「海神さまのご加護かねぇ」
「海神様も海竜だけどね…」
駐屯地から10km ジャギィの巣付近
佐島一等陸士
こちらから仕掛ける。
自衛官の俺がこんなセリフを言う日が来るとは…
輸送車に揺られながら愛銃を握る手に力が入る。
これも平和を勝ち取るためなのだ。
今進行している『人類接触作戦』は偵察で場所が明らかになった人里への接触を第一の目標としたもの。
その後のことは実際にそこにいるはずの人間に会ってから臨機応変な対応をすることになっている。
まぁ、この時点ではそうとしか言えない。
てな感じで見切り発車的にスタートしたこの計画だが、(面倒くさい問題を全部取っ払って数えると)1つ大きな問題があった。
駐屯地を襲ったジャギィたちの巣、敵の本丸が俺たちの目指す人里との間に存在したのだ。
取らぬ狸のナントカとか言われそうだが、後々のことも考えて陸路の整備を並行して行っていた俺達からすればとてつもなく邪魔だった。
またいつ復活して爆発するかもわからない爆弾を残したまま作業を進めるなんて事はリスクが大きいし精神的にもキツイ。
何しろ"あの"ジャギィの巣なのだ…
俺はドスジャギィに食われかけた事を思い出す。
ついでに辺りがジャギィの死体と肉片となんかよくわからないモザイク必須のナニカで埋まった絵面も思い出してしまい吐き気を感じた。
あの時の俺はそれを見てもなんともなかったのに…
巣の対処は徹底的に潰すべきか厳重に注意して管理すべきかで色々議論がなされていたらしい。
その結果については今俺達が完全武装で輸送車に乗り込みジャギィの巣へと向かっているこの状況が語っている。
身近な幹部から聞いた話ではほとんど満場一致で徹底的に潰すべきとの意見だったらしい。
俺もそう思うしあの現場にいた隊員は誰だってそうじゃないかな。
反対したのは生体データを取りたい化学科幹部数人と過度な殺生はいけないと主張するアイルーひとりだったそうだ。
最終的にはみんな納得して作戦実行が決まったというので、あとから何か言われる心配はなさそうだ。
「同僚はまだ入院中か?」
向かいの席に座っていたIOTVを着た隊員に話しかけられた。
誰が布教したのかは知らないが、なんかIOTVを着た隊員を見かけることが増えた気がする。
もしかしなくてもジャギィ襲撃のときに輝いていたあいつだろうな…
というかこいつがそのIOTVマンなんだけども…
「長野は…だいぶやられたからな」
俺をかばって。
他にも突進した二人やこのIOTVマンも俺をかばってくれた。
それぞれ大小の怪我を負いながらも、時間を稼いでくれた。
時間稼ぎしかできなかったみたいな言い方は不適切かもしれないが、あの時間稼ぎがなければ俺は死んでいたのだ。
それで誰か死なれたらそれこそ耐えられなかったが。
「死ななきゃ安い、さ。お前もIOTV着たらいいぞ」
そう言うと彼は担いでいたMINIMIの点検を始めた。
その表情はどこか寂しそうだった。
…そういえば、あの襲撃で負傷した隊員の中で今のところ怪我から復帰しているのは彼のみだった。
俺のせいでいらない負い目を感じさせてしまったのかもしれない。
「…すまねぇな」
「お前が謝る理由はないだろ、俺らは自衛隊だろ?」
そう言って笑いかける顔には嘘偽りなどなかった。
「ありがとうIOTVマン」
「てか、さっきからIOTVマンうるせぇな。俺にも野川武(のかわむさし)って名前があるんだ」
「わかったぜIOTVマン」
「ったくもういいよ」
張り詰めていた気持ちがだいぶ和んだ。
改めてありがとうIOTVマン。
…うん、ちょっと気が緩みすぎている気がするな。
何してくれんだIOTVマン。
というかもともと個人的に取り寄せられていたIOTVは数が少なすぎておいそれと着れるもんじゃねぇ。
『お前も着たらいいぞ』ってさぁ…
俺は目を閉じて静かに笑った。
さて…と、気を取り直して…
がくん、と輸送車が停車した衝撃が来る。
作戦地域に到着したようだ。
手際よく降車し装備を整え整列する。
俺は前方の敵地を睨んで覚悟を決めた。
作戦開始だ。
俺の仲間を病室送りにしやがった対価はしっかり払ってもらう。
あと邪魔だからそこ(巣)どけ。
加筆修正。