《なんて高さだ》
連絡路 施設科拠点
権田二等陸士
「ゆ…油田が見つかったって!?」
僕はあまりの驚きに持っていた資料を落としてしまった。
周りの施設科の同僚たちも皆あんぐりと口を開けている。
重機の作業音すらも止まり、辺りに沈黙が流れた。
これはなにかの冗談か。
この状況で言う冗談にしては悪質だが。
『本当だ、基地司令直々の情報なんだ』
無線機の向こうの幹部もいきなりの吉報にだいぶ困惑しているらしく、少々戸惑いつつも経緯を話してくれた。
数日前から駐屯地に滞在しているアイルーの中の一人が固形化した原油の塊を持っていたのを基地司令が見つけてその出どころを訪ねた結果、油田の発見に至ったという。
なんとも都合の良い話だけど…
降って湧いたような話、普通なら歓声をあげそうなものだ。
しかし僕ら施設科はこの状況で燃料を使いすぎた罪悪感から精神的な燃料アレルギーのようなものを発症している。
だからどうしてもこの話が信じられない。
「重ねて聞くがそれは本当なのか?」
『本当なんだって…基地司令が自ら見つけたらしいんだ』
「それは基地司令が調査隊を指揮して行ったという事か?」
『それが、基地司令がアイルーに道案内を頼んで一人で見つけたようなんだ』
「は?」
え?出どころを教えてもらったってそういうこと?
しかしうちの慎重な基地司令がそんな強引な行動をするようには思えない。
今は襲撃も無くなって安全と言えるが、ほんの一週間前まで危険だった森に護衛無しで突っ込むなんて事、周りが絶対に止めるはずだ。
何かしらの問題があったのか、よっぽど焦っていたのか。
…後者だろうな。
朝礼に参加する基地司令の表情がだんだん険しいものになっていっている事は駐屯地の全隊員が知っている。
一昨日廊下ですれ違ったとき、敬礼する僕らに答える司令の声は暗かった。
だいぶ痩せたようにも見えた。
ライフラインの切断について一番悩んでいたのは彼だろう。
それがなんとかなる可能性が見えて、こうなったと。
まぁ僕に偉そうにこんな事を語る資格はないのだが。
転移なんて未曾有の事態に落ち着いて対処した司令の手腕は皆認めているし、もともと倉庫か修理屋のように使われてきたこの駐屯地をうまくまとめ上げているのも彼だ。
僕はひとまずその問題から離れてこれからの事の指示を仰ぐことにした。
「現行の作業はどうするんですか?」
分屯地への道はあと少しで開通だ。
僕は作業を進める中で通ってきた道を振り返った。
倒木をどかしてロードローラーで軽く地ならししただけだが、だいぶ道らしくなっている。
少なくとも普通車が横転しない程度には安定している。
『ひとまず作業は続行だ。開通し次第本格的に油田の方に取り掛かることになるだろう』
「了解です」
『では引き続き頼む』
伝えることを伝えて無線は切られた。
それからしばらくは誰も言葉を発せられなかった。
この気持ちはなんだろう。
何か心の奥底から明るい感情がこみ上げてくる。
これは最初に油田のことを聞いてから今まで抑えつけていた感情。
沈黙はそれらの爆発で破られた。
「やっっっったぞおおおおおおおおおお!!!」
「油だぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕を含めた施設科メンバーは文字通り飛び上がって喜んだ。
求めていたものはすぐ近くにあったんだ!
涙が出た。
鼻水も出た。
足がもつれて転んだ。
しかし僕の心は晴れやかだった。
これでまだ戦える。
僕らはここで生きていける。
資源への渇望で閉ざされていた扉が開かれた瞬間だった。
勿論作業するのは僕らだろうし、原油を実際に燃料として使うにはいくつも工程を踏まなければならない。
だが今はそれを抜きにして油田が見つかったという事実を喜ぶことにする。
油田発見の知らせは駐屯地および分屯地に急速に広まり、士気が爆発的に向上したという。
…施設科の前線も例外でなく、この吉報によって作業スピードが跳ね上がり、分屯地への道はその日のうちに開通した。
現場目線。