「俺のとこではそんな話は聞かないな」
直通道路 駐屯地より10km地点
マークス
俺はギルドでたまに聞くようになった新しくできたという里に雇い主の護衛で訪れることになり、今はその帰りのアプトノスが引く車の中だ。
雇い主の商人は商談がうまく行ったと上機嫌。
それで追加の報酬を出すと言っていたが今の俺の頭の中にはあまりそのことは無かった。
依頼でたまたま訪れたように言ったが俺の本当の目的は依頼の目的地であったその里にある。
そこへ行く依頼を片っ端から探して見つけたのがたまたまこの護衛依頼だったというわけだ。
「ジエイタイ…ね」
俺が事前情報として知っていた、依頼受諾前にギルドから聞かされたことはそこが新しく発見された人里であること、『ジエイタイ』と名乗る組織がそこで暮らしていることくらい。
ギルドはこの件をあまり隠しはしないが多くは語らないといったスタンスのようだった。
隠蔽はしないが急速に知らせたくないというその理由、何かがあるのかとその時点で俺はかなり気になっていた。
「面白い場所だったな」
「ああ…」
そこに何かしらの"ウラ"を考えた俺は狩り仲間のガンナー、ゼイルを誘って二人で依頼に望むことにしたのだが特にそういった心配事はなかったらしい。
ただ…
「不思議な人達だった」
一言で言えば異質。
新たな里に訪れて感じたのはとにかく不思議な感覚。
石とは違う素材で舗装された大きな道、継ぎ目のない灰色の壁、何に使うのかわからない巨大な金属の塔。
他にも様々な姿形の多様な用途があると思われる乗り物たちに独特な意匠を持った彼らジエイタイの装備。
見るもの聞くものすべてが見たことのないものばかり。
たまに見かけるアイルーたちが唯一の安心できるものだった。
「言葉も違うとはな」
時折聞こえてくる聞いたことのない言語、あれは彼らの言葉なのだろう。
『ジエイタイ』というのも彼らの言語のようだ。
普段話している言葉とは根本的に違う形態であるらしく、しばらく聞いていても残念ながら理解はできなかった。
そういえばあの里で暮らすアイルーたちも彼らと話をするときは同じ言語を話していたな。随分と関わりがあるのだろうか?
こんな所にまだ新しい文化があったものかと非常に驚いたものだ。
…そして、彼らがその言語とは別に俺たちの言葉を話したことにも。
だが、俺は少し疑問に思っていた。
ゼイルも口には出さないがきっと同じことを思っている。
ギルドの情報では『新しくできた里』ということになっているがあの建築物や舗装路は完成したばかりのようには思えず、ずっと見つからずに発展して発見されたばかりだというのも無理があり納得がいかなかった。
ギルドから派遣された調査隊のハンターに聞いても話をはぐらかされてしまい、ジエイタイ本人からも詳しいことは聞き出せなかった。
このあたりは少し情報統制が入っているのかもしれない。
…突拍子もない考えだが、俺はどうにも彼らがこの世界のものではないように思える。
まぁ、想像だけならタダだ。
「お前はどう思う?」
「彼らの出処についてか?」
「いや、装備のことさ」
さっきからゼイルが静かだと思ったら俺と同じように何か思うところがあって考えこんでいたらしい。
切り出されたのはジエイタイの人々が身につけていた装備の話。
かなり軽装に見えるが防御力はあるのかとか、重さはどれくらいなのかとか。
実際に確かめるすべがないのでほとんど憶測になってしまったが、外見から分析するとかなり機能的に作られているようだった。
動きを阻害しないよう配慮されたアーマー、各所に取り付けられた追加装備品を付けるためと思われる金具にベルト、たくさんのポーチ、胸のあたりに取り付けられた小さな装置…は何に使うか不明であるがたぶんコンパスのようなものだろう。
その色も自然に紛れるようなまだら柄の緑色で、森の中で出会った場合遠目にはわかりづからい。
非常によく考えられた配色で、離れていればモンスターにもある程度効果を発揮するだろう。
総じて高い技術と制作能力を持っているようだ。
「で、武器のことなんだが…」
「ライトボウガン…だよな?」
彼らのほぼ全員が担いでいたライトボウガン。
全体的に黒く細身で軽そうで、一般にハンターの間で使われるものより遥かに小さかったが、あれがモンスターに効くのだろうか。
アイルーたちに聞いた話ではジエイタイは過去に何度も里に近づいてきたモンスターを追い払っているようなのでそこそこ効果はあると考えるべきか。
ボウガンの強みである、『単一の目標に火力を集中できる』ことを理解しそれを一番の作戦として運用しているのか?
「俺は…彼らの本来のターゲットはモンスターじゃないように思えるんだ」
ゼイルは何を言い出すんだと怪訝な顔になった俺を制して持論を話し始める。
「彼らはお前の大剣よりも俺の得物に興味があったようだった」
彼らは刀剣の類を殆ど所持せずボウガンに類するものしか持っていないようだったこと、装備を保護色で揃えるのは確かにモンスターにも効果はあるだろうが費用には見合わないだろうこと、剣よりもボウガンを警戒していたこと、全体的に軽装だったこと。
前衛無しでモンスターと戦うのは厳しく、モンスターとの近距離戦闘では迷彩効果はあまり見込めない。
それにボウガン主体では決定打に欠ける。
ただしそれはモンスター相手では、の話。
この戦法は人間相手ならかなり刺さる。
「ガンナーやってきた俺の目線ではそう思えたのさ」
「しかし…あり得るな」
彼らが対人戦闘のプロだったところでどうするかというわけではないのだが、俺たちのような普通のハンターがギルドナイトに抱くような少し暗いものを感じてしまう。
…だが、こんな行商もめったに来ない森の中で暮らす小さな勢力が対人戦闘能力を磨く必要があるとは到底思えない。
わかったのはますます謎が深まったということだけだ。
「でも、いい人たちだったな」
「そうだな」
これには俺もゼイルもお互い深くうなずいた。
外との交流がなかったらしい彼らは俺たちを暖かく迎え歓迎してくれた。
話してみても気さくな人たちばかりでむさ苦しいギルドの空気とは大きく違っていた。
商談を待つ短い間ではあったが、話が弾んでつい自分のことやギルドのことを色々と話してしまった。
アイルー訛りが強いのが少し気になったが彼らとはまた会って話してみたい気持ちがある。
と、急がずともこのように商談の話が進んでいたりするので今後彼らの話題も増えていくだろうし、もしかしたら彼らからの依頼も来るかもしれない。
ぜひともこれからも交流が進んでいってほしいものだ。
そういえば…
「…名前、聞き忘れたな」
個人単位での交流は良好(?)です。
自衛隊のアイルー訛りは修復不可能です…