もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第四十五話:千年前からの願い

 

 モニター越しで誰にも聞こえることのないよう静かに。

 落ち着き払った顔で呪文を唱えたあいつの考えはすぐにわかった。

 

 ベル家の厄事――“バオウ”に対して、強めの術を同時に唱えた場合の影響を見ること。

 

『ジオルグ・マ・ジケルド』

 

 日々の訓練で覚えた新たな術の一つ。

 オレが覚えることのなかったスキルツリー、電磁力を操るジケルド関連のモノ。

 

 基本的にオレの術は、戦いをオレ個人で完結させようとしてきた傾向が強い影響もあってか即時効果もしくはオレ個人に対しての影響が強いモノばかりを覚えて来た。

 例外はラシルドとザグルゼム。それらはあまり使うことがないから伸びることはなかったのだが……レインとの訓練を続けていく内に新たな可能性を手に入れていたらしい。

 

 ジケルドは凶悪な電磁力を相手に持たせる術。金属物質の多い人間界に於いて、電磁力を持たせるジケルドは戦術の幅を広げることになる。

 デュフォーの戦術指揮に組み込まれればその効果は何百倍にも膨れ上がるが、それが戦況をひっくり返すほどに通用するのはあくまで中位程度の魔物まで。

 

 金属の単純攻撃程度では魔力を通したレインの毛皮は抜けないし、アシュロンは言わずもがな、エルザドルの鱗も抜けないだろう。

 魔力性の電磁力は時間を追うごとに減っていくから永続の効果はなく、ブラゴやバリーのようにフィジカルの強い魔物ならば対処してのけるだろうし、そういったオレの想定しているレベルの仮想敵が相手の場合はあくまで不意打ちの域を出ない。

 

 上位の魔物になればなるほどに、敵の術に対して己の磨いてきた術で対抗できる。

 アシュロンやレインとの模擬戦で、どれほどオレの術を相殺されたかは言うまでもない。

 

 ただ、この術は少し面白い効果を持った術だ。

 レインのやつが他者に影響を与える術などを覚えたのが少し腹立たしく感じていたのだろう。

 この術は、上手く使えばレインとの連携にも役立つモノなのだ。

 

 

 両の手から出たジケルドの光球は、ふわりふわりとオレの意思通りに動く。

 決してその動きは速くない。しかして瞬間移動を持つオレならばこの術を当てるのは造作もないことだ。

 

「何をしているピヨ?」

「まあ見ていろ」

 

 コーラルQに短く答えて、ぶちりと千切ったマントへと光球の一つをぶつけた。

 モニターにはバオウが映し出され、その身に宿す黄金の雷の中に、オレの白銀が混ざっている。

 

 どうやらこのレベルの術を同時発動すれば、バオウ自体へとオレの魔力が多く渡され、今まで溜めた雷の力を放出し始めるらしい。

 距離は関係なさそうだ。デュフォーが厳しい表情をしているところを見ると、何かを読み取ったな?

 オレの身体に変化はない。デュフォーは……今の所は分からんか。術の発動を切らない以上、暴走の危険はないのだろう。

 後々にすり合わせをしなければ。

 

 下へ。下へとオレはもう一つの光球を向かわせる。

 同じように、くるりと丸めたマントも魔力操作をして下へと降下させていった。

 

「アレをお前にぶつけて使っても良かったが、モニターを映す仕事をやめさせるわけにはいかんからな」

 

 冗談めかして言うと、ブルリと身体を震わせたコーラルQが憎らし気に口を歪める。

 

「あの術……この身体がジリジリする感じで分かったぞ。つくづくこの先でお前と戦うのが嫌になるピヨ」

「ククク、さすがにわかるか。お前にとっては天敵のような術だ。磁力の付与と相互誘導を併発させれば……術による変形すら邪魔出来る可能性があるものなぁ? 変形合体ロボが楽しみだな?」

「はやく誰かに負けてしまえっ! ペッペッ!」

「他人頼りとは情けないやつめ」

「うるさいピヨ! プププ! 貴様の恥ずかしいその女装姿をピヨ麿の家のパソコンに送りつけてやってもいいんだz――ノォウ!!!」

 

 ガツンとまた脛を蹴っておく。少しは学習しろ。

 

 オレのこの術は電磁力を付与するモノなのだが、その性質をこちらで任意に決めることが出来る。

 引き合うか反発しあうかはオレとデュフォーの制御次第。ただし、その性質を発動中に変える為にはデュフォーの心の力を込めて変換するか、オレ自らが対象に触れなければならず、さらにはオレ自身に付与することは出来ない。

 だからこそマントを千切って付与したわけだ。

 

 例えば一つをレインに付与し、もう一方をオレのマントに付与すれば……戦闘中の高速での連携攻撃も可能となる。

 敵に付与することが出来れば磁力による行動阻害での援護も出来て、術で強化されたレインの一撃に対して圧倒的な好機を生み出すことも出来るだろう。

 

 あまり補助的に術を使うことは好みではないが……あいつと共に合わせるというのなら、まあ、悪くはない。

 それにだ。

 

 ガッシュもジケルドを覚えているというのだから、ゆくゆくはオレとガッシュ二人での連携も可能になるということ。

 

――ああ。それはいい。それはとてもいいことだ。

 

 視線を戻すとモニターの中のバオウがビクトリームの術によって打ち破られた。

 清麿の狙いはゾフィス達が行っている回復を見破ること。多くの消費の後にあのクラスの術を使ったのなら、そろそろ回復が必要になるはずだ。

 

 案の定というべきか、狙い通りにビクトリームは回復を選択した。

 あれは……

 

「石か?」

「……システム・サーチモード……ふむ……」

 

 コーラルQが部屋の中の端末で調べているようだ。

 心の力を回復する、というのと先ほどガッシュ達が戦っていた魔物の言葉から推察するに、あの石の小さな光だけが敵の回復の全てではないだろう。

 

「……高密度のブルーツ波を検出。特殊な魔力も混ぜ込まれているピヨ。あとは……魔力を伝搬させやすい波形も。ゾフィスの準備していた千年前の魔物を復活させる装置の副産物では?」

「あの時使っていたのはライトだった……月の光と言っていたからには、この人間界で月の光を溜め込んだ石を活用したということか」

「ゴーレンの術を破るくらいなら魔力増幅の効果もある。魔物にとって大きな効力を発揮するというあの欠片の本体がもっと大きいのなら、ゾフィスの使う心を操作する術も相当なモノになるはずピヨ」

 

 チラリと、モニターをデュフォーが見た。

 理解したかとこちらに問いかけるような目。

 オレに対してもあいつは思考訓練を積ませる為に、敢えて答えを出す者(アンサートーカー)で教えて来なかったのだと理解する。

 

 情報の一つ一つから推理していくことも経験。

 清麿と同じ立場として、この状況からどうやってこの遺跡を攻略するか……そんな考察をして、状況打開能力を磨いていけるというモノ。

 

「終わったみたいだな」

 

 モニターを見るとビクトリームとそのパートナーが拘束された。

 これで戦闘が終わるとコーラルQは考えたらしい……が、それは甘い。

 

 清麿が人間に話しかけている。

 ゾフィスに従う理由や、己が悪事に加担しているということを理解しての理由を。

 しかし、やはりというべきか、あの人間はまだ諦めていない。

 

 当然だ。

 現代に蘇った千年前の魔物達の中で、最も長く生き残ったビクトリームが認めるパートナーが此処で終わるはずがない。

 

「いや、終わらん。だからこそデュフォーは術を唱えた。だからこそオレは術を用意した」

 

 指先で操るのは二つの光球。一つはテラスのあった場所へゆっくりと降りていくように。もう一つはマントにいつでもぶつけられるように。

 

 引き合うにはまだ早い。

 

 ビクトリームが変化の魔物が化けている壁に向けて投げられた。変化が解け、驚愕しているビクトリームが外へと投げ出される。

 声が上がれば、金網が打ち上げられた。

 

 タイミングは完璧。

 光球から、ビクトリームとそのパートナーに磁力が付与された。同じくオレのマントへと磁力の付与が完了する。

 

 付与した磁力は引き合う力。

 この不意打ちにはさしものビクトリームでも対処しきることは出来まい。

 

 金網が巻き付き、同時にオレのマントへとビクトリーム達が引っ張られる。

 

「ふふ……カツオを釣るよりは容易いな」

 

 海でデュフォーと共にカツオを釣りあげたことを思い出す。

 相手が拘束され、オレの意思でマントの切れ端を動かせる分、激しく動き回るカツオのヤツよりは簡単だ。

 

 術の効果で重さを感じることもなく、強力な磁力に任せるだけでいい。

 

 ロップスのロープによってアポロとデュフォーもついてきているから……足場も用意しておくか?

 

 いや……此処では魔力の動きを感知されたらオレとデュフォーのプランに支障が出るか。

 

「……やっぱりイヤな術ピヨ」

 

 迫ってくる奴らから己の苦手な磁力を感じてコーラルQが吐き捨てる。

 あいつらが此処に来るまであと十秒。

 

「少し場所を代える。何かあったら渡しておいた無線機で連絡しろ」

「プピ? なんでピヨ?」

「ゾフィスのヤツにお前の存在がばれるやもしれん。ビクトリームかパートナーに細工をされていたら面倒だ」

 

 なるほどと手を打ったコーラルQを見つつ、オレはあいつらを迎えるようにマントを広げた。

 

 どうせゾフィスのことだ。ビクトリームの戦いを遠距離で見ていることだろう。あいつの一族は視覚共有や記憶の覗き見くらいは当然出来る。

 ビクトリームとオレの話も……対策はしなければならない。

 

 高速で飛来する奴らを瞬間移動させるのは少し骨が折れるが出来ないこともない。

 

 コーラルQはブースターを吹かせてその場から離れ始め、オレはそれが見えないように奴らを広げたマントに迎え入れる。

 

 場所は遠くなくていい。

 ゾフィスの感知が出来ない程度であれば。

 

「Brrrrrrrrrrrrrrr」

 

 変な声が近づいてくる。

 風圧でビクトリームの叫びがおかしなことになっているようだ。

 

「ブルルルルルルルルァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 先に飛んできたマントの切れ端をマントで受け止める。

 術の効果は既になく、ビクトリーム達は慣性の法則で跳んでいるに過ぎない。

 ばふっと音がして、ビクトリームとその相方が包まれた。

 

「初めまして……ってのは後にするか。よくやった、デュフォー」

 

 伸ばしたマントでデュフォーとアポロ、ロップスを優しく包み……

 

 デュフォーが、口の動きだけで“観ている”と伝えた。

 

「覗き見とはお互いにいい趣味だなロード? だが残念だったな。座標転移で切れたパスを繋ぎなおすには直接術式を掛けなおす他ないのだろう? これで貴様は一手、後手に回る。せいぜい震えて策を練り直すがいい」

 

 わざとらしく声を上げてやれば、きっとあいつは苛立ちのままにパスを切ることだろう。

 

 少しの満足感を得て、次の手を考えながら、オレは瞬間移動を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れた森の中。

 

 漸くのご対面だ。

 ゾフィスとビクトリームの視覚と聴覚の共有が切れたことはデュフォーによって確認済み。

 

 アポロとロップス、オレとデュフォーに囲まれた二人は自然体で佇んでいた。

 

 オレの前には鎖の解けたビクトリーム。その横にモヒカン・エースと呼ばれる人間。

 じっとこちらを見やる両者は、デュフォーの隣に立つオレを睨む。

 

「ベルの子か。先ほどの小僧といい……なるほどあの泣き虫(・・・・・)によく似ている」

 

 真っ直ぐに、単純に、ビクトリームはそう言った。

 監視下かどうかわからない状態なのに、このオレに対してこんな発言をするということは、ゾフィスによる覗き見も盗み聞きも無いと確信しての発言だろう。

 

 変装しているオレのことをこいつは間違えないらしい。

 ガッシュとオレは瓜二つだから仕方ないことか。それともオレの雷の力を感じ取ったのか。

 

 とはいえ、面白い発言だな、それは。

 

「さすがはビクトリーム。オレの正体を見破るか。それに父のことも知っているとは」

「当然だ。貴様の隠しきれていない魔力の大きさも当然だが、ロードが私達にあの泣き虫ベル(・・・・・)が王になったと伝えてきたからな。膨大な魔力と強大な雷の力を持つクセに、誰かに追いかけられてすぐ泣いていたあの泣き虫の顔を知らぬ魔物はおらん」

 

 くつくつと笑うビクトリームは、千年も前のことであるのについ最近のことであるかのように言う。

 

 泣き虫、か。あの非情で非道で鉄面皮の父親にそんな時代があったとは思えないが……。真実なのだろう。こうして千年前の魔物が直に言うほどなのだ。

 

「まあ……あのベルの子が私の目の前に立っているということは、約束をちゃんと果たしてくれたようで安心したというものよ」

 

 随分と迎えが遅くはなったようだが、と言い切ってビクトリームが大きく息を付いた。

 攻撃するつもりはなく、オレが危害を加えるとも思っていないらしい。

 

 約束、と呟いたアポロの声に反応して、ビクトリームが語りだす。

 

「復活した魔物達を見てきた限り、ゴーレンに封じられたのは私が最後だ。あの時、石に封じられる前に私は私のパートナー……シキブに一つ伝言を頼んだ。ゴーレンを倒し、王となって私の友達を助けてくれと。

 伝えるべき魔物は数々の強敵を友との絆で乗り越えて倒し続けていると噂の雷のベル。一人では泣き虫のベルであろうと、友との絆を繋いだのなら……きっとゴーレンにも勝てると私は信じた。そういった希望を託しただけの一方的に押し付けた約束をあのベルは果たしてくれたわけだ。あれほど強大になったゴーレンを倒したのなら、やはり友との力は大きかったか。

 私もレイラと共に戦っていれば……きっと違った結果になっていただろうからなぁ」

 

 後悔とは違う。

 少しのくやしさが滲んだ声に、ビクトリームが思うのはどんなことか。

 

「レイラ、という魔物がお前の友か?」

「ああ、そうだ。なんだかんだ行動を共にすることが多かった程度の腐れ縁とでもあいつは思っているかもしれんが、私は友達だと思っている。あとは……パムーンもだな。フフフ、あいつとは夜に華麗なるVを示し合わせた仲よ」

 

 ニッコリと笑うビクトリームの顔は満たされていた。

 

――こいつのこの顔は……レインがガッシュやカイルの話をしている時によく浮かべていたモノと同じだ。

 

 友との時間が好きだと、その顔が物語っている。

 信頼と、情と、絆。心の深い部分でつながっているからこそ浮かべるモノ。

 

 後にビクトリームは、真剣な眼差しとなってオレを見る。

 

「パムーンから聞いている。貴様がベルの子で“泣き虫ベル”からのメッセンジャーだな? なら……一つ聞かせて貰おう」

 

 敵意は無い。

 ただの純粋な質問をしたいらしい。コクリと頷くと、ビクトリームは静かな落ち着いた声で紡いだ。

 

「もしもパムーンの目論見が上手くいって、千年前の魔物達の中で私のように人間と再び絆を繋ぐことの出来る魔物が現れたのなら……その魔物達に対してこの人間界で、少しだけ時間をくれることは可能か?

 私達は……千年耐えた。私はシキブやモヒカンエースとの輝かしく美しき思い出が出来たからいいとしても、他の魔物達はきっと違う。この人間界で過ごした時間が苦しみの千年だけというのは……少し、哀しい」

 

 ぐ、と唇を噛んだのはモヒカンエース。

 悲痛な面持ちのその男は、よほどビクトリームのことが気に入っているのだろう、無言ながらに思いやりの感情が溢れていた。

 

「……パムーンの望みはそれか」

 

 あいつがしたいことは千年前の魔物達の心の解放。ゾフィスの支配からの解放だけでなく、同じ絶望を味わった他の魔物と共に、この人間界で新しい思い出を創り上げてから魔界へと帰還すること。

 恐怖と絶望によって荒れ果ててしまった人間界での思い出を、少しだけでもビクトリームのように満足する思い出を重ねておきたいということ。

 

「あいつはバカモノだ。ロードの策によって孤立させられ、他者と繋がりを持つことも出来ず、一人きりで何が出来るかを考え続けて自責だけを募らせるような……そんな愚か者よぉ。自分と同じ苦しみと絶望を味わった魔物達を救いたいなどと、あいつ程の力があればそれこそ他の魔物達のほとんどを支配出来たというのに、それもせず希望を捨てられなかった。そうして、望みもしない取引きの果てに、まずはモヒカン・エースの心を取り戻した」

 

 不利を承知の上で隷属したか。はたまた他の何かか。

 悪の手先になろうとも救いたいとは、本当に度し難く、そして

 

――それはなんとも……優しいことだ。

 

「オレからも頼むぜ、お嬢ちゃん。暗く落ち込んでるダチの笑顔の為に何か出来ないかって頑張るパムーンや相棒を見てるとよ……つれぇんだ」

 

 モヒカン・エースがすっと膝を付いてオレに目を合せてくる。

 

「相棒がバカやってご機嫌を取ってるけど根本的な寂しさはきっと埋められてねぇ。オレの意識が戻ってからは尚更寂しそうな顔をするようになりやがった。千年ってのがどんだけ長い時間なのかはわからねぇし想像も出来ねぇが、相棒がダチの為に何かしてぇって気持ちは分かる。

 上手く行くなら人間達を救うことにも繋がるはずだ。あんたらはきっとロードを倒す為に来てるはずだ。相棒とレイラなら、あのデモルトやヴァイルのおっさんも止めて見せる。だからよ……頼む」

 

 頭を下げたモヒカン・エースのモヒカンが揺れて地面に垂れる。

 

「今度こそ相棒に……ダチを救わせてやってくれぇっ」

 

 震える声。

 感受性の強い奴なのかはたまたビクトリームの過去やレイラという魔物にそれほど心を動かされたのか、モヒカン・エースという男の言葉は真に迫るモノ。

 

 確かにレイラという魔物の命は戻った。

 しかしビクトリームは、心を救い出すことはまだできていないと考えている。

 千年前に救えなかった友を今度こそ救う為に……か。

 

 こいつらはこいつらなりにゾフィス達を倒す算段を立てているのだろう。

 デュフォーを見ると、オレに任せるというように何も語らず。

 

「私の持ち得る情報は渡そう。戦うことを強制されていたのなら私を容赦なく魔界に返してくれても構わない。だがレイラとパムーンだけは、救ってやって欲しい。

 ベルの子よぉ。返答や如何に」

 

 さながら父へと望みを託した時のように。

 ビクトリームはオレに願いを託す。

 

 それほどまでにこいつは友が大切で、パートナーの人間も心優しく同じ望みを重ねている。

 

 なら、オレの返答は一つ。

 

 

「千年前の本が残っていること自体がイレギュラーだ。しかし既にダウワン・ベルという王が決定している以上、お前達が生き残ろうと何が起こるわけでもない。お前達の戦いは千年前に終わっている。だから……」

 

 淡々と紡ぐ。ただし、視線を外すことはしない。

 オレから言えるのはこれだけ。

 

「好きにしろ。お前達の好きな時まで、気が済むまで人間界で過ごせばいい。千年の絶望が完全に癒えることはなくとも、貴様の新しいパートナーがそうであるように、新しい絆を繋ぐことで得られる充足もあるだろう。

 あまり、見くびるなよ。オレはお前程度なら魔界に還さずとも封殺出来る。せいぜい仲良しの魔物同士で人間界の観光を楽しむがいい。ああ……この時代の人間も……きっと悪くないからな」

 

 厳しく、厳格に、こいつら千年前の魔物達にすぐさま帰れということは出来る。

 だが、したくない。せめて少しでも、この人間界でこいつらの心が救われてほしいと思ったんだ。

 オレにはデュフォーというパートナーが、レインにはカイル、ロップスにはアポロ、ガッシュには清麿が。戦い以外の時での暖かい時間がどんなモノかをオレ達は知っているし、沢山の大きなモノを貰っている。

 千年前の魔物達もパートナーとそんな関係を築いて、戦いとは別の時間を過ごせるのなら、それはきっと楽しい時間になることだろう。

 

 ビクトリームとモヒカン・エースが繋ぐ新しい絆を見ていると、オレはそう思った。

 

「かうぅ♪ かう!」

 

 声を出したロップスは、ビクトリームへと手を差し出した。

 ぽかんと表情を呆けさせたビクトリームは分からないらしい。

 

「ふふ、そうだね。ロップスはね、じゃあボクと一緒に少し旅行をしようよって言ってるんだ。これでもボクとロップスは世界中を旅していたから、キミたちが人間界で過ごす助けが出来ると思うよ?」

「かう!」

 

 手をもう一度振る。

 少しだけ迷ったビクトリームは、その小さな手を握った。

 

「ロップスと言ったか。お前は中々に強かった」

「かうぅ! かうっ! かうっ!」

「今度は負けないってさ。ボクも今度は負けないよ、モヒカン・エース」

「……へへ、オレと相棒は負けねぇよ」

 

 握手を交わす両者は、先ほどまで戦っていた相手とは思えないくらい穏やかに。

 

 千年の時を超えても繋がれるモノがあるのだと、その光景に胸が暖かくなった。

 

 不意に肩に手を置かれる。

 ゼオン、と。口の動きだけでデュフォーがオレに声を掛けた。

 

――保険を掛けろ。

 

 トントンと、デュフォーは二回頭を叩いてオレに指示を出す。

 

 一息。

 大きく息を吐いて空を仰ぐ。

 

「それがオレに出来ることか?」

「最悪のパターンまで想定しろ。ゾフィスは確実に焦っている」

「……パムーンは?」

「“答え”によると、敵ではあるがあいつの心に変わりはない」

「なら、ゾフィスの狙いはパムーンでほぼ決まりだ」

 

 ち、と舌打ちをするとデュフォーがくしゃりとオレの頭を撫でやった。

 

「救うモノが増えたが、行けるな?」

「言われずとも。オレを誰だと思っている」

 

 目の前で手を繋ぐVの魔物も、今は遺跡の中で堪えているだろう星の子も、そしてこいつらの友も。

 まとめて救えばいい。

 

「魔界の王となるこのオレが、臣下となるものの願いを叶えずしてどうする」

 

 あの男はその時に救えなかった。

 あの男は自分達だけでは叶えられなかった。

 あの男はオレ達千年後の魔物に託すしか出来なかった。

 

 ならばオレは……

 

――今、この時にこいつらを救うことが出来れば、あの男を一つ越えることが出来よう。

 

 それだけじゃない。

 パムーンもビクトリームも、レイラという魔物も……友を想う心を持つ魔物達ならば、間違いなくガッシュと仲良くなってくれることだろう。

 モニターでビクトリームのダンスに乗りたがってそわそわしていたガッシュの様子は見ていた。きっとガッシュは愛らしく踊ってくれるに違いないし、そういうガッシュと仲良くなろうとするだろう。

 

 一つ、一つとあいつの宝物を増やすことが出来る。

 

――その為ならば、オレはなんだってしてやるさ。

 

 

「するのは遺跡に送り返す最後でいい。まずは“バオウ”と“ダウワン・ベル”について聞いておけ」

「分かっている。おい、ビクトリーム」

 

 

 あまり時間はないからな。

 オレが声を掛ければ、ビクトリームがこちらを向く。

 

 あくまでもこいつを連れ出したのは最も重要な案件を聞き出す為のこと。

 千年前を長く戦い抜いたこいつならば……絶対に重要な情報は持っている。

 

 “泣き虫ベル”と呼ばれていた頃のあの男のこと。

 そして最強の術、バオウ・ザケルガについて。

 

 知っている全てのことを話して貰うぞ。

 

 

「貴様の望みは聞いた。次はオレが聴かせて貰う。我が父、ダウワン・ベル。そしてヤツが創り上げた最強の術バオウ・ザケルガについて、知っていることを教えろ」

 

 

 そう言うと、にやりと笑ったビクトリームは、即座にVの体勢になって答えた。

 

 

「いいだろう! メロンの種とシキブの恥ずかしい妄想本の完結版を手に入れる算段も立ったことだ。なんでも話してやろうではないかぁ」

 

 

 




読んで頂きがりがとうございます。

この物語のゼオンくんのオリ術。
「ジオルグ・マ・ジケルド」
操作系の“オル”を織り交ぜてます。語呂が良く感じたのでこんな術名に。
ジケルドの上位なのでぶっ壊れ術です。ゼオンくん自身に磁力を付けられたらもっとやばいことになりますがさすがにナシ。


V様とモヒカン・エースは友達想いなお話。
パムーンが対価を払ってモヒカン・エースが解放されてます。
此処からゼオンくん達には個別にパムーンとV様の心残りを晴らすクエストが開始されます。
元パートナーの書いた小説は読みたいよな(ニッコリ)

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

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