「それはもう野生じゃないのでは…?」
「部隊章にはオオカミ飼ってるけどな」
駐屯地 寮前
佐島一等陸士
「ハイヤー!」
基地を襲った小型サイズくらいまで成長したチビジャギィ…に跨って奇声を上げる男、武。
「ウワーッ!」
俺の右ストレートをもらったそいつは落馬ならぬ落竜しのたうち回る。
周囲にいた隊員たちは俺達の渾身の一発ギャグに大笑いしていた。
実際はギャグでもなんでもないんだが。
誰かこの暴れん坊IOTV野郎を何とかしてくれ。
チビジャギィ…いや、ジャギィは俺達のそんな様子を見てしっぽを振りニコニコしている。
駐屯地のメンバーやアイルーたちと触れ合って育ってきたこいつは凶暴なモンスターとはならず、愛想の良い大型犬のような性格に育った。
いつでもニコニコしていて、しっぽを触ったり急に撫でたりしても怒ることはなく逆に擦り寄ってくる。
向こうから撫でろと催促したりしてくるくらいには人に慣れている。
凶暴性については皆無。
火を通して調理された肉ばかり食べてきたせいか、生肉には全く興味を示さずつい先日食べさせたときは気に入らない様子で吐き出してしまった。
垂れていた尻尾の先をある隊員が踏んでしまったときはヒヤッとしたが、その隊員に懐きに行ったのを見て確信した。
こいつは殴り返すということを知らない。
ましてや殴るということすら知らないかも知れない。
最近加わった、ライダーのことなら何でも知っているという物知りのアイルーにこいつを見せて話を伺うとかなり奇特な目をされた。
曰く、『こいつに戦いはムリ』だそうだ。
顔を上げてジャギィを見ると、どこからか飛んできたチョウチョを目で追いかけていた。
……これは、だめだな。
育て方が甘かったのか、だいぶお花畑な感じだ。
これから訓練するということも1度考えられたがこの状態から厳しい訓練をすることは気が引けるしそれで変わるとも思えないとの結論にまとまりお流れに。
『戦力として利用する』という一部の科で期待されていた成果は出せそうにない。
「佐島!よくもッ!」
復帰した武が掴みかかってきたので俺は逃げる。
武はそんな俺を追いかける。
ジャギィの周りをくるくると駆け回る俺達の姿が滑稽だったらしくまた笑いが起こった。
新しいギャグができたな、やったぜ。
じゃなくてこれ、一番お花畑なのは俺達なんじゃ…
「おいコラ、何やってる!」
今一番聞きたくなかった声が聞こえて来た。
周囲の隊員たちも何も見ていないふうを装って逃げ出そうとするがガンを飛ばされて動けなくなっていた。
「お前たち…たるんでいるぞ!腕立て100回!」
「そんなぁ!」
「文句を言うな!100回追加で200回だ!」
おもむろに腕立てを始める俺達の中で、ジャギィだけがニコニコ笑っていた。
人畜無害に育ちました。
無害すぎて心配されるくらいになりました。
ハンター、ライダー、ともにだんまり案件。