「戦い…なのか?」
直通道路 35km地点
佐島一等陸士
道の真ん中に停められたトラックからはもくもくと黒煙が上がり、遠くからでは周辺の状況ががどうなっているのかわからない。
車列両端の軽装甲機動車には未だに反撃に放たれる車載機関銃のマズルフラッシュが輝いていた。
ともかく戦闘は続いている。
「ドアガン使うぞ!」
「しっかり狙え!」
搭乗中の輸送ヘリ、
そのうち揺れるヘリの上からもしっかり確認できる大きさのモンスターが見えてきた。
「あいつか?」
「とりあえず撃て!」
ズダダダダダダダダダダッ
ドゴゴゴゴゴゴゴッ
数発ごとに交ぜられた曳光弾が火線を彩り、目標に吸い込まれるように飛んでゆく弾丸の道筋を照らし出す。
掃射を受けた親玉っぽいモンスターはすぐに逃げ出して見えなくなってしまい、代わりに出てきたのは一回り小さい先程地上で相手にしたのと同じもの。
数については40〜60と様々な無線信号が飛び情報が錯綜しているが最終的にはすべて倒してしまえばいい話だ。
〈ハンター側に確認したところ交戦中のモンスターは"イズチ"と呼ばれるモンスターの模様!〉
〈今後対象生物をイズチと呼称する!〉
〈ハンターの救援が来るそうだが期待はするな!〉
イズチと言うらしいこいつらは身のこなしが以前相手にしたランポス以上に素早く厄介な存在に見えたが、上から一方的に殴れる状況ではその限りではない。
「11時の方向に敵!」
「2時の方向に撃ちもらしだ!」
5.56mmのシャワーを浴びたイズチは崩れ落ち、12.7mmのスコールを受けてしまったものは着弾地点を中心に体を霧散させて粉々の肉片に成り果てた。
この機の他にも4機のヘリが周囲を旋回しドアガンやガンポッドで次々に敵を排除している。
と、一見航空攻撃は有効だったが敵が森の中に逃げ始めると狙いがつけられなくなり上を取ることのデメリットが出てしまった。
ベトナム戦争の時の米兵はこんな気持ちだったのかもしれない。
「俺は降りる!」
「正気か!?」
俺は長野の静止を振り切って降下用のロープに足をかけると高度を下げたヘリから飛び降り、地上付近で手を離して転がり衝撃を殺す。
見回せばあちこちから上がる銃声と光、多方向からの攻撃を受けてかなりの乱戦の形相をなした戦場は血と硝煙の匂いが充満していた。
「あそこだな!」
俺は引っぺがしたドアガンのMINIMIと愛銃の64を構えて交戦の中心地点となっているトラック周辺へと急ぐ。
と、木の影から飛び出したイズチがカギ爪を振りかぶり横っ腹を狙って来た。
カキン!
64の銃身に装着していた銃剣で受け止めるが、勢いを殺しきれず銃剣が真ん中から折れて飛んでいく。
カギ爪を防がれたイズチは次の手として牙の並んだ大口を開けて噛みつこうと飛びかかるがその体は次の瞬間には物言わぬ肉塊と化した。
ガガガガガガガッ
ガガガガガガッガガッ!
「早くこっちへ!」
軽装甲機動車に据え付けられたM2の銃身が赤熱し赤い光を放っている。
文字通り銃身が焼け付くまで撃ち続けなければならない状況とはこう場合を指すのだろうか。
…護衛につけられたのがM2搭載型で良かったな。
「カバーしてくれ!」
炎上する車の陰から身を乗り出した隊員、武の同僚に促されてカバーに入るとそこに武はいた。
…ひどい怪我、ひどい有様だ。
右肩から左足の太ももあたりにかけて斜めに一直線の大きな傷、イズチの親玉にやられたのか。
止血はしているが失血が激しいのか顔面蒼白、意識は朦朧としている。
もし、腸が空気に曝されていた場合かなり不味いことになるので下腹部を確認したい気持ちもあったが勇気が出ずに着衣をめくることはできなかった。
とにかくすぐに衛生科に送らないと命が危ない。
いつも着ているIOTVはどこへやったんだ?
…ともかく、早く治療を受けさせねば。
「ヘリに着陸要請を出した!このバカを運ぶぞ!」
「…おい佐島!勝手に降りるなよ!」
「長野こいつ頼む!」
「うぉい!」
遅れてやってきた長野に武を託し、俺はMINIMIを構えて森を睨む。
長野と一緒にやってきた他の隊員たちも各々の銃を構えて敵のいる方向を睨みつけ、荷台やドアの影などの射撃ポイントへ迅速に展開し多方向からの攻撃に備える。
味方の展開を待って車列の陰から飛び出すと一対の赤い目がこちらを見つめていた。
コンバットハイというのは恐ろしい。
ドスジャギィに食われかけたあの記憶が悲鳴を上げる中でも俺をここに踏みとどまらせるのだから。
あるいは、恨みだろうか。
「…許さねぇからな」
飛びかかってきたイズチに腰打ちでMINIMIを乱射し至近距離で弾幕を張る。
荷台や銃眼、車の陰からも厚すぎる援護射撃が飛ぶ。
そうして穴だらけになったイズチが倒れ込むと森に潜伏していたイズチたちがなだれ込んできたがこれこそが狙い。
「見えた!撃て!」
再びターゲットが見えるようになりヘリからの支援射撃が再開され、イズチたちは機銃の光に次々と地面へ縫い付けられていく。
ドゴゴゴゴゴゴゴッ
グァッ!
回りこもうとした個体には車載機銃の弾丸が突き刺さり文字通り爆ぜさせて近づけない。
勿論地上からも多数の弾幕が飛び、攻撃をくぐり抜けて接近するイズチを絡めとっていく。
そうしてあたりが血と肉と骨だらけになりきらないあたりでイズチの親玉が茂みから飛び出して短く咆哮した。
グァオ!
それに答えた2匹のイズチが親玉の横に付き添い、直援機のように戦闘の補助を始めた。
この2匹は適正距離より少し短いくらいの射撃を軽く躱してくるあたりイズチの中では精鋭なのだろう。
ズドドドドドドドドッ
ドゴゴッドゴゴゴゴゴゴゴッ!
ギャアッ!
が、無慈悲にもそこへ向けられるドアガンと車載機関銃からなる弾丸の嵐が彼らを一瞬にして肉塊へと変える。
歩兵単位ではいくら精鋭であろうともこのような状況で複数の火力を集中されれば生き残る事はできない。
グァァォオゥ!!
「来るぞ!散開!」
イズチの親玉はいつかドスジャギィがそうしたように破れかぶれの突撃をかましてきたが、2回目の状況に対して同じ失敗は踏まない。
「全火力を集中!」
「オープンファイアー!」
俺達はトラックを盾にする形で大きく散らばり、主に機動力を奪う目的で足を集中的に狙う。
4機のヘリと手持ちの小重火器から一斉に放たれる12.7mm、7.62mm、5.56mmの金属の迸流が降り注ぐ中、イズチの親玉は死兵となって飛び込み…
ズガシャァン!
こちらを狙って振り下ろされた巨大なカギ爪は大きく狙いを逸らしてトラックの運転席に深々と突き刺さった。
15mほどの距離を疾走する短い間に地上と空からの十字砲火を受けて親玉の足は完全に破壊され、ズタズタになった筋肉の間から飛び出した健と骨がもはや立つことも這うこともできない状態であることを示していた。
トラックに突き刺さったカギ爪を抜こうともがく親玉の体は徐々に動きが鈍くなっていき、やがてパタリと動かなくなる。
それからしばらくの間こちらを憤怒の感情を込めて睨んでいた目からも何の感情も感じられなくなったあたりで俺は血溜まりの中心で立ち尽くすそれに意を決して近づく。
折れた銃剣で突き刺し、なんの反応も帰ってこないことを確認。
そいつは、確かに死んでいた。
「…死亡確認」
◆ ◆ ◆
現場処理は他の隊員に任せて俺達はすぐに衛生科へと向かうことにした。
ハンターの救援部隊がやってきたのはすべてが終わって俺達がヘリに乗り込んだ時だった。
現場の惨状に目を丸くする彼らに何かしら文句を言いたくなったが特に言葉が思いつかなかったので無言で見送った。
…彼らは別に悪くない。
悪いのは安全宣言に浮かれすぎていた俺達だ。
きっとそうなんだ。
安全宣言を手放しに信じて気を緩めていたのは本当のこと。
警戒を続けると口で言って行動して、そのつもりになっていただけで意識のほうはあまり伴っていなかった。
モンスターの襲撃があったり現地人との衝突の危険を乗り越えたりして俺達は少し疲れていた。
そこに差し出された安全という誘惑に耐えきれずすっかりその気になってしまっていたらしい。
後であまり精査せずに開発を進めたのはそれを口実にしたかったからなのか、見て見ぬふりをしていたのか。
とにかく今はわからない。わかりたくない。
長野といるときはいつもあることないことくっ喋ってる俺だが今はそんな気になれず、とうの長野も黙りこくって銃のストックを握りしめている。
パイロットも同乗者もみんな一言も発さず、辺りに響くはヘリのローターが立てる爆音のみ。
駐屯地へと向かう短いはずの時間はとてつもなく長く、心地悪く感じた。
散発的遭遇戦
主要交戦戦力 イズチ
自衛隊
普通科隊員40名
施設科隊員10名
機甲科隊員10名
89式小銃 20
64式小銃 32
MINIMI 6
M2重機関銃4
9mmけん銃1
軽装甲機動車(M2搭載型) 2
特大型トラック 2
UH-60JA 4
敵勢力
イズチ62体
小型個体61
大型個体1
自衛隊損害
負傷者18名
うち重症5名
89式小銃1挺破損
64式小銃3挺故障
特大型トラック1両大破
敵損害
全滅
確認生存個体なし
自衛隊の勝利
先に行きたい気持ちで雑になっていないか心配です…