「あの辺の海に何かあるとは思えないんだがな」
ジャギィの巣
佐島一等陸士
「…いやがった」
双眼鏡の拡大された視界の中央に捉えるは今作戦の
巣の周りにウヨウヨと、見えているだけで10匹いる。
「目標捕捉、小型固体が10。大型個体の姿は見えない」
《了解した。そのまま偵察にあたれ》
「了解」
俺は無線を置き、スコープとバイポッドをつけた愛銃を手に取った。
64式はそこそこの射撃精度がありマークスマンライフルの代用くらいにはなる。
本当に機嫌のいい個体はスナイパーライフルとしても運用できるくらい精度がいいらしいが、俺たちの駐屯地にある64は俺の相棒のこいつ含め殆ど他の駐屯地から退役してきたものだ。
それでも頼りになるし高望みはしないが。
殲滅作戦(全3フェイズ)第1フェイズでの俺達の役目は偵察。
敵の様子を伝えるのはもちろん、逃げ出すジャギィがいれば絶対に逃さずスナイプする。
どっかに逃げ出されて増えられるのは嫌だからだ。
今作戦では1分隊5人、俺たちを含めて10分隊。それらの包囲網から逃げ出せると思うなよ?
「来なさったな」
かすかに響いたエンジン音。
この作戦のキモが来た。
それに反応したのかジャギィたちが騒ぎ出し、あちこちに空いた巣穴から次々と増援が飛び出し数を増やしていく。
「おいおい…まだあんなにいたのかよ」
俺の隣にいた武が呆れて呟いた。
さっきまで10匹ほどだったジャギィが今では40匹以上見える。
あの様子では巣の中にはもっといるのだろう。
あの防衛戦では300匹くらい殺ったのに奴らの群れは元気そうだ。
想定内のことではあるがこの数には俺も呆れる。
殲滅作戦の道を撰んだのは間違いではなかったらしい。
大きくなるエンジン音にその方向を見るとけもの道を押し広げながら近づいてくる大きな影。
ドーザ付きのM41軽戦車2両と
駐屯地に1両しかないFVを投入するあたり本気の構成だ。
《戦車小隊配置についた、指示を!》
《よし、前進!各員戦闘を開始せよ!》
《「了解!」》
オールチャンネルで放たれた戦闘開始の号令はその場にいた全員を奮い立たせた。
M41とFVは速度を上げてジャギィの集団へと突っ込む。
キェエエエエエッ!?
ボンッ!
未知の存在に怯んだジャギィたち数頭が轢き飛ばされる。
見かけによらず体の軽いジャギィたちは吹き飛ばされたことは苦にならないようで起き上がろうとするが、その前に進んできた戦車の履帯に潰されて挽き肉になった。
彼らに襲いかかる受難はそれだけじゃない、というかこれから始まるすべてがそうなんだけど。
ドドドドドドドドドッ!
ズドドドドドドドドドッ!
挨拶代わりにM41特車2両の12.7mm車載機銃が放たれる。
防衛戦のときにも多大な戦果を上げたそれは侵攻戦でも猛威を振るった。
飛びかかろうとしたジャギィたちはことごとくその身に穴を開けて突き放され、戦線が引き裂かれる。
これだけでも20匹以上のジャギィが葬られたが全体の数はむしろ増えている。ゴキブリか?
《機関砲射撃開始!》
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
FVの35mm機関砲が火を吹く。
その一発一発が強烈な威力と衝撃でジャギィたちの体に弾丸の十数倍もの大きさの穴を空けて肉を刳り取っていく。
原型を留めない肉片と血しぶきが舞い散り、大地を一気に赤く染めた。
彼らにとって幸運なのは痛みや苦しみを感じる暇もなく即死だということか。
ジャギィたちが巣を守るために密集していたこともあり、砲弾が一度放たれるごとに2、3匹のジャギィがちぎれ飛んで行く。
このまま押しきれるか、そう思ったときにあれが現れた。
ア゛オ゛オオオオオオウ゛ッ!
《…ッ大型個体だ!》
耳をつんざくような怒りの咆哮を上げて大型個体、ドスジャギィが巣穴から現れた。
あの防衛戦で見た個体より少し小柄のように見える。次点のリーダーだったのだろうか?
ジャギィたちにとってリーダーの存在というのは大きいようで、潰走しかけていたさっきまでが嘘のようにドスジャギィの周りに集まって陣形を組みだした。
しかし、彼らにとっての希望は次の瞬間潰える事になる。
《主砲照準よし!》
《撃てッ!》
ズドォオオオン!
さっきの咆哮に勝るとも劣らない轟音と一緒に飛び出した76.2mmの砲弾は一条の光となりドスジャギィに突き刺さった。
刹那、ドスジャギィは爆ぜた。
その貫通力と運動エネルギーはドスジャギィの頑丈な肉体でも許容範囲をはるかに超過するものだった。
その衝撃と圧力に耐えきれなくなった肉体は一瞬の後に崩壊し、粉々に破裂した。
血の雨と肉片が降り注ぐ中でジャギィたちはリーダーの姿を探すが、それはもうどこにも見つからない。
それがM41の主砲によるものだということを彼らが知る由もない。
キョエエエエエエッ!!!
彼らの士気はこれで復元不能にまで打ち砕かれ、ジャギィたちは散り散りになって逃げていく。
「逃さねぇぞ!」
やっとこさ俺たちの仕事だ。
単発、時には連発の射撃が浴びせられ、敗走するジャギィたちを地面に撃ち倒す。
もともとFVの砲撃でだいぶ数を減らしていたため、撃ち漏らしは出なかった。
スコープの先で自分が撃った最後のジャギィが動かなくなるのを見届けてようやく俺は一息ついた。
「敗残敵の処理完了」
《了解、諸君の奮闘を称える》
だが俺たちにはまだ大きな仕事がある。
《続いて巣の中の掃討に移れ》
「了解!」
俺たちは今や血染めとなった丘に8つ空いた大きな巣穴を睨む。
作戦は第2フェイズへと移行した。
お話を再構成いたしました
このエピソードはもう一話続く形となります
流石に車両搭載火器の威力は…ねぇ?