分屯地連絡路 2km地点
佐島一等陸士
「倒れるぞー!」
メキメキと音を立てて巨木がゆっくりと傾く。
傾きが一定の角度に達するとその速度は早くなり、最後には辺り一帯に響き渡る轟音を残して倒れた。
「しぶとかったな…」
俺は愛銃をコッキングしながら呟いた。
現在施設科の大規模な開拓プランが進行中で、俺たち普通科はその警護にあたっている。いるのだが…
「静かだな」
ここ一週間、全く敵性生物の襲撃を受けていない。
『赤』…じゃなかった、ジャギィに散々やられた俺たちはもしまた奴らが突っかかってきたら借りを返してやろうと思っていたのだが、ジャギィのジャの字も見かけない状態だ。
もちろん襲撃なんてことは無いことに越したことはないし、もしなにか起こってしまった時のためにも俺たちがこうして警備しているのだが…静かすぎる。
もともと安い給料で国防なんて仕事を任されていた身だから二度とあんな思いはしたくないと言う気持ちもある。
しかしあの戦いの中で会得した戦うことへの覚悟というものがある。
だからこそでもあるか、その覚悟を決めて来てみた結果がこれだと少し拍子抜けしてしまう。
いいんだけどさ…
というかこの計画も襲撃が無くなったことで実行されたものだし。おすし。
寿司食いてぇな…変なネタ使うんじゃなかった。
ちなみにネタはマグロが…ダメだ!何考えてるんだ俺!
全ての生活の根底に平和があった日本人の定めか、危険から離れるとすぐに気が抜けてしまう。
俺はまだ入院している同僚の長野のことを思い出し、覚悟を決め直した。
施設科のプランの中身は分屯地に繋ぐ道を作るというもの。
戦場にかける橋、ならぬ密林にかける道だ。
各科の幹部との協議の末、道の周囲に施設を拡張出来るようにと土地の確保を兼ねての計画となったらしい。
だが予想外に作業が難航、結果的に大数の人員と車両を投入する大規模開発となってしまっている。
具体的には施設科のほぼ全員と普通科の半数、大中小のドーザが多数にロードローラー、掩体掘削機に破砕機まで引っ張り出されてもう工事現場だ。
こうなった原因はだいたい今しがた伐採されたような巨木にある。
直径10メートル、高さ120メートルとセコイア杉もびっくりな巨木がアチコチにあるのだ。
流石に森の木全部がコレなんてことはないし、常識的な高さ大きさな木もむしろ多いのだが伐採にかかる時間が桁違いなので余計に目立ってしまう。
そして何よりの問題は燃料。
旧式兵器から燃料を脱いて足しにしているような状況でこの消費はおそらくだいぶ痛い。
司令部はパニックを招かないようにそのへんの話はぼかしているが、任務外での車両移動が制限されたあたりで差し迫った状況にあることは俺含め皆察していた。
…今日だって先述の作業に関わる隊員たちのほぼ全員が徒歩でここまで来ている。
この開発プランも大規模になったことで提供される燃料の量は見直されたが、それでも足りるかどうか。ついでに俺たちがこの先生き残れるか不安だ。
「倒れるぞーっ!」
と、再び施設科隊員の大声が響いた。
ゆっくりと傾く巨木から急いで車両や隊員たちが退散していく。
続いて響き渡るもはや爆音に近い倒壊音。
巨木は倒れてその自重をもろに受けても一応形を保っている。
専門家でもないし木のことはよくわからないが、加工すればいい木材になるんじゃないかな?
加工する施設と暇があれば、だが。
分屯地まではあと1km、もう向こう側が見えてきた。
このペースで行けば明後日ぐらいには開通しそうだ。
…などと他人事のようにのたまってみたが、普通科隊員も2日おきに半分ずつ交代制で作業を手伝っている。
その流れで明日は俺も作業に混ざる。
静かすぎる森、燃料、分屯地のことなど心配事は多いが、只のいち隊員でしかない俺は目の前のことに集中するしかない。
俺はやれやれと首を振って警備に戻った。
ああ、どうかなんとかなりますように。
そろそろ動きます