もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第四十八話:崩れた盤

 

 遺跡の中を皆で一丸となって突破。

 昨夜に清麿達の立てた作戦は狭い通路がほとんどの限定された空間ではこの上なく効果的なモノ。

 

 主な司令塔となるのは清麿。

 補佐の役割をするのはナゾナゾ博士とデュフォー。

 清麿とナゾナゾ博士は全体を見ながら。恵、フォルゴレ、リィエン、サンビームの四人に対して要所で指示を出して魔物達に対応していく。

 デュフォーはアポロに対して主に指示をしつつ、清麿とナゾナゾ博士が攻勢に転じている時の指示役を代わりに。

 

 敵との戦闘を最小限としつつ迷路のような遺跡の内部を進んでいくには、清麿が創り上げた地図は大きく役立った。

 不明瞭だった敵の回復効果を看破し、魔物達の置かれている状況を把握し、そうしてやっと決行するに至れる作戦により、彼らは心の力の消費を抑えて進撃していく。

 

 ティオは敵の攻撃を逸らし、受け止め、仲間全てを護れる万能の盾役として。

 キャンチョメは敵の目を騙して戦闘なく戦闘を失くせる優秀な伏兵として。

 ウマゴンは敵の出鼻を挫き、攪乱と陽動を熟しつつも奇襲を仕掛けられる先駆けとして。

 ウォンレイは自前の術と体術によりどんな敵相手でも効果の残せるアタッカーとして。

 キッドは高火力と多彩な術、そしてナゾナゾ博士の指示によって皆を支える中衛として。

 ロップスは変幻自在の術効果によって万事に対応し、不意打ちなどから皆の後背を護りきる後衛として。

 

 そしてガッシュは……

 

――大きな意思の炎と優しき想いにより皆を牽引し、決して折れることのない心を清麿と重ねて状況を切り拓いていく万能アタッカーとして、か。

 

 全体を見ながらデュフォーは思考する。

 

――ゼオン程に攻撃系統の術が充実しておらず、バオウの封印によって術自体の威力も下げられている。それでも戦局を代えられるのは清麿の力とその心の強さが大きいか。

 

 此処にいる魔物の全員が優しい心を持っているのはデュフォーも理解している。

 その中でもガッシュが抜きん出て強く優しい心を持っているのだ。

 

 イギリスの森で出会った時からそれは感じていた。

 ただ……心の芯にその芽が出ていようと、それを成長させることが出来たのは別の事象あってのこと。

 

 隣で戦うパートナーの存在と数々の出会いこそが、魔物を成長させていく。

 

 いくつもの戦い、そして出会いと別れを乗り越えてきたのだと、“答え”が出る。

 淡泊な回答だけでは表せない大きな経験の数々があったのだろうと予想出来る。

 

 肩を並べる友であり、背中を任せる戦友であり、そして己を支えてくれる家族のようで……。

 

 言葉を交わさずに通じ合う素晴らしいコンビネーションを見せる清麿とガッシュの背中を見て、デュフォーは少しだけ頬を緩めた。

 

――いい出会いが出来てよかったな、ガッシュ。

 

 記憶を失ったガッシュのことを案じていたのは他ならぬゼオンだ。

 誰かもわからないモノから無差別に攻撃され、自分が何者かもわからないまま戦い続ける地獄。

 しかしどうか。今の彼らを見て分かる。二人で力を合わせてあらゆる苦難を乗り越えんとするその姿は、まさしく……“誰か”と被るのだ。

 

 性格や実力、生い立ちや抱える想いの違いはあれど、認め合ったパートナーと共に戦う彼はきっと……

 

――ああ、間違いなくガッシュはお前の弟だ、ゼオン。本当にいいコンビだ。

 

 ハイタッチをした二人が見えた。

 じく、と心に感情が滲む。

 

 その時少しだけ、デュフォーは羨ましく感じた。

 喜び、哀しみ、苦悩、怒り……多くの感情をガッシュと共有して共に成長していく清麿という少年に僅かな羨望を抱いたのだ。

 

 デュフォーはまだ感情が薄い。

 ゼオンと過ごしている日々によって少しずつだが感情を取り戻していっているが、清麿のようにガッシュと感情の共有をするようなことが出来るわけではない。

 

 笑い合う二人に結ばれた絆が、とても眩しく感じた。

 レインやロップス達が絆を結びなおしてきた時に、いいな、と感じていた底に在ったモノはきっとコレだ。

 デュフォーは思う。

 

――そうか……オレは……

 

 ふるりと頭を振る。

 

 横で見ていたアポロがデュフォーの感情の動きを感じ取って心配そうに見ていた。

 

「……彼とも一緒に戦えたらよかったのにね」

「今回の戦いで敵の動きに大きく関与できるのは一度だけだ」

 

 少し迷ってからアポロが口にした言葉に対して、デュフォーは是を返すのも否を返すこともせず。

 アポロが何を言いたいのかは分かっていたが敢えて話を変えることにした。

 

「この後の清麿達の戦闘状況はパターンEになる」

 

 夜に答えを出す者(・・・・・・)を駆使して立てた計画を頭に浮かべ、清麿達が考えた作戦内容に重ねて言う。彼は現在の敵と味方の状態を読み取って返答を行う。

 

 自分達が快進撃をしている。そう思ってしかるべきのいい状態が続く進軍により、皆の頭の中には少しの余裕が生まれている。

 余裕と油断は紙一重。いい状態のままが続けばいいが、敵が策を弄してくることなど当然。そこで、清麿達は最悪のパターンまで考えていた。

 

 彼らの作戦を補強する意味でもこの後のことに対して敵の状態を把握しデュフォーの出した“答え”は、彼らが考えていた五つのパターンの中でも最悪のEになると出た。

 

――問、月の石の間へとたどり着く為にパターンEを回避する方法。

 

(答、数体の魔物の犠牲により可)

 

 すぐさま却下。出た答えを否決した。

 

――問、パターンEに陥った場合、敗北の可能性が出る進路は? 複数ならば最も勝率の低いグループは?

 

(答、三組全て。最も敗北の可能性が高いグループは最前を進む清麿が選ぶ通路。勝率は10パーセント)

 

――問、アポロ・ロップスペアを清麿グループに割り当てた場合の全体の勝率。

 

(答、清麿グループ:45パーセント。恵グループ:40パーセント。キッドグループ:50パーセント)

 

 並べ立てた問いの答え全てを思考に取り込む。

 

「……それを清麿達に伝えても?」

 

 その最中に目を細めたアポロが問えば、

 

「いや、いい。肉弾戦により傷つきやすいウォンレイにはティオが、変幻自在の術を扱うキャンチョメにはナゾナゾ博士と共に火力を出せるキッドが、ガッシュには高速戦闘での補助が出来るウマゴンが組むと決まっているだろう?

 オレによって情報を知られているとゾフィスに悟らせては厄介な魔物達を複数当てて来る可能性が出てくる。この先の一本道に恐怖しながら進んではこちらの方が情報を多く得ていることがバレてしまう。敵の行動から不可測を失くす為には下手な演技をさせるわけにはいかない」

 

 敵を騙すにはまず味方から。

 デュフォーはそう言って首を横に振った。

 

「それは……うん……」

 

 危険を事前に知らせることがいいことばかりではないと言っている。

 呑み込むことは難しいが……アポロは苦い顔をしながらも頷いた。

 

「お前達はガッシュ達の補佐に付け。先陣を切るガッシュとウマゴンのペアが行く道こそ、最も過酷なモノになるだろう」

「分かった。キミがそう言うのなら従おう」

 

 走りながら言うデュフォーに是を示せば、肩に乗っていたロップスがデュフォーの肩へと飛び移った。

 

「かうぅ?」

 

 不安そうに声を出したロップスがいいたいことをデュフォーは読み取る。

 長い付き合いだから、アポロもその意味を理解した。

 ハッとした顔になって彼は尋ねる。

 

「キミはどうするんだい?」

 

 ただ一人パートナーの居ない彼は、パターンEであってもアポロと共に行動する予定であった。

 しかし違うのではないかとロップスは予想したのだ。

 

 その予想が正しかったのだとアポロとロップスは彼の反応から確信した。

 声を上げそうになった所をすっと手で制されて、ロップスは優しく抱き上げられ、アポロへと返される。

 

 少しの間をあけてデュフォーが返した答えは――

 

「心配しないでいい。オレ達の協力者の魔物とそのパートナーに貸しを作ってあるから、それを使って面白いことをするつもりだ」

 

 返されたのは意味不明なモノ。

 しかして、デュフォーの心があまり動かないのは知っているアポロではあるが、彼の心に喜色が滲んでいることを読み取った。

 笑いはしないが、まるで悪戯を仕込んでいる子供のようだった。

 

 

「よく見ておくといい。ゾフィスの度肝を抜いてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数多の戦闘の末、遺跡の深部へと辿り着いた清麿達の目の前に現れたのはとてつもなく長い階段。

 幅は二メートル程。両端は断崖。下は見えない程の暗闇。

 

 ゆっくり、ゆっくりと彼らは足を進め始める。

 

「ウム、ここまでは順調にこれたな」

「ええ、チームワークの勝利よ!」

 

 安堵した声が聞こえてくる。

 階段の恐ろしさに震えながらも、フォルゴレ達もどうにか上り始めたようだ。

 

――確かに上手く行ったが……上手く行きすぎている気がする。

 

 チラリ、と清麿はデュフォーとアポロを確認した。

 不思議な力を持つ彼らなら、何か気付くことがあるのではないかと思って。

 

 最後尾にてひらひらとアポロが清麿に手を振る。

 デュフォーはいつも通りの読めない表情で断崖の向こうにある幾つかの通路を見比べていた。

 

――魔物の追撃は無い。追いかけて来られたら厄介だったけど、進む時に道を塞いだことが利いたみたいだな。問題はあの通路達……デュフォーが警戒してるのはそこからの奇襲にか?

 

 例えば空を飛ぶ魔物。例えば遠距離射撃の術を持つ魔物。

 此処でそういった魔物に襲われては危険だと清麿も分かっていた。

 だが、上階へと続く道は此処しかない。自分達の目的を達成するには避けられぬ道だった。

 

「清麿ぉ、こんな道しかないのかい??」

 

 ガクガクと震えながらキャンチョメが言う。

 

「ああ、城は王様の住む所だからな。この遺跡では、王族など……選ばれた人達以外は、たやすく通れない仕掛けになってたんだろう」

 

 説明を並べた時に、ふっと、デュフォーが息を吐いた。呆れのような……そんな吐息を。

 

「そのとおり……キミたちが通っていい道ではないのです」

 

 しとり、と湿り気を帯びたような嫌な声がした。

 嘲笑うようなその声の方へと顔を向けると……宙に浮く魔物の子が一人。

 

「何!?」

 

 音はなく、気配もなく現れたそいつに対しての驚愕の声が上がる。

 

「貴様は!?」

 

 にやりと意地悪い笑みを浮かべたまま、その魔物は己が何者かを語り始める。

 

「私はゾフィス。この城の……千年前の魔物を支配する者」

 

――こいつが!?

 

 敵の総大将自らの登場に清麿は少しの驚きに口を閉ざす。

 

「あなた方の動きは見させて貰いました。他の場所からの侵入者が居ない所を見ると……どうやら他に遺跡内部へと侵入した仲間は居ないようですね」

 

 情報は筒抜けであると口にするゾフィスは、それを教えようともはや不利は起こり得ないと確信を持って。

 

――見られてた!? オレ達に必要以上に魔物が集まらなかったのも……全ては他に仲間がいないかを見極める為……全てはヤツの思惑通り……

 

 やばい、と。清麿は瞬時に悟る。

 覚悟はしていた。

 遺跡の見取り図を作成し皆で作戦を立てた時から、此処で戦闘になることが一番の難所だと見定めてもいた。

 作戦は幾重にも立ててある。大量の魔物に追いすがられることも、上部の魔物に挟み撃ちされることも、そうしてこの階段を……壊される可能性も。

 しかしこうして危機的状況に実際に陥ると、それが本当に上手くいくかどうかの不安が胸に沸いてしまう。

 

 それでもと、清麿は不安を押しのける。

 どうすれば生き残れるか、どうすれば此処を突破できるか、どうすれば目的を達成できるかに思考が集約されていく。

 

――“答え”を弾き出せ! 何個も、何十個でも、何百個でも! 何が起ころうと思考を止めるな! 大切な仲間達を護る為に出来るのは、それだけだろう、高嶺清麿!

 

 清麿の脳内では瞬時に数多の生存パターンが駆け巡り始めた。

 

 すっと、ゾフィスが行動に移った。身構えたのは一瞬。

 ポケットに手を入れたままで、のんびりと一人が声を上げた。

 

「久しいな、ゾフィス」

 

 上げようとしていたゾフィスの手がぴたりと止まる。

 階段を上る全員を見回した時、視界の端に留めて置きつつも決して目を合せなかった相手からの声により、返答せざるを得なくなった。

 

「フフフ……あの方が居ないのならば語ることなど何もないと思っていましたが……まさかそちらからお声が掛かるとは。ええ、お久しぶりですね、メッセンジャーのパートナーさん」

 

 嘲笑を浮かべつつも、ゾフィスの空気が僅かに変わった。

 デュフォーが言葉を投げて広がる波紋はいつだって突然だ。清麿はそのやり取りを聞き逃すまいと意識を尖らせる。

 

「一度だけの干渉と言ったのは確かにあの方の方ですがね……まさか人間のあなただけで助力を行うとは思いませんでしたよ?」

「ああ、そうだな。あいつが直接お前の邪魔をするのは一度だけだ」

「おやおや、ならこれはどういうことですかねぇ?」

「“オレが”こいつらの助力をしないとも、あいつが陰でこいつらのサポートをしないとも言っていない」

「あの方は、私の配下であるビクトリームと戦闘しているではありませんか?」

「“直接的なお前に対する邪魔”はしていない。甦った魔物達のうち、千年前の戦いで最も長く生き残った魔物と戦いたいとあいつが言った、それだけだ。だからお前の元に返してやっただろう?」

「……小狡い屁理屈を」

「お前、面白いな。お前が他人に狡いなんて言葉を使うのか」

 

 ビシ、と空気が張り詰める。

 確かにそうだなと、其処に居る全員がデュフォーの言葉に対して思った。

 

 頬を引くつかせたゾフィスに対してデュフォーが言葉を続けて投げる。

 

「面白いが、頭は悪いな。お前がオレの前にこうして姿を見せている間に……あいつが誰と打ち合わせをしていると思う?」

 

 しん、と静まり返る場。

 歯を噛みしめる音が少し響いた。ゾフィスから聞こえたその音に、デュフォーはため息を吐き落とす。

 

「自分達に物量があると考えて全てに対して消耗戦を選択したんだろう? パムーンと他の二体を近くに配置してあるのは不可測の事態への対処だろうが、お前が警戒しているあのペアに主戦力をぶつけなかったのは悪手だ。

 あまりあいつらを舐めない方がいい」

 

 あのペア、という言葉で清麿の頭に浮かんだのはブラゴとシェリーの姿。

 ナゾナゾ博士の話の通りに、此処でゾフィスと戦う為に向かってきているのだと少しの安堵が生まれた。

 

「……舐めてなど、いませんとも」

「そうか。なら、お前の戦略的な計算が足りていないだけだな」

 

 ビシ、と空気が割れるような音がした気がした。

 ゾフィスの怒りにガソリンをぶち込むようなデュフォーの発言はまだ続く。

 

「他人の心を単純に操ることは出来ても、格下の魔物達が起こす不可測の事態が起きるだけで盤面を操ることは出来なくなる。その程度がお前の軍略家としての限界だ」

「……」

「感情が無い駒と恐怖で縛られた駒しか操れない軍師は、ただ盤上の遊戯をしているに過ぎない。人間の戦争は大抵が冷たい計算の上で起こるモノだが、戦争の中には得てして大きな感情のうねりによる不可測が付いて回る。そういうモノを起こすのはいつだってこういった優しい奴らだ」

 

 清麿の背中と、ガッシュの頭をポンと優しく叩いた。

 

「大きな想いが戦いを動かす。魔物の力は、想いの力によって強く大きくなるんだ。それをあまり舐めない方がいい」

「ふ……フフフ、逆もまた然りでしょうに? その想いとやらが弱った時、人間も魔物も脆弱に膝を付くのです」

 

 自信をもって語るゾフィスの言葉に清麿達は言い返そうとするもデュフォーが背中を叩いたことで留まる。

 

「恐怖に支配され、その恐怖から逃れんとする死兵が道を切り開くこともまたある。感情の無い駒でこそ創り上げられる理想の盤面も存在する。貴方如きには分からないのでしょう」

 

 言い返された論に、デュフォーは鼻を小さく鳴らした。

 

「理想の盤面か。お前にソレが作れると思っているわけだな」

「ええ。そうですとも。今この状況も当然に……私の計算通りなのです」

「今からお前が起こすことも、その後の状況も、お前の掌からは出ないと、そう言うんだな?」

「……何がいいたい?」

 

 わざと区切って煽るように確認するデュフォーに向けて、苛立ちを浮かべて尋ねた。

 

 そんなゾフィスに向けて、デュフォーはぴたりと指先を向けた。

 

「断言してやろう」

 

 わなわなと震えているゾフィスに向けて言い放つ。

 

「この戦いの最後で、お前はお前自身が軽視した“想いの力”に負けることになる。そして今からお前は、オレの描いて来た絵図の通りに……間抜けな顔を晒すんだ」

 

 

 

 ぶちり、と怒りの尾が切れた音が聴こえた気がした。

 

 

 憤怒の表情へと変貌したゾフィスが、掌を階段へと向けて大きく怒鳴った。

 

「ほざけぇ!!! 惰弱な人間風情がぁ!!!」

「ラドム!」

 

 

 声は同時。

 爆発の術が階段へと放たれた。

 

 デュフォーが長々と話していたことで警戒と覚悟を決めていた全員が、次の作戦の為にと行動を開始する。

 

 崩れていく階段は、奈落の底を思わせる暗闇に向かい落ちる。

 

 リィエンを背中に乗せたウォンレイがティオと恵を担いで一つの通路へと飛び移り。

 グライダーへと変化したキャンチョメがナゾナゾ博士とキッド、フォルゴレを連れて別の通路へと向かい。

 ゴウ・シュドルクで強化されたウマゴンがサンビームと清麿。ガッシュを運んで最上部の通路へと走りだす。

 

 そしてアポロとロップスは……

 

「リグロン!!」

「何が起こるか分からないけど! それまではキミを護るよ、デュフォー!」

 

 ロープでデュフォーを掴んで、彼の策が発動するまで待とうとした。

 しかし、

 

「ロンド・ラドム!」

「なっ」

 

 宙を這い寄る爆発の鞭が、ロップスのロープを吹き飛ばした。

 

「させるわけがないでしょう? ビクトリームの記憶を見た限り、貴方たちがこの男と連携を取るのも、一番の障害であるのもわかっていました。この男さえ殺せば……メッセンジャーもしばらくは無力になる」

「デュフォー!!」

「いいのですか? まだ術は……続いていますよっ!」

「かうっ!?」

 

 ゾフィスの操るロンド・ラドムがアポロ達へと向かい行く。

 それ即ち、デュフォーが階段と共に闇へと堕ちていくことに他ならない。

 

 空中で始まった戦闘。にやりとゾフィスは勝ち誇る。

 

「おやおや! あれだけ大口をたたいておいてそれですか! さあ! 無様にパートナーを呼んでは如何です! そうなったとしても私の掌の上なわけですが!」

 

 大きな声で、堕ちていくデュフォーへと声を投げた。優越感に浸って引き裂かれた口を見ながら、デュフォーは変わらない表情のままで闇へと向かう。

 

 通路へと辿り着いた全員が、コトを理解して叫びをあげる。

 

「デュフォー! デュフォ―――!!!」

「ふふふ、叫んでも無駄です。万が一の為に下にはパティとビョンコ、そして奈落の途中にも複数の魔物を控えさせてますからね。あの男は絶対に逃がしません」

「くそぉっ! くそぉぉぉぉぉ!」

「清麿! ラウザルクを! 私が助けに行くのだ!」

「ダメだ……今からではとても……」

「ウヌゥ……おぬし、なんてことを……絶対に、絶対に許さぬぞ!」

「いい表情ですねぇ。シェリーを絶望させる前の前菜に丁度いいお顔ですよ、フフフフフ」

 

 にやにやと嗤うゾフィス。

 皆が一様に怒りを向けるも闇の底へと消えたデュフォーは戻ってこない。

 

 あっさりと一人の仲間が命の危機に瀕している。

 何が悪かった。誰が悪かった。そんなことを考えることなどしてはならない。

 打開策をと考えた時に、空中で体勢を整え始めたアポロから声が上がる。

 

「ボク達が行くっ! 先に行っててくれ! 必ず助けて来るから!」

「バカですかあなた達は。この私がむざむざと行かせるとお思いで?」

「くっ……そこを……どけぇ!」

「弱い人間風情が魔物のパートナー無しに私にたてつくからこうなるんです……よっ」

 

 目の前へと立ちはだかり、ひゅんひゅんと空中を自在に移動したゾフィスが、デュフォーを追おうとして戦闘への意識を集中しきれていないロップスとアポロの背後へと辿り着く。

 

「ラドム!」

「あなた達も仲良く此処で落ちるといい!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

「かうぅぅ!」

 

 吹き飛ばされる先は清麿達の方向ではあれど、通路からは十数メートル下の位置。

 力無く下を見て、彼は己の勘が告げる何かを感じ取る。

 

 自分よりも圧倒的に優れた実力を持つ彼がこんなあっさりとやられるか……否。

 彼とあの恐ろしくも優しい魔物が組んでいるのに、今の状況で自分達が焦る必要があるか……否。

 

 彼とあの魔物なら、窮地になる前に当然のように勝利を手にする次の手に移っている。

 彼とあの魔物なら、ゾフィスのような敵に無様を晒すことなどない。

 

 そして彼とあの魔物なら……弟の前で敗北を見せるような、かっこ悪い姿など決して見せることなどない。

 

 故に、と。

 

 其処で漸く意識を切り替えた。

 

「ロップス!」

「か、かう」

「彼は、大丈夫だ! 絶対に!」

「かう!!」

「じゃあボク達のすることは、一つだ!」

「かうぅ!」

「リグロン!」

 

 ロープは一つの通路へと向かう。

 その意図を理解した清麿とガッシュは、二人を迎え入れる為に手を広げた。

 

「合流などさせませんよ」

 

 追撃を放とうと、ゾフィスが掌を向ける。

 アポロとロップスの実力を知ったゾフィスは、例えその通路の先に最優の千年前の魔物が待機していようとも、此処で敵の戦力の大きな一つを削り精神的に追い詰める選択肢を取ることにした。

 

「一組だけでもここで消えて貰いましょう、あの男のように」

「……あの男とは誰のことだ」

 

 アポロ達だけでもここで落としてしまおうとしたゾフィスの思惑は、後ろからの不可測の声によって潰えることとなる。

 

 な、と口にする声が幾つか。

 ゾフィスの勝ち誇った笑みが凍り付いている。

 

 勢いよく振り向いた先で……デュフォーが何かの上に立っていた。

 

「あ……あれは……」

「なんじゃ?」

「さ、魚?」

「あれってガッシュがよく食べてるやつじゃない……?」

「なんでブリなんだ……」

「う、ウヌゥ?」

 

 

 全員が困惑の言葉を並べる。

 それもそのはず。

 ゾフィスの後ろにいるデュフォーは、尻尾から何かをジェットのように噴射させて浮いているブリに乗って現れたのだから。

 

 パシャリ、とデュフォーが手に持った何かの端末でシャッターを切った。

 

「どうした。笑え、謀士気取り。笑いが引き攣ってるぞ? お前の用意した盤面なんだろう?」

 

 ボボボと少し間抜けな音を出すブリの上、デュフォーがじっくりとゾフィスを見下す。

 

「ブリじゃダメだったか? マグロの方が好みだったか? 本当はあいつの好物のカツオが良かったんだが、オレが乗れるように改造させるのが精いっぱいだったんだ。すまないな」

 

 いやいやと突っ込みたい衝動を抑えて清麿はコトの成り行きを見守る。

 ガッシュが少し羨ましそうにデュフォーを見ていた。きっと、いや絶対にアレに乗りたいと思っているのが見て取れる。

 

「次はどうなるんだ? オレがブリに乗って現れる。お前の次の行動は? その次はどうなる? 言ってみろ」

 

 ハリーハリーと急かすように言葉を並べて行けば、ゾフィスの顔がみるみるうちに怒りへと染まっていく。

 

「渋い面だな。どうした、笑えよ軍師様。好みの展開じゃなかったか。お前が用意したはずなのに」

「ぐぎ、き、貴様……」

 

 また、パシャリとデュフォーがシャッターを切った。

 

「どうやら、オレの描いて来た絵図の通りになったようだ。お前は無様な間抜け面を全員に晒している。ブリ一匹に盤面を崩された気分はどうだ」

 

 我慢の限界だと、ゾフィスが掌を上げた。

 同時、デュフォーはポケットの中からリモコンのようなモノを取り出してレバーを引く。

 

「死ねぇ! クソ人間がァ!」

「ロンド・ラドム!」

 

 爆発の鞭を出して確実に攻撃を当てようと考えたゾフィスに対して、リモコンを操作してその鞭の動き全てを華麗に避けていくデュフォー。

 

 あまりにも可笑しくなってしまったその場に、全員がぽかんと口を開けるしかない。

 

「清麿、加勢を……っ。今ならゾフィスを叩けるかもしれない」

「お、おう。そうだな!」

 

 敵の総大将が此処にいるのだ。この好機を逃す手はない。

 アポロの言葉に気を取り直した清麿と、他の皆も本を開いて行く。

 

 その直後、ぞくり、と。

 アポロの背筋に嫌な予感が走った。

 

「邪魔なぞ、させるかぁ!」

「ディガン・テオラドム!」

 

 大きな三つの爆炎がゾフィスからそれぞれの通路へと放たれる。

 

「この術を受けて生き残れるか! 生き残れても進んだ先で絶望するがいい! そうして最後にこの人間の死体の前で、仲良くてめぇらもいたぶってやる!」

 

 受け止めても弾いても通路は崩れてしまう威力の術を前に、清麿達の選択肢は一つしかなくなった。

 

 術の奥。ブリに乗って宙を駆けるデュフォーと目が合った気がした。

 

 口の動きは、一言だけ。

 

 行け、と。それだけ。

 

 最後に見えた彼は、ガッシュに向けて今まで清麿達に見せたことのないような柔らかな表情を浮かべ。

 

 サンビームとウマゴンに捕まえられて退避したガッシュと清麿は、崩れた通路の瓦礫を少しの間、眺めることしか出来なかった。

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。


使えるモノはブリでも使うデュフォー。
ゾフィスくんわからせその一。

此処からデュフォーは別行動になります。


これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

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  • リオウ
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  • ファンゴ
  • カルディオ
  • チェリッシュ
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  • ロデュウ
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