《天候が急速に悪化、離脱します》
駐屯地 西部ゲート
佐島一等陸士
大量のカラの燃料缶を載せたトラックが走る。
戻ってくる時にはそれらの中身はすべて満タンになっているだろう。
「しっかし、仕事早いなー!」
俺はハンドルを握る手を緩めた。
施設科は分屯地への道を開通させた勢いそのままに油田への道1.2kmを(突貫、簡易だが)切り開いてしまった。
それも単独で工期2日。
しかもその作業を終えてすぐに今度は鉱脈の調査と整備に向かったらしい。
俺たち普通科の出る幕はなかった。
その代わりというか任務をこなしているだけではあるが原油の輸送は普通科の仕事となっている。
原油はそのままでは使えない。
専用の設備で精製して用途ごとに分ける必要がある。
施設科と化学科が躍起になって実験しているが、思うように行かないのが現状だ。
今は石油系企業の技術者だった隊員の知識を仰ぎながらイチから精製施設を組み上げているらしい。
その完成はだいぶ先になりそうだが実験用と本格稼働したときのために原油をいくら汲んでおくにも越したことはない。
せっせこ運んで既に千数百Lは確保している。
油田の方は使い物にならなくなった水道のポンプを再利用しただけの非常に簡易的な整備に留まっているが、埋蔵量が非常に多いようでそれだけでも吹き出すように出てくるらしい。
また、並行して行われた地質調査とアイルーたちの情報からこの世界で原油はそう珍しいものではない可能性が浮上した。
アイルーたちの話ではこの世界の生き物はかなりの種類と数があり、太古の昔から生息していたという。
それを裏付けるように、軽く掘ってみただけでもかなりの量の生き物の死骸が出てきた。
今までジャギィやランポスなどの敵性生物にばかり目を向けてきたが、見回せばこの森は生命に溢れている。
あんな巨木が育つのもおそらくこのとてつもなく肥沃な土壌のおかげだろう。
そんな生き物の死骸を大量に含んだ土壌は原油を生む。
そのサイクルがこんなに長い間高速回転しているような場所を俺は知らない。
これはまさしく異界だ。
アイルーたちの話題には上らなかったが、この世界の人間たちも原油を精製して使っていたりするのだろうか。
その場合もしも油田が見つかったことで衝突するようなことになったらどうしよう。
地球の戦争は表の理由は様々だがその根底にあるのは資源だと何かの本で読んだことがある。
面倒なことにならなければいいが…
駐屯地から東に1.2km、すぐに到着してしまった。
簡易的な防御陣地を超えてトラックを横付けする。
油田の隣に仮設住宅用のプレハブが一軒建っているだけの採油基地。
小さいがこれが俺達の生命線、そしてすべての始まりとなるはずの場所。
「よろしくお願いします」
「はいよ!」
プレハブでポンプの管理をしていた施設科隊員に確認を取り、原油を汲む。
ふつふつと湧き出る黒い油は今の俺には黄金に見えた。
燃料缶いっぱいにその黄金を注ぎ込み、トラックの荷台に積み込む。
なんか騒がしい気がするが気にせず作業を続けていき、これが最後の一缶。
ひと仕事終えた俺は額の汗を拭いた…
刹那、大きな影が俺の上を通った。
「なっ…!?」
反射的に目線を上げる。
そこには竜がいた。
見間違いなどではない。
そこにいたのは紛れもなく竜、ドラゴンだった。
巨大な翼で風を捉え、大きく長い尾でバランスを取り、空を飛び回っている。
少なくとも大きさ15メートルはある。
そんな巨体をしなやかに動かし、自由に空を飛び回る姿には美しささえも感じた。
竜は硬直する俺には目もくれず、ただ飛び去っていった。
直後、無線機が鳴る。
『佐島一等陸士!応答せよ!』
「あぁ、は、ハイ!」
硬直が溶けた俺は慌てて無線機を取り、状況を報告する。
あのドラゴンは当然駐屯地のレーダーでも捉えており、迎撃体制が組まれていたようだ。
しかし現実、ミサイルや砲弾の一発も撃ち込まれず、ドラゴンは無傷で俺の頭上をフライパスしている。
何があったのだろうか。
『油田も君も無事か。良かった』
「ですがあのドラゴンは…」
『そのことについてだがな』
『あのドラゴンには人が乗っていたんだ』
「え?」
人が乗っていた!?
『撃墜する前に高精度カメラでしっかり記録しておこうと撮影したところ、背中に人影があって大騒ぎになってな…』
それもただしがみついている訳ではなく、鞍や手綱のようなものも確認されたために騎乗している人間が飛行をコントロールしているものと推定して話が進められたという。
それでももともとここを攻撃する意図があるのかもしれないと迎撃兵器は向けられたままとなったが、駐屯地の上を通るコースから外れて飛行し、その後すぐに離脱していったため迎撃および追撃は見送られたという。
「ちょっとわからないことが多すぎるのですが…」
『とにかく作業は中止だ。速やかに引き上げてくれ』
「了解しました」
無線を切った俺は竜が飛び去っていった方向を見る。
厚い雲に覆われてもう何も見えなかったが、あの方向にきっと何かがある、そんな気がした。
乗り人。