「実は俺もビビってる」
駐屯地 開発予定区
権田二等陸士
「右ー!もうちょい右!よーしストップ!」
クレーンがアームを動かし目的の場所へと建築資材を運ぶ。
見回すとドーザ、トラックを始めとしてフォークリフト、クレーン、ユンボ、ロードローラなど至るところで重機が建築作業を進めており、その光景はまさに工事現場。
一瞬自分が異界にいることを忘れそうだった。
しかしこんなにも重機を投入してドンチャカやれるのには開発計画の本格始動以外にも理由があった。
もちろん、燃料だ。
我らが施設科と化学科の共同計画により分屯地に設置された原油精製施設(仮)の稼働によって粗製ガソリンの生産が始まりやっと、やっと燃料問題からの真の開放を得たのだ。
正直浮かれている。
「ストップ!ストップ!おい止まれっ!」
ガシャーン!
…勢い余って大木に資材をぶつけるようなミスをするくらいにはみな浮かれている。
僕自身もだいぶ浮かれてショベルカーを操作する手がおぼつかない。
本当はこれではいけないのだがみんなそうなので仕方ないでまかり通っている。
燃料が少ないという事態に慣れすぎて逆に今の、元は正常であったはずの自由にガソリンが使える状態に恐慌しているという傍から見ればおかしな事かもしれないが一度慣れてしまったことが崩れるとどうしても違和感がある。
多分、また慣れる。
「バッチリ水平だニャ!」
「ロープが欲しいニャ!」
「2メートル先だニャ!」
「ヨシ!」
施設科所属のアイルーたちも作業に協力してくれている。
ネコゆえの身のこなしで柱を登ったりロープを渡したりして大活躍だ。ありがたい。
測量や計測の事も一通り教えて作業員として十分な技量も身についているのでこの先教えることがなくなって俺たちの出る幕が無くなるかもしれない…そうならないようにこちらも努力しなきゃな。
しかし現場作業に交じるアイルーたちの姿にはやはり違和感…というよりなにか既視感のようなものを感じる。
どうしてこんなにも彼らにヘルメットが似合うのだろうか。
僕は現在建設中なのが彼らの住居であることを加味して無理やり納得した。
今まで彼らの住処は各科の管轄の建物や空き部屋、駐屯地ー分屯地間の道路沿いに仮設されたテントなどであったが、最近かなり増えていた彼らの個体管理がしづらいのといつまでも仮設テントでは可愛そうだということでまとまった居住地を作りそこに落ち着かせるという計画が出され今実行に移されようとしている。
現在はハンターやライダーといった現地の人間との関わりが始まっているが、それでも最初に接触を果たし、この世界を知り向き合う大きな転換点となったアイルーたちのことを僕たちはかなり重視している。
まさしく、彼らの協力なしではここまで来れなかったのだから。
そういう感謝の意味も込めての厚い待遇に彼らはやや遠慮がちだが嬉しそうだった。
曰く、『こんなに恩を受けては返しきれない』『自分たちのためになぜここまでしてくれるのか』『その好意に甘えるのが怖い』らしいのだがこちらからすればそれだけのことに見合う活躍をしているということを言いたい。
僕はそんな事を考えながら初めて彼らと出くわした時のことを思い出し…
「おい、権田!お前までボケっとしないでくれ!」
やや必死な上官の声にハッとして止まっていた作業の手を動かす。
再び見回すと周りでもそんな様子が見られ、拡声器で指示を出す幹部がちょっと可愛そうなことになっていた。
この作業のあとにはまだパイプラインの整備や隊員のための住居などの建設が残っているのでここでグダグダしてはいられない。
というかこんな体たらくでは本当にアイルーたちに抜かれてしまう。浮かれ過ぎだ。
僕は気合を入れ直して仕事を再開した。
ーー5日後にアイルー居住区は無事完成し…また借りができたとアイルーたちを焦らせることになったのは自衛隊の誰も知らない。
投稿ちょっと遅れました。