もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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第五話:探す景色、探す答え

 どうにか吹雪を抜けて調査隊と合流することが出来たオレとデュフォー。

 こいつの持つ“答えを出す者(アンサートーカー)”とやらの力がなければ此処まで楽に助かることは出来なかっただろう。

 

 お互いに話すことはなく、二日ほどは其処のものたちの世話になっている。

 職員への説明が面倒だったが、デュフォーが何やら説き伏せていたので大丈夫だろう。

 人間界の知識が少ないオレでは答えられないことも、てきぱきと答えていくあいつには感謝しかない。

北極からの移動船に乗せてもらい、大陸までは送って貰うこととなった。

 

 今は四日目の朝。遠くに陸が見える。

 親切な調査隊の人間たちではあったが、デュフォーとオレは彼らに挨拶をすることなくそっとその場を離れた。

 

 デュフォーは実験を受けていた身。生きているという情報が伝わればうっとうしい輩に目を付けられかねない。

 別に人間の中にオレが手こずる相手などはいないだろうが、これから魔物の戦いをしていくにおいて人間界で動きづらくなるのは避けたいというのが理由だ。

 デュフォー自身も人間自体と接することに嫌気がさしているようだった。

 調査隊の人間達と接するのでさえ説明以外は最低限にしていたほどだ。

 

 幸いなことに吹雪が止んでいる今日は見晴らしがいい為、マントを使った小ワープでの移動を主とした。

 オレの行動にも驚くことのないデュフォーは、きっと“答えを出す者(アンサートーカー)”とやらで何をするか答えを知っていたに違いない。

 

 移動中もオレとデュフォーは何も言わない。

 居づらい沈黙ではなく、ただそれぞれがそれぞれのすべきことをしているだけの時間。

 まだ話さなくていい。 自分の中でイロイロと整理できるまで、無理にオレに合わせようとしなくていい。

 

 そうこうしている間に港へとたどり着く。

 

「ゼオン。行先は決まっているのか?」

 

 マントから下りての唐突な質問に、オレはじっとデュフォーの目を見つめて答えを返した。

 

「……行きたい場所……というか会いたいヤツがいる」

 

 自分一人でも探すつもりだった。パートナーが見つかったのだから共に往くのは当然のことではあるが、まだ一緒に戦ってくれとは一言も伝えていない。

 とにかくまずは極寒の地獄から抜け出すことを目的としていたのだから仕方ない。

 

 その間もずっと考えていたが……やはりオレは、弟を探したい。

 

 ガッシュの無事に比べれば戦いなど二の次だ。

 そも、百人の魔物の子供達の戦いでわざわざ自分から動くようなモノは実力の低いモノがほとんどだろう。実力のあるモノほど静観し、自身の力を最大限に振るえる状況を確立し、敵の情報を集め、戦いの初めから終わった後まで自分の有利になるように動く。オレであってもそうする。

 徒党を組むことも出来るだろうが、それをするにはこんな序盤では不可能。魔界を発つ時から組んでいれば別だろうが……勝者は一人なのだ、どこかしらで裏切りが起こる可能性の方が高い。

 

 オレ自身、姿を見せてはいないがこの目と髪色と雷の噂は知れ渡っているはず。そういった有名な輩と事を構えない為にも、よほどのバカでない限りどの魔物も慎重になるのは確実だ。

 

 閑話休題。

 

 今は他の魔物や戦いのことなどどうでもいい。

 すべきことは……デュフォーへの意思確認と、オレの願いを聞いてくれるかの許可。

 魔物と人間の性能差をもってしたがえることは出来るだろう。記憶を奪うような術式も学んでいるから、デュフォーを人形のようにすることも出来るだろう。

 

 だが、オレはしない。

 

 真っ直ぐに見つめてくるデュフォーの瞳はまだ絶望の色が色濃く残っていて、心の内に宿した憎しみはオレと比肩する程に深い。

 

 無理やり従えるとは―――父がオレに対して行ってきた教育と同じモノ。オレは、あいつとは、違う。

 記憶を奪うとは―――デュフォーの胸の内に宿る想いを全て否定する行い。オレのこの胸にある弟への想いと、燻り続ける大きな憎しみを無にするのと同じことをデュフォーに強いる行い。そんなことを、このオレが許せるはずがない。

 

 故に、オレは語って説き伏せることを選ぶ。

 

「場所を変えよう」

 

 人間の往来がある此処ではなく別の場所へ。マントで覆い、オレとデュフォーは港の灯台の天辺へと飛んだ。

 街がよく見える。平和そうな港街だ。祭りでもあるのか、人間の笑い声や歌声が聞こえてくる。

 気持ちいい風が頬を撫でて、空と海が交わる水平線を見つめればとこまでも吸い込まれそう。

 

「デュフォー」

 

 同じように海を見つめている横顔を見ずに語り掛ける。

 

「オレは魔界という所から来た。人間ではなく、魔物と呼ばれる種族だ」

 

 あの老人の言葉通りなら、きっとお前の持つ特殊な能力でオレの存在がどういうモノかなど答えを出しているのだろうが、オレ自身が語ることに意味がある。

 

「魔界では千年に一度、魔界の王を決める為に魔物の子供達百人を人間界に送り、人間と組ませて最後の一人になるまで戦わせる。それが今だ。オレもその百人の内の一人となる。そして……」

 

 一呼吸。雲がきれいに流れていた。

 

「お前がオレのパートナーだ」

 

 じっと、デュフォーの方をみやった。

 

「そうか」

 

 短い言葉。感情の読み取れない声。

 

「この戦いは魔本に映される呪文を人間が唱えなければ魔物は本来の実力を使うことが出来ない。本を燃やされると魔物は魔界に帰ることとなる。パートナーの再選定はなく、死んだ場合がどうなるかもオレは知らない。

 魔物の術はこの前の施設の爆発など比ではないモノもあり、あの吹雪のような大自然すら操るモノもある。人間にとっては……死と隣合わせの過酷なモノとなるだろう」

 

 リスクの説明に対してもデュフォーは何も言わない。ただ真っすぐに海を見ていた。

 

「……オレには、一つ夢がある」

 

 人間にとっては何も得のない戦いへの参加。人間へと協力を仰ぐことも、この戦いの本質の一つなのだろう。

 それでも説き伏せるくらいでなければ、魔界の王などなりえない。当然……オレの大切なモノ一つを守り抜くことすらできやしない。

 

「弟がいるんだ。双子の弟で、名をガッシュという」

 

 ピクリと、デュフォーに反応があった。

 

「弟はオレの顔も名も知らない。存在さえ知らないかもしれない。オレが一方的に知っているだけ。まだ赤子の頃に里親に出され、王族であるオレとは違い、民間で育てられた。

 自由な弟に嫉妬したオレは、一度だけ抜け出して一目見に行ったことがあって……あいつが虐待され、いじめられていることを知った」

 

 あの時のことを思い出すと、未だに胸が掻き乱される。

 

「王族の教育から抜け出すことの許されなかったオレは、弟を迎えに行くことを誓って己を鍛えた。王となれば、弟の存在を周囲に認めさせ、共に暮らせると思ったからだ」

 

 ずっと、ずっと寝る前に思い描いていた夢だ。

 

「だが……なんの悪戯かこの戦いに弟も参加している。この戦いを仕組んだモノは……オレと弟を戦わせることを望んでいるんだ」

 

 そう……例えどちらかが途中で負けるかもしれないとはいえ、その逆も然り……争い合うことを望んでいるのは確実だ。そこでデュフォーが口を開いた。

 

 

「……どちらもが生き残れば、どのみち最後は戦わなくてはならない」

 

 言いつつすっと、デュフォーがこちらを見つめてくる。相変わらず感情の読めない目で、じっと。

 

「ああ、そうだ」

 

 突きつけられる現実は無感情に。ただただ冷たい事実がそこにあるだけ。

 

「オレは……王になる。ならなければならん。父を……あのクズを殺し……魔界を変えなければならん。その為に―――」

「弟を護る魔界を作る王になる為に弟を傷つける……本末転倒だな」

 

 その通りだ。しかしデュフォーは、何処か分かったような表情でオレを見ている。

 

「ああ、そうだな。だがオレは……そんな結末に縛られない。縛られて、たまるものかよ」

 

 大きな意思を込めて見つめる。目を逸らさないデュフォーは、次のオレの言葉を待っている。

 

「選択肢なんてモノは、いくらでもある。決められた道、定められた運命……そんなモノに従ってやるなんてまっぴらだ。オレが行く道はオレが決める。オレの夢を遮るモノはなんであろうとぶち壊す」

 

 それがどんな大きな困難であろうと、例え魔界全てが敵になろうと。

 胸に秘めた覚悟が揺らぐことはない。灯っている温もりの火は消えることがないのだから。

 

「それにだ……弟の意思も確かめていないからな」

 

 当然、ガッシュが王になりたいかどうかを確認しなければならない。

 戦いに無理やり参加させられているモノもいるのだというから、もしかしたらそういった魔物の一人かもしれないのだ。

 その時はその時で厄介だが……。

 今はまだ、考えるな。

 とにかくデュフォーに共に戦ってくれるように説得を。

 

「デュフォー。オレと共に―――」

「いい、景色だな」

 

 言葉を遮って、視線を逸らして、デュフォーは言った。

 

「あの日から初めての晴れた空だ」

 

 出会いの日のことを言っているのだろう。同じ方向を見つめてみた。

 

「こんな景色を“また”見れるとは思ってなかった。オレは……あの狭い箱の中で一生を終える“答え”さえ出ていたから」

 

 その言葉で気付く。違う。デュフォーは、実験体となってから初めて見れた晴れた空だと言っているのだ。

 なぜだ。お前の持っている能力というのがあれば……せめて外に出られることくらいは……

 

「知っている。分かっている。お前はオレのこの力のあらましを聞いたんだろう? オレの力は“答え”を出す能力だと。だからお前は、いつかはオレがあの施設から外に出られるという“結果”を“答え”として出せていたんじゃないかと、そう考えているな?

 違うのさ。この力だって完璧じゃない。未来予知のようなモノとは別物だ。円熟したとはいえ、オレ自身の思考能力や知識量や経験値によって出てくる“答え”は変わってくるし、状況を把握した上で質問や疑問などの問いという思考に到達できなければしっかりとした“答え”は出てこないこともある。

 難病の直し方や古代の失われた文字の解読なんてのは、既に“答え”が確定しているモノ。だが例えば誰かを殺す方法などというのは、質問の仕方によっては最も効率的なモノから回りくどいモノまで様々だ。“答え”は出ても取捨選択する必要がある。流動的に状況が動く世界に於いて、確定的な一つの“答え”を得られるモノは……思っているより少ないモノだ」

 

 淡々と語るデュフォーは、自分のことをまるで商品か何かのように説明していた。

 

「……ならば魔界のことやこの戦い、オレのことについて、何か“答え”を求めてみたか?」

 

 その問いに、デュフォーは顔を上げて空を見て

 

「……お前がなぜ、あの時オレを抱きしめたか」

 

 ぽつりと、そう呟いた。

 

「お前の弟ならこうするからと、そういう“答え”が出た」

 

 ああ、そうだなと胸の内だけで呟く。

 

 ただガッシュの真似事をしただけ……と。

 

 あろうことかこいつはそう思っているらしい。

 

 なるほど確かに……その力はある意味でポンコツだ。

 

「ああ、そうだ。オレが泣いていた時、弟にああしてもらったから同じことをした」

 

 空を見上げるデュフォーの表情は変わらない。

 だけどどこか寂しそうに見えた。

 

「だが、不正解だ。デュフォー」

 

 オレは、口の端を釣り上げてにやりと笑った。

 

―――違うな。その答えは間違っているぞ、デュフォー。

 

「ハッ……“答え”を探したってことは、知りたいと思ったということ、か。なら……答え合わせをしよう」

「なに?」

 

 こちらに顔を向けて目を細めたこいつは、その渦巻く瞳でオレをまっすぐ射抜く。

 

「確かにオレはガッシュを真似た。だが、それは行動の“理由”であって正解ではない」

 

 長い長い施設での生活で、こいつの心は摩耗したのだ。

 この光景をいい景色だと言える心は残っているのに、オレの行動の理由は当てられても出せない答えがあるのがその証拠。

 自分のことも、他人のことも……すべてが機械仕掛けのようにも思える地獄。其処にこいつは身を於いているのだろう。

 

 僅かに首を傾げて思い悩むデュフォーが少し子供っぽく見えて、オレの喉がくつくつと鳴った。

 

「ふふっ……バカめ。お前自身が言っていただろう? 自身の思考能力や知識量や経験値によって変わってくると。

 つまりお前はオレの心までは理解していない。だからオレがあの時そうした“本当の答え”に辿りつけない。そういうことさ」

 

「……その本当の答えとは?」

 

 余計に首を捻るデュフォーに耐えられず、オレは大きく噴き出した。

 

「くっ、ははは! やはり答えは出ないか! それもそうだ! あははっ!」

 

 こんなに笑ったのは……いつ以来だ?

 訓練後にガッシュとの未来を考えていた時か?

 ガッシュが明るく学校に行っていると噂を耳にした時か?

 

 いや、声を出してこうして笑ったのは初めてかもしれない。

 

―――そうか、これが楽しいという感覚か。

 

 どうやらオレ自身もデュフォーのことをバカには出来なかったらしい。

 足りないモノがありすぎる。こんな小さなことにも気付かされるとは、オレもまだまだだ。

 

 答え合わせをしようと言った手前、教えないわけにはいかない。

 呼吸を整え、笑いが落ち着くのを待ってくれたデュフォーに目を向けて、先ほどとは違う笑みを向けてみた。

 

「あの時オレがお前を抱きしめた“答え”はな……“オレがそうしたかったから”、だ」

 

 そういうと、デュフォーはまたわけがわからないというように首を捻った。

 またおかしくて笑いそうになるも、抑えて言葉を紡ぐ。

 

「今は分からなくていいさ。ゆっくりと理解できるようになっていけばいい。オレだって、お前の質問の本当の“答え”に辿り着けてるかもわからないんだ」

 

 デュフォーはまたオレを見下ろしていた。

 これ以上問答を続けていても意味がないとでも思ったのだろう。

 ゆったりとオレは空を見上げて続ける。

 

「空が綺麗だな」

 

 抜けるような青空は、きっともう数時間すれば朱色に色づき始めるだろう。

 

「空は心を映す鏡、という話を本で読んだことがある。

 哀しい時や苦しい時、そこに映る色や景色が、それぞれによって違うように見えるからだ、とも」

 

 聞いた話だ。だが、そういう風に思うのもいい。

 紫電を向けると眼差しが交差した。

 

「なぁデュフォー。先ほどの本当の“答え”を出す為に、このいい景色だけじゃなくて、もっと沢山の景色を見に行こう。一人より二人なら、きっと沢山の“答え”に近付けると思うんだ」

 

 そうだ。一人より二人で。オレとガッシュで魔界をよりよく創り上げようと決めたみたいに。

 オレとデュフォーで、まだ見ぬ景色を心に映して答えを出す。

 

「それがオレからお前に贈ることのできる対価だ。だから……共に戦ってくれ」

 

 手を差し出す。

 

 どうか、一緒にきてくれないか。

 

 こんなにも広い世界で、オレはたった一人を探さなければならない。

 お前の能力を利用して、お前の人生を使用する。

 

 でもその代わりに、自分勝手なオレがお前の絶望をかっさらって、その心の隙間に一緒に見た沢山の景色を飾るから。

 

 気恥ずかしくてそんなことは言えやしないが、“オレがそうしたいんだ”。

 

 

「……わかった。お前に救われた命だ。お前の為に使おうか。それにお前と一緒に違う景色を見ることで“答え”が知れるなら……それもいいかな」

 

 ゆっくりと握り返された掌。

 何を考えてるのかはまた分からなくなる。

 

 それでいい。これでいい。

 

 胸の内から溢れる感情は、安堵だろうか?

 

 この握られた掌が伝えてくれるモノを安心感と呼ぶのだろうか。

 

 

 

 

 一人ではなく二人で歩いて行くというのはいいモノなのだなと、そう思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~蛇足~

 

 

 

 

 

「とりあえず弟に会いに行くんだろう?」

 

「ああ、あいつがゴミ共に傷つけられるのは我慢ならんからな。呪いなど押さえつけてやるし、万が一、億が一に無理なら距離を放しつつデュフォーを介して話せばいい。何よりあいつの無事が最優先だ」

 

(……ブラコン)

 

「何か無礼なことを考えてないか、デュフォー?」

 

「何も? 弟に会いに行くならイギリスだ」

 

「……まあ、許してやる。イギリスだな? 行くぞ」

 

「待て」

 

「待たん。こうしている間にもガッシュは狙われるかもしれんのだ―――」

 

「そっちの船はアメリカ行きだ」

 

「……」

 

「……お前、弟のことになると頭悪いな」




読んでいただきありがとうございます。

正式なパートナー契約の話。


平常時アンサートーカーについての解釈はとても難しいですが、未来予知とは違う点や自分の心に対しての答えが出ていなかった点などを鑑みてこんな感じに。
戦闘時のアンサートーカーについても後々。


蛇足はマンガによくあるラスト一コマのようなほのぼのな感じで一つ。

次はいよいよ……

下記のうちでどの魔物が好きですか

  • 弟にとっても優しいお兄ちゃん
  • モフモフな親友
  • 竜族こそ最強よ
  • 王をも殴れる男
  • ゴーーーーーー
  • 御意のままに!
  • 大・将・軍!
  • グロリアスレボリューション!!!
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