自衛隊inモンハン 異空の守り人   作:APHE

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「あの人研究熱心だよな」

「手伝いたいけど素人が手出しちゃ迷惑かな…」

「片付けくらいなら俺達にも手伝えそうだよな」

「俺のお気に入りの本置いとこ」


閑話 天才と人災

駐屯地 化学科実験室

二村三等陸曹

 

 

「できた…!」

 

私はフラスコ内の透明な液体に目を輝かせる。

ついさっき抽出が終わったばかりのこれは炭化水素系の非常によく燃える液体、現代社会での生活になくてはならないものだ。

何度も試行を重ねた結果黒ずんでしまった実験器具を片付けて、シャーレに研究成果を注ぎ入れる。

それにマッチの火を近づけるとすぐに激しい炎が上がり長く細く踊る炎の先から黒いススが舞い散った。

これだ。

これこそが、求めていたモノ。

原油を蒸留分離抽出して作られる可燃性油。

 

ガソリンだ。

 

原理を理解するのに時間はかからなかったが、実際に作るのにはかなり時間がかかってしまった。

ともかくこの成果があればあとは量産するだけである…

とは言うがこの先の作業が実は一番大変。

 

『実験室レベルの成功』を出すのは容易い。

それを実用量産レベルまで移行させるのが大変でかなりの労力を必要とするのだ。

協力を得たくとも現在化学科は炸薬抽出プロジェクトや材料精製プロジェクトなど他にも重要な事項が並列して行われているために手は余っていない。

どれもこの駐屯地のこの先の運命を左右する大切な研究、どれかを選んで疎かになどできないのだ。

 

だがそれは化学科だけで事を進めようとするならばの話。

駐屯地にとっての重要プロジェクトに手を貸さない科はおらず、提案するとすぐにいくつかの科の協力を得ることができた。

ただ施設科と普通科はともかく、空自からの協力者が一番多かったのはどういうことなのだろうか(予想は大体付くが)。

 

…成果についてはもう出てきている。

例えば分屯地に建設予定だった精製施設の試作品の設営を頼んだところ新しいおもちゃ(高炉と反射炉)を手に入れた施設科が変態技術者どもの手を借りて3日で作り上げてしまった。

現在はその調整と油田と分屯地のタンクとの間にパイプラインを引く計画を頼まれてくれている。

その中でもやっぱり空自隊員の姿が目立つ。こいつら空に飢えすぎだろ。

 

まぁコチラとしてもプロジェクトが進んで、向こうは燃料の問題が無くなって空が飛べて万々歳といったところだろう。

私が研究に向ける熱意のようなものだと解釈すると納得がいった。

それに、このまま行けばじきに燃料の生産もスタートできる。

そうなれば過度に節電に気を使ったり極力の徒歩移動をしなくても良くなるのだ。やったな。

 

 

──正直、私にも思うところがないわけではない。

化学科はこの基地が転移してからというもの多忙に多忙を重ねて極めてとてつもない重労働だった。

異界の大気が人間に影響がないかの検査、同じように水の検査、土の検査、植物の検査、動物(モンスター)の検査…

安全性の分析や成分分析については非常に重要かつ我々(とここにある機材)にしかできないことなので仕方がないのだが、さすがにだいぶ堪えたものだ。

一生分の化学分析を凝縮、と言ったら言い過ぎであるがそう思えるほどの量をこなしたと思う。

そのかいあってか水源の利用が進み、モンスター肉の食用が計画されと嬉しい進歩も多々あった…のだが。

この各科がクソ忙しい状況、役割をこなせないというのは逆に結構なストレスになる。

一度分析を失敗してサンプル回収を待たねばならなくなった時、待ちぼうけする私の隣で次々と進む同僚たちの分析にとてつもない焦燥感とウズウズを感じた。

翼をもがれた彼らは他科のメンバーを見てその時の私と同じような感情を持ったのかもしれない。

 

…それならば、私も余計に頑張らねば。

彼らのためにも精製施設の調整を早く終わらせよう。

 

「火事か!?…ってまたあなたですか」

 

と、実験室に消火器を持った隊員が飛び込んできた。

ガソリンを燃やしすぎて煙で別部署の隊員を呼び寄せてしまったようだ。

というか、またお前か(あなたか)とは何だ。

『この人はこういう人だ』みたいに言われた気がしてちょっと今悲しくなったぞ。

 

「だいぶ燃やしたらしいですね…」

 

「実験の一部だからな」

 

「火事は起こさないでください」

 

「当たり前だ、君の心配は心に留めておく」

 

そういうことにはしっかり配慮している。

隊員を見送った私は実験を再開し…

ん?なんだか焦げ臭い…

 

あっ燃えてる!!

 

抽出途中だったものが自然発火したのか激しく燃えていた。

それだけならなんともならなかったのだが、近くに置かれた本に引火して炎が大きくなっている。

部屋の入り口外側にあるはずの消火器を見ると無くなっていた。まさかさっきの隊員が持っていってしまったか!?

さっきの隊員は帰ってしまってもう来ない。

ガソリンに水をかけるのはよくない。

冷やす氷はさっき別の隊員が持っていってしまった。

かぶせる布は…さっきまた別の隊員が…

というかこの燃えている本は私のものではない!

誰だ研究卓に可燃物を置いたやつは!

 

…みんな私を殺しに来てないか!?

 

結局、私は着ていた上着と水さしに入っていた純水すべてを犠牲にしてボヤになる前に消火した。

 

そして次回から実験中は部屋に鍵をかけるようにした。




みんなの好意が人を殺す…
燃料問題は解決に向かっています。
一番喜んでいるのは空自だったり。
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