「私はそういうの信じないタチなの」
ジャギィの巣
佐島一等陸士
掃討作戦第2フェイズ。
それは巣穴内部の掃討だ。
「手榴弾投擲ッ!」
地面にナナメに空いた巣穴の中へ手榴弾を投げ込む。
周囲では8つある巣穴の数だけ同じことが同時に行われている。
巣穴の数8、分隊の数10。余った2隊はバックアップとして戦車隊とともに周辺警戒に当たることになっている。
俺たちの分隊は7つ目の巣穴を掃討する7番隊となり…これからこの地獄の穴へと突入する。
…もう覚悟は決めている。
「退避!」
ズドオオン!
俺たちが巣穴の横に履けるのとほぼ同時に手榴弾が弾け飛び、おそらく中にいるであろうジャギィへの牽制となる。
土埃が収まりきらないところでまたオールチャンネルの無線が鳴り響いた。
《全隊、突入せよ!》
「了解!」
「行け!」
分隊長を任された俺は先陣を切って突入、全方向から危険を感じながら薄暗い巣穴の中を突き進む。
巣穴の中は当然ドスジャギィが通れるくらいには広くなっており、俺たちの分隊が通る程度なら余裕があった。
ところどころ上が空いていて光が入ってくる構造のため真っ暗で見えなくなるということは無かった。
「ロープ確認!」
「…問題ない、行こう!」
かなり入り組んだ場所の探索になることから、通った道がわかるように入り口に繋いだロープを伸ばしながら探索する事になっている。
ジャギィの巣の中で迷子とか御免だ。
アオ…オ…
近くで弱々しい鳴き声がした。
足元を見ると血の跡が奥の通路へと続いている。
辿っていくと壁にもたれて虫の息のジャギィを見つけた。
手榴弾の攻撃で致命傷を負ってここまで這って逃げたようだ。
そいつはこちらを見つけると首を動かさずに恨めしそうな目を向けてくる。
首を動かす力も残っていない、こいつは放っておくだけで死ぬ。
それでも。
「…お前らの方から攻めてきたんだ」
タンッタンッ
頭に2発撃ち込み完全に息の根を止める。
頭に湧いたいろいろな考えを振り払って通路を奥へと進む。
周囲に最新の注意を払い敵の動きを探るが、まるで表層での戦いが嘘のように巣の中は静かだった。
その静かさに一種の不気味さを覚えていると、細長い広間になっているところで接敵した。
「小型3だ!」
通路の向こうでジャギィが3匹身を寄せ合っている。
こちらに気がついたジャギィたちは怒りの咆哮をあげ、距離を詰めようと走り寄ってくる。
タタタタタタタッ
タンッタタンッ
キエエエエッ!
が、最初からこちらの射程内だ。
頭を集中的に破壊されたジャギィは脳髄と肉片をぶちまけながら倒れた。
3匹とも同じ要領で機械的に処理され、頭のない死体がごろりと転がる。
「クリア!」
「次行くぞ」
タタタタタッ
タンッ
遠くから俺たちの隊とは別の銃声が聞こえてくる。
掃討作戦は順調に進んでいるらしい。
長い通路を抜けた先には大きな部屋があった。
そこでまた接敵。
「小型12だ、仕掛けるか?」
その部屋にいたジャギィたちはみな体を休めておりこちらに気づいていない。
しゃがんで休んでいるジャギィや寝ているジャギィもいたが、みんなまとめて掃討作戦の対象だ。
と、休んでいた個体が慌てて咆哮し、周囲のジャギィたちがこちらに気づき始める。
こうなってしまったら咄嗟の対応をするしかない。
「撃ちまくれ!」
彼らへのモーニングコールは弾丸の雨だった。
タタタタタッタタタタタタタタタタタタッ
タンッタンッタンッタンッ
武操るMINIMIの弾幕が、俺の愛銃の精密射撃が、次々とジャギィたちの体に痛烈な打撃を加えて命を奪う。
至近距離の一斉射撃を受けたジャギィたちは反撃もままならない。
が、少し数が多かった。
仲間が肉壁になったことで生き延びるものもいる。
アオ゛ッ!
破れかぶれに突撃をかけるジャギィに接近を許してしまう。
タタンッ!
が、その大きく開かれた顎が獲物を捉えることは永遠になかった。
「7番隊!掩護するぞ!」
4番隊隊長の持つ89式の銃口からは細い煙が上がっている。
ダブルタップでジャギィの頭を撃ち抜いたらしい。
他の通路からやってきた4番隊の支援を受けて戦闘は有利に進む。
「支援感謝する!」
もとより劣勢だったジャギィたちは十字砲火を受けてあっという間に全滅。
「ルームクリア!」
4番隊と別れて更に奥へと進む。
次の部屋は通路を抜けてすぐ隣にあった。
しかしなんだか様子がおかしい。
「…小型8、中型4」
「なんだこいつらは」
そこにいたジャギィたちはこちらを見るなり逃げ出し、部屋の角の壁に仲間同士で折り重なっている。
しかもそれぞれが少しでも逃れようと足をバタつかせてわたわたと動いている。
まるで猫に追い詰められたネズミのようだ。
そのジャギィたちの目からは恨めしさや憎しみの類の感情は感じない。
ただ、明確な恐怖を感じた。
俺たちに対しての恐怖。
彼らの体をよく見ると、既に血で濡れていたり肉片がこびりついていたりしている。
しかし外傷はない。
表層の戦いの惨敗を受けて巣穴に逃げ込んだ個体か。
彼らの奥に控えていた中型個体…
今作戦の最重要目標、メスのジャギィのジャギィノス。
彼女らも怯えきった目で、それでも何かを必死に守ろうと立ちふさがっている。
答えなど最初から1つ、選択肢などないのに一瞬迷ってしまった自分がいる。
俺たちの任務はこいつらを掃討することだ。
そう自分に言い聞かせ、引き金に指をかける。
相手は
この地で暮らすアイルーたちですら、ジャギィやランポスのことを
こちらの生活を脅かす化け物を殺して何が悪い?
「撃て!」
タタタタタッ
タタタンッタンッ
ギョ!
クギャ!
5.56mmと7.62mmの金属塊がジャギィたちをあっという間に物言わぬ肉塊へと変える。
近距離から放たれる銃弾の威力は高い。
しかし中型個体…ジャギィノスのうち一匹がなかなかしぶとい。
「くたばれよっ!」
タタタタタンッ
体に40ヶ所以上の穴を開け、口から血を吐き出しながらも何かを守るようにしてその場を動かない。
「この野郎ッ!」
IOTVマ…武がMINIMIの銃床でそいつの頭頂部を思いっきり殴り、昏倒したところに銃弾を撃ち込んで永遠にそこから動かないようにさせた。
この部屋にはもう生きているモンスターはいない。
「クリア!」
この部屋から先へ続く通路もないし、このルートはやっぱりこれで終わりなのだろう。
無造作に転がるジャギィたちの死体を視界に入れないようにして、俺は無線を取った。
「7番隊、掃討完了!撤退する!」
《了解、"後始末"に移れ》
「了解」
第2フェイズが終わればあとは最後の第3フェイズ。
ここまで暴れまくった後始末だ。
ベルトから取り外した長方形の塊、C4プラスチック爆薬を巣穴の壁に仕掛ける。
後始末…爆破して跡形もなく巣を吹き飛ばすまでがこの作戦なのだ。
同じ場所に巣を作られないようにするには完璧に壊してしまうのが一番。
あとは撤退するだけだ。
「おい、ちょっとこれを見てくれ」
武が俺たちを呼び止めた。
両手で何か大きな楕円形のものを抱えている。
卵…さっきのジャギィノスはこれを守っていたのか。
見回すと辺りには卵の殻と中身が散らばっている。
無事なのは武の持つ1つだけだ。
「これは持ち帰ったら他の科に喜ばれそうじゃないか」
「でもそれは掃討作戦の対象に含まれてるぞ」
「1個くらいいいだろ」
と、全員の無線機が鳴る。
《全隊の掃討作業の終了を確認した、直ちに撤退せよ》
議論している時間はないらしい。
「俺は何言われても知らないからな…」
俺たちは卵という戦利品を得て離脱した。
突入作戦での被害は3番隊と5番隊に負傷者が2名、それ以外は特に被害はなく死者は出なかった。
小型モンスターとの戦闘を想定した訓練を積んだ成果だろう。
ドガアアアアン!
ガラガラガラ…
…今聞こえた腹に響く音は爆薬が弾けて巣穴が崩れた音か。
まるごと彼らの墓場になったようなものだ。
これで目の上のたんこぶは無くなり、優先事項に集中できるというわけか。
俺は輸送車に揺られながら色々考える。
思えば引き金がずいぶん軽くなった。
生き物に銃弾を当てる嫌な感覚にも慣れてしまった。
しかし覚悟が決まりきらず、何かの拍子に風船の口を解いたように抜けてしまう。
さっきあろうことか感じてしまった敵への同情なんかもそうだ。
これは俺たちがどこまで行っても『軍隊』じゃない、なりきれないところがあるからか。
IOTVマン…武が嬉しそうに抱えているモンスターの卵を見てそう思った。
昔見た恐竜の映画みたいに乗り回せたらいいのに。
戦闘状態を抜けて緩んだ俺の頭はそんなことを考えていた。
その夜、事件が起こった。
ジャギィ殲滅作戦
主要交戦戦力 ジャギィ
自衛隊
普通科隊員60名
機甲科隊員10名
89式小銃 24
64式小銃 40
MINIMI 6
M41軽戦車 2
89式歩兵戦闘車 1
敵勢力
ジャギィ161体
小型個体134
中型個体26
大型個体1
自衛隊損害
負傷者4名
89式少銃1挺故障
64式小銃3挺故障
敵損害
全滅
生存個体なし
鹵獲
卵 1
自衛隊の勝利
加筆修正再編集となりました
表層戦闘も書かなきゃ…ね
戦闘結果も加筆。