目の前でじっとこちらを見つめる少女。
彼女はただ単純に、“美少女”という単語が似合う存在である。
とはいえ、それだけでは淡泊で勿体ない。
可憐な女子の描写はいくらでも需要があるのだ。
アーモンドの瞳。
月咲く華々しい笑顔。
平安なでしこ。
……端的に表すならこんな所だろう。
出すとこ出さず、出るところは出ている……わるくない
それが、『平安なでしこ』の意味なので是非覚えて欲しい。
しかし、少し考えれば特別に表現する必要はなかったのだろう。
理由は単純、彼女は俺にとってまた大事な身内……つまりMyシスターだから。
少女の名は『朱雀帝♀』
正真正銘、第一の妹である。
ξ
昔々、とは言え最近
『弘徽殿の女御』という高貴な女性がいました。彼女は帝の第一妃です。
出会いは“右大臣の娘“という立場であり、つまり帝の幼馴染といったところ。
政略的な力も勿論あったでしょうが、二人は相性の良さもあってか流れるように結ばれました。
互いに仲睦まじく、それは真に結ばれたものに違いありません。
いちゃいちゃです。
しかし数年後。
当然のように、幼馴染の宿命とも言える新たな恋敵が現れます。
その者の名は『桐壺の更衣』
服越しからも分かる豊満な母性。彼女もまた、帝に愛される女性でした。
深夜、元気に廊下を歩んでいた新人が……早朝、覚束ない足取りで自室へと戻る。
それはきっと一目惚れ。
美貌に心奪われた帝が、途端に他の妻を放ってまで一人の女を溺愛し始めたのです。
とんでもないグラマー若娘が現れたものだと彼女は恐れました。
このままでは自分の立場が危ういのではないか。
いいえ心配不要。
『弘徽殿女御』は帝が一番に惚れ愛した女です。
その慕いの情は未だ現役。
大和撫子よろしく、縦に整ったスタイリッシュ体型を持つ彼女。
幸いなことに、二番手ではありますが、それなりに沢山部屋にお呼ばれしていました。
とはいえ、彼女は二番手へと堕ちたのです。
肌の触れ合うような日々は減り、当然のように生まれる新たな結果……それは、
「ばうー」
『桐壺の更衣』が第一子、それも男の子を生んだのです。
つまり第一皇子を先に奪われてしまったということ。
彼女にとって大きなショックでした。
誰よりも早く帝に嫁いだはずの自分が、いつの間にか女として完全敗北していたのです。
ぽっと出の新入り娘に、夫がワカラセられていたのです。
……夜の立場は逆かもしれませんが。
『弘徽殿女御』キレたり!
うごごと哀しみ狂う彼女。
帝は天を貫く霊峰に心奪われていたのです。
きっと自分が幼少期に好き嫌いをしてしまい、蘇などの乳製品を食べてこなかったことが敗因でしょう。
全ては胸です。
母性の物質化には勝てませんでした。
理不尽だという悔しさ、これには枕を何度も濡らしました。
さらに自分のモノと比べてしまえば差は一目瞭然。
ああこんなことがあってもいいのか、彼女はまた泣いてしまいました。
で す が、
強い平安美女。
ここで白旗を易々と上げるようでは、帝の正妻の座を射止めていません。
他の女に皇子を先抜かれたのは事実。
しかし、彼女は自負しています。
己が身体は希少価値であり、そこには控えめな夢が詰まっている。
帝から「身体は清流のようハハ」と遠回しに形容されるも、それこそが彼女の魅力。
そうつまり、私こそが真の可能性なのだと!
『弘徽殿の女御』は強い瞳と共に決心しました。
今一度、我が母性を思い出させんと。
第一皇子は不可だったとしても、第二皇子まで他の女に抜かされるものか。
彼女は帝に再び故郷♀へ帰ってきてほしいと願い、精一杯アピールを開始したのです。
結果、努力は報われる。
二年ほど要しましたが元気な娘が生まれたのです。
ああ 嗚呼 私の子
嬉しい初子、蘇は沢山食べさせてあげようと彼女は母心に誓いました。
良き未来を歩んで欲しいと、純心に願いました。
自分のような後悔はさせまいと、決心したのです!
信じて疑いませんでした。
赤子を胸に優しく抱き、望んだのです。
強く望まれたのです。
この子に心からの祝福をもって!
きっと 帝に なるでしょう
――『朱雀帝♀』は “男“ としてこの世に誕生しました。
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兄という存在が、私の心に芽生えたのはいつだろうか。
物心ついた頃には既に、隣に居たような気がする。
自由奔放な行動、それでいて頼りがいのある笑顔、私を引き連れる少し大きな背中。
部屋で独り過ごしている時、退屈から救い出してくれるのはいつも兄だった。
ほら外に行ってみよう、遊びを持って来たんだ、隠れん坊でもするかい。
こんな日々が永遠に続くものだとばかり、幼心は思っていた。
しかし六歳を迎えたとき。
「男としての自覚を持つように」 と母から言われ、
「そうか、私は男なのか」 とそれを認めてしまったとき。
―――歯車は狂った。
己の性別が男でないことは知っている。
兄からも、母からも、父からも、私は今までそう育てられてきたのだ。
女性として育ち、いつか母がしたように、自分も立派な夫を見つける。
そうだ。もし自分の夫が兄ならば……何て素晴らしいのだろう。
子供の考えるぼんやりとした小さな自分の夢。
ぐにゃんと頬を紅にだらしなく染める少女。
「ふふふ、何を言っているの? 貴方は帝になるのよ」
私は首をかしげていた。
幼かった頃の自分では理解できなかったのだ。
母から何気なしに送られたその言葉の真意を……大きな想いを。
喜んでもらえるかもしれない。
何も知らぬ少女は心を躍らせる。
着せ替えられ、兄と似たような恰好をする。
少女は知らない、何も知らなかったのだ。
「兄様、私は本日より男となりました」
部屋へ辿り着き、兄に自分が男になったことを告げた。
きっと褒めてもらえるのだろう、そう信じていた。
しかし期待した反応は訪れない。
兄は驚いた様子でこちらを眺めているだけだ。
沈黙が流れる。
どこか不安な気持ちになる、胸騒ぎが私を支配した。
「……兄様? どうしたのですか」
二人だけの静寂。
すっと立ち上がった兄はこちらへとゆっくり近寄ってきた。
どくん、と胸の奥が揺れ動くのを感じる。
これは喜びだろうか。
安心する胸の中、満ちる心、背に回そうとする……私の小さな腕。
だからこそ、顔を見あげた。
兄の方から甘えられる私にとって初めての経験。
どのような表情を浮かべているのか気になった。
「どうしたの、どこかいたいの…?」
兄の浮かべるその表情は悲しみだった。
どうしてそんな顔をしているのか分からなかった。
でも、私のせいだろうと本能で理解していた。
「ごめん…」と、声を押し潰しながら呻くあの人。
「何とかするから…」と、強く私を抱きしめ懺悔するその様子。
ああごめんなさい。
ああごめんなさい。
でもそれは、私にとって本望で……。
私は、私のために兄が泣いているのを見て。
みっともなく啼いているのを胸に感じて。
「だいじょうぶだよ、いたくないよ、ここにいるよ…?」
「ねぇ兄様、こっちをみて…?」
本当に憐れで。
たまらなく可哀らしくて。
私という存在が歪むほど、どうしようもなく………
気持ち良かった。
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8歳
帝がEDになった。
きっかけは最愛の妻である『桐壺の更衣』を亡くしたことだ。
ちなみに俺の母でもある。
愛情深い帝にこれは痛かったのだろう。
心身ともに傷を負ってしまいそのまま不能になってしまったのだ。
同時に、俺自身にも問題が訪れた。
不能ではない。
腹違いの妹『朱雀帝♀』が男装して突如部屋に訪れたことである。
何かのご褒美かな? いやそうじゃない。
まさかとは思ったが、本当に男として生きていくというのだ。
……うむ、これには間違いなく父のEDが関わっている。
それは夜の相手ができないという意味で、つまり他の妻たちの不満が溜まるとイコールなのだ。
そしてED事件被害者の一人が『弘徽殿女御』であり、『朱雀帝♀』ママだったのだろう。
彼女はもとより男の子を欲していたし、そのせいか俺は常に目の敵にされていた。
お労しや妹の母君、帝の不能は何とかしますゆえ……ごゆるりとお休み下さい。
つまり、
「(お母さん病ませて)ごめん……」
「(父のED)何とかするから……」
というわけなのだ。
12歳
本日は帝主催の宴会である。
EDの話は既に過去のもの、九歳の頃にはあっさりと解決していた(即落ち)
どんな手口かは秘密……と言ったら寂しいので簡潔に纏めると、金!媚薬!えっち! だ。
我ながらに名案だったと思う。おかげさまで弟妹が沢山増えることになった。
隣に座っているのは未だ “弟状態” の『朱雀帝♀』
ああ懐かしい記憶。弟という立場でお泊まりに招待した日々
同衾せずとは何とやら、弟だからセーフと共に明けた夜
しかし、そんな弟も今日でお別れ……ようやく妹へ戻るのだ。
本日の宴で告げられたのはその言に関して。
一つ、『弘徽殿の女御』が新しい命……男の子を生んだということ。
二つ、よって明日から『朱雀帝♀』は息子から娘へと戻ること。
彼女は息子を願うあまり娘を男装させているのだから、本当に息子が誕生すれば解決なのでは? 天才の閃き。
俺は帝にハッスルして貰うよう先の秘密の方法でこれを実行し、成功させたのだ。
おめでとう、おめでとう、よくやった俺!
これで目先の問題は全て解決したのだ、今日はゆっくり寝れるだろう。
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そして、話は冒頭に戻る。
宴会を抜け出して、といれといれと小走りしていた時。
俺は人気の少ない場所で『朱雀帝♀』にいつの間にか押し倒されていたのだ。
「……だめ」
両の手は地面にぐっと広げ押しつけられており、
馬に又がるようなその姿勢は、まるで蜘蛛につかまって動けない虫。
離れようにも、強く無理に動いたならば、どちらか一方は怪我をするかもしれない。
それほど力強く抑えられていた。
「……ねえ」
目を大きく見開き、全てを吸い込むかの深い瞳でこちらを覗いている彼女。
こちらに呼び掛けているのか、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
そして互いの鼻が触れあうか……それほどに近づいた時、ようやく声を拾った。
「兄上…」
名を呼ばれているだけだというのに、実にそれは妖艶な響きだった。
十才ばかりの少女が発してはならない、全てが溶けてしまう音色
余りにも静かな、二人だけの間に通じる小さな内緒話。
囁きと言った方がきっと正しいのだろう。
「だめでしょうか……」
「務まらないでしょうか……」
「不十分でしょうか……」
会話は一方通行であり、紡がれる言葉は止まらない。
その爛々とした目つきは明らかに異常だ。
「私では……必要とされなかったのでしょうか」
「私では……弟として満足されなかったのでしょうか」
「私では……不十分だったのでしょうか」
まるで何か悪いものが乗り移ったかのような不気味さ。
生存本能が警鐘を鳴らしている。
何かが決定的におかしい、ずれている。
こちらの身体は動かず、さらに拘束は強まっていく。
それでも何とか、喉奥から言葉を引っ張り出した。
「に…兄様です」
「……お願いがあるのです」
「な、なんなりと」
「では……失礼します」
ぬるりと柔らかい音がした。
ぴちゃりと生温さが頬に落ちた。
一瞬の出来事に脳が認識を拒絶する。
彼女の左手には、刃先が赤く染まった小刀が握られていた。
そして自分の右の手のひらを切ったのだ。
「ちょ⁉」
「……ッ!」
そのまま流れるように俺の手をがっちりと抑えつける『朱雀帝♀』
抵抗しようにも体は鋼のように動くこと叶わず逃げることは不可能で。
走馬灯のように思考が加速していく。
大声を出すか? でも本当に正しいか? 押し返すか? いや動けねぇわ!
どうしよう、誰か助けて、ああ母上。
「いちっ!」
するりと左の手のひらに痛みが走った。
あぼーん。
…
…
…
しかし、それ以上は時が経っても何もされなかった。
残ったのは生々しい温かさと少々の痛さのみである。
意を決し……ギュッと閉じていた目を開いた。
するとそこには、
―――互いの傷口を恋人のように繋ぎ会わせ
―――隙間から滴り落ちる兄妹の混ざった血
―――それを見て恍惚とした表情を浮かべる
『朱雀帝♀』がいた。
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END
その後、互いの傷は主人公が何とか上手く言い訳した。
結果、『朱雀帝♀』は将来の『朱雀の上』になることが宴会中に決定する。
二人の血が混ざる=真の家族 なのでハッピーエンドです
朱雀帝♀は主人公の二つ下
女体化増えろ増えろ……(平安への願い)