もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつも誤字報告や感想、評価、お気に入りありがとうございます。
誤字もちょこちょこ直していってますほんと助かります。


第九話:黒との邂逅

 てくてくと歩く日中の街道は心地よく、人間の声も耳に気にならない。

 デュフォーと主にヨーロッパの国々を回っているが、何処も陽気な街が多く、人間とのいざこざなどで気分が害されることもそこまでなかった。

 

 現在、すぐにでもガッシュの友であるレインの元へと向かいたかったのだが、デュフォーの提案で少し時間を置くことにした。

 

 一つ、レインという魔物がまだパートナーを見つけておらず、同志として迎え入れるには安定性に欠け、時期尚早であること。

 一つ、オレの持つ瞬間移動の術は多様性が広く、人間界の国々を記憶することでこの戦いの中でも他者より大きなメリットを得られること。

 一つ、ガッシュの状況が安定し始めたと“答え”が出た為、一先ずは急ぐ必要がないこと。

 

 レインに会いに行って共にパートナーを探せばいいと言ったが、強者へのいらぬおせっかいは碌なことにならないことも多く、ガッシュの現状を説明してしまえば友であるなら自分のことよりもそちらを優先してしまう恐れもあり、さらにはデュフォーが、二つ目を行いつつレインの状況に変化を感じられればすぐに向かえばいいと示してくれた為に諦めることとなった。

 確かに、ガッシュの友にわざわざ貸しを作るようなことをして迫りたくないし、この星に散らばった魔物達と戦う上で、瞬間移動の起点をいくつも作っておくのは長期的に見るとメリットが多く、もしガッシュが地域を越えて活動し始めた場合も、すぐに其処へと向かうことも出来る為、オレはその提案を呑むことにした。

 最後にガッシュについて……せめてマントの使い方や身体的な強化方法などの最低限の準備を手紙で伝えようと思っていたのだが、却下されている。

 

 デュフォー曰くやはりそちらも時機尚早だと。そして大きな理由に手紙や伝言などの些細なヒントからオレの存在までたどり着く可能性のある人間がパートナーに選ばれていて……だからこそ、その人間はこの戦いを勝ち抜くために、ガッシュのことを思い余計に、オレ達を探そうとするだろうと。

 別に逃げればいいだけだと思うのだが、デュフォーからの次のような説明を聞いてガッシュとのしばらく関わりを持つことを諦めた。

 

 よほど口の堅いモノにしかガッシュとの関係性を明かしてはならない。ガッシュは落ちこぼれと認識されており、そこまで強くない他の魔物から狙われやすいからこそ、段階的な成長が期待できるのが一点。

 オレという有力な候補を追いかけると、必然、まだガッシュには手に負えない魔物達と出会う可能性があるのが一点。

 

 勘の鋭いモノや、警戒心の強い魔物は間違いなくオレの動向に気を向けている。

 本で読んだ話では、竜族などは千キロ以上もの感知能力を持っているというのだから、そういった輩がオレとガッシュの接触に警戒を持って露払いを行う可能性もある。襲われた所をオレが叩きのめしても……誰かに助けて貰えると頼る心が生まれてしまうだろう。

 やはりガッシュが成長しない限りはオレと関わらせないほうがいい。哀しいが……こればかりは仕方がないのだ。

 

 鍛え上げた力がネックになるのは少しショックだったが、オレが王となり、ガッシュと共に過ごす日常を手に入れる為には必要なのだから呑み込むしかない。

 

 

 閑話休題。

 そうこうしてオレ達はデュフォーの体調が治ってから、ヨーロッパの国々を回っている。

 同時に、デュフォーからオレの強さを更に研ぎ澄ます訓練も教わっている。これについてはデュフォーの能力に感謝しかない。頭のツボを刺激されて、幾つかの効果が期待できることが説明された。

 

 死にもの狂いの訓練を乗り越える為に独学で覚えて確立されていたらしい呼吸法の安定化。感知能力を伸ばす方法や術の威力向上の魔力増加法、身体能力の向上メニュー。そして……新しい術を覚える為のインスピレーション。

 

 痛かったが、それらを手に入れられるなら安いものだ。

 痛かったが、この幼い身体が成長しなければもう強くなれないと思っていたから久しく歓喜したものだ。

 本当に痛かったがな。

 

 こつこつと積み上げて鍛錬して手に入れていくモノだからと言われたが、オレにとってはそんなモノは慣れている。いつも通り、個別の鍛錬に上乗せするだけ。

 そういうとデュフォーは変な顔をしていた。なんだったんだろうな。その後で美味い魚を食わせてくれたからいいが。

 

 あの日から二ヵ月は経っただろうか。

 レインと会うのにいい時期が来るまでは、こうして修行をしながら、のんびりとデュフォーと国々を旅するのは悪くない。

 

 金銭の心配をしなくていいのも助かっている。訓練ばかりの日々で贅沢というモノはしたことがなかったが、欲しいと思ったモノをすぐに食べれるのはありがたい。

 パソコンというモノを買い、それで稼いで、なんでも億単位の金を既にプールしてあると言っていたが……まあ、先立つモノがあるのはいいことだ。

 デュフォーが贅沢をすることはなく、あくまでこれはオレの戦いを万全の状態で行う為の資金らしい。咎めなければ毎日ホットドッグで済まそうとするくらい杜撰な食生活をしてしまうし、滞在中の宿もそこらへんの安宿。どうせ二人でくっついて眠るし、同じモノを食べる為、オレがあいつの生活を管理しているような気分になってしまう。

 

 国をまたいでの移動手段はもっぱら鉄道が多く、現地の探索は徒歩がほとんど。

 己の脚で歩き、己の肌で感じることで、オレ達はこの星や土地への理解を深めていく。

 

 少しだけだが……楽しいと思った。

 欲を言えばガッシュも共にこうして旅をしたいという高望みが頭をよぎる。

 少しの寂しさのせいで、この戦いの最後の二人となったその時は……ガッシュのパートナーも含めて四人で旅をしてから、この戦いの終結をしたいという些細な夢も出来てしまった。

 

―――デュフォーに言ったら呆れられそうだがな。

 

 その時は無理やりにでも連れていくが。

 

 また思考がずれた。

 今日も今日とて街の散策だ。

 

 現在地はフランス。

 世界で有数の美術館へと行き、人間が生み出してきた芸術を見た。人間の感性はこういうモノなのだなと感心し、美しい色彩や奇抜な造りを眺めていく。人間の想いの籠った作品達。込められた人間たちの感情を理解したくて、でもやはりそれは出来なくて、少しだけもどかしい気持ちになったりもする。

 対してデュフォーはあまり心動かされていなさそうだったが……風景画などには頻繁に足を止めていた。感じ入るモノがあるのだろう。

 絵画でも描いてみるかとおどけて尋ねてみたが、写真より非効率だなとバッサリ切り捨ててくる辺りあいつが芸術に心を動かすのは当分先だと思った。

 

 帰り道……日々磨いているオレの感知能力が、大きな魔力を捉えた。粗削りだが何処か見知ったような魔力を。

 

「デュフォー」

「ああ、この街には一体いるな」

「知っていたのか?」

「いや、今知った。どうやら外出から帰ってきたんだろう。街の中に入ってお前の感知に引っかかったから答えを出せた」

 

 なるほどと、相槌を一つ。

 まだ出会ったことはなかったが……ガッシュ以外ではついに初の邂逅となるわけだ。それにこの魔力……有力候補の一人だと分かる程に大きい。

 デュフォーと共に戦う訓練は少しずつ始めているモノの、戦いになることを想定するとまだ直接の戦闘はしていないので不安が残るな。

 

「相手の魔力の大きさから、二人での実践を経験してない状態で戦う相手にしては少しばかり面倒だが……どうする?」

「……」

 

 尋ねると、デュフォーはどうやらいろいろと情報を正しているらしい。

 離れていても、会ったことがなくても、ある程度の情報が手に入るこの能力はやはり反則的だろうとオレでさえ思う。既存の戦略も戦術も通用しない、まさしく相手にとっては悪夢のような能力だ。

 敵でなくて良かったと安堵すると同時に、頼りになるパートナーが誇らしい気持ちも大きくなる。

 

「……問題はない。今はまだ……オレ達が初実践であってもこの相手ならオレとお前が苦戦することはない」

「言うじゃないか」

「オレの能力抜きにしても、それほどにお前と対象の魔物とは差が開いているからな。そもそも、お前の相手になる魔物自体が今の所二・三体だと“答え”が出るくらいだぞ」

「フン……まあ、幼い頃から訓練を積んだ上に、今もお前というパートナー兼トレーナーに鍛えられていれば当然だ」

 

 地獄の訓練が無駄ではなかったという嬉しさと、適切な成長の手助けをしてくれるデュフォーへの感謝に心が暖かくなる。

 デュフォーのこともほめると、あいつはまた変な顔をした。

 

「……最近やけに素直だな、ゼオン」

 

 突然の指摘に、むっと眉間にしわを寄せることになった。

 

―――うるさい。自分でも分かっている。

 

 これは甘えなのかもしれないと危惧さえしているんだ。

 昔なら感じなかったこの安心感と充足が口を饒舌にしてしまうのも、お前の思考や意見への信も……。

 一人ではない確たる自覚が、オレ個人を弱くしてしまうのではないかと不安にもなる。隣に必ず居るという居心地の良さと、オレの思考を汲んでくれる信頼が……オレ達を強くするとしても、オレ個人はきっと……。

 

 何も言わずに黙ると、デュフォーは大きくため息を吐いてから地図を取り出してとある一点を指差す。

 

「此処がその魔物のいる屋敷だ。パートナーの人間は……ベルモンド家という富豪だな。魔物の戦いに積極的なようで、もう既に何体か魔界に還しているようだぞ」

 

 思考を切り替え、つらつらと話される情報を頭に入れて、オレは目を瞑って感知をより研ぎ澄ました。

 魔力のパターンに引っ掛かりを覚えたことを思い出し、記憶を掘り返していくと……この身に受けた術が思い起こされる。

 

「……ああ、そうか。あの一族か」

「知り合いか?」

「いや、直接は知らん。というかオレは王城から出ることは一度しかなかったから、軍以外の他の魔物の顔は知らんし話したこともない。だが……こいつともう一人の一族の魔力は分かるんだ」

 

 人間界に来る前に、直接オレに術を仕掛けてきたモノ達なのだから。

 

「そうか、まさかこんな序盤でお前に会えるとはな……重力の一族のブラゴ」

 

 有力候補の一人であり、父の策の手伝いをした一族よりの参加者。

 噂の限りではブラゴ自体は小賢しい策などに関わることはないことは分かっている。一族にしても悪い噂を聞かないから王命に従っただけという線が有力だ。ただ、今回の出会いは少しでも情報を集めるにはうってつけではないだろうか。

 

―――位の高い魔物の一族ならオレのことも知っているはずだ。守り人の一族や爆発の一族の現在も知っているかもな。父のことも……もしかしたら“バオウ”についてさえ知っているかもしれん。

 

 オレの引き裂かれた口を見てか、デュフォーがやれやれとため息をついた。

 

「あまり無茶をするなよ」

「相手次第だ。まあまずは……話し合いだな。王族の嫡子として、配下の息子に顔見せくらいはしておくとしよう」

「なら……行くか」

 

 有力な優勝候補の実力も知れて、配下に加えられる可能性もあって、父の情報も僅かながら持っているやもしれない。

 なかなかにいい出会いに出来そうだと、小さく楽し気に、笑い声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国外への魔物との戦いの遠征から帰り、シェリー・ベルモンドはやっと着いた自室でベッドに倒れ込んでいた。

 飛行機とリムジンの中で寝たとはいえ、やはり魔物同士の戦いはハードで、鍛錬を積んでいたとしてもまだまだ体力が追い付かない。自室での休息こそ、気を張らずに自然体となれる唯一の時間。

 

 ブラゴとの関係については日進月歩で進めているが、協力関係にあるとはいえ、まだまだ信頼と呼べるほどの心の距離にはなっていない。

 彼の感知能力やベルモンド家の情報網で魔物を見つける度に倒しに行って、帰って来てはトレーニングを積む毎日。

 彼女が目的を果たすには、己の経験を磨き上げ、ブラゴとの連携をしっかりと確立し、敵の情報を確実に掴み取り、全てを万全に期した上で望まなければならない。

 焦ってはならず、足を緩めることも許されない。

 

 全てはとある魔物に奪われた親友との日々を取り戻す為。

 

 腕を額に当てて天井をぼんやりとみる。

 数体の魔物を倒して、ニュースに載っていた魔物の子を確認しに日本まで行って、やっと帰ってきたのが今日。

 

「あの赤い本の子……ガッシュくんって言ったかしら? そしてパートナーの……高嶺清麿くん」

 

 その魔物の子を思い出して、シェリーは頬が緩んでいることに気付く。

 二人の通じ合った瞳の強さ。信じあう心が持つ輝き。強者相手にも折れない心。理不尽に抗おうとする不屈の精神。

 

 今まで出会った魔物達とはあまりにも違った二人。

 

 それは何処か、自分の心に期待を持たせる姿で。

 

 悪い魔物や、力に囚われる人間ばかりではないのだと……やっと、敵対というよりかは張り合えるような、そんなコンビが現れたのだと感じた。

 とはいえ、実力はまだまだ。自分達はいつでも彼らの本を燃やせたのだから、もっと強くなって欲しいと願った。ブラゴの強者を求める性格も、彼らが強くなることをそのうち楽しみにし始めるのではないかとも思える。もし、自分達の敵のような悪があいつ(・・・)の他に現れたとして、彼らとならば協力しあってもいいとさえ思えた。

 絶望から始まったこの戦いも、捨てたモノではない。そう思って自然に笑みが浮かぶ。

 

「ふふ……」

 

 不意に、その穏やかな時間を切り裂くように、部屋に備え付けの電話が鳴った。

 ああもう、と少し気だるげに起き上がった彼女は……執事からの内線の声を聴いて―――

 

「お、お嬢様……っ。ま、魔物の子が……ご訪問なさいました。す、すぐにブラゴ様を連れて……」

 

―――電話を投げ捨てて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 玄関の入り口で本を見せるデュフォーと、その横でにやつくゼオン。

 息を荒げてやってきたドレスの少女―――シェリーと……息を乱すことなく、ゼオン達の気配を察知してやってきた黒の子供―――ブラゴ。

 まるで自分達がガッシュ達の元を訪れた時のような焼き増しに、驚愕を浮かべる二人。

 構わず、ゼオンとデュフォーは声を発した。

 

「とりあえず争うつもりはない。話をしにきた」

「クク……まあ、別に争いたいなら受けて立つがな」

 

 デュフォーが二人の驚愕についてなんの気なしに“答え”を求めると……その解答に納得した。

 

―――そうか、お前達はガッシュと会っているのか。

 

 シェリーの驚愕の理由はゼオンの見た目から。ゼオン自身が力を抑えている為、その実力の大きさに腰が引けたわけではなく、ガッシュと瓜二つな外見に驚いただけ。

 ブラゴについては……どうやら噂からの驚きだったようだ。

 

「……紫電の眼光、白銀の髪。そうか、お前が……王族に生まれし雷……雷帝ゼオン」

「光栄だな。候補者のほぼ全てが恐れると噂のブラゴに覚えられているとは」

 

 飄々と言ってのけるゼオンは余裕の笑み。反応を楽しんでいるのがありありと分かった。

 

「上がっても、構わないな?」

 

 堂々とした仕草は己の力量に絶対の自信を持ち。冷や汗を流す二人が警戒を強めたのが分かった。

 そうして続いて視線を向けたデュフォーの目に、シェリーはごくりと固唾を呑み込んだ様子が留まる。

 

“今まで出会ったどの魔物とパートナーの組み合わせとも空気が違う二人。ブラゴの威圧感とも、ゾフィスの悪辣さとも違う。”

 

 シェリーがそういった思考をしていると、デュフォーの頭に“答え”が浮かぶ。

 此処まで知ってから、デュフォーはゼオンの咎めるような視線を感じて小さく息をつく。

 

―――ああ、分かっている。交渉事の経験を積むのにオレの能力を使って助言されてはつまらないと言いたいんだろう? よほどでなければ口出しはしないと誓おう。

 

 最短ルートでの答えを出してしまえるデュフォーの能力は、ゼオンにとって経験を積む機会を奪ってしまうのだ。

 成長しろというのなら、己の頭で考えて道を進まなくてはならない。故に今回は、デュフォーが出るほどの事態とならない限りは口を噤む約束をしてあった。

 

 警戒心を強めたシェリーとブラゴの後ろをついて行きながら、デュフォーはのんびりと思考を回す。

 

―――シェリーという女……境遇がゼオンとほぼ同じみたいだが……ゼオンがどんな反応をするか読めないな……。

 

 “答え”は出ていても絶対ではないから、彼はこの邂逅がどんな変化をもたらすかに興味が行く。

 せめてよい成長に繋がれと願いつつ、デュフォーは一人、彼らの情報を再び集めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かちゃり、とカップが置かれる。

 ゼオンとデュフォーが通された客室で、向かい合うカタチの二組は言葉を発することはなく。

 ブラゴとシェリーは警戒を最大にして見つめて来ていたが、デュフォーとゼオンはなんのことはないと二人に出されたお茶を優雅に飲んでいる。

 

「美味いな。執事」

「あ、ありがとうございます……」

 

 また沈黙。居づらい空気に耐えかねてか、やっと、ブラゴの方が重い口を開けた。

 

「……なんの用だ」

 

 掛けられた問いに、は、と短く息を吐いたゼオンが嗤う。

 

「デュフォー……ああ、オレのパートナーだが、こいつが話をしに来たと言ったろう? 偶々近くまで来たからな。一応、王族の嫡子として顔をみせに来たってところだ」

 

 デュフォーが口を開けば“話に来たと言っただろうお前、頭が悪いな”とでも言いそうだと考えながら、くつくつと喉を鳴らす。

 

「フン、王を決める戦いの最中だというのに堂々と真正面から来るとはな」

「其処はお前を信頼してのことだ、ブラゴ。お前ほどの実力者であれば、むやみやたらにこのゼオンに勝負を挑むことはしないはずだろう?」

 

 沈黙。押し黙ってじっとゼオンを見るブラゴは、更に警戒を強めていた。

 急かさず、話をしに来たというならばゼオン達から切り出すべきだというスタンスを崩さず、王族相手にも引くことなく、堂々としたその所作にゼオンは笑みを深くする。

 シェリーも、品位ある家柄の後継者であるからこそ、そういった探り合いに精通しており、二人のやり取りを邪魔することはない。

 二人の対応に満足したゼオンは、再び一口紅茶で唇を濡らしてから語り始める。

 

「まずはこの屋敷の主よ……突然の訪問にも関わらず席を設けてくれたことに礼と感謝を」

 

 目礼を一つ。敵同士である為に無礼を押し通してもよかったが、最低限の礼儀くらいはと考えて。

 

「オレの名はゼオン・ベル。魔界の王の嫡子で、この魔界の王を決める戦いに参加している魔物の子の一人。こいつはオレのパートナーのデュフォー。以後、よろしく頼む」

 

 自分から名乗り、合わせるようにデュフォーが目礼をした。彼は自分から語るつもりはないようだった。

 

「私の名前はシェリー・ベルモンドよ。この子はあなたの知っている通り、ブラゴ」

 

 押しかけに対してなのだから、そして未だ警戒すべき敵なのだからとシェリーは最低限の挨拶で返す。

 シェリーの名を知れた所で満足そうにうなずくゼオンは、ゆったりと背もたれに身体を預けて今回の訪問での本題を語り始めた。

 

「では……本題といこう。オレは二体の魔物の子を探していてな、もしかしたら何かしら情報を持っているかと思って来たんだ。ブラゴなら聞いたことがあると思うが……一つは守り人の一族。魔界にあるとあるモノを護っているケンタウルス型の魔物だ」

 

 魔物を探していると聞いて、シェリーが一寸目を見開いたが、語られた内容にすぐに平静に戻った。ブラゴは気にせず答える。

 

「何かを知っていたとして素直に情報を教えるとでも?」

「はっ、それはそうか。互いの利益なくして交渉は成り得ない。さすが……よく分かっている」

 

 タダより高価なモノはないという。ゼオンのひっかけに、ブラゴもシェリーも引っかかることはなく、これが対等の交渉であると線引きを引く。

 途中でゼオンの気配が変わったことが気がかりだが、彼女達は次の言葉を待った。

 

「まあ、周りのモノが全て敵のこの戦いで、そうやすやすと交渉事が通ることはないな。クク……残念だ。

 しかし……デュフォー。今回の交渉の経験はナシだ。わがままばかりで世話をかける」

 

 楽しそうにデュフォーに目を向けるゼオンに、どうしたと目だけで合図を送るもすぐに逸らされる。

 そのまま交渉を続けると思われたが……ゼオンは片目だけ細めてブラゴを見やった。

 

「お前、ベルの雷の残滓が残っているぞ?」

 

 ビシリと、空気が凍る。

 

―――ああ、気づいたのか。じゃあ交渉どころではないな。

 

 ガッシュと会ってきたという“答え”は知っていた。会った結果も知っている。ガッシュに何事もなかったのだからと、デュフォーはゼオンに何も言わなかった。

 魔力の残滓を身体に残しているブラゴに、ゼオンが気付けばどうなるかなど分かりきったこと。

 

「ブラゴ……お前、ガッシュに何かしたか?」

 

 ゼオンの身体から抑えていた魔力が溢れ、そのあまりの大きさに、ブラゴがシェリーを担いでその場から飛びのいた。

 ブラゴをしてその大きさの魔力は未知。威圧感は大人の魔物すら比べものにならない。一瞬で迎撃できる体制を取れただけでもブラゴとシェリーが優秀であると分かるが……雷帝ゼオンという化け物の圧に、今まで流したことすらない冷や汗が伝っていた。

 

 数十秒か、数分か。そのままの距離での固まった二組。

 バチバチと、ゼオンの掌から魔力が漏れ始めた。術をいつでも放てる待機状態に、デュフォーはやれやれと首を振って立ち上がった。

 

「落ち着け」

「おいデュフォー。こいつらはガッシュに何かしたようだぞ」

「いや、ゼオン、あのな……」

「ガッシュが雷を放ったということはだ、こいつらはあいつに危害を加えたということだ」

「……」

「交渉次第では同志になりうるかもしれんと思ったが、却下だ。こんなヤツ、この序盤で葬り去ってくれる」

 

―――ダメだ……話を聞いちゃいない。前に心を決めたとはいえ、さすがにガッシュが傷つけられたという事実を目の前に持ってこられると取り乱すか。

 

 ゼオンの返答を耳に入れ、完全に臨戦態勢のブラゴとシェリーを見ながら、デュフォーはなんとも言えない物悲しい色を瞳に浮かべる。

 弟の過保護が少しはマシになっても、やはりこういったこととなると突っ走ってしまうのはまだまだだなとため息を一つ。

 

 ビシリ、とデュフォーはゼオンの頭にチョップを落とした。

 完全に不意を突き、さらには信頼しているパートナーからの一撃に……ゼオンはぽかんと口を開けて振り返った。

 

「落ち着けと言ってる。お前、ほんと弟のことになると頭が悪いな」

「……しかし―――」

「オレが話してないんだからガッシュは消えちゃいない。それにガッシュの近況を直に知るチャンスだぞ?」

「う……」

「弟想いなのはいいことだが……成長を見守ると決めたなら、この戦いに参加している以上傷つくことくらいあると看過しろ」

 

 手で弾けていた雷が勢いを失くしていく。溢れていた魔力も、心なしかしょんぼりと収束していった。

 ばつが悪そうに俯いたゼオンを見て、デュフォーは椅子に座りなおした。

 

 対して、シェリーとブラゴはまさにどうしていいか分からないといった様子で固まっていた。

 

 気まずい空気が場を支配する。

 やってしまったというように、ゼオンはガシガシと頭を掻いた。

 

「わ、悪かった。その……お前達が弟を、だな……うん……傷つけたかと思うと……」

 

 尻すぼみになっていく声。詰まる言葉と、僅かに赤くなっている耳。

 

「くっ……う……」

 

 なんとかしようとしつつも出来ていない様子を見て、ブラゴは毒気を抜かれて呆れのため息を吐き出し、シェリーは苦笑を零して生暖かい眼差しを送る。

 二人の行動に、屈辱だというようにゼオンは肩を震わせてそっぽを向いた。

 

「ええ、構わないわ。それより席に戻ってもいいかしら? 貴方の弟くんのことについて話せることも―――」

「おいシェリー」

「ふふ、いいでしょブラゴ。あの二人、もう大丈夫そうじゃない。それに王族ということはいろいろな知識も持っているだろうし、この戦いで有利になるならテーブルについて言葉を交わすべきよ。後になって不要だったと気づく情報でもいい。どんな些細な情報でもいい。あいつ(・・・)を追い詰めることが出来るなら私はいくらでも情報が欲しいの」

「……ちっ」

 

 ゆっくりと席に着きなおした二人は、漸く紅茶に手を伸ばす。

 

「交渉というよりはお茶会での情報交換……ということでどう? それなら損得や利害を気にしなくていいわ」

 

 シェリーの提案は渡りに船。このまま交渉という雰囲気でなかったため、ゼオンにとっては有り難かった。

 ただ、言葉を投げる気を失ったようで、デュフォーへと視線を向けていた。

 

「ああ、助かる。一つだけ条件として……これから先、ガッシュと会った時、ゼオンの存在をガッシュに漏らすことは無しとしてくれ。詳細は言えないが……まあ、王族内のいざこざとでも思ってほしい」

 

 話を繋いだデュフォーと、少しだけ思案してから頷くシェリー。

 

「分かった。あんなに怒るほど弟くんを想っているんだもの。きっと何か深い事情があるのね」

 

 微笑ましい眼で見られて、ゼオンは大きく舌打ちをするも言い返すことはなかった。

 一口紅茶を口に含んでから、デュフォーは打ち切りになった話の続きをと気を引き締めた。

 

「では、こちらの質問からさせて貰う。単刀直入に聞こう。お前達は守り人の一族と会った、もしくは撃破したか?」

 

 まだ自分の能力で調べていない種族の居場所のことを尋ねる。

 疑問というカタチにすれば先に“答え”は出る。しかしゼオンにこのお茶会の様子を見せる為に、あえて答えを出す者(アンサートーカー)を利用せずに話を進めていく。

 

「俺達はその一族と戦っていない」

「ええ、ケンタウロスのような魔物の子とは戦ってないわ。ブラゴはその一族のことを知ってる?」

「とある封印を護る魔物の一族だと聞いてはいる。何を護っているかまでは知らされていないがな。王族なら知っているだろう」

 

 話を振られて、ゼオンはやっと顔を上げて口を開いた。

 

「魔界の古代兵器のようなモノだな。オレが居場所を知りたかったのはそいつらの持つ特殊な能力が理由なんだが……知らないならいい」

 

 必要なのはゼオンに掛けられている呪いが人間界に来ている魔物の子に解かせることが出来るかどうか。

 デュフォーの能力で不可と“答え”は出ているが、魔物の子の成長によっては可能性が開けることもあるので必要な情報だったのだ。

 

「何の能力なの?」

「呪いと呼ばれる、他者の行動に制約を強いるモノだ。多大な魔力を消費し、己の命すら削って掛けると言われているが、術を掛ける条件を満たせば対面していなくとも掛けられるらしい。呪いの効果には術を掛けられたモノの命すら奪うことも出来るとのことだ」

 

 明かしても問題はないと判断したデュフォーが答えた。ゼオンに掛かっているとは言うことはなく、気付かれても制約が分からなければ利用されることもない。

 

「それは……ちょっと卑怯ね」

「ふん、弱者の方法だな」

 

 解呪の条件を付けた上に命を削るとはいえ、遠距離から術を掛けるだけで命を天秤に乗せられると聞いて、二人はそれぞれに嫌悪を浮かべる。

 二人ともが口を噤んだのを見て、これ以上その魔物について聞くのは線引きを超えると判断してか、シェリーが続きを促した。

 

「じゃあ、もう一体の魔物っていうのは?」

 

 再びデュフォーが口を開く。その先に、この場の空気が荒れることを知っていながら。

 

「爆発の術を扱う一族だな」

 

 瞬間、空気が張り詰めた。シェリーの瞳に闇が滲む。

 何かを知っているという証左の反応に、ゼオンが続きを繋いでいく。

 

「その一族を探しているのは王族としての責務からだ。千年前の戦いで一番多くの魔物を葬ったゴーレンというヤツによって、負けた子供達は本と共に石版とされてこの人間界に取り残されたらしい」

「ほう、初耳だな」

「ブラゴが知らないのも無理はない。お前達には話してもよさそうだから言うが……ゴーレンについては王族と一部のみが知る極秘事項だ。千年の長き刻に渡りその子供達を開放する研究が進められ、ゴーレンの一族自体が絶滅したことによって、とある一族と王族以外にはその研究について秘匿されてきた」

「そのとある一族というのが?」

「ああ、爆発の術を操るあの研究者の一族だ。魔界の科学発展に大きな貢献を果たしているあの一族の頭脳は、千年に渡り王と同世代の魔物達を救う為に使われていたんだ」

 

 いつの間にか俯いていたシェリーの表情は分からない。ブラゴは彼女の代わりに話を続けていく。

 

「……なぜ、その一族の魔物を探している?」

 

 目を細めて投げられた質問に、ゼオンはあの夜のガッシュの悲鳴を思い出しながら、本当の理由を隠して答えを紡ぐ。

 

「研究成果が実ったかどうかを王族として確認するためだ。依頼した側が経過や結果を確認するのは当然のこと。まあ、この戦いに参加する以上、研究が成功していたのなら千年前の魔物の子達を利用するだろうとは分かっているが……前の戦いの敗北者達を従える程度の策略なら、一人残らず焼き尽くして魔界へ届けてやればいい」

 

 冷たい紫電の瞳の輝きを、ブラゴの黒瞳がまっすぐ射抜く。

 自分を見定めようと見つめる黒に浮かぶ感情の中に、僅かに……ほんの僅かにだが、優しい光をゼオンは見た。

 次に俯いたままのシェリーを見れば……答えは出てくる。

 

―――なるほど……一族だけでなく魔物の子までそう(・・)か。この女は人間界での第一の被害者、というわけか。

 

 内心でごちて、デュフォーに顔を向ける。

 彼が見つめる先はシェリー。きっと何か“答え”を出しているのだろうと予測した。

 

「おい、シェリーとか言ったな。オレ達に話すつもりはあるか?」

 

 何を、とは言わない。これ以上は求めない。

 

 話すならばよし、話さないならばそれもよし。ゼオンとしてはどちらでも良かった。

 ただし……心を染める憎しみの感情をよく理解しているから、ゼオンはシェリーに一つ、おまけの情報を放った。

 

「……記憶の消去が出来る魔物は多く居るが、記憶の緻密な操作まで出来るのはその一族しかいないぞ。お前達もガッシュに会ったのなら……先ほどの建前の理由などではなく、オレがその一族を探している本当の理由に予測がつくはずだが?」

 

 静寂と、重い空気。

 

 ゆっくり、ゆっくりと顔を上げたシェリーは、憎悪渦巻く瞳をゼオンへと向けた。

 

「話を聞かせる前に、一つだけ、約束しなさい」

「……内容次第だな」

 

 有無を言わせぬ圧力に動じず、ゼオンはシェリーから視線を逸らすことはなく。

 

「貴方達がいくら強かろうと、その魔物には絶対に手を出さないで。そいつは……私の獲物よ」

 

 は……と短く息をついた。

 自分もこんな目をしているんだろうかと、ゼオンは思う。

 憎しみに染まりきったその眼差しの中に、大切なナニカへの想いを宿した目。

 

 絶対に揺るがないであろう固い意思を宿したその目を知って、ゼオンは己を見つめなおしていく。

 

 斜陽が西の窓から差し込み始めた頃のこと。

 長いお茶会になる、とベルモンド家の執事がそれぞれのコップに紅茶を注いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュフォーは小さくため息をつきながら、机の上のお茶菓子に手を伸ばしつつぼうっと天井を見やり、

 

―――その魔物……ゼオンの心の地雷原でタップダンスを踊ってるようなヤツだが……会った時に我慢できるんだろうか。

 

 話の中で出てくる“答え”と情報にうんざりしながら、万が一の対処法まで予測を立てていくのだった。

 




読んでいただきありがとうございます。


今回のまとめ
・銀本組のんびり二人旅
・お兄ちゃんおこ
・ゾフィスくんについて語るキャッキャウフフなお茶会

これからも楽しんでいただけたら幸いです。

下記のうちでどの魔物が好きですか

  • 弟にとっても優しいお兄ちゃん
  • モフモフな親友
  • 竜族こそ最強よ
  • 王をも殴れる男
  • ゴーーーーーー
  • 御意のままに!
  • 大・将・軍!
  • グロリアスレボリューション!!!
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