もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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第八話:王佐

 見慣れない天井が視界に広がっていた。

 埃っぽい空気を吸い込み、僅かに残る身体の気怠さも相まって眉間にしわが寄る。

 最悪に近しい寝起きだった。

 

 身体を起こすと、どうやら其処は廃屋の中のようだった。

 自分の身体に掛けられているのはデュフォーが羽織っていた上着。窓の外を見るとまだ夜だった。

 まだ寝起きゆえに思考がはっきりとしていない。ふるふると頭を振って……ズキリと痛む頭が、脳内に次々とフラッシュバックのようにあの時のことを映し出していく。

 

「あ……あぁ……」

 

 身体に走る最悪の痛み。

 耳に残る悲鳴。

 呪いによる頭痛。

 怒りを冷ます静かな声。

 こちらを気遣う儚き微笑み。

 震える掌を支える大きな手。

 

「ああぁ……うぁああ……」

 

 叫びと、涙と、雷。

 

 呑み込まれる寸前の、ナニカに裏切られたかのような、弟の表情。

 

「あああぁあああああああああああああああ!!!」

 

 拳を叩きつけられた床がバギリとひび割れる。

 片手で頭を掴み、握りつぶしてしまいたい衝動に駆られる。

 床を割った拳を開いて掌を見る。これが弟を滅ぼそうとした掌だと感じて、また床に拳を叩きつけた。

 

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 思考が出来なかった。

 ぐるぐる、ぐるぐると脳内で映像が繰り返される。

 

 弟が、ガッシュが、己の雷で何度も何度も打ち抜かれる。

 

 叫んでも叫んでも過去は変えられない。零れる涙は絶望の雫。

 頭がおかしくなりそうだった。狂ってしまえればどれだけ楽なのかと、そう考えることすらゼオンには出来ない。そんな余裕がない。

 

 弟が雷に飲み込まれる瞬間が何度もループされる。まるで自分がやった罪を責めるかのように。

 

「違うっ! 違う! 違う! 違う!!!」

 

 何度も、何度もゼオンは床に頭を打ち付け始めた。

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う―――」

 

 そんなつもりじゃないのだと。

 自分がしたいわけがないだろうと。

 

 そう繰り返しても脳内の映像は消えてくれない。

 

 痛みも何ももう気にならない。自分で自分を壊したい衝動が止まらない。

 息が荒くなる。頭を抱えて蹲る。涙がまた溢れて止まらない。

 

「オレは……オレはどうすればいい……オレはどうしたらよかったんだ……オレはこれ以上どうすればあいつを救える……オレは……」

 

 そうやって繰り返して呟かなければ自分を保てないと思った。思考を回そうとしても上手く回るわけがない。それでも無理やり言葉にしなければ、頭に溢れかえってくる絶望の記憶に押しつぶされてしまう。

 ぎゅうと、己の身体に掛けられていた服を握りしめる。

 

 “答え”が欲しいと思った。

 

 自分の望みを叶える為の“答え”が欲しかった。

 

 この絶望の日々から抜け出す為のナニカ。せめてもの救いを、ゼオンは求めた。

 

 魔界で暮らしてきた時は、一人で大丈夫だと思っていた。そう信じてきたし、実際そう過ごせてきた。

 幾度も父や大人の魔物達から叩きのめされようとも、己の足だけで立ち上がってきた。それが普通で、ゼオンにとっての当たり前だった。

 

 だが今回は……今回ばかりは心の芯が揺れ動く。

 

 最愛の弟を己の雷で打ち抜いた記憶が、ゼオンの心を引き裂いていた。

 あの時は極限状態であったが故にボロボロになったガッシュに駆け寄り涙を流すことも出来たが……弟から離れ、時間が経つと心に後悔という毒が忍び込む。

 

 なんでも出来た。なんでも出来ると信じていた。夢を叶えられると確信していた。

 己が弟を傷つけることなど絶対にないと信じていたのに、それは容易く打ち破られた。

 

 己の無力を痛感し、己の無力を呪い、己の無力に打ちのめされた。

 

 其処に忍び寄る後悔という毒は、ゼオンの……早熟とはいえまだ幼い心を砕き得るモノ。

 ガッシュが苦しんでいる時にデュフォーを頼ったのが始まりだ。父の雷に再び射抜かれた時から既に……否、最愛の弟をその両腕に再び抱きしめた時から既に、己という生き物は変化してしまった。

 大切なモノをやっと手に入れた子供がそれを奪われてしまえば……今まで求めることなど決してしなかった、“他者に救いを求める”という思考に堕ちるのも詮無きこと。

 

「デュフォー……デュフォー……っ」

 

 彼の能力なら、彼の能力があれば救ってくれる。

 そんな安易で安価な思考に陥り、ゼオンは彼を探した。

 

 弟を救いたいのか、それとも自分が救われたいのか。

 

 それさえ今のゼオンにはもう、分からない。

 

「デュフォー……! 其処にいたk……」

 

 やっと視界に見つけた青年は……青白い顔をして、床に倒れ伏していた。

 

 ひ、と引き付けを起こしたような声が出た。ゆっくり、ゆっくりとデュフォーに近づいて行く。

 

「デュフォー……?」

 

 揺さぶっても返事はない。青白い顔で脂汗を流すデュフォーは、何も答えない。

 頼りにするはずの青年すら、ゼオンが頼ることの出来ない状況。

 

 ゼオンの求めるお手軽な救いなど、何処にもない。

 

「は……ははっ」

 

 力無く項垂れたゼオンは、また脳内で繰り返される弟との記憶を見続けるしかなく……。

 トサリと、彼はデュフォーに向けて倒れた。

 

 そこにあるだけの温もりは、ゼオンの心に何も与えてはくれない。

 背中に感じる青年の体温は、心を満たしてくれることはない。

 

 光も灯されない闇の中でずっと、小さな子供は震えることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「……ゼオン、起きたのか」

 

 今にも消えそうな声で、夜半に起きたデュフォーが言う。

 答えを出す者(アンサートーカー)を使って、彼はゼオンの状態を確認した。

 

 浮かぶ“答え”は多数。慣れた思考で答えの取捨選択を行い……心的外傷という“答え”に気付く。

 

 では、それを自分が消してやれる答えはと、デュフォーは問いを掘り下げていく。

 

 彼の能力は求めなければ“答え”を得られないモノ。自らが望まないと“答え”は出てこない。そして……知っていたとしても理解できなければ、“答え”とはならない。

 

 不可。

 アンサーが無いのだ。デュフォーに出来ることは何もないと、答えを出す者(アンサートーカー)はそう“答え”を出した。

 

 それもまた一つの解答だとでもいうように、切り口を変えても不可としか浮かばない。

 

 デュフォーの心が乱れることはなかった。では次に出来ることはと、思考が移る。

 黙々と、心的外傷のことから調べていく。

 

 数分経って、デュフォーはこれが己に対処できない問題なのだと知る。

 彼は心の動きが希薄になっていて、悲哀を同調することが上手くできない。同情というモノも出来ないし、激励をすることも出来ない。

 あの時、ゼオンに指示を出し声を荒げたのは、そうしなければゼオンが動かないと“答え”が出たからというだけ。

 

 チクリと、彼の胸に痛みが走った。

 

 力無く自分に寄り掛かる子供の体温は変わらないはずなのに、あの初めて会った時のような温もりを与えてくれない。

 ガッシュとゼオンの二人が腕の中に居たあの時のように、胸の底が震えるような温もりは分けて貰えない。

 

 その事実に、デュフォーは喪失感を感じた。

 

―――ああこれは、寂しいってやつか。

 

 長い長い研究施設での生活で擦り切れてしまった感情の一つ。やっと思い出したソレを、デュフォーは胸にしまい込む。

 

 そっと、デュフォーは腕を伸ばしてゼオンを包み込んだ。

 自分でも分からない。理由がない。ただただ、勝手に腕が動いた。

 

 ビクリと震えたゼオンの身体。

 自分はゼオンに何かしてやれないかと、ふと、再びそういった問いを思い浮かべた。

 

 出てきた“答え”は無し。

 

 “答えは無い”。

 

 何もしてやれることなどない。

 

 だが、“何もするな”ではなかった。

 

 それならいいかと、デュフォーはゼオンの白銀の髪を撫でつける。

 抵抗はされなかった。されるがままで時間だけが過ぎていく。ゼオンの震えは、少し小さくなった。

 

「……」

 

 何故だろうなと、デュフォーは考える。

 自分の行動理由が理解できない。腕を伸ばしてゼオンを包んだのも、こうやってゼオンの頭を撫でているのも。

 

 考えても分からないし、答えも出ない。

 

 それなら仕方ないと、デュフォーは思考を切り替えることにした。

 

「……ゼオン。起きているだろうし、聞いてくれることは分かるから……これからのことを伝える」

 

 常に答えを出す者(アンサートーカー)で予測を立てながら、彼はゼオンに語り掛けていく。

 

「ガッシュとお前は……しばらく会うことは出来ない」

 

 前までなら何かしら言い返してきたはずなのに、ゼオンに大きな反応はなく、声を荒げることもない。

 

「あの後、意識が曖昧になっていたお前がちゃんと見る事は出来なかったと思うから、詳細は後で記憶関係の術によってオレの頭から覗けばいい。“バオウ”という術がガッシュとお前を滅ぼさない為には、二人共が強くなる必要がある。心と身体を鍛えなければ、お前達はバオウという術に喰い尽くされて、全てを失うことになる」

 

 また引き離された二人の距離を想ってか、それともガッシュとゼオン二人の時間を思い出してか、僅かな胸の痛みが再び走った。

 

「そして……オレ達からのガッシュへの手助けは出来ない。オレ達が手助けをしてしまうと、ガッシュの心に甘えを与えてしまい、バオウを抑えるほどの成長を阻害してしまうだろうから」

 

 誰かが助けてくれるという事実が少なからずあると、一人で拠って立つ芯は出来上がらない。そう伝える。

 

 沈黙。ゼオンの纏う空気が変わった。

 頭を撫でるのをやめると、彼はデュフォーへと向き直り、無機質な、輝きを失った紫電を向けた。

 

「オレではもう……ガッシュを……救えない……?」

 

 昏い昏い瞳に宿る絶望は、デュフォーの心をも呑み込んでしまいそうなほど。

 どう伝えればいいのかと、デュフォーは迷った。問いを投げるでもなく、ただ迷いが生まれた。

 

 真っ直ぐに見つめてくる紫電が揺れることはない。

 何にも期待をしておらず、“答え”すらも求めていない……否、諦めた目。

 

 ズキリと、デュフォーの胸の痛みが大きくなる。

 

―――どうすればいい。オレは……こいつに何が出来る?

 

 “ゼオンの望みを叶えたいなら成長を助けろ”と、答えを出す者(アンサートーカー)は言う。

 相変わらず感情を含めた問いかけには、自分の求める答えの出ないポンコツな能力に、デュフォーの心は苛立った。

 

 ふと、ゼオンが前に言った言葉が思い出される。

 

“オレがそうしたいからだ”、と。

 

 どういう言葉を投げて、どういう道筋を示せばいいのか、デュフォーには分からない。

 そして求める“答え”がないのならと……彼は初めて、自分から答えを出す者(アンサートーカー)をオフにした。

 

「……ゼオン。お前はどうしたい」

「オレは……オレは……どうしたい、んだろう」

 

 虚ろな目は、デュフォーを捉え続けているが絶望が渦巻くだけ。思考を放棄することで自分を保ったのだと悟る。

 

「デュフォーなら、お前の能力なら、オレの望みへの道を示してくれる、よな……? オレの弟を、今度こそ確実に、救ってくれる、よな? はは、そうだ……オレが、すぐにガッシュに会いたいなど言わず、デュフォーに任せて言う通りにしていれば、こんなことには、ならなかったのでは、ないか」

 

 ぽつぽつと話す声は、全てを諦めたモノの力無い声。

 

「なぁ、デュフォー。助けてくれ」

 

 静かに、その声が廃屋に響いた。瞳の中の絶望が揺れる。

 

「今度はもう失敗したくないんだ。二度と間違いたくないんだ。二度と奪われたくないんだ……。もう、オレはわがままを言わないから。もうオレは、いらないことなんてしないから。もうオレは……言われた通りに、するから」

 

 それはまるで、親に怒られた子供のようで。

 それはまるで、愛に飢え過ぎた幼子のようで。

 それはまるで、全てを諦めた自分のようで。

 

 キラキラと輝いていたはずの紫電の瞳に宿る絶望を取り除くには、まだデュフォー自身も足りないモノが多すぎた。

 

 ただ一つだけ、今のデュフォーが持っている火がある。その火が燃えるままに、デュフォーは言葉を紡ぐ。

 

「……頼りすぎるな、ゼオン」

「え……?」

「オレ一人では、きっとガッシュを救うことなんてできない」

 

 紫電が揺れる。

 

「でもお前は、そんなすごい能力を持っているじゃないか。それがあれば……」

「こんなモノだけでガッシュが救えるというのなら、オレはあんな施設に閉じ込められてはいないんだよ……ゼオン」

 

 研究者達の心理を操って脱走したりだとか、こちら側の味方を作って脱出を計画したりだとか、そんなことは当然行ってきた。

 それでも世界は優しくなくて、デュフォーにとって絶望しかなかった。

 デュフォーを救ったのは、救えたのは、ゼオンだけだったのだ。

 

「……」

 

 デュフォーの過去を思い出したゼオンの言葉が止まる。

 

「なぁ、ゼオン。オレはオレの言う事を聞くだけのお前と、外の景色を見たいわけじゃないんだよ」

 

 少しだけ、唇からこぼれる言葉に熱を感じた。

 

「わがままを言って、貶せば拗ねて、弟のことになるとバカになって、そうやって“今と明日”を楽しみにしているお前がいる景色を見ていきたいんだ。一人より二人なら、沢山の“答え”に近付ける、そう言ったのはお前だ」

 

 契約のような始まりだったそれは、デュフォーにとっては大切な景色の一つ。

 

 さらりと白銀の髪を一つ撫でて、彼は続ける。

 

「二人じゃないと意味がない。言っただろう? 二人で、救うんだ」

 

 紫電に僅かな光が戻る。

 

「オレは……どうすればいい」

「さあな。助言はするし、手助けもする。戦いも手伝う。何処へだって一緒に行く。だが……決めるのはお前とオレの二人でなければ意味がない」

 

 それはさながら、ゼオンが望んでいた王の話のようで。

 ガッシュと二人で、魔界をよくして行こうと考えていたはずで。

 まるで己の夢のリハーサルのような提案。

 

「オレは……失敗したら、間違ったら、どうすればいい」

「オレも出来る限りのことはする。だが、考えるのを辞めるな。臆するな。思考を回せ。オレの能力なんてなくとも、お前は優秀な頭脳を持っているはずだ」

 

 傀儡の王などが治めても、国が良くなったことなどないのだからと語る。

 意思なき王など王ではないと、ゼオンは己の思い描く未来の姿を思い出す。

 

「オレは……ガッシュを救おうとして、いいのか?」

 

 不安そうな声はいつもの威厳はなく、見た目そのままの子供のような声。 

 

「ああ、救え。だが同時に……信じろ。お前の弟は弱くないと。お前の言葉を信じて絶望の日々を耐え抜いたあの子が、あの時泣いていたお前を心配して微笑むあの子が、弱いわけがない。籠の鳥にせず、世界を見せてやれ」

 

 苦しそうに思い悩むゼオンは、兄としての葛藤に胸が締め付けられる。

 本当は護るつもりだったから、手の中で大切に育てるつもりだったから。籠の鳥にしてでも、傍に居たかったから。

 それはガッシュの為というよりは……。

 

 デュフォーの目に、いつもより深い感情が宿っていることに気付く。

 

「兄の言うことを聞くだけの弟も、デュフォーのいうことを聞くだけのオレも……同じこと、か」

 

 護りたいという押し付けではただの自分の欲であり、弟の為にならない。

 

―――自分の思い通りにしたいだけの、ただ一方的に守るだけの関係性は……痛みと訓練と教育で縛り付けた父と、何処が違うだろうか。

 

 同じにならないと言いながら、究極的には似たようなモノではないかと自嘲する。

 ソレが弟に胸を張れる誇らしい兄なのだろうかと考えれば、否だ。

 自分がなりたい関係性を思い出せばいい。

 

 思い描いていた未来では、二人で意見を出し合って魔界を変えていこうと思ったはず。

 自分には出来ないことも考えてくれて、自分も弟に出来ないことをするという信頼関係こそ、自分の求めたモノだった。

 

「……なんでこんなことも忘れて……オレは、バカだ」

 

 嗚呼、とゼオンの唇から嘆息が漏れる。

 ひくつく喉は、上がりそうになる嗚咽は、また涙を零せと責め立てる。

 

 きっとこのまま、デュフォーの胸に甘えてすり寄り、声を上げて泣いてもいいのだろう。それがこの年の子ならふつうのことで、自分に許された権利であろう。

 しかしゼオンは目を瞑り……深く、大きく息を吐いて心を整えた。

 

 開いた瞳には、紫電の中に美しい輝き。

 

「世話をかけた。デュフォー」

「……気にするな。まだお前には、沢山の景色を見せて貰ってないからな」

 

 言葉に乗っていた熱さとは違う、照れ隠しのような言い訳に、ゼオンの頬がやっと緩む。

 

「フン、約束は守るぞ。不甲斐ない姿を見せるのは此処までだ」

 

 青白い顔をしているデュフォーをくるりとマントで包んで、ゼオンはデュフォーに背中を押し付ける。

 本調子が戻ってきたゼオンの目は、今の自分達の状況を予測し、デュフォーのことも読み取った。

 

「無茶をしたな、お前? オレの体温を貸してやるから、もうひと眠りしろ」

 

 自分に掛けてくれた服の返しだと言いつつ、魔力を流して熱を保った。

 語り合う前とは違う、心の中まで暖まるような温もりに……二人ともが包まれる。

 

 くぅ、と音が鳴った。安心したのか、それともただの生理的なモノか。

 どちらともなく、空気も何も読むことはないその音に、ゼオンは小さく笑った。

 

「フッ、起きたらメシにしよう」

「ああ、近くに食える所があればいいが……」

「バカを言え。お前は体調が戻るまで此処で静かにしていろ。というか寝てろ。オレが市場で買ってきてやる」

「……人間は魚を丸かじり出来ない」

「お前……一発殴るぞ?」

 

 他愛ない会話をしながら、ゼオンはもう頭の中に繰り返される絶望の光景がなくなっていた。

 きっと、デュフォーがこうして話してくれなければその絶望に囚われて自分を見失い、長い時間を無為に過ごしていただろうと思う。

 

 背中から聞こえる、静かに響き始めた寝息に、ゼオンは起こさないように声を掛けた。

 

「ありがとう……デュフォー」

 

 面と向かって言うのは気恥ずかしいからと、寝ている隙にそっと感謝を伝えた。

 

 いつかは素直に言えたらいいと、そんなことを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼオン、人間はカツオブシを丸かじりしないし、カツオブシ単体でメシにすることはないが」

 

「ば、バカか! 分かっている! お前にはちゃんとホットドッグを買ってきてある!」

 

「ならカツオブシは返してこい」

 

「……これはオレのおやつにする」

 

「お前……」

 

「それ以上は言うな!」

 

「……はぁ、とりあえず体調が戻ったら行くところがある」

 

 ホットドッグの包装を剥がしながらの言葉に、カツオブシを机に置きつつデュフォーを見た。

 

「ガッシュをオレ達が助けることは極力しない。しかし多めに予防線は張りたいだろう? なら……同志を作るべきだ」

「同志?」

 

 仲間、という表現をせず、同志というのがデュフォーらしい。

 

「ガッシュの状況を理解しつつ、他の魔物とオレ達が争っている時にでもガッシュの危機に対応できるように。そしてお前の呪いと、ガッシュの記憶に関する情報も集めやすいように、だ」

 

 一理ある。

 

「お前も見定めておきたいだろうから……ガッシュの嘗ての友を探すのがいい」

 

 その言葉に、オレもその手があったかと手を叩く。

 

「シュナイダーとレイン。その二人か」

「二人ともを同志としてもいいんだが、どちらかはガッシュの成長を助ける為にオレ達の事をしらないままガッシュの傍にいてほしい所だな」

「ふむ……」

 

 こちらに判断を委ねてくる眼差し。ホットドッグを頬張るデュフォーはもくもくと食事をし始めた。

 それ以上はオレが選べと、そういうことらしい。

 

「シュナイダーはまだ幼く、言葉も満足に話せんと資料で見た。ガッシュの元にやるのは些か不安だが、幼さ故の純粋さや、ガッシュよりも年下の魔物がいることでの成長も期待すべきだろう。なら……オレの模擬戦相手も出来そうな、突然変異個体のレインがいいかもしれん」

 

 コクリと頷くデュフォーは、この結果をきっと予想していたんだろう。

 

 オレ自身も成長しろと、デュフォーは言う。

 それならオレも、他の魔物と関わる必要があるかもしれない。

 デュフォーと語り、オレはまだ王となる為に足りないことが多いと気づかされた。

 

 父も嘗て、戦いでの脅威に対してチームで乗り越えたという。

 真似するのは癪だが、同志を得ておくのは悪くない。

 王として魔界を治めていくというのなら、他者や部下との連携の練習が必要なのも理由の一つ。

 

「よし、方針は決まった。しかしまたお前の能力に頼ることになるが……いいか?」

「それくらいは構わない」

「助かる」

 

 別にいい、と横目で流しながら、デュフォーは二つ目のホットドッグを手に取った。

 

 一つ一つ熟していこう。

 一歩一歩進んでいこう。

 その先にきっと、描く未来を掴めると信じて。

 

 オレもホットドッグを手に取って齧りつく。

 頼りになるパートナーに笑いかけると、やれやれというような顔でいつも通りため息を吐き……口元は、ほんの少しだけ緩んでいる気がした。

 




読んでいただきありがとうございます。


今回はデュフォーくんの話多め。
清麿くんとは違うパートナーな感じが出せていたらいいのですが……

ブラコンをほんの少しだけ抑えられるようになりました
ゼオンくんは同志(近いレベルで殴りあえるナイスな魔物達)を探しに行くようです。

これからも楽しんでいただけたら幸いです。

下記のうちでどの魔物が好きですか

  • 弟にとっても優しいお兄ちゃん
  • モフモフな親友
  • 竜族こそ最強よ
  • 王をも殴れる男
  • ゴーーーーーー
  • 御意のままに!
  • 大・将・軍!
  • グロリアスレボリューション!!!
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