「実害受けてるのは我々なんだが」
「葛切りは美味しいんだけどな…」
分屯地東部 仮設精油施設
細田二等陸士
「こいつめ!」
俺は数日前に設置が終わったばかりの装置に絡みついた蔦を引き剥がす。
蔦の正体は日本では割とよく知られているつる植物、葛だ。
根を砕いて葛粉にしたり漢方薬の原料にしたりと親しみは深いほうだろう。
しかしこいつには少し困った特徴がある。
「この辺ももう葛だらけだ、昨日引ッ剥がしたばかりなのに」
「こいつらの生命力どうなってるんだ?」
ものすごく生命力が強く、成長速度が早いのだ。
なにかに伝って上へ上へと伸びていき、他の植物より上まで来てからブワッと葉っぱを広げて日光を独占、つるの締め付ける力も強く木に巻き付いて育った場合は締め上げて枯らしてしまったりもする。
転移前の日本でもこのように強い植物だったのだが、他の植物や動物の存在、多様な環境により均衡が保たれていた。
…のだが、こっちに来てからは猛威を振るっている。
だいたいこの肥沃な土のせいだと思うがそれにしても異常なほど。
実際、既に2本ほど木を枯らしている。
あの巨大な大木を、だ。
視界のはしにちょうどソレが映る。
何重にも巻き付いたつるが木の幹に深く食い込んでいる姿は鞭打ちにあったかのようだ。かわいそうに…
そういえば、アメリカに渡ったコレがグリーンモンスターなどと呼ばれていた事を思い出した。
森に侵入したこいつが他の植物を駆逐し『緑の砂漠』を作ってしまったりご家庭の庭をことごとく破壊したりと悪行の限りを働いていたらしい。
らしいと言っているがそれが今目の前で起りかけているので他人事でも笑い事でもない。
除草剤のタンクを背負った隊員がやってくるのを見てやっと俺の心は穏やかになった。
まあ来週くらいには復活してそうだけど。
と、踏みしめた土の感覚が少し違う。
掘り返すと大きなミミズが出てきた。
こいつは…うん。ミミズだ。
地球の、ミミズだ。
良質な土を作る益虫として有名なこいつだが、実はこいつのせいでこの世界にとって割とまずいことが起こっている。
それは土壌の変更。
こいつが土を食ったりすると体内の微生物が混ざって排出されてそれがなんやかんやして土壌の質を変えていく…
と化学科の隊員が言っていた。
実際俺たちにはあんまり気づかない変化だが地中や植物にとってはかなりの変化のようだ。
もちろんこの世界にもこの世界なりのミミズはいるのだろうが、褐色で柔らかい地球式の土壌がどんどん侵食して行っているのを見るに押し負けているらしい。
このような状況はこの分屯地と駐屯地の4方で起こっているようで流石にこれに関してはなんにもできないからなるようになるのを見守るしかない。
…でも、圧倒されっぱなしだったこちらの世界の自然に地球の植物や虫が押し勝っているのはなんかちょっと嬉しい気がする。
俺は手の中で踊っていたミミズを土の中に戻して作業を再開した。
侵略的外来生物(モンハン世界にとって)
あっちから来てやばいものばかりじゃないと思うんだ。
なお未知数の悪影響には目を瞑るものとする。