もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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遅くなり申し訳ありません。
パソコンの復旧が出来ましたので投稿を再開します。


第四十九話:先延ばしの答え重ねて

 

 その少女――パティの目の前に広がる光景はまさしく悪夢と言ってよかった。

 

 彼女も、隣にいるビョンコも、すぐそこで繰り広げられている出来事に震えることしか出来ない。

 

 ゾフィスからの指示は一つ。

 侵入してきているリエムのパートナーを確実に殺すこと。

 

 遺跡の王室へと続く階段の遥か下に位置するこの場所は、罪人や侵入者を処刑した後に処理する場所でもあり、地上と比べても地下に位置している。

 

 先のパムーンとリエムの戦闘を見ていたゾフィスは、彼女が座標移動を使える魔物であると知った。

 この場所であれば地上とは違うので座標の指定は難しく、さらには月の石の欠片を定位置に設置することで魔力阻害の役割を果たす空間を創り上げていた。

 

 デュフォーが本当のピンチだと察して呼べば、彼女はすぐにでも来るだろう。だからこそそれが出来ないよう、当然の準備をゾフィスは怠らなかったのだ。

 

 通常の魔物の規格であればゾフィスの目論見は成功していた。抜け目なく見積もりに余裕を持たせ“あの時に見たリエムという魔物の魔力量の倍程度”であれば対処できたはずだった。

 パティもビョンコもその説明を聞いて安心を得たし、千年前の魔物達をいとも容易く倒していたあの魔物がこれないのならばとこの汚れ仕事を引き受けた。

 

「ば、化け物ゲロ……」

 

 ぽつりと零された声。

 カタカタと震える二人の目の前では、屈強な千年前の魔物達が全て倒れていた。

 

 それが起こったのはついさっきのことだ。

 

 

 

 

 

 魔物リエムのパートナーが落ちてくる時を今か今かと待ち構えていた時分に、大きな轟音が鳴り響いた。

 ゾフィスが侵入者たちに攻撃した音だとすぐに身構えるも、落ちて来たのはターゲットの人間ではない別の存在。

 穴の中でも一番上で待機していた魔物が上から落ちて来たのだった。

 くぐもった声で呻く魔物に近付く間もなく、そこからは次々に上から順に待機していた魔物達が降ってくる。

 数は七体。

 それぞれが動けない程のダメージを受けて蹲って、遅れて白い布に包まれた何かが落ちて来た。

 

 開いた中からは戸惑ったままの人間が七人。千年前の魔物達のパートナーであった。

 

 白い布はそのまま屋根のように広がっていき視界を塞ぐ。僅かに雷の魔力を帯電していた。

 

 異常事態の中に最後にひらりと降り立った少女の魔物は、ゾフィスの見立てであれば此処に来ることが出来ないはずの存在。

 パティとビョンコを一瞥した彼女は、ふんと小さく鼻を鳴らしてからにやりと笑った。

 

「ゾフィスのヤツに伝えておけ。貴様程度が準備する魔力阻害障壁はこのオレの魔力の前には紙切れに等しいとな」

 

 轟、と。

 彼女の身から魔力が溢れる。

 

 パティとビョンコが見たこともないような大きな魔力の奔流に、二人は息をすることすら出来なくなった。

 

 興味をなくしたように振り返った彼女は、立ち上がりつつあった千年前の魔物達へと向き直る。

 

「オレこそが“貴様らを救わなかった”魔界の王、ダウワン・ベルからの使者である。

 怒り、憎しみ、妬み、嫉み、苦しみ、絶望……貴様らの持っているありとあらゆる負の感情をオレにぶつけて来い。貴様らの境遇には同情するが、ゾフィスに与して行っている悪事は好きじゃない。

 負の感情を持つから悪事を行っているというのなら、貴様らが溜めて来たその感情は余りにもくだらないモノだと唾棄し、侮蔑する。

 だからオレは貴様らが宿す千年の絶望を……一分で踏み越えてやる」

 

 

 其処から怒りに猛った千年前の魔物の咆哮から戦いが始まった。

 

 僅かな時間。

 たった一分という縛りを設けた彼女の言葉に、やってみせろと彼らが吠えた。

 

 ギガノ級の術が同時に放たれた。前のように避けるのか、術の発動していない状態でどう対処するのかと息を呑む。

 しかし少女はビョンコもパティも予想だにしない行動を起こした。

 

 ぶつかる。そう思った一瞬のこと。たった一度、マントをはためかせた。

 

 ただそれだけ。

 

 たったそれだけの所作で、千年前の魔物達の術は全て……弾かれてしまった。

 

 あんぐりと口を開けたのは二人だけではない。呆けた魔物の一体は、まるで瞬間移動したように接近した少女に為す術なく頭を掴まれた。

 

「どうした。魔界の王の……あの男の術はこんな埃を巻き上げるだけの術ではなかったぞ。貴様らの千年の怒りはこの程度か? こんな弱い術では魔界に戻ってもあの男にキズ一つ付けられんが?」

 

 ぶんと放り投げ、わざと怒らせるような言葉を投げる。

 また怒気を膨らませた千年前の魔物達が術を放つも、ただの一度だけマントを翻す動きで弾く。

 上位の術で肉体強化をした魔物が二体、少女へと接近するもマントが少し動いてその動きを捕まえる。

 地面に引き倒して、彼女は二体の重ねられた腕の上に足を乗せる。

 

「威力は上がったがこのマントすら抜けないようだ。肉体強化も……オレの足すらどけられないらしい。二度も全力を尽くせる機会をやったんだ。貴様らの底は知れた」

 

 言葉の後、鈍い音が鳴る。

 遅れて上がるのは悲鳴。痛々しい声は何かが壊された証左。

 

 まるで容赦もなく、慈悲もなく、少女は肉体強化の術で強くなっている魔物二体の腕を蹴り折ったのだ。

 あらぬ方向に曲がった腕を掴み、捩じりあげ、彼女は二体の魔物と目を合わせる。

 

「オレはオレの大切なモノが暮らすであろう未来の魔界に於いて、悪事を行うモノは許さん。弱者を虐げ、操るような下衆は必ず報いを受けさせてやる。

 非道で結構。オレの往く道の先にある笑顔の為ならば」

 

 そう言い切った直後に蹴りを叩き込んで吹き飛ばした。

 攻撃を喰らった二体は完全にのびてしまった。

 

 焦りと恐怖の混ざった顔をした他の魔物達は、術を放とうと構えるももうそこには少女は居なかった。

 

 一、二、三と……気付かれることなく移動した彼女は残る全員をマントで包み、その場所の中央へと貼り付ける。

 

 マントに込められた魔力は多少の術ではびくともしない。

 使い方によってディオガ級の術ですら防ぐ彼女のマントは、その場にいる魔物の誰も止められるモノではないのだった。

 術を使おうとした人間達もついでとばかりに拘束し、口をマントで覆って端へと追いやった。

 

「そろそろだ。その魔力量と操作技量があるのなら死にはせんだろう。頑丈な身体に生まれたことを喜べ。だが……少しは痛いと思うぞ」

 

 もがいても足掻いても彼らが拘束から出ることは出来ず。

 一分だ……という声と共に大きな音が上で鳴った。

 

「今、ゾフィスが階段を落とした。オレ達魔物にとってたかだか石とはいっても、あの高さから落ちてくる質量だ。相応のダメージになるだろう」

 

 小さな悲鳴が複数。

 あと数秒で石の塊がいくつも落ちてくる。逃げようと必死になっても動くことが出来ない。

 その恐怖こそが彼女の狙い。

 

「貫通はしないようマントの魔力防御を操作して守ってやる。ディオガ級の術を喰らうよりは痛くない。オレやオレの友の全力の拳を喰らうよりはマシさ」

 

 にやりと笑いつつ言う彼女に、それぞれの魔物達がぞっとした。

 背を向けてその場からパティとビョンコの方に向かい歩き出す。そうして……轟音を立てて階段の残骸が降り注ぐ。

 

 悠々と歩いてくる彼女の後ろ、土埃が収まった頃には千年前の魔物達は立つことも出来なかった。

 

 化け物、と零したビョンコに向かって彼女は言う。

 

 

 

「クク……オレには貴様らの方がよほど怪物に見えるけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パティという少女にとって、魔界で生まれた時からずっと世界は自分の為にあって当然なモノだった。

 蝶よ花よと育てられ、欲しいモノはいくらでも手に入り、争いとは無縁の箱庭の中で暮らしてきた彼女はまさしくお姫様であったのだろう。

 

 そんな彼女の前に現れた運命の人は、プライベートエリアで誰に憚れることなく魚を捕まえて食べていた逞しい少年。

 

 野性味の溢れるその姿、勇敢な目、キレイな髪。

 

 ガッシュ・ベルと出会ってしまった。

 

 その時のガッシュは兄と出会い、生きる気力を取り戻し、友を手に入れ、気力に溢れる時である。

 

 必ず迎えに来ると言った兄の言葉を信じて、充実の日々を過ごしていた彼は、きっととても眩しく見えたことだろう。

 まさしく文字通り一目惚れをした彼女は、いくつもガッシュにアプローチをした。見えない所で手を振って、垂れ幕で挨拶をして、大道芸で想いをアピールした。

 そしてプレゼントを受け取ってもらった日、これが恋の実りだと彼女は思ったのだ。

 魔界の王を決める戦いで人間界での再会はきっとロマンチックになる。敵同士でも、自分が負けてもいいと思う程に焦がれてしまった。

 

 そんな彼女に待っていたのは、恋人――だと勘違いしている相手に覚えられていないという衝撃。

 

 まだまだ幼い心を持つ彼女には、初めて外で出会ったとても素敵な人に忘れられたことはとても耐えがたい裏切りだった。

 加えて、箱庭で大切に大切に育てられてきたお姫様な彼女は、世界が自分の思い通りになると思っていたから……わがままで世間知らずな彼女には悪の道に外れることも選択肢に入ってしまった。

 

 貴金属を盗んだり、甘いモノを盗んだりと、自分の欲しいモノが手に入って当然だと思っていたことからも、彼女が善悪の区別を付けられないただの子供と分かる。

 

 魔界貴族それぞれによって教育の質は違うが、彼女の家はパティに対して甘すぎた。

 

 せめて道を外れないように教育していれば……ガッシュから避けられることもなく、少しは近づけたかもしれない。ガッシュと恋仲になるような、そんな思い通りになる道筋が出来たかもしれない。

 

 ガッシュのことを子供ながらに愛している彼女の想いが、再度伝えられる機会を得られたかもしれない。

 

 

 彼女はきっとこれから、世界は決して思い通りにならないことを理解する。

 

 

 もっとも、

 

 

 ガッシュ・ベルのことを世界で一番愛している兄をどうにかしない限り、誰であろうとガッシュを思い通りに出来るわけがないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 呆れたように、ゼオンはため息をつく。

 畏れも、恐怖も見て取れる。今すぐ逃げ出したいと目が語っていた。

 

 震えて逃げられない二人を前に、ゼオンはぴたりと立ち止まった。

 

「デュフォーが下りてくるまでもう少しかかるから、少し話をしようか」

 

 翡翠の瞳の奥に揺れる紫電は、視えていなくとも威圧を含んで届けられる。

 カタカタと震えるパティは声も出せないようだった。

 

「おい、ビョンコとか言ったか? 千年前の魔物達を連れて上の階へ戻り始めろ。魔界貴族の末裔であるこいつとは一対一で話さねばならんからお前は邪魔だ」

「ゲ、ゲゲゲ、ゲロッパ……」

「なんだ? ああ、燃やしてやってもよかったが少しくらいは意識の戻った人間と話す時間を設けさせてやりたいから今は見逃してやる。改心しないなら後でオレかもう一人が燃やすだけだ。どのみち今日が終わればゾフィスの野望は全て潰えるのだから」

 

 取るに足らないことだと言い放ってもう行けと手を払う。

 急ぎ、千年前の魔物達をどうにか立たせて誘導していくビョンコをもう視ずに、パティのパートナーである人間――ウルルに話しかけた。

 

「人間。お前も邪魔だが、こいつのパートナーだからな。安心しろ。今すぐにこいつを魔界に還したりはしない」

「……」

 

 警戒は本を護ろうとしたことで分かった。

 それ以上近づくことはせず、ゼオンはビョンコ達が近くから去ったのを見計らって……マントをバサリとはためかせた。

 

 正体をばらすことは簡単だ。

 王族であり、ガッシュの兄である自分の存在を明かしてやれば、パティという少女はすぐにでもゾフィス陣営から離れることだろう。

 

――しかして、否。

 

 それでは意味がないと、ゼオンは感じていた。

 自分達がしている行いがどういったものかを理解しなければ、目の前の少女はこれから先、大人の貴族になるにあたって心に悪の芽を育ててしまう。

 

 道を踏み外したのなら自分で正さなければならない。

 悪の芽が芽生えたのなら己の手で刈り取らねばならない。

 

 心から反省し懺悔を刻むことがなければ……権力という猛毒にいとも容易く堕ちてしまうことだろう。

 

 目の前にいるのはただの子供ではないのだ。

 ゼオンにとって、そしてガッシュにとって、将来必ず関わらなければならない相手であり、武ではなく知に於いての部下としなければならない存在。

 

 故にゼオンはビョンコを追いやり彼女だけに言葉を掛けることにしたのだ。

 ガタガタと震えて俯く彼女の肩を、ガシリと掴む。

 ビクリと跳ねた身体と顔。合された目は前の夜と同じく。

 

「まだお前はゾフィスなんぞに手を貸しているのか。いい加減、目を覚ましたらどうだ?」

 

 僅かな怒りを含む声音。力で脅しても意味がないことは分かっているが、ゼオンも少しは感情が抑えられないらしい。

 

「将来、お前は魔界貴族として人を使う立場になる。だから魔物達を操る指揮官として戦うのは他者を扱う経験にはなるだろう。だがな……」

 

 すっと細まった目。

 

「誰かを泣かせて、傷つけて、狂わせて……そうまでして手に入れたいモノは、本当にお前の望むモノなのか?」

 

 真摯な眼差しがパティの瞳を射抜く。

 震えは止まったらしい。思考が纏まらないままで、彼女はゼオンの言葉を聞いて行く。

 

「お前の望む未来のお前は、お前が傷つけたモノの血と涙の上に立っているモノでいいのか?」

 

 まるで言い聞かせるように紡ぐゼオンは、最も愛する者と最も憎い者を脳裏に浮かべて僅かに眉を顰める。

 

 続けようとした言葉は、自分にも突き刺さる刃だと知って尚、彼は紡いだ。

 

 

「民は、子供達は、友達は、家族は……そして、己の心を焦がし尽くす程に愛する存在は……そんな自分の姿を見て、綺麗に笑ってくれるか?」

 

 

 

 今はいい。

 

 

 そうして先延ばしにし続ける彼の心は。

 

 

 昏くて黒い、深淵のような憎悪を抑え続ける彼の心は。

 

 

 まだ“答え”を出せるはずもなく、

 

 

 目の前の少女と似たように、愛しい一人の少年のコトにだけ心を焦がすしか出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かになった穴の底に、シュゴーと少し間抜けな音を立ててゼオンのパートナーが下りてくる。

 

 まるでサーフィンの如くブリを乗りこなす彼は、自分の掌をじっと見つめ続ける少年の隣に降り立った。

 

 ふいと顔を上げたゼオンは、デュフォーとブリを見比べて……小さく笑った。

 

 

「ふふ……お前がそんなふざけた策を使うとは思わなかったぞ、デュフォー」

 

「一番効果的だから使っただけだ。ゾフィスへの挑発にこれ以上の手はない」

 

「あいつの怒り狂った顔を見れなかったのは残念だ」

 

「そういうだろうと思って写真も撮ってきたぞ? ほら」

 

「やるな、デュフォー。クク……よく撮れているじゃないか」

 

 端末を受け取ってゾフィスの表情を楽しんでいるゼオンは、どことなく元気のない様子。

 デュフォーは感じ取っていたが、“答え”を出すまでもなく、ただいつも通りに声を掛け続ける。

 

「ブリだからなのか、ガッシュにも受けは良かった。グラブとコーラルQがこれで何を企んでいたかは、まああの反応を見ればわかるな」

「先に見せてしまえば使いにくくなるし、それでも使うなら清麿のヤツが対処するだろう。それより、予備は作れないのか?」

「必要なら作れるが……欲しいのか?」

 

 写真をやめ、端末の操作をしてブリジェットを飛ばし始めるゼオンに言う。

 

「別に……いや」

 

 言いよどみ、言葉を止めたゼオンはブリジェットを自分の元へと戻して、抱きかかえてからデュフォーへと向き直った。

 

「いつか、ガッシュや他の奴らと一緒に……遊べるかもしれんだろうからな」

 

 欲しいとは言わずに、ゼオンは少し哀しそうに笑って答えを返した。

 

 デュフォーはくしゃりと彼の頭を撫でやる。

 

 

 最後にそっと、彼は言の葉を落とした。

 

 

 

「そうだな。皆で手を繋いで、遊べるように」




読んで頂きありがとうございます。

PCがバグった為、復旧待ちをしておりました。

ガッシュ2のブラゴくんこれから楽しみですね

あけましておめでとうございます。
これからもこの物語を楽しんで頂けたら幸いです。

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