麿は少し相手に同情してしまう。

 

「あ、相棒ぉぉぉおおおおおお!」

「グハァ……モヒカンエースよ……私はもうダメだ……せめて魔界に種を……」

「しっかりしろぉ! 愛しいあいつがお前を待ってんだ! もうすぐおやつの時間だろぉ!」

「はっ!!!」

 

 茶番のようなやり取りをしていたが、瞬時に飛び起きた魔物がまたポーズを取り直す。

 

「貴様らぁ! 名乗りの最中に攻撃を加えるとは何事だぁ!」

「そうだぜ! ヒーローやボスが必殺技を溜めてる時、変身中や名乗ってる間は攻撃しちゃダメだってガキの頃に学ばなかったのか!!」

「スマン……隙だらけだったから……」

 

 ぷんすかと怒る二人に、どこか悪いことをした気分になっている清麿達。

 やれやれと首を振るデュフォーは、もう一度だと言いたかったがやめた。

 

「まったく……熱が冷めちまった」

「いいじゃねぇか。それでお前の輝きが陰るわけじゃねぇぜ」

「ふっふっふ、お前がそう言うのなら!」

「ああ! 思い知らせてやれ!」

 

 再びのVのポーズを決めた魔物が、大きく息を吸い込んだ。

 

「軟弱で卑劣な現代の魔物たちよぉ! よぉく聞けぇい! 我が頼れる相棒モヒカンエースとぉ! 私こそが! 華麗なる――」

 

 今度は、ドカァン、と。

 名乗りの最中に外で大きな音が鳴った。それによって魔物の名乗りは全く聞こえなかった。

 

「え、なんて?」

 

 プルプルと震える魔物は、また邪魔されたことでがっくりと膝を付いた。

 今回は外的要因による邪魔だったので責めることもできず、モヒカンエースはどうしたらいいかとおろおろしてしまっていた。

 なんだか可哀想になってしまった清麿が、おそるおそると声を掛ける。

 

「ごめんな、もう一度名乗ってくれるか?」

 

 魔物はその声を受けても顔を上げられなかった。

 見かねたガッシュ達も声を掛ける。

 

「いやー、華麗な魔物さんの名乗りが聴きたいなぁ!」

「またカッコイイポーズも決めてほしいよ!」

 

 とフォルゴレとキャンチョメが。

 

「そう! て、敵とはいえ名前は知っておきたいわね!」

「ええ! ま、魔界で出会うかもしれないし!」

 

 と恵とティオが。

 

「きっとカッコイイ名前なんだろうなぁ! あー、気になるなぁ!」

「ウヌゥ! 元気を出すのだ! お主の名乗りを皆も待ち望んでおるぞ!」

 

 ガッシュと清麿が締めくくる。

 

「お……お前ら……」

「此処まで言われちゃ黙ってられない、よな?」

 

 ポンと肩に手を置いて言うモヒカンエースに、魔物はニッコリと笑って立ち上がる。

 

 そうして取ったVのポーズは、美しく輝いて見えた。

 ついにその魔物の名が明らかにされる、

 

「そんなに聴きたいのなら教えてやろう! 私こそがぁ! 華麗なる――」

 

「アレの名はビクトリームだ」

 

 途中で、ビシリ、と空気が凍った。

 誰もが、誰しもがどうしてそんなことをという顔でデュフォーを見る。

 

 Vの体勢のまま固まってしまった魔物は、ホロリと一筋の涙を流した。

 

「お、おいデュフォー……なんで」

「そうだよ、ひどいじゃないか!」

「ま、まあ確かに名乗りを聞く必要なんてないけど」

「デュフォーよ! さすがにダメだと思う!」

 

 口々に声を出す皆。

 一ミリも空気を読まずに声を上げたデュフォーは、真剣な眼差しを緩めることはない。

 

 この場の空気は、彼が意図して作ったモノ。

 到着が遅れるからと敵の魔物が使ってくれる時間に付き合っていただけで、“準備が整った”からこそ敵の名乗りを無視した。

 全ては……“この魔物を倒す為に”。

 

「やれ……ロップス」

「かぁう!!!」

 

 テラスに出ていたデュフォーだけがソレを見ていたのだ。

 先ほどの爆発音が何かの“答え”を、全員が思い知る。

 

 デュフォーの背後から飛び出したロップスから伸びるロープが、八つもの岩の塊を付けて宙を舞う。

 敵が呆気に取られている今こそが、一番の攻撃の機会。ロップスもアポロも間違わない。

 

 一つ、二つ、三つと敵の魔物が居た場所へと突き刺さっていく。

 

 土埃が舞うその場から、ガッシュ達は一所へとまとまって避難していた。

 

 デュフォーの隣に並んだアポロは、ロップスを肩に乗せて警戒を解くことはない。

 アポロを上を行く力を持つデュフォーが不意打ちすら厭わないと指示したのなら、敵は“この程度”で終わるはずがないのだから。

 

 ガラリと瓦礫を除けてその魔物が立ち上がる。

 

「卑劣な上に卑怯者だとはなぁ……? 無事か、モヒカンエース」

「当然よ。なんたってあんたの相棒だからな」

「ふっふっふ、さすがはシキブの子孫だけある。いいガッツだ」

 

 少しダメージを受けながらも問題なさそうな敵の様子に、デュフォーがその場に響く声を投げた。

 

「心して掛かれ。あいつの名はビクトリーム」

「そうだとも……私の名はビクトリーム」

 

 今度こそはと、彼はVを作る。

 

「華麗なるビクトリーム様だ! 言ってみろぉ!」

「か、華麗なる、ビクトリーム様?」

 

 ビシリと指を突きつけたビクトリームは、怒気を溢れさせて叫んだ。

 

「てめぇらを冥途に送る名前だァ!! よぉく覚えておくんだなァ!」

 

 Vの顔が光る。

 込められた心の力は莫大。あまりに大きなその輝きは、低級の術だとしてもかなりの威力を持つだろう。

 

「ローップス!」

「かう!」

 

 声と同時、術が放たれる。

 

「マグルガァ!」

「リグロン!」

 

 速度の速い光線が清麿達へと向かい、ロップスのロープが皆をそれぞれ引き寄せる。

 清麿達の居た場所の奥、壁に刻まれるのはVの爪痕。

 

「おお……美しき我が攻撃の爪痕。華麗なるビクトリーム様の勝利を暗示するVの爪痕よぉ」

「イカしてるぜぇ、相棒……だが!」

「おうともよ」

 

 バッと飛び出してきたロープを蹴りで弾いて、決して油断はせずにまた構えを取った。

 

「ベリーーーッシット!!! まぁた不意打ちとは情けない! まあいい!」

 

 ぎらりと輝いた目が、最も大きな魔力を持つロップスを睨んだ。

 

「敵は元より四組。本気を出さねば勝てぬ相手よ。例え奴らが……」

 

 ニィィと口を歪めて笑う。

 

「先ほどの戦いで心の力を消耗し、満足に術を使えないとしても……ね。油断も慢心もない私達に、君たちははたして勝てるかな?」

 

 瞬間、本から溢れだす魔力。モヒカンエースの持つ本の放つ大きな光は、今まで彼らが見て来た誰よりも大きなモノだった。

 

 その時に、ぽつりと零された言葉が場に響く。

 

「ビクトリーム。千年前の魔物の中でブラゴと同等かそれ以上の力を持つ魔物だ。つまりお前達は……」

 

 すっと構えをとったアポロとロップスに続くように、全員が戦闘へと意識を引っ張っていく。

 

「こいつを倒せなければ、この遺跡の戦いで勝利し人間達を開放するなど……あり得ない」

 

 

 重くのしかかる現実。

 デュフォーの言葉は全員の意識を尖らせていく。

 

 

 

 

 遥か上空。モニターを見るゼオンは己の感知をもってビクトリームの魔力を感じた。

 

 パムーンと並ぶその魔力に、ガッシュ達の生き延びる術は少ない。

 

「さあ、あれからどれだけの成長を遂げたのか、お手並み拝見と行こうか、ロップス」

 

 ゼオンは疑わない。

 先ほどまでの戦いではなく、此れはデュフォーが導いたシナリオだから。

 

「清麿、よく見ておけよ。オレのパートナーが作る戦場がどんなものかを知るといい。それをよく学び、ガッシュを助ける力と成せ」

 

 ずっと厳しく言葉を出していたのは期待の裏返し。大切な弟を預けるパートナーだから、デュフォーと同じほどの頂にたってくれと願いを込めて言葉を紡いだ。

 

 

 デュフォーが戦闘で意識をこちらに割きすぎないように、ゼオンは戦闘が始まる直前の今、言葉を送った。

 

「……任せるぞ、デュフォー」

「ああ、こいつは……必要だからな」

 

 

 ふんと小さく息を吐いた彼は、腕を組んでモニターに意識を尖らせ。

 

 間もなく、華麗なるVとの戦闘の火蓋が切って落とされた。

 




読んで頂きありがとうございます。

王様にダイレクトアタックしようぜ、っていう約束。
千年前の魔物と人間の関係をこの物語では少し掘り下げたいと思ってます。

そしてV様の登場は原作とは違い気付いて貰うカタチで。
清麿くん達はモヒカンエースが喋ってることについて、登場から自己紹介の流れとかV様のインパクトとかに動揺していて気付いてません。

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

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