《哨戒ヘリ発艦せよ》
駐屯地 基地司令自室
陸奥陸将
ズン、と腹に響く音がする。
報告にあった巨木を切り倒した音だろうか。
窓からは見えないが、作業は着々と進んでいるようだ。
分屯地と駐屯地を結ぶ計画はおおむね順調。
巨木による作業遅延は修正できる範囲内だったので良かった。…本当に良かった。
言ってしまえばもうほとんど燃料がない。
持ってあと数日、無理やり持たせて一週間。
混乱を招かないために隊員たちにはできるだけ隠す方向で運営していたがそろそろ限界が来ている。
この陸路を整備する計画自体は分屯地と連絡がついた時点から存在はしていた。が、襲撃が頻発していたことから安全面の理由で実行されなかった。
ここにきて見切り発車的に実行されたのは本当に差し迫った状況だからだ。
アイルーたちの訪問によるところも大きい。
彼らとの遭遇によって、未だに『異世界に飛んだ』事が信じられなかった隊員や幹部たちもその事実を受け入れてくれた。
おかげで計画を実行に移すのに時間はかからなかった。
分屯地の方にはまだだいぶ燃料が残っているようなので工期がこれ以上遅れることがなければなんとかなるはずだ。
…頼むからなんとかなれ。
「にゃう…」
「すまない、大丈夫だよ」
私がよほど深刻な顔をしていたらしく、(勝手に)私の『オトモ』になったアイルー、にゃん太に慰められた。
…名前は私が勝手につけたものだ。
私以外にもアイルーに付きまとわれる形でオトモ関係を結んだ隊員は多いらしい。
アイルーたちの言語解析はまだ途上で片言での会話ができるレベルまでしか進んでいないが、その過程で多くの有益な情報を得ることができている。
特に周辺の資源分布や地形についての情報などはとても助かるもので、駐屯地付近にコモンメタルの大きな鉱脈があるという報告を受けたときは驚いた。
しかしというかやはり、燃料についての情報は得られなかった。
彼らが扱う燃料は石炭や木炭であり、ギリギリ蒸気機関をかじっているレベルだ。
それでも凄いことではあるが我々の求めるものではない。
もう稲でも育てて軽油を作ったほうが早いかもしれない。
どこかに燃料が作れる都合の良い作物が転がってたりしないだろうか。いや、あったとしても作物が育つ前に燃料切れになるだろうな。
じゃあ井戸を掘ったら石油が出たとか無いかな。
無いか。
「にゃあ!」
にゃん太が昨日拾ってきたという黒い石ころをお手玉のようにして遊んでいる。
高度な理解力と知識を持ちつつも、やはりネコっぽい動きと一種の幼稚さを持っているところにやや確信犯的なものを覚えるが、きっと本猫は意識していない。
…ん?
「すまない、ちょっと貸してくれ」
「にゃ?」
にゃん太の弄んでいた黒い小石をじっくりと見る。
どうやらこれは小石というよりなにかが固まったカタマリのようだ。
表面は硬化しているが、押すと弾力があり内部に何かが入っているらしいことがわかる。
私はカッターでその黒いカタマリを真っ二つに切り開いた。
とろり、と青黒い液体が流れ出る。
と同時に特徴的な匂いが広がる。
「これは…!」
震える手でライターの火を近づける。
…引火した!
間違いない、これは原油のカタマリだ!
胸の中で何かが熱くなる。
頭がふわふわして涙が出てきた。
これでなんとかなる!
もくもくと黒煙が広がり、原油が燃える悪臭が漂っておまけに火災報知器が鳴ったが今はそれどころではない!
スプリンクラーが作動する中で私はにゃん太の手を掴んだ。
「これを拾ったところに連れて行ってくれ!」
「にゃっ!?」
にゃん太はかなり困惑した様子だったが、こくりと頷いて走り出した。
私もそれを追いかけて走る。道中に部下とすれ違って面食らった顔をされたが気にしない。
今はそれどころではないのだ!
…よく考えなくても半泣きのアイルーと追いかけるずぶ濡れのおっさんの図は傍から見れば事案だった。
私は後でこの時の行動を猛烈に反省した。
ご都合なのかなコレ?