「あれをライトボウガンと呼ぶのは無理があるな」
直通道路 35km地点
ゼイル
さっきまでは多数の死体が折り重なっていた戦闘跡地も今はすっかり何もなくなっている。
彼らの仕事の速さはとてつもなく、今は数人が事後処理にあたっているのみ。
彼らは何かを探すように…いや、あるものを探してまだ血の臭いが立ち込めるここ周辺をうろついていた。
「これがねぇ…」
俺はポーチからくすんだ黄土色の輝きを放つ円筒形の金属柱をいくつか取り出してまじまじと見つめる。
これぞ彼らの探し求めているもの。
底部の加工と先端に空いた穴、ガンナーならばピンとくる物体。
弾体と火薬を詰めるケース、薬莢だ。
形の揃った、金属製の。
一般にボウガン用弾薬の薬莢に使用されるのは"カラの実"と呼ばれる果実から種を抜いて加工した殻や小型モンスターの背骨から採れる"カラ骨"と呼ばれるもので少し細工を加えればそのまま薬莢として使えるような便利な素材だ。
しかし自然物ゆえの不揃いさと強度の問題で炸薬の威力を弾丸に乗せきれていないといつかギルドの研究員から聞いたことがあった。
もし金属製の薬莢を用いたならばその威力をすべて弾丸に乗せることができ、当然威力は上がるはず。
だがそれを差し引いても優秀な素材であるカラの実およびカラ骨の存在により金属製薬莢の生産や使用の話は聞かない。
「…こうか」
カチリ、と薬莢と弾丸を突き合わせる。
金属製薬莢にはめ込むのは…やはり金属製の弾丸。
こちらは木に突き刺さっていたものを削って掘り出した。
先端が少し変形しているが元の形が尖っていたことはまだわかる。
弾丸についてもこちらではモンスターの牙や尖っていてそこそこ強度のある"ツラヌキの実"を始めとする木の実などの自然物が使われており基本的にボウガン弾は金属製素材にあまり縁がない。
当然金属製ならば質量とともに威力も上がるだろうし、先端が尖っていることから命中時の加害力も高そうではある。
だが俺たちハンター…ガンナーは、金属製弾薬が欲しいと思ったことは特になかった。
なぜならそれで事足りるから。
カラの実とモンスターの牙を組み合わせた、この金属製弾薬と比べれば簡素なつくりの弾丸でもモンスターを仕留めることはできるのだ。
威力も十分に出るし、現地での調合も容易いくらいには生産性も高い。
多少のばらつきが出てもさして問題にはならなかった。
その点この金属製薬莢はビン型の同じ形大きさ規格に揃えられており弾丸の方も同じく揃っていることが予想される。
製鋼所ならばこれくらいやりそうではあるが、この手に握った十数発の薬莢すべて同じ形、同じ規格に揃えるような正確な仕事は難しそうだ。
ジエイタイはこれの大量生産の技術を持っているらしいが…その技術力の高さはさておき。
そこまでして戦う相手は何か?
このような弾薬を使うならばこれを発射する
いや仮説の話ではなく強い。
運ばれていく死体についていたいくつもの弾痕はその強力さを直に示していた。
…その強力な武器を、力を持って向かう相手は何なのか?
自分が答えれば十中八九「モンスター」になる。
この世界での驚異、物理的に立ち向かうべきものといえばそれしかない。
ギルドナイトによってそれが振るわれる場合はその限りではないのだがそれは特殊な事例。
しかし。
「モンスター…いないんだろうな」
彼らの反応、行動、装備を見るに、元いた世界にはモンスターやそれに準ずる存在はいないのだろう。
彼らと出会った当初から感じていたことだが、最近になって確信に変わった。
となればその銃口を向ける相手は。
「なるほどねぇ…」
彼らの敵は、同じ"人"だったのだ。
あまり驚きはしない。
対人戦闘に特化した装備を見てある程度は感づいていた。
武器は進化する。
必要に合わせて進歩する。
最初期からあった武器種(だと先輩ハンターから聞いた)であるボウガンもより扱いやすく、より強力なものへと変わっていった。
俺の肩にかかっているこれも細かい過程は知らないが何度も改良を重ねてこの形へと行き着いたはずだ。
彼らの高水準に纏まり、組織化、標準化された装備はそれだけ改良された、改良の必要があったということになる。
相対するものがより強ければ、その必要性も高まる。
「とんでもない世界だな」
彼らがおっかなびっくり接してきて、友好的に努めていた理由も今ではよくわかる。
『薬莢は見つかったか?』
『いや、見つからん。そっちもか…』
あまりこういうことを言える立場じゃないが、彼らの期待に、好意に応えてあげてもいいはずだ。きっとその権利がある。
「なあ!ジエイタイの人!」
なぜならここは、人を恐れなくてもいい世界。
俺たちという仲間がいる世界だから。
「君らの探しているものはこれか?」
君たちは知らないかもしれないが…
「ああ、これだよ!ありがとう!」
ハンターは一度肩を並べた相手ならば。
仲間と認めた相手はみんな仲間なんだ。
俺たちのやりとりを怪訝そうに見つめるギルドのハンターが視界のはしにちらりと映ったが気にしない。気にしてはいけない。
他の連中がなんと言おうと、君たちは仲間だ。
…先輩がそんな感じのことを言ってたから多分そうなんだ。
次、ギルドのターン!