大森林 直通道路45km地点
レヴラス
「なかなか興味深い者たちだったな」
彼らとの会談を終え、招かれた食事会も終えての帰り道。
帰る際に彼らの移動手段を勧められたが少なからず負い目を感じていた我々はその厚意を断り、自らの足でキャンプへと向かうことにした。
「剣を振るう機会はなかったか」
ノリスが片手剣に手をかけて肩をすくめる。
彼の骨ばった顔にはどこか安堵したような表情が広がっていた。
私が接触メンバーに影の仕事を知る者…ギルドナイトを選んだのはもしもの自体を避けるため。
…というのは言い訳に過ぎない。
当初は怪しいところがあれば彼らのリーダーを打ち取り、指揮系統が混乱した彼らを抑えるつもりでいた。
フレキの進言で対話の方向も想定していたが、あまり真に受けていたわけではなかった。
私は…間違っていたようだ。
「まさか、この世界のものではないとは…」
ジエイタイ、彼らの言葉で自らを守る組織。
彼らが別世界の住人だと聞いたとき、素直に信じることができなかった。
なまじ、相手のことを知っていたから。
その中途半端な認識が彼らを怪しい存在と認識しいつの間にかかなりの懐疑心を向けてしまっていた。
その認識を疑い、もっと俯角的な視点で自らと相手を見る目が私には欠けていた。
…団長でありながら全く不甲斐ない。
「彼らが密猟者でなくて良かった、それでいいじゃないか」
楽観的に語るのはアル。
彼の赤みがかった頭髪と装備が森林の中ではよく目立つ。
そういえば、ジエイタイの者たちは森の景色に溶け込むような特殊な柄の服を着ていた。
あのような服装は視覚や嗅覚が発達したモンスターたちに対してはあまり効果がない。
効果があるとすれば多色を認識でき、モンスターほど認識能力が高くない生物…人間などである。
「密猟者でなくともジャギィの巣を殲滅した事実は変わらん、ランポスのこともウソをついているのかもしれん」
ヴェザはまだ彼らを警戒しているようだ。
確かに、まだ手放しで信用できるような相手ではない。
その現在の目的は生き残ることだというが、それが達成された後に何をしだすかは未知数なのだ。
我々が彼らの戦力や武器の性能について知っていることは殆どない。
彼らの構えるライトボウガンも、本当はもっと違うものなのかもしれない。
彼らの運用する乗り物に関しても謎が多く、一部のアイルーの扱う『飛竜車』と呼ばれる戦闘車両によく似た姿のものも存在した。
…もし、そうなのだとすれば彼らが平和主義でことを構える気がなかったというのは非常に助かった。
「しかし、彼らと一応の話はついたんだ。剣を交える必要がなくなったなら充分だ…それに、彼らはアイルーとも相当仲良くしているらしい」
フレキはどこか上の空でそう言う。
現地のメラルーを使った偵察作戦を行っていた彼には思うところがあるらしい。
彼らの基地には我々のキャンプの数倍のアイルーが働いていた。
聞けば彼らは長の意向で自らの里を捨て、望んでこの基地にやってきて働いているとみな口を揃えて言った。
そしてジエイタイの者たちが大好きだとも。
周辺で暮らすアイルーたちもジエイタイのもたらす恩恵に預かっている意の発言をし、進んで何かを話そうとはしなかった。
そして今まで彼らと関わりが少なかったはずのメラルー達でさえも彼らに進んで協力する者が現れているらしくその勢力に取り込まれつつあった。
見回しても彼らがアイルー、メラルーといった猫獣人にひどいことをしているような様子はなく、直接聞き込みをしてもそのようなことは聞けず、逆に疑うのかと非難されてしまった。
私の見えていなかったことに気づいていたフレキでさえも、彼らがここまでアイルーたちと強いつながりを持っていることは想定外だったらしい。
私はもちろん知らなかった。
「俺も、彼らを侮っていた…だいぶ誤解もしていた」
彼らとのファーストコンタクトを思い出す。
偵察で彼らが我々と同じ言語を使っているとの情報を手に入れた関係で、なんの躊躇いもなく話しかけてしまった。
しかし彼らはもともと我々の言語など知らず、もしかしたらあの時点で最悪の事態になっていた危険性もあったのだ。
「この会談、我々の負けか…」
一概に話し合いに負けたというわけではない。
それ以外の面で負けた。
まずは前提から彼らを見つめ直さなければならない。
それに収穫もあった。
彼らの正体が分かった。
あまり関わりのなかったこの地域のアイルーとのコネクションができた。
そして彼らの協力を仰ぐことが可能になった。
あとは…
「あの料理、美味かったな…」
食事会では1個人として彼らと話し、旨い料理を…
コホン、彼らと距離を詰めることができた。
…また食べたい味だったな。
「しかし団長、忘れてはおりませんね」
「ああ、わかっている」
ヴェザの言葉で我に返る。
確かに彼らは私利私欲でモンスターを虐殺し素材を売りさばく悪者ではなかったが、自然への敬意と配慮が欠けていた。
生き物を知性と損得で判断するその姿勢は少し許容できるものではない。
この世界のものではないことはわかっている。それでも、だからこそ、自然の調停者たるハンターの我々が彼らに教えていかなければならない。
そうしなければ彼らに自然の名のもと災厄が襲いかかることになるかもしれないからだ。
「我々が彼らを正しい方向へと導いていこう」
この言葉にはみな深く頷いた。
彼らの話し方、アイルー訛りが酷かったな…
「長老様、彼らは…」
「ウム、伝説の者たちだと、儂は信じている」
「銀翼の龍現れし時、異界より現れし戦士が闇を祓い楽園を取り戻すであろう…この一節はお主も覚えておるな」
「…我々も、彼らとの付き合い方を考えましょう」
主人を乗せたレオレウスは彼らの帰るべき場所へと向かっていった。
2章終了です。
とりあえず丸く収まりました(?)
お話の間を埋める閑話を投稿する予定です。