「それを測る意味もあるのだ」
オッカの里 広場
前沢陸士長
車一台がやっと通れる道を左右に生えた木々の枝に窓ガラスを叩かれながら抜けてきて、開けた場所に作られた村落を見渡す。
動物の骨や革から作られた民族衣装を身に纏った人々と石造りのこぢんまりとした家の並ぶ様子を見るといかにもタイムスリップしたかのような気分になるがそういえば、この世界に暦のようなものはあるのだろうか。
「ここがライダーの里…いや、前にも来たことがあったな」
不意に湧いた疑問は置いておいて、私と同僚たちはLAVから降車し背を伸ばす。
ハンターとの交流が始まった後ライダーとの交流も同じようにスタートし、意図や思惑が交差するあちらと比較してこちらは非常にスムーズに進んでいた。
というのもハンターたちが広域を支配するギルドの元でまとめ上げられ複雑な構造をとっているのに対してライダーは一つの村、里単位で独立して存在するらしく、集落を治める長の意向があれはいくらでも交渉を進めることができたのだ。
現に75km地点で止まっていた直通路も残りの75kmを車一台ぶん程度の太さで整え終わっていた。
施設科と許可を出してくれたライダーに感謝。
『ジエイタイの方々、ようこそいらっしゃいました』
暗い赤色の装備を身に纏った茶髪のライダー、ラダンが挨拶をしながら近づいてきた。
彼は記念すべきかはさておき初接触時に会った顔見知り、基地付近をフライパスしたリオレウスに乗っていた本人でもある。
しかし彼の協力がなければ今のこの状況はなかったと言いきれる。
彼がこちらの要求に応じてくれ、ハンターたちに会談の約束を取り付けてくれなければ今頃どうなっていたか。
…誰も得をしないろくでもないことになっていたのは確かだろう。
『今回はどのようなご用件でしょうか?』
そんな彼から自衛隊の使節を寄越してほしいとの報せが入りやってきた訳なのだが、何かしら話しておきたいことがあると見える。
一応心当たりはある。
先日のイズチ襲撃とその後のハンターとの会談、伴って解禁されたこの世界の情報と我々の立場のことには少なからず辟易したものだ。
彼らライダーとの交流は進んでいるとは言えども彼らが少人数であることとその多くが彼らの里を離れられないことからお互いの情報交換はまだまだ足りない。
こちらも色々と出しておきたい情報があるので話し合いの場を設けてくれるというのならありがたいことだ。
…それに、ちょうどこちらにも用事がある。
『長老が話したいことがあると…こちらへ』
彼に連れられて私達はライダーの里を横切り一番大きな建物へと向かう。
道中すれ違う人々と挨拶を交わしていると、7歳くらいのちびっ子がやってきた。
『おにいさんたちジエイタイなの?』
『そうだよ、よく知ってるね』
『おとーさんがデンセツのユウシャだっていってたんだ』
『え?』
突然勇者だ何だと言われて私達の頭に疑問符が浮かんでいるのを察したラダンが苦笑いを浮かべながら言う。
『今回皆さんにしようと思っていたのは、私達の間に伝わる伝承の話なんです』
『それとなんの関係が?』
『あるかもしれませんし、ないかもしれません…が、どちらにせよ聞いていただきたい話です』
彼はそれにイズチの件も加えて、と付け足して案内を再開する。
彼らの間に伝わる神話に私達の存在が何かしら掠っているらしい事は交流の中で聞かされていたものの具体的な内容については初めて聞くことになる。
記録しておかなくてはとポケットから取り出した録音機をいじっているうちに列は一番大きな建物…長老の家へとたどり着き、中に招かれて大きなテーブルを囲むことになった。
『ジエイタイの者、よくぞ参った』
動物の骨と革で作られ、モンスターの牙が装飾としてあしらわれた大きく豪快な椅子にどかりと座った彼らの長老はその椅子に負けないくらい、というか倍ぐらいの迫力のある筋骨隆々のご老人。
とてつもなく立派な白いひげを蓄えた姿は創作上の王様のような風体だった。
…と言っても今更。
ハンターにしろライダーにしろこちらの人間は地球ではありえないほど屈強でいつも鍛えている筈の私が惨めに思えてくるほどの体を平均で持っている。
本当に人間なのか?
『…さて、昔話をしよう』
ハンターの長、メイサは僅かに髭を揺らしながらそう告げて大きな巻物を取り出す。
それはごろりとテーブルの上に転がされ、端から落ちるか落ちないかのところでちょうど全ての絵柄が現れる。
描かれたものは色々あるが目につくものはモンスターに乗った人間、武装した人間、大きな龍、あとは…何だ?
『これは?』
メイサはこちらの問いに答える代わりにその内容であろう神話について語り始めた。
天と地が分かつ時
人と龍の始まる時
人は分かれ纏まる
我らは戦うもの
我らは守るもの
我らは介すもの
人と龍を保つもの
我らは結ぶもの
我らは繕うもの
我らは紡ぐもの
龍と人を繋ぐもの
『ハンターとライダー…?』
それぞれから聞いた理念に沿う内容、巻物の絵にも合致する。
メイサは私の言葉に軽く頷くと再び話し始めた。
まだ続きがあるらしい。
銀翼の龍現れし時
闇が世に広まる時
彼方より勇士現る
彼らは狩り人
彼らは乗り人
和を尊ぶもの
闇を祓い世を救うもの
空を駆け光を放つもの
…これが勇者にまつわる一節なのだろうか?
正直なところ我々に関連しているとは思えない。
『我らの間に伝わるのはこれが全てだ』
続きももう無いらしい。
彼らの単なる勘違いではなかろうか…
『釈然としないようですな』
『ええ、まぁ…』
私達の反応が薄いのを見たメイサが巻物の絵柄をよく見るよう促す。
『我らがお主らと会う前に銀翼の龍が現れたのだ』
巻物に描かれた龍はなかなか特徴的な見た目で、首を突き出して飛ぶ姿はまるで戦闘機のような…ん?
『実際には違ったようだがの』
絵をもう一度よく見る。
確かにこれは戦闘機のようにも見えるが龍にも見える。
おそらくそういうふうに見えるだけなのだろうが何たる偶然か。
その横に佇む人間、勇者であるらしいそれも銃を持った自衛隊員に見えなくもない。
だがこの色使いといい、まさか本当に自衛隊が神話の勇者なのか?
「まさか…」
「んなわけ」
「偶然だよな?」
同僚たちの答えは淡泊、私の答えも同じだ。
これは本当によく似ているだけで偶然の一致だろう。たぶん。
地球でも古代人の描いた壁画にそれっぽいものがあったのを思い出す。
というかまず世界が違うのだ。
そういう一致があっても不思議ではない。
『お主らが信じぬでもよい。正直なところ儂も偶然の一致だと思っておる…しかし』
メイサは近くに座ったライダーたちを見回してからこちらに向き直る。
『そう信じている者も多いのだ。信じたいという方があっているかもしれんがの』
メイサは語る。
ライダーは基本的に里から離れることなく過ごしその地域で完結すると。しかし実際は離れないというよりは離れられないに近いと。
モンスターと絆を結び共に生きるというライダーの共通理念。
しかし立場が変われば恐ろしいモンスターを従えているように見えるこの生き方はハンターや他の人々を遠ざけてしまいライダーと他勢力との関係は長らく悪いまま。
だが一部ではハンターの掲げる理念である自然との調和を果たしている部分もあり迫害までは至っていないと。
だがその程度では異なる道を歩んだ者がわかり合えるはずもなく、ハンターたちの多くはライダーを腫れ物のように扱い不干渉という形で黙認しているのが現状なのだと。
総じてライダーには仲間がいない。
同じような境遇のライダーの里同士での交流が無い訳ではないが物理的に離れすぎていたりしてその頻度は年を数えるほどに少なくほぼひとりで暮らしているようなもの。
実質的な仲間は里の者とオトモモンスターのみ…
『…だからこそなのだ。お主らが勇者ならば我らを救ってくれる、ならば仲間にもなると…貧しい考えだな』
そう述べて肩を落とすメイサは先ほどとは打って変わってひどく小さく見えた。
交流以前からハンターとライダーの関係が悪いことは察していたがやはり思想の違いによる対立があり、それもかなり長い時間を経ているようだ。
そんな中好意的な接触を果たせたものには色眼鏡が入っても仕方がないと言うことか。
彼らの境遇のことを考えると少し気の毒な気がしたが正直なところ今の我々も似たようなものなのであまり人のことも言えない。
しかしこちらの持ちかけたかった話をするにはいい機会だったのかもしれない。
『今は我々も仲間が欲しいのです、できればこの関係をもう少し発展させたいと考えております』
『それは…ありがたいことだ』
『そこで一つ、頼み事がありまして』
私達は少し目配せして話を切り出した。
『ハンターとの共同調査にライダーの力も借りたいのです』
ハンターズギルドとの関係が膠着した今、自衛隊が求めるのは確実な仲間となる外部組織。
その立ち会いのもとであれば共同作戦の不安も和らぐ…即ちライダーに緩衝を頼みたいということである。
彼らにはあまり得のない話だが、受けてくれるのか…
私達の言葉を聞いたメイサは目を閉じて頷き…ニッと笑って私の手をとった。
『喜んでお受けしよう』
『では…!』
『儂らもその話をしようと思っておったのだ』
『そうだったのですか!』
タイミングが合ったとはいえ話は思っていた十数倍スムーズに進み、ハンター達に明かした情報も一部交換して盛り上がった。
目標は斜め上に達成され拒絶もされずと私達は大収穫を得て基地へと戻る。
LAVへと手を振る彼らに手を振り返して会談は丸く収まった───
ジエイタイの使者が去り静かになった里はいつもの事ながら寂しく見えた。
ラダンとメイサは空を見上げる。
「もしジエイタイの方々が本当に神話に語られる勇者なのであればそれは喜ばしい事であり…同時に懸念すべき事項でもありますね」
「神話には銀翼の龍が現れるのは闇が世界に広まりし時だと語られておる、この件は前触れやもしれぬ」
リオレウスが力強く羽ばたく中、太陽には厚い雲がかかろうとしていた…
投稿予約忘れてました…