もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第四十四話:絡み合うコンビネーション

 

 これ以上ないタイミングで合された術は、デュフォーの狙い通りに敵の頭部を弾き飛ばした。

 

「ブルァアアアアアアアア!!!」

「相棒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 一寸の隙をついの差し込みに誤差はほぼない。

 デュフォーは清麿の反応速度すら計算に入れて合図を送っていたのだ。

 

「ロップス。分かるな?」

「かうっ」

 

 ザケルガの土煙に紛れて移動しているデュフォーとロップス。小さく声を掛けられて頷いた小さな戦士は、彼の思惑をしっかりと読み取っていた。

 展開され続けているリグロンはアポロの心の力によるもの。

 術を常に使い続けることは大きな精神力と心の力を必要とする。

 

――そろそろアポロにも息継ぎが必要だが……いや、まだ行けるか。

 

 他人の鍛錬の具合も、その力の限界も、彼の能力に掛かれば看破は容易い。

 アポロがどれくらい術を扱えてどれだけ術を打てるかすら答えとして出せるのだから。

 

「拘束。展開。3・5・8」

「かうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 伸びていくリグロンの長さは清麿が以前に見たことのあるモノの比ではない。

 吹き飛ばされた頭部をキャッチしようと張り巡らされたロープの先には、雁字搦めにされた体がVの体勢を取らされていた。

 

「くぅう、このままではぁっ! モヒカン・エース!」

「任せろ相棒っ! マグーー」

「それは悪手だ」

 

 術を唱えて頭部を移動させようとした敵だったが、それもデュフォーの指示一つで封じられる。

 術が出る先には必ずビクトリームの身体が動き、絶対にマグルガが当たるように仕向けられたのだ。

 

 ギシリ、と歯を噛んだビクトリームは大きな声で叫ぶ。

 

「ハァーッハッハ! この程度でぇ!! やられる我らではない!」

「ああ! ならよぉ……いくぜ、相棒!」

「!」

 

 大きく光った本が、敵の術の大きさを知らせる。

 ピクリと反応したデュフォーが、即座にロップスへと指で指示を出した。

 

「荘・厳・廻・転!」

 

 ギュルルルルと激しく回転し始めた頭部がロープに向かう。

 高速で回転する物体に紐状のモノが触れればどうなるか。固定されている状態でないのならば、紐状のモノはその物体に絡みつく、絡んでしまう。

 ロップスの体重は軽い。少なくともビクトリームの頭部よりも軽いだろう。より重い物体に回転の力が加わっているのならば、術と繋がっているロップスが引き寄せられるのは必至。

 

 術の特性上、リグロンは片方だけ切ることは出来ない。だが……

 

 ロープが絡めとられるその直前、バツン、と音がしてリグロンが途中で切れた。

 

 操っているのが幼い子供の魔物と侮るなかれ、敗北を経験したロップスはアポロという天才と訓練を積んできた。

 術というモノの本質をゼオンやデュフォーからも聞いていて、彼らと戦ったことも経験となっている。

 ならば……術一つを磨き上げ、リグロンを掴まれた場合の対処も鍛えているのが当然のこと。

 

 しかして……相手は歴戦の魔物。千年前の魔物でも最上位に位置するであろう敵であった。

 

「バァカめ!」

「ガル・マグルガ!」

 

 ロープにて巻き込めれば最良、次点で狙っていたのはロープが消えることを呼んでの追撃。

 石畳に弾かれたビクトリームの頭部は、マグルガのエネルギーを纏って回転しつつ飛来する。

 途中で千切れたロープでは長さが足りない。かといってもう一方を緩めてはせっかく捕まえた身体を逃がすことになる。相手の速度が上がったため、身体をぶつけてダメージを与えるには少し遠すぎる。

 だがしかし、それすらも計算の内だと銀髪の青年は涼しい顔で指示を続けていた。

 

「引け」

 

 くい、と引かれた手。

 ビクトリームの身体を繋いでいるロープだけではない。

 敵の身体を引き寄せると同時、千切れた短いロープが引いたのは……

 

「かうぅぅぅ!」

 

 ロップス自身とデュフォーだった。

 短くとも回避に使えばいい。柔軟性を高めて弾けるように跳んだ二人は、空中から位置関係を把握にかかる。

 デュフォーは自身の能力で全て理解できるがロップスは違う。より精度の高い動きを成すには術を打つ魔物自身の状況把握はあった方がいい。

 清麿達の位置、アポロとの距離、敵の動きの予測。全てを把握して二人は示し合わせる。

 

「……予定通りだ。この後のことも理解したな? なら、天井で反転。解放でいい。到着地点は――」

 

 頷いたロップスは短いリグロンで天井を叩き、すぐにデュフォーがアポロに指示を出して術を消させた。

 

「こしゃくな奴らめぇ! このビクトリーム様を……華麗なるVのパワァを……舐めるでないわァ!!!!」

 

 頭部と身体が激突するその瞬間。叫んだビクトリームは驚くべきことに、己の頭部の向かう先を身体のVの線を使って変えた。

 術の効果を少し受けていたが、彼の頑丈な身体に与えられたダメージは少ない。

 

「なにぃっ!? くっ、ガッシュ!」

「ウヌゥ!」

「恵っ!」

「はいっ!」

 

 ガル・マグルガの向かう先は、清麿とアポロの場所。

 驚愕の声をあげた清麿は急いで手を構え、ティオ達も防御できるように整えた。

 

 ガッシュにはラシルドが、ティオにはマ・セシルドがある。受け止めることは出来るのだ。

 ただ、その前に出された手と、着地したロップスとデュフォーがそれを止める。

 

「ロップス。“ガンジャス・リグノオン”」

 

 アポロの声は静かに響く。

 大地に向けられたロップスの掌からズルズルと延びる鉄の鎖たち。

 

「ダンスが得意なんだろう? じゃあ、もう少し踊りを見せてよ」

 

 ビクトリームの攻撃が衝突まであと少しという所で、大地から出てきた鎖によって弾かれた。

 

「ブルッァァア!」

「うおぁっ!?」

 

 先端に錨を付けた太く力強い鎖達がビクトリームの頭部を弾く。何本かはモヒカン・エースとビクトリームの身体を狙って動いていた。

 ビクトリームは弾かれながらもモヒカン・エースに攻撃を当てないように身体を遠隔でしっかりと操作してステップで避け始めた。

 

「次はぼくの番だね」

「ああ、行け。くれぐれも打たせる場所は気を付けろ(・・・・・・・・・・・・)

 

 言われてニコリとデュフォーに笑いかけたアポロは、デュフォーが伸ばした拳にコツンと拳を合わせてから戦闘へと踊りだした。

 

 既に作戦の終着点は情報として行き渡っている。

 ソレに辿り着くには彼ら自身が対処していくしかない。

 

 呆然と、清麿は駆けていくアポロとデュフォーを交互に見た。

 

――すげぇ。

 

 心の中での呟きは、二人の青年への賞賛と憧憬。

 互いに息の合ったコンビネーションで勝利への歩みを進めていく様子は、自分が思い描いている戦闘の在り方を示している。

 

 恵達とコンビネーションでの戦闘もしてきたから分かる。自分が行って来たモノの理想を客観的に観ることが出来て、清麿は改めてその大切さを心に刻む。

 

 それに……少しだけ、彼は心が軽くなった。

 清麿という少年は、皆から頼られるリーダーシップを発揮すると言ってもまだ中学生。

 重荷を背負うには若すぎる。

 

 フォルゴレは確かに頼れる年上の同性ではあるが、デュフォーのように計算と理合いで戦闘を組み立てるタイプではない。

 

 彼にとって、初めての経験なのだ。

 己よりも明晰な頭脳を持ち、己よりも速い計算を組み立て、己よりも上位の答えを出すことの出来る存在と出会うのは。

 

 父が近くに居ない一人っ子の彼は、追うべき背中を見つけたのは初めてのこと。

 

 

 涼しい顔でイヤホンを軽く叩いたデュフォーは、清麿達にわざと聞こえるように声を流す。

 

「作戦はプランBで行く。お前は試したいなら試せ(・・・・・・・・)。ああ……そうだな。さすがに簡単に拘束することは出来なかったが、ビクトリームと戦えるんだ。ロップスとアポロは此処にいる誰よりも強い」

 

 チラリと清麿や恵、それぞれの魔物達に目を向けて、歯噛みした彼らを見てから続けた

 

「だが、あいつらだけでは出来ないこともある。敵がまだ見せていない手札もある。そしてこの戦いの勝利条件はただ相手を倒すことじゃない」

 

 その一言に、清麿達も、ガッシュ達も気を引き締める。

 実力は理解した。自分達はまだ足りない。しかし、それでもなさねばならないことがあるのだ。

 トン……と一つ叩いてイヤホンのマイクを切ったデュフォーは、清麿達に向き直った。

 

「プランは頭に入れたか?」

「ああ、他の魔物が来るっていう時間制限がある以上、確かにそれが一番の方法だ」

「ええ……悔しいけど」

「それでいい。二人はまだ術を使えるな?」

「一度くらいはバオウを打てるはずだ」

「強い盾の術を一つか、サイフォジオ……回復の術を一つは行けるわ」

「よし。フォルゴレは予定通りそのままでいい。ロップスとアポロが引き付けているが、この部屋の崩壊を考えるとロップスの強い術は打てず、ビクトリームの耐久は抜ききれない。ガッシュ、ティオ、必ずお前達の力が必要になるだろう」

「ウヌ!」

「わかったわ!」

 

 最後に、デュフォーはウマゴンの傍にしゃがみこんだ。

 

「メ、メル……?」

「ロップスはこの戦いに参加している魔物の中で一番年下だ」

「メ!?」

「よく見ておくといい。レインより強いオレのパートナーに対しても臆さず立ち向かった勇敢な戦士の姿を」

 

 震えつつも戦闘を見守るウマゴンの姿に、清麿はデュフォーがウマゴンに何をしようとしているのか予測を立て始める。

 プランを見て、敵を知り、今日を生き残る為に一番必要なピースは何か。それを考えれば自ずと答えは出てくる。

 

 ウマゴンが担う役割があるのなら、自分もすべきことを。

 

 立ち上がり、ふぅ、と一息ついたデュフォーを見てから言葉を掛ける。

 

「……“使う”かな? それとも“戻る”かな?」

「“使う方”だろう」

「それを引き出すのが最優先事項ってことだ。持ち運び出来て相手が戦闘中にも使えるモノなら……利用できる」

 

 清麿の言葉を聞いて、無表情だが、僅かに興味をもった色を浮かべてデュフォーは続けた。

 

「仕掛けるつもりか?」

「ロップスとアポロの心の力も限界がある。注意を引く的は多い方がいい」

「……敵の術が“最悪の方向”だった場合は?」

「防御の術を見せている以上、分散した複数の相手の中でわざわざ盾持ちを狙う確率は低い。角度を付けて射線をずらせる場合も考えれば恵さん達は其処へ行かせたい」

 

 ほう、と嘆息が聞こえた。

 イヤホンの向こう側でゼオンが感嘆を漏らす。

 

「ティオ達が守り、オレ達が囮になり、ロップス達が“奪う”……どうかな?」

 

 燃える瞳で言う清麿。デュフォーは唯、言葉を返した。

 

「やはりお前は頭がいいな、清麿」

「……あんたに言われると褒められてる気がしないよ、デュフォー」

 

 清麿が苦笑を一つ。

 先ほどまでの有り得ない光景を見て、あらゆる張り巡らされた意図を知って、そして遠くを行く背中を見て、そんな彼に褒められて清麿は少し気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

 オレの弟のパートナーならやってみせろ、とイヤホンの向こうから声が聞こえる。どうせ腕組みしながら見てるんだろうなとデュフォーは思う。

 しかしそんなゼオンの嬉しそうな声に、無意識に、誰にも気づかれない程度に少しだけ頬を緩めた。

 

「それで行こう。お前の思うようにやれ。バオウを使った後のことは心配しなくていい」

「ありがとう。恵さん、ティオ、キャンチョメ達を頼む。試したいことがあるんだ」

「任せて!」

「ええ!」

「行くぞ! ガッシュ!」

「ウヌ!」

 

 

 

 飛び交うマグルガの光線。それを弾く鎖やロープの盾。

 先ほどのデュフォーのように指示を出しながら戦うロップスとアポロは、ビクトリームの攻撃を皆へ向かわないように集中していた。

 徐々にではあるが、マグルガが掠っているようでロップスとアポロにダメージが見られる。

 対してビクトリームは攻撃を受けているはずなのに動きが衰えるそぶりがない。

 

 アポロとロップスが戦う場所へと歩みを進めた清麿とガッシュは、ビクトリームとモヒカン・エースへと対峙する。

 

 ビクトリーム達に挟撃を仕掛ける位置取り。攻撃が一度止み、術が全て消える。

 

 ククッと、敵が喉を鳴らした。

 

「二対一。術の使用回数が減っているだろうとはいえ休んで少しは回復したかァ」

「相棒……まずは数を減らそう。いくら相棒が強くてもこいつら一つ一つの力は中々だ。それにあの兄ちゃん……他の魔物ともまたあんな動きされたら厄介すぎる」

「それもそうだ。適度に休憩されては奴らの心の力も回復していく」

「一体ずつ潰していきゃあいつかは終わる」

「くくく、ならば魅せてやろう! 我が偉大なるVの力!」

「おやつの時間に間に合わせなきゃレイラのヤツに取られちゃうしなぁ!」

 

 ビシィィィ! とポーズを決めた二人は、挟撃なことにも意を介さずに、しかし隙を見せずに笑い合う。

 

「アポロ、ロップス! こっちはそっちの動きに出来る限り合わせる!」

「共にビクトリームを倒そうぞ!」

「ふふ、いいねぇ。清麿とガッシュと初めての共闘だ。嬉しいな、ロップス」

「かうっ!」

 

 気合いを入れなおしたロップスが誇らし気に笑う。こうして肩を並べて共闘できることが嬉しいらしい。

 

「アポロ! “光を掴もう!”」

 

 わざわざ言葉にされたモノ。力強く声を上げた声の内容は何かを伝えようとしているのだと分かる。

 清麿が構えを変えて……いつもセットと言いながら掲げている指の形の先には……デュフォーが居た。

 

――なるほど、そういうことか。

 

 聡く、アポロはその意味を理解する。

 敵にばれないように伝えられたその意味は……清麿達が今日の目的としている第一目標。

 デュフォーが言ったのなら、“其処に在る”ということだ。

 

 

 静かになったその場。

 緊張に空気が張り詰める中、崩壊した壁の一つがガラリと床に落ち――同時に、彼らは動き出す。

 

 

「ラウザルク!」

「ゴウ・リグロセン!」

 

 アポロとの連携が取りやすいようにガッシュには身体強化を。

 行動制限を与えやすいようにアポロは手数を選択。

 対して、

 

「マグル・ヨーヨー!」

 

 あくまで先ほどまでに使っていた術を唱えたモヒカン・エース。

 ただし、ビクトリームはそれまでのように動くことはなく……ビシリ、とVの体勢をキープしたまま。

 

「その術はもう見た! こっちはさっきよりも数が多くリグロンよりも強い術だ! 対処しきれるか!」

「ガッシュ! 隙間を縫って接近戦を仕掛けるぞ! オレの声をよく聴いて動け!」

 

 自在に動くビクトリームの攻撃とロップスの鎖がぶつかりあう。

 ガッシュはその隙間を縫って近づきにかかる。

 清麿はアポロと敵の攻撃を外から俯瞰しガッシュへと指示を出す。

 

「フン、舐めるんじゃねぇぜ。相棒、あの雷のちびっこだけは頼む。鎖が何本来ようと気合いでリズムを刻んでやらぁ。あんたの“V”は崩させねぇ」

「ハァーッハッハ! なんのことはない! 任せておけい!」

 

 一段と大きく光り輝き始めたモヒカン・エースの本は、マグル・ヨーヨーの強度を更に上げる。ロップスの術を弾けるほどに強く。

 それでも対処できない鎖の数ではあるが、持ち前のセンスで攻撃を避けるモヒカン・エースは、僅かに被弾しながらも準備を進めていた。

 

 マグル・ヨーヨーはビクトリームの両腕をヨーヨーのように変化させて自在に操る術だ。

 敵の本体は不思議と動かない。それならと清麿はガッシュに指示を出す。

 

「人間の方を! ロップスの攻撃に合わせて行け!」

「ロップス。ガッシュに当たらないようになんて考えなくていい。彼らが合わせてくれる。全力で行くよ」

 

 モヒカン・エースから本を奪えば最善。だからこそ清麿はそう指示はじめるが……ビクトリームの腕の動きは鋭さを増していた。

 

「今でも思い出すゥ……ヤツを倒す為にどれだけシキブと特訓したことかぁ」

 

 ビクトリームは、マグル・ヨーヨーでガッシュを牽制し続ける。

 ゴウ・リグロセンの一つが当たろうと、彼は体勢を崩すことはない。

 

 鎖の術とマグル・ヨーヨーの隙間を掻い潜るのはラウザルクによって強化されているガッシュにとっても至難の業。

 それでも隙間を見つけて近づくも……ビクトリームの腕は鉄壁の如くモヒカン・エースを守り抜く。

 

「怒りのパワーを右腕に!!」

「チャーグル!!!」

 

 声と共に光を灯したビクトリームの右腕。マグル・ヨーヨーでロップスの攻撃を弾き返し、ガッシュをアッパーで吹き飛ばした時にビクトリームがVを刻み、彼の右腕の一部が光を灯す。

 

――な、なんだ? 右腕が光った。

 

「レイラの“あの術”に比べれば……厄介ではあるがこの私には届きえない」

 

 ビクトリームの攻撃が一つ、二つとロップスの術を叩き落としていく。先端が壊れた鎖から消えていく。

 

「我が強さを右肩に!!」

「チャーグル!!!」

 

 再びビクトリームの身体がVを刻んだ瞬間に、今度は肩の玉が光を灯した。

 

――今度は右肩の玉が!? まずい。アレが何かは分からんが、とにかくやばいことをしようとしてるのは分かる……っ

 

「ガッシュ! 何かやばい! 人間じゃなく魔物を! 右だ!」

 

 指示が変わる。瞬時に反応したガッシュも危険を感じたのか意図を理解する。

 

「伏せろ! 前! 左!」

 

 徐々に近づいて行くガッシュとビクトリームの距離。しかしロップスの手数が減ったことで意識を割く余裕が出来たのか、それ以上近づけない。

 

――くそっ。術を同時に使うだと? そんなことが可能なのか。あれは……多分、想像通りなら……それにそろそろガッシュも立て直させないと……

 

 ラウザルク中はガッシュは術を使えない。同時に術を使う相手を見たことはない。

 しかし目の前で使えているのなら意識を切り替えるべき。

 

「ふん……華麗なる私が泥に塗れてでも欲したモノの美しさは、千年経っても色褪せん」

 

 ギュルルルとつま先で器用に回転したビクトリーム。

 唐突な動きに合わせられたのはアポロのみ。

 大きく伸ばしたマグル・ヨーヨーが清麿へと迫る。

 

「フヌッ!」

「ほぉう? 掴むか小僧」

「清麿はやらせぬ!」

 

 途中でガッシュが止めたことで清麿への攻撃は止まった。

 ただし、伸ばされた腕を抑えて硬直しても、ビクトリームの表情の余裕は崩れない。

 

「すまないガッシュ……でもダメだ! 術の時間がもうない!」

 

 そこで……時間が切れる。フシュと音を立てラウザルクが終わり、ビクトリームはにやりと笑った。

 

「人間は気付いていたか。小僧、その意気やよし! しかし実力が足りぬわ!」

「グワァ!」

 

 吹き飛ばされたガッシュを清麿が受け止める。

 距離を取らされた彼らは、すぐに立ち上がるも――

 

「我が美しさを股間の紳士に!!」

「チャーグル!!!」

 

 声と共に股間が光る。荘厳に、堂々と、誇り高くガッと光った……瞬間……

 

「ワァァァァァァ!!」

「!?」

 

 石がビクトリームに飛来する。

 幾つかは叩き落とせたが、ロップスの攻撃が邪魔をしていくつかは通ってしまった。

 

「うわぉっ! ウワァァァオ!!」

 

 ガンッ、ガガガンッとぶつかる石の数々。小さくはない石がビクトリームの股間の紳士にダメージを与えていく。

 

「誰だぁぁぁぁ!?」

「ウワァァァァァァ!!」

 

 手持無沙汰となっていたティオが集めた瓦礫を投擲していた。自分に出来ることはないかと考えた末のこと。相手の変な行動によって狙いは変わったが、それが功を奏したようだ。

 

――効果はあるか。

 

 面白そうだとばかりにデュフォーも違う方向から投げ始める。

 何かを閃いたというように……アポロも石を拾った。

 

「や、やめっ! やめろーーーー! うわーーーーーーお!!」

「相棒! やめろてめぇら! 相棒の紳士をいじめるな!」

「両手を上げて主張してるのが悪いんじゃないかい?」

 

 皆が石を投げる。弾くことに必死になるビクトリームはわずかに涙目だ。

 アポロが声と共に投げ、ロップスが鎖で弾いて当てた。

 

「うわおっ! こ、これしきで我が華麗なるVを崩せると思うなぁ! うわおっ」

「手で隠せばいいじゃないか!」

「それができねぇから言ってんだよぉ! なんてひでぇ攻撃なんだ! あの痛みを分からねぇのか! それでも男か!?」

「女よ!」

「ああ……そ、そうだな、お前さんはよ……」

 

 当然とばかりに投げ続けるティオ。アポロもデュフォーも石を投げるのはやめなかった。

 

「私の紳士をいじめるなァ――――!!」

 

 怒りが爆発したとばかりにマグル・ヨーヨーを長く伸ばす。

 ティオへ向かった攻撃はロップスが最後の一つの鎖で弾き落とした。

 デュフォーへ向かった腕は……

 

「ザケルガ!」

 

 清麿の機転によって弾かれる。

 

「くそ……頭に来たぜ……」

「なんてひでぇんだあいつら。だが、まだだぜ相棒。クールに行け。直線に並んでなくてもフルパワーなら最低二体は巻き込めるだろ?」

「……いいだろう! 続けるぞ、モヒカン・エース!」

「おうよ!」

「鎖の魔物もそろそろ心の力が尽きるだろうしなぁ! 此処が好機!」

 

 バッとVの体勢に戻ったビクトリーム。

 

――バレてるか。さすがにデュフォーが言うだけはあって強いね、彼。

 

 指摘通りに、アポロは心の力が尽きかけていた。

 甘くはないと理解して、敵の次の動きに合わせようとした。

 

 じっと、清麿が見ていた。何かを伝えようとするその視線。口の動きは……

 

――清麿。やるんだね、今、ここで。

 

 意図を理解したアポロはグッと力を籠める。

 心を落ち着かせ、少しでも強度の高い術を打てるようにと。

 いつも常備しているメモ帳を取り出す。さらさらと何かを書き込んだ彼は、さっき拾った手頃な石に巻いておいた。

 

 

「華麗なるビクトリーム!」

 

 

 声が上がった。

 清麿が上げた声は、自信と気迫に満ちている。強い意思と覚悟を宿したその声が相手の興味を大きく引く。

 

「さっきは不意打ちとかして悪かった! あんたが美しくて強いのはよくわかった! だけど、オレ達より強いようには見えないな!」

 

 マグル・ヨーヨー一つ打ち破れない相手からの挑発。

 ビクトリームは鼻で笑った。

 

「……実力が足りん貴様らが叩くには大きな言葉だぞォ、人間」

「いいや、違うね。だってオレ達はまだ、最大術を見せていないんだから!」

「ふん、肉体強化一つ満足に扱えない小僧の最大術など、大したことあるまい」

 

 少し乗ってきたビクトリームに、清麿は腕を組んで大げさに言う。

 

「ほー、華麗なるビクトリーム様ともあろうお方なら、オレ達の術を見ても尚、まだその光を溜める謎の術を続けられるってわけだ?」

「当たり前だ! 私は強くゥ! 美しくゥ! 華麗なるビクトリーム様だからなぁ! フハハハハハハ!!」

 

 高笑いを始めたビクトリームを見て、にやりと笑った清麿は腕を上げてビクトリームへと照準を合わせた。

 

――心の力を溜めていくバオウ・ザケルガ。あいつがバオウ・ザケルガを言葉の通りに受けてくれたら、倒すことは出来なくても少しはダメージを与えられるかもしれない。デュフォーやアポロ、ロップスの姿を見て熱い気持ちが滾ってる今なら……

 

 自信を持たねば術は強く打てない。だから清麿は心を強く持ち言い聞かせる。

 

――あいつが焦って反撃してくれるなら、アポロとロップスが隙をついてオレ達の狙いを達成してくれる。そしてうまくいくのならデュフォーの計画通りに……

 

 視界の端でコクリと頷いたデュフォーを横目に見て、清麿は覚悟を決める。

 

「なら、受けて確かめてみろ……っ! ガーーーッシュ! 行けるな!!!」

「ウヌ! 行くぞ清麿!!!」

 

 パラパラ、パラパラとページを捲る。

 全員のタイミングを合わせる為に大仰に。

 

 コォォォォと光が強まっていく赤い本は、今までにない光を持つ。

 その光を見て、目を細めたビクトリームの顔からは笑みが消えた。

 

 背中のバッグの隙間を触り、人知れず準備したデュフォーがぼそりと呟くと……赤い本に僅かに白銀の輝きが混ざった。

 

 照準を合わせる手はいつも通りに。

 

 バチバチとガッシュの身体が雷を帯びていく。髪に隠れた角から……白銀の色が漏れ出した。

 

 本の光が極大に達した時……その術は放たれた。

 

  

 

 

「バオウ・ザケルガァ――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れたバオウ・ザケルガを見て、デュフォーは驚きに目を見開く。

 バチバチと帯電するその姿は、下の階で出ていたバオウよりも大きく術の威力が増しているだろうことは分かる。

 ただ、同じ姿であるのに何処か違う雰囲気を纏っていた。

 

――これは……

 

 デュフォーには分かる。このバオウは先ほどのモノとは違うと。

 “答え”を求めた。

 その術が喰らった想いの中に、いつもとは別のモノが混じっていることを知る。

 

――清麿に、オレが僅かなきっかけを与えたからか

 

 魔物の術は魔物の成長によって強くなるが、人間の込める想いでも威力を増す。

 人間と魔物の想いが大きく重なれば重なるほどにより強く引き出されるが……今回は清麿の想いが強かったらしい。

 

 答えを出す者(アンサートーカー)は告げる。

 求められたのは渇望。強くなりたいという純粋な想い。清麿が込めたその想いは、奇しくもデュフォーのパートナーの根幹を為す想いと重なっている。

 

 故に……

 

――オレが近くに居ることも相まって、ゼオンの雷をいつもより多く引き出したな。

 

 脚にいつもより力を入れなければならない。

 眠気のような気怠さが身体にへばりついているのが分かった。

 

 己の体力も持っていかれたのだ。それを把握した瞬間、バオウが一瞬だけ意識をデュフォーに向けた気がした。

 

 “答え”が出る。明確な“答え”で伝えられる。

 

――この術は、やはり意思を持っている。

 

 “まだ早い(・・・・)”……バオウが向けた意識はそういう意味をもっていたと“答え”が出た。

 

 力を込めて、気怠さを押しのけて、デュフォーは清麿へと近づいて行くことにした。

 どさりと音が一つ。倒れたのだろう。

 

「ビクトリーム!! この術を受けてみろ!!」

 

 地面へ倒れ伏しても、それでも叫ぶ声は力強く。決して逃がさないという意思を込めて。

 

「行けぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

「バオオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 清麿の叫びと共に、大きく咆哮を上げたバオウ・ザケルガが動き出す。

 

 ビクトリームは静かに短く息を整えて、相棒へと声を掛けた。

 

「……モヒカン・エース、アレはダメだ」

「ああ、やべぇな」

 

 は、と小さく息を付いたモヒカン・エースもいう。

 

「私は多分耐えられる。だが、中途半端とはいえ噂に聞いていた“ベルの雷”が相手ではお前と本を護ることは出来ん。打ち砕くしかあるまい」

「構わないぜ。心の力を使いきっちまってもいいよな?」

「いいぞ。半分に全てを込めろ。あの程度、フルパワーでなくともそれで貫ける。全力をあえて使わなければ他の奴らにも絶望を与えられるだろう。倒れた本の持ち主もろとも倒すとしよう」

「……倒しちまうのか? せっかくパムーンやレイラのたす――」

「万が一にも逃げられてツァオロンやデモルトの憎しみと怒りがあの小僧に向かうよりはいい。今の内に還してやらなければ」

「そうかい。相変わらず優しいな、相棒よぉ!」

 

 本の光が高まっていく。

 モヒカン・エースの本の光は、先ほどの清麿をも超える程に高まっていった。

 

 不敵な笑みを浮かべて、ビクトリームは笑いだす。

 

「フッハハハハハハ! これほどとはなぁ!! いいだろう! 貴様らの術、私の力を使うに値する!! 真正面から勝負してやろう!」

「受けるんじゃねぇのかよ!」

「それほどまでに強いと認めてやったのだ! 喜べぇい! さあ、行くぞモヒカン・エース!!」

「おう相棒! やぁぁぁぁってやるぜ!!」

 

 笑顔を浮かべた魔物と本の持ち主は、負けることなど考えない。

 

 轟と光が溢れ。

 

 輝くビクトリームの半身から、極大の術が放たれた。

 

「チャーグル・イミスドン!!!!」

 

 Vの半身から放たれた極光は、バオウ・ザケルガが当たる寸前に放たれた。

 

 硬直の一秒目。

 バオウの牙から雷撃が炸裂する。それでも極光は止まらない。

 

 硬直の二秒目。

 バオウがその術を噛み砕こうを力を強めた。それでも極光は砕けない。

 

 硬直の三秒目。

 金色と白銀の光を煌めかせ、重機で岩を無理やり削るような音を響かせた後に……バオウ・ザケルガは霧散した。

 

「な……バオウが……打ち負けた……?」

 

 デュフォーに担がれながら、清麿はその光景を見た。

 死角になってビクトリームからは見えない位置で、清麿は驚愕に支配される。

 

 普段よりも強いはずだった。敵の術は半分にも満たない状態だった。

 それなのに負けたということは……

 

――けどまだ、“オレ達”は負けちゃいないっ

 

 けれども、目指している勝利は其処ではない……そう強く言い聞かせて、ガチリと歯を噛む。

 

 ガッシュはロップスのロープが密かに回収しているのが見えた。

 自分とガッシュは敵の攻撃を避けられた。

 敵の攻撃を自分達に向けさせたことで、アポロやロップス、恵やティオ、他の皆にも攻撃は行くことはない。

 

 突き抜けていく極光は、壁をぶち抜いて外へと消えていった。

 攻撃の爪痕は大きい。直撃していたら本も燃え、吹き飛んでいたことだろう。

 

「ハァーッハッハッハ! 今のが最大呪文か!? 私の術の半分の威力にもかなっていないぞ! よくそれであれだけの大口を叩けたモノだなぁ!! 本と共に消し飛んで声も出ないか!」

 

 もくもくと上がる土煙に向けて声を出すビクトリームはご機嫌な様子。

 しかし……その術でこれほどの土煙が上がることはないと、彼は気付かない。

 

「……っ。相棒! 下だ!」

 

 気を抜いていなかったモヒカン・エースがようやく気付いた時には……少し遅い。

 

「なっこれは……ロープがっ」

「かかったね。これで……チェックだよ」

 

 アポロの声と共に、ロップスの攻撃が彼らを襲い行く。

 どうにか避けつつも術無しで回避し続けるビクトリーム達。

 

 バオウ・ザケルガに意識が向いている間にロープを伸ばし、術の最中に土埃で視界を奪って清麿とガッシュの動向を隠し、敵の術が終わったと同時に攻撃に転じる。

 清麿とアポロのコンビネーションはまだ続いていたのだ。

 

「小賢しい! だがやはり初級呪文しか唱えられていない! 心の力がもうない証拠だ!」

「それは君たちも一緒だろ? ぼくたちとの戦いでの術の連発と、あんな大きい術にも心の力を割いてたんだから」

「ふふふ、残念だったなぁ! 私達には“アレ”がある!」

「アレ……ってなにかな。まさかっ」

 

 アポロが驚愕の表情で聞き返すと、ビクトリームとモヒカン・エースは勝ち誇ったように笑った。

 

 華麗なステップで避けながらモヒカン・エースがごそごそと懐から取り出したのは、一つの瓶。

 

 輝く石が二つ入ったその瓶を見て、デュフォーは目を細め、清麿は影でにやりと笑う。

 

「月の石! これさえあればぁ! 我が相棒、モヒカン・エースの心の力も元通りよぉ!!!」

 

 きゅっと蓋のコルクを外して一つ取り出し、モヒカン・エースは胸にそれを当てる。

 徐々に、徐々に彼の本に光が戻っていく。

 

「万全か! 我が相棒!」

「おうともよ、オレの相棒!」

「さあ、こいつらを片付けて、愛しいおやつタイムと行こうではないか!」

「数体倒したとなりゃアルベールのヤツも開放してくれるだろうしな! 愉快なダンスタイムの始まりだ!」

「フゥハハハハ!! これで貴様らにはもはや勝機はなぁい!!! 私達の勝ち――」

 

 そこまで語らせて……

 

「そうか。そういう仕組みで使うのか」

「わざわざ使い方まで教えてくれてありがとうよ」

「言っただろう? チェックだって」

 

 天井から六本(・・)ものリグロンが下りてきて彼らを縛り上げる。

 

「なっ」

「なにぃ!!!」

 

 一つのリグロンがすぐに瓶を奪うと、蓋をしっかりと閉めてアポロへと渡された。

 

「ば、バカな!? 貴様にはもう心の力など無いはず!」

「ずっと準備していたのはアポロだけじゃないわ!」

 

 手を前に翳していたティオと恵が、少し離れた所で声を上げる。

 

「私達の術には心の力を回復させるモノがある! アポロがバオウ・ザケルガが出たのを見て投げて来た指示をくれたから、すぐに回復の術を打ったのよ!」

 

 そう、ティオの投擲で閃いたことは、術のタイミングの指示。

 心の力の余裕を計算した彼は、ティオが持つサイフォジオという術によって心の力を回復して貰うよう助けを求めたのだった。

 

 

「最後の最後にキミたちを騙せるように調整はしてたんだけど、さすがにキミたちの相手だとリグロン一つくらいしか唱えられないくらいに追い込まれてね。ティオと恵が居て助かった。

 これはリグロンじゃなくてオルダ・リグロン。二本じゃなくて八本のロープを自在に操る術さ」

 

 下のロープはブラフ。本命は下に意識を割いて上から奇襲を仕掛けること。壁に這わされた残りの六つは、心の力がない状態でリグロンに対処しているビクトリーム達では気付くのは難しい。

 清麿の狙いは敵の回復の方法を知ること。それが戦闘中にも使えるかの確認と、使えるのならばその使い方も知るべきと判断したから使わせた。

 その為のバオウ・ザケルガであり、その為の囮行動であった。

 ぎりぎりだが、全員の力を合わせることでなんとか繋がったのだ。

 

 デュフォー・アポロ・清麿という明晰な頭脳を持つ三人が創り上げた即興のコンビネーションと仲間の力。

 そうして敵が持つ大きなアドバンテージの情報を奪い取ったのだ。

 

 ギリギリと悔しそうに歯噛みするビクトリームと、あちゃーといった顔で落ち込むモヒカン・エース。

 

 漸く拘束出来たのだからと、デュフォーに肩を貸して貰いながら、清麿がモヒカン・エースとビクトリームへと声を掛ける。

 

「あんた言ったよな、力づくで頼むぜって。あんたはもう動けない。こっちにも心の力の回復道具は出来た。暴れてもすぐに本を燃やせる状況にもなった。さあ……答えて貰うぞ」

 

 じ……とモヒカン・エースを見詰める清麿。

 その瞳にある純粋さと熱意を見て……は、と彼は息を吐き出した。

 

「……やっぱ甘いぜ、兄ちゃん」

「っ!」

「ロープでぐるぐる巻きにされてても……オレは相棒の本を燃やさせはしねぇ」

 

 ぎゅっと胸の中に抱え込んだ本は清麿達にも見えない。絶対に守ると、奇襲があった瞬間に彼は咄嗟にその本を抱え込んだのだ。

 次第に高まっていく光に、迎撃の体勢を取れるように僅かに全員が距離を置く。

 

 質問に答えさせようとして口を自由にしていたのがまずかった。それはアポロのミスである。

 く、と苦い顔をした彼は……上手く行きすぎはしないかと諦め――

 

「ロップス! プランB!」

「かうっ」

 

 モヒカン・エースが術を唱えるよりも早く、指示を出す。

 ロープが拘束した二人を振り回し始めた。

 

「このまま壁に叩きつけてやれっ!」

 

 そう声を上げたアポロは、チラリとデュフォーを見た。

 彼は、一瞬だけアポロに目を合せた後に、ロップスの頭をくしゃりと撫でてから垂れているロープの一つを掴む。

 

「また夜に会おう」

 

 唐突に声を出したデュフォーが……後ろから清麿の頭に、ぽんと手を置いた。

 

「よくやった。さすがはガッシュのパートナーだ。此処からはオレとオレのパートナーに任せろ」

 

 背後からかかる声は、優しく、暖かい。

 

「夜にって約束、忘れるなよ」

「ああ」

 

 デュフォーが短く返事をした時に、ロップスはビクトリームとモヒカン・エースを勢いよく壁に向けて放った。

 

「フハハハハ! わざわざ拘束を解くとはバカな奴らよォ! これしきのこと、私の術があればっ!」

「ああ! 行くぜ相棒! “ビクトリ”――」

 

 もう壁とぶつかるという寸前で術を唱えようとして……ボフ、と音がした。

 

 彼らが向かった先は壁ではなく

 

「へへへ……」

 

 小さく笑うアヒル口の魔物が見せていた、幻。

 

「「な、なにぃぃぃーーーーーー!?」」

 

 術と壁を使って反転しようとしていた彼らは、その始動を崩される。

 壁があったと思われた場所は、マグルガで壊していたテラスがあった所。外へと繋がる空間を、キャンチョメが術で擬態してずっと隠していたのだ。

 全てはこの為。

 デュフォーは初めから、ビクトリームを魔界へただで返すつもりなどなかった。

 

 当然のことだ。

 彼らの目的の為には情報が必要で、千年前の戦いを最も長く経験したであろうビクトリームを逃がすわけがない。

 

「月の石は置いとくよ。逃げ切るのに使ってくれ。じゃあ、夜に」

「かうっ!」

「ああ、分かった!」

「ウヌ!」

 

 ロップスとアポロがロープを使って、デュフォーと共にビクトリーム達を追い、またロープを巻き付けた。

 

「フォルゴレェェェ! 行くよぉぉぉぉ!!」

「ああ、了解だキャンチョメ! さぁ来い!!」

 

 合図と共に、下に降りていたフォルゴレに向けてキャンチョメが飛び降りる。其処には一つの装置があった。

 

 それはこの戦いが始まる前にアポロとロップスが昇ってきた場所にある。

 デュフォーは既に、ゼオンにとって最も必要な情報を得る為に準備していたのだ。この遺跡に入る前から(・・・・・・・・・・)

 

 キャンチョメが飛び降りた先にはロープの網。それにより、梃子の原理を利用して一つの物体が打ちあがる。

 アポロとロップスによって作られたそれは……金網。

 

 それと同じタイミングで、ふよふよ、ふよふよと空からナニカが下りてくる。

 丸く、そして輝いているソレを見て……清麿はどこか既視感を覚えた。

 

――あれは……ジケルドに似てる……?

 

 ビクトリームとモヒカン・エースに近付くソレは、急速にしぼんで静かに消えた。

 二人の身体が光を帯びる。

 そして――

 

「これはっ――ヌゥオォォォォォォ!?」

「!? うあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 打ち上げられた金網が張り付き、後に、彼らは信じられない速度で空へと消えていった。

 

 叫びを残して、あっけなく消えていった強敵。

 

 全員が外を見続ける。

 

 一秒経っても、十秒経っても、何も起こることはなかった。

 

 しんと静まり返った其処で、どさりと清麿はへたりこむ。

 

「き、清麿っ!?」

 

 倒れ込まないようにガッシュがそれを支えて、恵とティオが近づいて行く。

 

 

「うわぁぁぁぁぁん! ひどいじゃないかデュフォーのヤツぅぅぅ! あんな怖い攻撃が来るかもしれないとか聞いてないよぉ!」

 

 仕掛けられてあったロープを上ってきたフォルゴレの背中に乗ったキャンチョメの泣き声を聞きながら。

 

 ようやっと、彼は大きく息を吐き出した。

 

 

「みんな……帰る前に少しだけ、休もうか……」




読んで頂きがりがとうございます。

ビクトリームとの戦いはこれにて。
有用な情報源をゼオンくん達は逃がしません。
ガッシュくんや清麿達の成長を促しつつ必要なモノを手に入れる様子を描けていたら嬉しいです。

この物語のV様、まだ“本気”じゃないです。


次はゼオンくんとV様の話。

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

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