「それはまだ早計だ」
駐屯地 情報科オフィス
半田陸士長
複合機の上に置かれた仕立ての良い巻物。
赤いラベルに包まれたそれの中身は"この世界"。
吐き出されたコピー用紙にプリントされた内容を見て僕は唾を飲み込んだ。
「これがこっちの世界の地図…ね」
測量の仕方が不明のため縮尺等は分からないが、わりと正確に描かれているのがわかる。
真ん中に描かれた大陸にはそれぞれの地域の気候や自然、生息するモンスターを表す挿絵が入れられてにぎやかな絵面、地球の昔の地図のような雰囲気だ。
上方に寒冷地、下方に砂漠地帯があることを鑑みるにここは北半球にある大陸なのだろうか。
「ハンターたちの言ってた都市はこれか」
大陸を左右に分ける湾の根本あたり、現地語で『ドンドルマ』と記入された場所。
これの下方にある森林地帯と火山地帯との間にこの駐屯地はあるらしい。
僕は大体の位置にボールペンで印をつけて考え込む。
「確かに異常事態だな」
先日のイズチ襲撃後に緊急で開かれたハンターとの会談。
この巻物は色々と大変な会談となったそれの後に彼らから受け取ったものだ。
今まで地図の類がアイルー以外から手に入らなかったのはこちらの動きを制限するために彼らが情報統制をかけていたとのことだったのだが…
それを明かした上でこれを渡した意味は今回の事例が不測の事態であったこととその異常性を我々に伝え、同時にさらに外側の世界へと目を向ける時期であることを伝えるものであったと僕は解釈している。
イズチはこのあたりには生息しないモンスターだとは聞いたが、それでは本来の生息地はというと地図上では駐屯地から大陸右側中央の大きな砂漠を挟んだ反対側、ユクモ文化圏と呼ばれるらしいあたり。
正確な距離が分からないにしてもこれだけ移動してくるというのは何かがおかしい気がする。
…と素人目にも我々がそう思うように、今回の件は彼らにとってもかなりの異常事態であるらしい。
そんなこともあってか彼らの中で予定されている調査に我々も協力するよう頼まれたのだ。
別に手に余る訳でもないが異常事態に巻き込まれた我々のほうも原因がわかるほうが良いのではないか、分からないことを嫌う我々はその方が安心できるのでは、という言葉もご親切に頂いている。
「…受諾する方向で進めるんだよな」
窓の外には準備を進める隊員たちと車両の姿がある。
この状況が語るとおり共同調査のお誘いは受ける形で進んでいて、出発は先になるが彼らの要望通り調査へ同行し色々と調べる予定だ。
…話が急な気もするが、今の境遇のことを考えればそうするしかない。
「僕らはこの世界でやっていけるんだろうか」
司令は緊急会談で我々が対人戦闘組織、軍隊に準ずる存在であったことや
そろそろ感づかれていたところや情報統制の限界を感じていたこともあったのでその面では気が楽になったが…当然新たな問題が出る。
先に堅牢な友好関係を構築して警戒を解くという計画がそこそこうまく行っていたこともあり民間に分類されるハンターや商人への影響は少ないようだったが、ギルドとの関連が深いハンターたちの態度が目に見えて硬化していた。
少し前、外で情報を纏めているときに偶然彼らの会話を聞いてしまい「軍隊とは関わりたくない」とか「モンスターを知らぬものとやっていく自信はない」とか言われているのを確認して気分は下げ下げ。
初接触でお互いにマイナスだった印象を依頼を受けるところまでようやく回復させたところだというのに、またマイナスに戻ってしまったのだ。
こういうものは時間をかけるべきだと言うがこのような状況になれば流石に焦る、いや焦らなければならない。
共同調査の参加には彼らハンターたちを纏めるギルドの信用を得るためという意味合いが大いに含まれており、現場のハンターたちもそれを思って提案してくれたのだろう。
手元のコピー用紙に視線を戻すと大陸上に刻まれた様々な地名や都市の名前が目に入って来る。
地理的情報とともに解禁されたこの世界の複雑に入り組んだ社会形態には地球とは異なるなんとも悩ましいものを感じる。
この世界にも国家やそれに準ずる共同体があることは最初の会談で語られていたのだが、それぞれとギルドとの関係性はだいぶ違うこと、例えばギルドはもともと組合のようなものだったとか各地にあるギルドはまったくの別モノで協力したり対立したりしているとかの追加情報を聞いて少し驚いた。
国家は国家で軍隊と法規を持って国を治めており、現状この世界では国家による統治とギルドによる統治の二重の統治が成されているようだ。
影響力がどれほどのものなのかは分からないがこちらで感じるものはギルドのほうが大きいな。おそらく地域や場面によって変わるのだろう。
この世界は思ったよりは纏まりがないらしい。
…それでも、通貨や言語が統一されていたりと
ひとまずは現在関係を持っているドンドルマのギルドと硬い友好関係を結ぶことで安定した地盤を築くことを最優先の課題として進めることになっている。
完成された社会に突然放り込まれることの恐ろしさを存分に味わった訳だが、これに辟易しているようではこの先やっていけないのは確実。
こちらの意識改革と状況の整理を並行して行っていかなければならない。
「顔色が悪いニャ」
傍を見るとアイルーが僕の顔を心配そうに見上げていた。
情報科所属のアイルー、科内ではラベルという愛称で呼ばれている彼には主に言語解析と周辺情報の精査でお世話になっている。
…そういえば、アイルーたちは最初から今までずっと味方だったな。
「…関わる相手を選ぶか?」
それもアリだ。最初から全員と仲良くしようとする必要はない。
アイルーたちや既に友好的な関係を築いたハンターたちとだけ関わって、あとは無駄な関わりを持たずに不干渉の姿勢を出す。
触らぬ神に祟りなし、というやつだ。
その気になれば閉鎖的になって閉じこもることも可能っちゃ可能。
「たぶん、大丈夫だと思うニャ?」
ラベルは僕の考えていることを大体察したらしく、そんなに心配することはないと告げる。
「いまハンターたちが警戒してるのは自衛隊のことをよく知らないからニャ」
「知ったからこそ警戒されている気がするんだがなぁ」
「もっとちゃんと知ったら好きになってくれるニャ」
「そうかなぁ…」
「ボクは自衛隊のこと知ってるし大好きだニャ」
「それは君の主観じゃないかな…」
ハンターたちのとった態度の根源が中途半端に知るのは危ない、という言葉が示すような防衛反応だと捉えるならば、正しく認識してもらうことで警戒をといてもらえるかもしれない。
もしくは、もっと警戒されるか。
機械技術や装備、兵器のことや地球で世界の均衡を守っていた巨大な力の正体、戦略兵器の事については彼らに明かしていない。
今後も明かすつもりはないのだが技術についてはどうなるかわからない。
対人戦闘能力では彼らハンターよりも高い水準にある我々はもしもに備えてこの力を手放すつもりはないがこれの提供を求められる可能性については捨てきれないしいずれは何らかの形で教えなければならない気がするのだ。
「そんなに先のことを考えても仕方ないと思うニャ」
「だけどなラベル、いつでも悪い方に転ぶことを考えるのが僕らの仕事なんだ」
「悪い方に考えすぎな気もするニャ…」
「…そうだな」
ひとまず今はドンドルマのギルドとの関係を深めることとイズチ襲撃の原因について考えなければ。
ほかのギルドや国のことは一度考えないようにして、とにかくこの世界での地位を確定してもらおう。
そして友好関係を結んだ相手同士でやり取りし、運営を安定させる。
──他に、友好関係を結べそうな相手は…
「ライダーか」
窓ガラスの向こう側ではLAVの立てる砂埃が風になびいていた。
僕は彼らの行き先の小さな里に思いを馳せる──
投稿遅れてしまい申し訳ありません…
かわりに少しだけ連続投稿になる予定です。
駐屯地の場所が明らかに。
ドンドルマの南東にあります。
NBCの事はハンター達に明かしていません。流石にね…