ちゅちゅんと雀啼く。啼け(戒め)
7歳
生まれてから七年。
特にすることもないのでぷにぷに肌の妹を眺めていた。
世話は基本的に使用人が全て行ってくれている。
これが父パワー……とてもエネルギー(権力)を感じます。
そんな日々を元気に生きていたのだが突如帝からの召喚を受けることになる。
珍しい、サササと赴いた先での会話を要約するとこうだ。
「お前、従姉いるから会いに行きなさい」
「ウス」
断る理由もないので承諾したところ早速、翌日には従姉との見合いが決まった。
何でも帝の妹さんが生んだ双子らしい。
うむ、間違いなく超のつく美少女だろう。
親戚同士、こちらからも仲良くさせて頂きたいものだ……是非お願いします。
とは言え、相手からすれば突如見知らぬ男が自分に会いにくるのだ。
未知の存在に人は警戒するものであり、直ぐには心開いてくれないだろう。
ですがお客様問題ありません。
このような事もあろうと私はオセロ擬きを暇そうな宮大工に作成するよう指示し、
既に一年程前には現物を完成させて貰っていたのですわ!
遊☆戯で魂を熱くコネクトすれば直ぐにでも仲良くなれるはずなのです。
そしていざ、美少女と仲良くなりたい大志を抱き相手邸へ突入する。
……したのだが、結果を言おう。
意気揚々とオセロ君を持参して従姉の元へ参上した俺であったが、残念なことに、一度目の訪問だけでは心開いてくれなかったようだ。
うむ……流石に見積もりが甘かったか。
しかし、ルール説明をできただけでも大きな一歩と考えよう。
チャンスは未だある、ポジティブ思考……ポジティブ思考。
嬉しいことに相手の親御さんからは「来年も是非」とのことだ。
次回再度チャレンジをさせて貰おう。
「マタキマスカラ―」と言い残し、俺はオセロ君を従姉にプレゼントして颯爽と家へ帰った。
帰り際に知ったことだが、従姉の名前は『頭の上』
向こうのパパがこっそり教えてくれたことであり、次回はようやく彼女を名前で呼べそうだ。
そして肝心の容姿ですが………期待大ナマイトです。
8歳
二度目の挨拶に来た。
だが肝心の『頭の上』が見当たらないようで、
代わりに彼女の妹である『葵の上』が俺の相手をしてくれていた。
姉が見当たらずどこか焦った表情の妹ちゃん。
ちょっと可哀想は見過ごせない。
「ここは大人に任せよう」と、俺は持参した第二のオセロ君を取り出し、『葵の上』の緊張をほぐしつつ共に遊んでいた。
勿論、加減をしてお互い適度に楽しむ。
ハハ、といっても勝ちは譲らないけどな!(鋼のメンタル)
そんなこんなで『葵の上』との対局10回目。
割と上達が早い……なんなら今もう負けそう。
しかし! そろそろ夕暮れが訪れる。つまり時間切れ。
よって流局の結果、俺は全勝となるはずなのだ。
「ふふふ、俺の勝ちという」ことで良いかな。
――――そう宣言しようとした時、『頭の上』が現れた。
目元をほんのり紅くした少女。
「おお、来てくれたの」と喜び伝える俺には目もくれず、彼女はどこに牌を置くべきかと悩んでいた自分の妹に声をかける。
「葵の上、その牌を端に置けば相手は詰みでこちらの勝利です」
「わ、本当だ……。ありがとう姉上! ……っとよし ふふふ、これで私の勝ち。だね」
うごご……負けてしまった。
でも勝ちを譲るのも従兄の役目ってやつ? し、仕方ないね。
しかしまあ、今回は大人しく負けを認め引き下がろう。
もうお開きの時間とはいえ、姉君はこの場に戻ってきてくれたのだ。
褒美欲しそうにこちらを見る『葵の上』には、今回使ったオセロ盤二号君を贈呈した。
姉上は貰っているのに自分だけは……というのも哀しいだろう。
これが姉妹平等精神ってやつだ。
9歳
三度目の訪れ。
『頭の上』は今回からしっかりと集いに参加してくれるようになった。
『葵の上』のことだが、彼女はどうやら屋敷の者と沢山練習を重ねてきたらしい。
先ほどから俺を打ち負かしたそうに、興奮した目つきでこちらを眺めている。
早速対局を申し込まれたので、「ははは、捻り潰してやろう」と威勢良かったのも束の間。
すいません、普通に負けました。
不味い、これでは従兄としての見栄が枯れてしまうではないかどうしよう。
うむむむ…………そうだ!
「頭の上、葵の上。どうだ一局、姉妹で打ってみるというのは」
我ながら名案である。
そして即答する妹、困惑しつつも承諾する姉。
「わかりました! 姉上、私と一緒に打ってみませんか」
「……葵の上がそう言うのなら。わかりました」
よしよし、事は上手く進んでいるぞ。
俺は更にここでルール追加を提案する。
「あっ、そうだ。この対局は三本先に取った方が勝ちにしようぜ。うんうん」
作戦は至って簡単だ。
三本先取にすることで相手の脳を疲れさせ、その直後に俺の万全脳で蹂躙。
あわよくば夕暮れの訪れを待ち。そのままお開きだ!
そう、全ては俺の掌の上ということよふはは。
だが長らく続くかと思われた対局は呆気なく、葵の上の三本ストレート勝ちで幕を閉じた。
割りと良い感じの対局ではあったが、流石に経験数の差から妹の方に軍配が上がったようだ。
しかし……
頭の上は少し悔しそうに口元を僅かに歪めたまま、既に終わった盤面を睨んでいる。
ふふふ、悔しがるとは良い所あるじゃあないか。
俺が手解きしてやっても……いいよ?
「頭の上、そういえば俺と打ったことはないだろう。この機会に一局、どうだ?」
「……わかりました。お願いします」
ニヤニヤと『頭の上』を見ていると、彼女はこちらを睨み対局の誘いを受けた。
チョロい(確信)
「な、んだと」
……何てことを思っていた時期が俺にもありました。
すいません、普通に負けましたええ。(二度目)
うみゅ、オセロじゃもう俺は従姉妹に敵わないだろう。
今度大工さんに将棋盤作って貰おう。そう決心した。
「…………ふふっ」
しかしまあ、これはこれで良かったのだろう。
今日初めて『頭の上』が見せた小さな笑顔だ。
敗北は甘んじて受け入れるのが“大人”ってもんだろう?
この敗北は、勿論多分恐らく作戦通りですとも。
いずれ満開の華が咲くその時まで、ゆっくり心開くのを座して待つ。
ええ、それこそが目標なのです。
「オセロ、またやりましょうね!」
だが許せ葵ィ……次回からは別の遊びにするのだ。
10歳
五歳の妹が年一の従姉妹邸に着いてくるようになった。
とは言え、何か大きな変化のあるわけでもない。
少しずつ、美少女から美人に成長している従姉妹と仲良くなるため今回も画策している所だ。
「これは一体……どのようなモノでしょうか」
そして、二人の姉妹が不思議そうに眺めるのは将棋盤。
ルールは比較的簡単だが、可能性は無限大。
そう、君たちをワカらせる為の兵器さ……。
だが、「こしてなー、そしてなー、こやー」と説明をするも、二人は目を泳がせており今一良く分かっていない様子で。
本来であれば説明書を渡すのだが……手加減はできないからね、仕方ないね。
ちなみに、家での試戦で俺は妹(五歳)に一度負けているのだが、それは内緒である。
「どう、一度見本として試戦して見せようか?」
勿論、その場合は妹と戦うことになる。
ええ、その時は“負ける役”を演じるのですわよ……うむ。
けれど試戦を見せても再び同じ様子。
『頭の上』は不思議そうにこちらを、
『葵の上』はルールを理解しようと目を回している。
ありゃ前の遊びの方が気楽だったかな。これは失敗したか。
そう考え、言葉を発する。
「ああ、やっぱりオセロでも……」
「いえ、私に一度。試させて下さい」
――驚いた。
「……はい、是非!」
なんと『頭の上』が突如初めて自主的に遊びへと参加したのだ。
よし、これは仲良くなるための絶好の機会に違いない。
また妹の友達を増やすチャンスでもある。
アイツは友達が少ないのだ(直球)
よって妹には彼女の補佐をして貰った。
「葵の上は俺の横で見なさい。頭の上は何か困ったことでもあれば光の姫に聞くと良い」
そして始まった俺 vs 頭の上。
序盤、中盤と俺は飛車角落ちにも関わらず善戦を繰り広げた。
そう、繰り広げたのだが……終盤、
『頭の上』はいつの間に仲良くなったのか補佐状態の妹に怒涛の質問を始め、知識を吸収するスポンジでは言足りない程急激に、攻撃の勢いを増していったのだ。
だが俺は長男だ、ここで負けるわけにはいかない。
しかし奮闘虚しく、終盤は防戦一方に回っていた。
段々と仲間が相手に食われ堕ちていく様は恐ろしい。そして……
「玉手です」
彼女の白く美しい玉手が、詰みへと誘った。
11歳
特に何も変わらない。
強いて言えば、俺の妹と葵の上が少し睨み合い始めた事くらいか。
同じ妹枠として何か通じ合うモノがあるのかもしれない。
そして『頭の上』の態度は徐々にだが軟化してきている。
これは心開いてると喜んでいいのだろうか。
12歳
俺は元服をした。
従妹たちもそろそろ成人の儀を行うのだろう。
もしかすると今回が互いの顔を何にも遮られず集える最後の機会かもしれない。
なぜなら女性が成人の儀……つまり裳着を行うと親しい男性以外には顔を隠し、大衆に晒さないようするからである。
しかと彼女たちの美貌を今のうち、目に刻んでおこう。
そういえば、『頭の上』から唐突に送られた、「お慕いしております」宣言は何とも可愛らしい背伸びというか……つまりお世辞である。
これが大人になる故の過程か。
「俺も俺も!」と、それなりの本心から応えておいた。
13歳
今回、俺の妹はお留守番である。
何か変化はあるか。
それは彼女らが裳着を済ませたということだろう。
一人前の女性と認められたようだ。
そして成人に伴い、御簾越しの彼女らの言葉はどこか礼儀正しいというか少し堅い。
うむむ親戚の集いなのだ。
あまり気にせず適当に話しかけて欲しい所である。
……が、難しいものだろう。
そんなことを考えていると、『頭の上』が珍しく俺へと話しかけてきた。
「貴方は……私に詩を詠んではくれないのでしょうか?」
「えっ、いいけど(即答)」
『頭の上』からのお願いである。
神速の速さでそれに応じた……のだが反応はあまり宜しくない。
少しだけ顔を渋そうにしている。
私は哀しいポロン
「わ、私にも来年でいいので何か読んでくれると嬉しいな」
「任せろ」
とは言え、御簾で遮られようとも向こうにいるのは幼馴染の可愛らしい少女たち。
何でも許せちゃう。
15歳
何というかその……
今年は色々とあり彼女たちの元へは訪れられなかった。
反省は申し訳ないとの一心であり、発見は女心とは難しいとのことである。
実は去年のある騒ぎの時、
真っ先に駆けつけてくれた『頭の上』に助けを求めたのだが……
「そう……貴方に妹は相応しくない」
彼女はそう一言だけ呟き、こちらへ冷たい視線を一瞬送り、直ぐに去って行ってしまった。
後日、『許して下さい何でもします(意略)』との手紙を送ったのだが……
未だ、彼女からの返信はない。
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ちゅちゅんと雀啼く
七歳
父に「帝の子だ、仲良くしなさい」と言われた。
私は嫌だった。なぜ見ず知らずの男と見合いをするのか。
周囲への反抗心から、私は訪れた彼を無視していた。
……だというのに諦めの悪い彼はずっと私に話しかけている。
「ーーこれがこうで……つまり黒が白に……。その……分かる?」
「あ、はい……。その、ごめんなさい。ボーッとしていました」
帰り際、彼は私に遊戯物を渡してきた。
彼がずっと一生懸命説明していたモノだった。
少しだけ、気になって遊んでみた。
意外と……何だか悔しくなった。
八歳
逃げた。
私は皆の操り人形じゃない。
だが抵抗虚しく隠れん坊は夕方に終わる。父に見つかってしまったのだ。
戻ると、彼は私の妹と遊んでいた。
それは前回、彼が私に説明していた遊びだ。
彼は勝ちを見ている。でも妹が泣いたら許せない。
私は妹に助言をし、直ぐその場から去った。
九歳
姉妹で遊戯をすることとなった。
一度程度ならば勝てると思っていた……しかし妹に惨敗した。
悔しがっていた心を見透かしたのか、やつは対局を申し込んできた。
ふざけるな。
そう思い私は全力を尽くし遊戯を行った。
結果、勝利した。
何だ、大したことなどなかった。
顔を見ると、アイツは驚いていた。
……少し、爽快だった。
十歳
父が「いずれ帝になるかもしれない」と言った。
気に入られろという暗示だろう、面倒だ。
でも、少しだけなら頑張ってみようとも思った。
……しかし一応見合いだというのに、彼はまた別の新たな遊戯を持ってきていた。
また自分の妹まで連れてくるなど、一体何を考えているのか。
いつの日かのように一生懸命新たな遊戯を説明している彼。
対して困惑した様子の私の妹。
その様子に気づいた彼は、『止めようか』と提案しかけた。
でも、私はそんな彼の言葉が出る前に遊戯に参加してみた。
理由はただ、せっかく持ってきたのに何だか勿体ないと思ったからだ。
……負けそうになった。
でも、彼の妹は親切にも多くの助言をしてくれた。
『光の姫』は全てを見通すかのようだった。
「……ありがとう」
「えっ、何が?」
貴方に言ってない。
「あっ、ウン…」
――そして、玉手。
私は彼から勝利を勝ち取ったのだ。
ふと、どんな表情で悔しがっているか見てやろうと思った。
少し嬉しく、頬を吊り上げながら彼の方を向く。
……彼は、いつものように笑っていた。
十一歳
いつものように彼は私たちの元に訪れ、ただ遊んでいた。
彼といるとき、私の退屈はどこかへ去っていた。
しかし見合いだというのに、未だ彼は私たちと遊ぶことしかしてくれない。
どうしてか、
不安な気持ちになった。
十二歳
父は私に「必ずや帝になる。絶対に心を落としなさい」と言った。
彼は元服を済ませたばかりであり妻は未だ娶っていないらしい。
どうして自分がと思った。
でも……。
本心では……本心ではないけど。
私は勇気を出して彼に「慕っている」と伝えてみた。
しかし、彼からの私への想いはどこか違う。
そんな気がした。
十三歳
焦っていた。悩んでいた。不安だった。
自分がこんな気分になっている原因はどうしてか。
彼が見合い中に遊んでいてばかりだから、
遠回しな告白をしたのに反応が良くなかったから、
自分以外……妹にも詩を詠む約束をしていたから……。
いや違う、もっと根本的なことだ。
この六年の見合い、私は彼に “一人の女として見られていない“ のではと不安なのだ。
では一体なぜどうして……。
彼の話を無視して素気な態度を取った。
彼の遊びに乱入した。
彼との遊びに勝って嘲笑った。
彼と妹の遊びを差し置いて他の遊びをした。
否だ、悪い方向に思考が流れている。
思い込みだ。
違う、違う……。
嗚呼しかし、それでも考えてしまうのだ。
――彼に、嫌われてはいないだろうか。
十四歳
妹が彼との二人だけで見合いをするらしい。
私は父から部屋を空けるよう言われていた。
「一度、葵の上と彼を引き合わせてみよう……」
……不安だ。
今すぐにでも彼に自分のことを問い詰めてやりたい所だ。
でも妹と彼、その二人だけの幸せな時間を邪魔するわけにもいかないのだ。
当日、私は二人の様子を遠くからこっそりと眺めていた。
詩を送る彼、返歌を紡ぐ妹。
互いの小さな笑い声が薄っすらとここまで聞こえてくる。
どうしてそんなにも嬉しそうに笑っているのか。
煮え切らないこの気持ち、鬱憤が積み重なっていく。
だが、そこへ突如『光の姫』が現れる。
驚いた表情の彼。
そんな彼を真剣に殴るどこか哀しみ怒った『光の姫』
予想だにしなかった展開であり、私は目を回していた。
さらに直後、御簾から勢い良く飛び出した『葵の上』と『光の姫』が壮絶な揉み合いを始めた。
焦る彼、宥めようとするも彼女たちは耳を傾けず、目の前の敵を倒さんと組み合っている。
私はその様子を見て、どこかスカッとしていた。
ひどい人間かもしれない。
でも、彼はこうなって然るべきだと思ったのだ。
とはいえ、ただ静かに眺めているわけにもいかない。
この事態を収束させるのが先決だ。
私は喧嘩する二人の妹の前に急いで立ち寄り、彼の助太刀をしてあげようと思っていた。
近付く私、そしてこちらに気付き目を丸くする彼。
全く……仕方のない男だ。
が、しかし……
彼が私を見て今年初めて発した言葉、それは挨拶でも再会の喜びでもなかった。
「と、頭の上……どうか二人を諌めるのに手伝ってはくれないだろうか…?」
第一声で助けを求める。
それは彼にとって至極当然の行動だと心の内では分かっていた。
それでも、それでも……
――逆鱗に触れた。
どうして、どうして……私に笑顔を見せてくれないのか。
わざわざ私は貴方のためと助けに来たのに、どうしてそう困った顔をしているのか!?
理不尽な想いだとは分かっている、それでも……!
「貴方に妹は相応しくない」
こんな場に留まりたくない。
今すぐにでも離れたい、見たくない。
想いが……願いが、思考を支配する。
私は一心不乱に彼の元から逃げ去っていた。
「……気持ち悪い」
自分がなぜ困惑しているのか。
彼は私のことを何とも思っていないのか。
どうして、なぜなのか。
何がダメなのか。
分からない。
教えて欲しい。
……嗚呼、ほんとうに。
……本当に、気持ち悪い……。
私は泣いていた。
ただ、ただ、哀しかったのだ。
十五歳
ただ……寂しかった。
本当は分かっていたのだ。
彼の元に居ない自分の存在が哀しかった。
嫌だった。
彼の元に居る自分の妹に嫉妬していた。
悔しかった。
認めたくなかった。
彼の持ってくる遊戯、本当は楽しんでいた。
詩を詠んでくれた時、初めてで嬉しかった。
……だからこそ、軽々しく詠んでは欲しくなかった。
妹にまで、約束をしないで欲しかった。
――ただ、私だけを見ていて欲しかったのだ。
今年、彼は訪れていない。
雀の啼き声が……より寂しく感じた。
十六歳
彼は『光の姫』と血筋を超えて結ばれたらしい。
ならばこそ、もう遠慮することなど何もない。
否が応でも絶対に、彼の心を堕とす。
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16歳
ちゅちゅんと雀啼く。
目覚めの良い朝だ。
身体に張り付くような温もり、柔らかさ、心地よさ。
昨日は……一体何をしていただろうか、むむむむ。
そうだ。
色々なほとぼりが冷めたので久しぶりに親戚の家へ赴いたのであった。
積もり積もった世間話を交わしていると光陰矢の如し、あっという間に夕方が訪れる。
そろそろ帰宅するか……。
そう思案していると珍しく、彼女の家から宴会に招待されたのだ。
年齢は十六と既にお酒を飲める頃合いであり、日頃お世話になっている相手方のお父さんに
「どうだ、一緒に呑まないか」と誘われたならば断る理由はない。
「ええ、是非」と別室に移り、従姉妹との思い出を肴に二人で吞み交わし、話を咲かせていた。
しかし何杯酌み交わした時を境に、記憶が朧気なものへと薄れ去っていく……。
親父さんが「後はお若い二人で」と言い残すと、個室は見目麗しい幼馴染と自分の二人のみだった。
彼女の名は『頭の上』
先まで伸び整った手足、ソレに付随する雪肌。
蒼玉(サファイア)を思わせる怜悧な顔立ち。
ふと視線を吸い込むか如くの淡さを持つ紺藍の瞳。
十二単は彼女を極みへと昇華させている。
纏めれば超絶美人だ。
血筋的には従姉なのだが、数年来の仲である。
酔いも回り、気の許せる馴染みがいると会話は弾む弾む。
時を忘れて過去の話に盛り上がっていた。
もう一杯、更に一盃、追に1升と……彼女は滅多に他人へ見せぬ綻ばせた顔を浮かべ、こちらへと薦めてくる。
「その辺でどうか……」と遠慮しようにも、返答は「いえ、ごゆるりとお楽しみ下さい」のみ。
ならば仕方ない、もう少しだけ……そうあと少し。
だが元来酔いには弱い体質である。
視界は柔らかく、思考はほろりと溶けていった。
「うむむ、もう帰らねば……姫に何と言われるか分からない」
そう思い、立ち上がろうとするも足元は覚束なく不安定だ。
おっと危ない。
――――立ち眩み、よろけた身体を支え介抱する彼女。
「今日は泊っていくのでしょう。心配しなくとも大丈夫」
「そうだったのか……そういえば、今日は泊まっていくのだったかな……?」
ありもしない記憶。
だが朧げな思考はそれを違和感なく受け入れた。
「……では、お言葉に甘えることとしよう」
今宵は満月。
恒星流るる天夜、暗闇には一際大きな華が咲いている。
『頭の上』が柔らかな御手でこちらを包み、ゆっくりと寝室へ付き添った。
そして到着。
崩れるようにその場へ座る。
今夜は少し無理をして吞んでしまったようだ。
「助かった」と礼を言い、先に眠りに就かせて貰おうと思った、たのだが……
「…………………」
「…………………」
未だ彼女はこの場を去ろうとしない。
妙な沈黙が訪れている。
「……うむ? どうした、何か言い忘れでも………」
微笑みこちらを見やる『頭の上』……何だろうか。
今日はやけに彼女を艶やかと感じてしまう。
いけない、酔いが変な方向へと走っているようだ。
煩悩退散……煩悩退散……。
―――するり
絹の擦れる音が聞こえた。
何かとそこを見やれば、華やかな唐衣が彼女の足元に落ちている。
「あ、ちょちょ……」
止めようにも『頭の上』は十二単を一枚、また一枚と脱ぎ捨てている。
穢れを知らぬ肌が少しずつと面積を広げていく様はさながら雪のよう。
とうとう彼女は単衣のみとなってしまった。
これ以上は肌着に覆われたモノが晒されてしまう。
流石に止めなければ。
本能に抗い俺は何とか制止の言葉を紡いだ。
「と、頭の上……流石にそれ以上は冗談でも私に見せてはならない……うん」
しかし、彼女から返された言葉は全く予想外のもの。
「いいえ、本気です」
「……え」
こちらへ流れるように身寄り、耳元へと甘く囁く『頭の上』。
「――だって、貴方と私は……
幼馴染でしょう?――」
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ちゅちゅんと絆熟れ……
ちゅちゅんと灯揺れ……
ちゅちゅんと雀啼く……
満ちたり
甘い温もり、柔らかな匂い、くすぐったい感触、不思議と軽い身体。
認識したのは……解けた帯、柔らかな双房、不思議と感じる心地よさ。
まさか、ゆっくりと隣を向く。
……なるほど、やけに元気の湧く食べ物が多いと感じたが間違いない。
――隣に眠る、一糸纏わぬ美女。
――見覚えのある馴染み顔。
――静かなる怜悧とは今のこと。
それはきっと…………
『頭中将♀』だった。
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END
その後、主人公がしっかりと “責任” を取った
二人は結ばれた♀♂のでハッピーエンドです