色々あって平安の世に生まれた。
当初は『無双して魔法使ってハーレムっしょ!』などと思い膨らませていたが、現実は無双も魔法もない平安時代日本に似た地であった。
神様マジないわー、衛生大丈夫かにゃあ、お歯黒とかってあるのかな、そも生き残れるか……。
と、他にも様々な不安を抱いていた俺だが、それらの心配は喜ばしい事に杞憂に終わった。
無双はなかった。
しかし、そこは素晴らしく夢想した地であった。
第一に、不安の種であった衛生環境はなぜか水回りが大きく発達していた影響でそれなりの清潔さが保たれていた。
なぜ技術が進歩していたかは不明。
多分アイドルはトイレしない的な願いの魔法だろう。
第二に、凄い親元に生まれた。
この時空にある日本のやんごとなき御方の御子と言えば理解して貰えるだろう。
あとすっごい美形、鏡に映る自分がイケメン過ぎる……惚れた。
第三に、この世界の女性は現代日本と変わらぬ美的センスであった。
地に着くほど長い髪や、お歯黒が無いのかと言われたら嘘になるが、絵巻などで思い浮かべる能面ではない。
つまり美人が多いというわけだ、嬉しい。
ここまで完璧な生を受けたのだ。
人生安泰だろう……そう思っていた時期が俺にもありました。
「兄さん……どうして貴方は私を受け入れてはくれないのでしょうか……?」
目元を紅くし、不安と怒りの込み入った表情でこちらの服を弱弱しくつまむ姿。
そんな存在の本当の名前は『光源氏』。
世界最古の恋愛小説の主人公、数多くの女性を絡めとってきたはずのイケメン。
……だがどうしてか、視界に映るその存在は可愛らしい少女になっていた。
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0歳
「おぎゃあ」
おぎゃぎゃと生まれて誕生したのは俺である。
目の前には見守る更衣たちが……なんて見えるわけなかった。
生まれた赤ちゃんの視界はボヤけているのだ。
記憶もほぼ無いため割愛させて頂こう。
5歳
「ふふふ」
目の前に映るのは『桐壺の更衣』。
若々しいこの美人が俺の母でありママということだ。
赤子の頃の記憶が残っていないのは恨めしいぐぎぎ……。
勿論、乳母が担当しているだろうというのは内緒だ。
この時点で俺は『源氏物語』の世界なのかもしれないと薄々感じていた。
現在は琴の稽古を直々に受けている。
琵琶法師にならないよう気を付けよう。
「貴方はきっと良い子に育って下さいね」
絶大なプロポーションであり、政略もあるだろうが母を口説き落とした父は凄いと実感する。
とはいえ、母……『桐壺の更衣』には問題があった。
父の寵愛を一身に受ける身でありながら、母の持つ”更衣”という身分は低かったのだ。
つまり帝の妻である”女御”よりも序列が下であるため、その彼女たちから大いに嫉妬を買ってしまっていた。
我こそがナンバーワンと誇る彼女たちにとって、『桐壺の更衣』の存在は目障りだったのである。
陰湿な嫌がらせで、彼女たちはこのライバルを排除しようとしてきた。
そこで俺登場。
チートな容姿を持った俺は彼女たちに『大好き(スーパーショタモード)』と言うことで好意と罪悪感を生ませることに成功したのだ。
よって母が悲惨なイジメに会うことは減ったが……代わりに俺は一部の女御からイケナイ視線を送られることとなった。
「母上、おめでとうございます」
そして五歳を迎え半年ほど経ったころ、『桐壺の更衣』は新たな命を生んだ。
女の子である。
赤子なので容姿は分からないが、父と母の子なのできっと美しい子に育つだろう。
8歳
母が帝との間に二人目の子を生んだことで、抑えられていたはずの女御たちの不満がとうとう爆発してしまった。
帝は全ての女御たちを平等に愛すのが義務である。
しかし未だ帝は自分たちを見てはくれない。
その不満は『桐壺の更衣』に向かう。
哀しいことに、恨みに晒され耐えかねた母はまもなくして亡くなってしまったのだ。
「妹は任せてください、俺がきっと良い子に育てます。」
ですが母上、言いそびれてしまいました……。
夜な夜な父との甘く情熱的な声を内裏中に響かせていたのは、どうか来世ではご勘弁下さい。
12歳
妹はすくすくと育ち次第にその天性の美貌から『光の姫』と呼ばれるようになった。
うむ、もしかしなくてもここは源氏物語の世界だろう。
だが彼女は優しく儚い少女である。
まさかここからドロドロ百合小説は始まるまい。
お兄ちゃんはノーマルになるよう教育をしたのです。
そして俺はついに元服をした。
もう大人です。
本来であれば帝から臣下になるよう言われるはずだ……が。
今までの俺はただ遊んでいだけではない。
前世知識でそれなりに、この世界の技術にテコ入れをしていたのでした。
よって、世間からの期待と信頼が厚く皇子のままである。
権力って最高やでグヘヘこの世界の歴史に残ってやろう。
妹は七歳であるが賢く、こちらにベッタリとくっついてくる様は悪くない。
しかし、見合いの話が来る度に相手方に突撃しにいくのは止めて頂きたい。
俺も相手も顔面蒼白なのです……。
泣きながら私をどこにも置いていかないでと言ってくるが心配なさるな。
お前が元服するまで妻は作らずに、お小遣い稼ぎという名の技術革新を進める予定なのです。
14歳
度重なる妹の襲撃によって、俺は未だこの世界で魔法使いの素質を保持していた。
一度だけ俺も和歌による恋愛やってみてー、ついでに卒業してー、と複数人いる幼馴染のうち一人の少女の元に詩を送ってみたことがある。
だが、どこからか現れた妹に押し倒され殴られてしまった。
その時のやり取りがこうである。
「兄さん……どうして貴方は私を受け入れてはくれないのでしょうか……?」
「えっ、だって妹だし?」
「私は遊びだったの……ですか?」
「九歳の愛しい妹だぞ」
よし、妹は落ち着いたかと安心していたのも束の間。
自分の大切な時間を取られたと思い怒った幼馴染と逆切れの妹によるキャットファイトがなんと繰り広げられる。
近くにいた侍女たちにどうにか取り押さえて貰おうとするがなかなかの勢いで収まらない。
両者泣き叫ぶ恐ろしい状況であったが、事態を聞きつけた一部の女御や更衣らがわざわざ応援に駆けつけたことで何とか事態は収束に向かった。
彼女たちには頭が上がらない……今度何か感謝のお気持ちを送ろう。
そんな事を考えていた俺へいつの間にか場に到着していた帝が一言。
「時が来たらしっかりと責任を取りなさい」
「うす」
幼馴染は頬を紅くし『待ってるね』と可憐に喜んでいた。
だが妹よ、どうしてお前も期待した目でこちらを眺めてくるのだ。
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この世界に生まれてから十六年もの時が過ぎた。
そろそろ妹も元服(裳着)である。
逃げに逃げていた婚約の話だが、父……帝に『流石に逃げるな、もう準備した』と説教を受けたのでお見合いが決定していた。
『どんな容姿か?』と尋ねた所『お前の母に似ている』と言われた。
『え、まじ』と答えてしまった俺は悪くないだろう。
なぜならば、今は亡き母だが莫大なモノを抱えていらっしゃったのだ。
どうして父に好みがバレていたのか……『視線だ』そうですか。
ちなみに俺の多大なる慰めや女御たちの努力によって、帝は母の死による悲しみから完全復活を遂げており、夜な夜な複数人呼び込む程度には元気になっている。
おかげさまで弟妹が多く増えた。
「それで、その者の名は何と言うのでしょうか」
「ふふ、ソレはその時になってから聞くと良い」
ふふふ、言わずとも俺は知っている。
それは恐らく『藤壺の宮』のことだろう。
藤壺の宮とは源氏物語においては桐壺の更衣を亡くし悲しむ帝がその面影に似た女性を見つけ入内させた少女である。
年齢は光源氏の五歳上であり結構近い。
母代わりとして帝から接するようお願いされた彼女だが、源氏はそんな女性に惹かれていくようになる……。
本来であれば帝が娶っていたはずの女性だが、今の帝は元気一杯である。
大人の余裕とやらを見せてくれたのだろう。
「今夜、その女の元に行きなさい。何か不安ならば見張りをつける」
「宜しく、お願いします(真剣)」
一度自室に向かった。
俺はこれから真の男になるのだ準備をしなければならない。
まだ相手の顔を見てもいないが、あの父が言うならば心配不要。
『母似』という最大の賛美と保証付きだ。
未だ日は完全には落ちていない。
朝帰りが貴族の基本とも言うので決行時間は遅めだろう。
今日は仕事を与えられていない。
つまり、『準備しとけ』ということなのだろう。
今までは妹の事や自分の将来の為もあり一部の欲が封印されていた。
しかし、ついにソレが解き放たれる時が来た……。
つまり今宵の俺はビーストならぬ物の怪モードに入るだろう。
俺は湯につかり、身体を清めてから布団を敷き、寝転び夜を待った。
そして起床、いざ決行の時。
相手のいるという邸宅へ忍び込み、指定された場所にドキドキしながら向かった。
お相手のいる場所はここだろう。
緊張の面持ちで俺は和歌を紡ぐ。
「 『―――――――』 」
相手へと囁く。
上手にできただろうか。
「 『~~~~~~~』 」
御簾の向こうからは鈴色の美しい声が聞こえてくる。
それはどこか心地よい。
どうやら入室の許可を貰えたようだ。
俺は手汗を抑えゆっくりと二人を別つ御簾を上げた。
太陽は沈み、今宵は新月。
灯りは星を除いてどこにも見当たらない。
まだ目が冴えず相手の顔が暗闇で良く見えない。
とはいえOKは貰えたのだ、中に失礼しよう。
「失礼しまそ……」
覚えろげな輪郭が見える。
もっと近くに寄りたいと更に距離を詰める……。
途端、
―――思いっきり身体を引かれ強引に押し倒された。
驚き、一体何事かと押し倒したその正体を確認せんとする。
その存在と近距離で顔が重なり合い幾分か過ぎた頃………そしてハッと気付いた。
雫を頬に薄く垂らし、クスリと妖艶に笑う彼女。
この懐かしさ。
暗夜に輝き咲くその容姿、その存在から紡がれる愛の囁き。
「ようやく、この時が訪れたのですね……。
永らくの間私は貴方の事を心待ちにしておりました。
それはきっと……
――――――兄さん」
『光源氏♀』だった。
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END
翌日、お肌ツルツルの光源氏♀が宮中で目撃されたらしい
二人は幸せになったのでハッピーエンドです
どうか女体化増えろ増えろ………(平和への願い)