自衛隊inモンハン 異空の守り人   作:APHE

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「…気づかれたな、引き上げるか?」

「いや、このまま接近しよう」


21話 転換点

駐屯地 直通通路

佐島一等陸士

 

 

ついに秒読みに入った共同調査。

一週間ほど続いた準備も最終段階に入り、この積み込みが終わればいよいよ出発。ひと月ほどはここに戻れなくなるだろう。

軽装甲機動車(キドセン)パンツァーファウスト3(LAM)の弾薬チューブがこれでもかと積載される様子を見て俺は深いため息をつく。

 

「荷が重いな…」

 

物理的にも精神的にも。

今朝行われた朝礼はいつもと少し変わったもので、各科幹部と全隊員を演習場へと集めて行われた。

その中で司令は現在自衛隊が置かれている状況、資源状況、今後の展望、戦力の全数、やらなければならないことを全ての隊員へと開示したのだ。

だが一番心に残ったのは…

 

 

─────

 

 

「以前発表した通り、我々は異界へと転移した!」

 

拡声器で増幅された声はその場にいるすべての人間に響き渡り、付近にいた者の鼓膜と心を震わせる。

異界への転移、それは実際に体験はしてもなかなか受け入れがたい事実だった。

部屋の中で周波数がそのままになっているラジオなどは何かの拍子にまた流れ出すのではないかと思ったりもする。

…こちらへ来てから4ヶ月間、それが現実になることはなかったのだが。

 

「現時点で我々が元いた世界へと戻る方法は見つかっていない!また今後も長期に渡って戻ることはできないだろう!」

 

そろそろ現実を、この世界を見る頃だ。

もとの世界(地球)へと戻ることが叶わないという事実は皆薄々気がついていた。

僅かながらの希望を持って切れた電線を辿ってもその先にあるのは鬱蒼とした密林、今では逆に"地球へ戻れるのではないか"という気持ちが枷になっている状態だ。

どこかで踏ん切りをつける必要がある、あった。

 

「だが我々は生きている!ここでこうして生きているのだ!」

 

異界への転移という大事件を経てしても、俺達は生きていた。

 

「いつの日か元の世界へと、日本へと戻るため生き続けなければならない!」

 

進んで死にたくはない。

できれば日本に帰りたい。

それよりマシ、そのほうがいい、そうしたい…どうやって?

前提が崩れている以上、議論の余地はない。

 

そうしなければならないのだ。

 

司令も、周囲で斜め上を見上げる幹部たちも覚悟の決まった表情をしている。

他の隊員たちもこちらでの暮らしと開拓を通して既に気持ちは固まっていた。

 

「我々はこの地に根を下ろし、ここで生きる!そのために諸君にはこれまで以上の苦労をさせるだろう!しかし、それらすべてが未来への礎であると信じてほしい!」

 

皆が黙って頷く。

 

「…そして、この世界で生きる者は我々だけではない!」

 

司令の隣に今や見慣れた二足歩行の猫の姿、アイルーのにゃん太が現れる。

それに合わせて各科幹部の前へとそれぞれの所属のアイルーたちが現れてびしっと敬礼した。

 

「彼ら、アイルーの諸氏は知るとおり我々の欠かすことのできない仲間であり、この世界の民である!」

 

仲間、という単語に反応したのかアイルーたちの何割かのしっぽがピンと伸びた。

実際彼らの助力なしでは今のこの形はなかったのだから欠かすことのできない仲間、とはあまりにも正しい表現だ。

 

「そして我々は思う、仲間と共にあるべきだと!」

 

ふと元の世界のことを思う。

仕事の仲間や同じ立場の仲間の他にも仲間と呼べる者たちはたくさんあった。

同盟国であった米軍を筆頭に、共同訓練を積んだNATO各軍、兵器供給及びメンテナンスを行うメーカーの方々、そして守るべきものであり、支えてくれる力でもあった国民、日本という国。

自衛隊は常に仲間と共にあったのだ。

 

「今の我々が守るべきは(仲間)!支え合い、守り合う(仲間)だ!」

 

守るべき物を失った今、守るべきは仲間。

自衛隊を信じ、支えてくれる仲間。

彼らを支え、信じ、守ることが今の我々にできること。

 

「そして──仲間は多いほうがいい!」

 

司令は一息おいて上がっていた語調を整え、話し出す。

 

「本日、ハンターズギルドとの協同調査が開始される!これは我々の安全のためのみならず、彼らを支え合う仲間へと、友とするための大きな一歩である!」

 

「調査隊は10:00より駐屯地を出発し──

 

 

─────

 

 

「荷が重いな…うん、荷が重いな」

 

心に残ったのはこの仕事の重要さという現実の重みだった。

司令の激励の言葉に感動していたら豪速球で現実がぶつかってきたのだから無理もない。

 

仲間を得るというのは難しいことだ。

相手の信用、信頼を経て仲間と認められることでそうなる…と言われるものだが、現実そこまで単純なものではない。

ましてや勢力間のこととなれば複雑を極める。

相手は国家レベルの組織、アイルーたちと違い民間信用では意味がないのだ。

双方とも腹の探り合いをしていることを知った上で、ましてや一度信用を失ったあとで話を通して貰うだけの信用を得ることがどれだけ難しいか。

 

そんなところに与えられたこの機会、失敗の2文字は許されない。

 

俺は愛銃のストックを固く握りしめる。

と、ほぼ積み込みを終えたところにジャギィを連れた長野がやってきた。

 

「お前…」

 

「冗談だと思ったか?残念、本気なんだな俺は」

 

アーオッ!

 

鞍を載せたジャギィとニヤける長野を交互に見て俺は特大のため息をつく。

幹部に直談判して参加の許可をもらったという話は本当だったらしい。

ジャギィの胴から下がっているのは見慣れた重機、M2は本当にオールラウンダーだな…

 

「で、ジャギィ乗せるの?今から?」

 

「こいつの名前はチビに決まったんだ、呼んでやってくれよ」

 

「知らないところで勝手に決めやがって…いや、そいつの乗るところないぞ?」

 

輸送車には派遣組ひと月ぶんの物資が積載されておりジャギィの乗る隙間はない。

幌の上に括りつけるわけにもゆかず、もう一台輸送車を呼ぶか、そいつに乗っていくか、キドセンに乗せ…無理。

 

「佐島くん、そこ停めるからちょっと!」

 

背後から聞こえた前澤さんの声。

振り返るとまさに求めていた2台目の輸送車が…何故!?

幌の隙間から施設科の権田と何故かいるにゃん太の姿も見える。

 

「予備燃料用の輸送車をつけることになってな…急遽、私も参加することに…理由はまあ、言わずもがなだ」

 

「やぁ…僕ら、ハンター向けの任務に適任だと思われてるみたいだね」

 

「ボクも同行することになったのニャ!」

 

停まった輸送車に喜々として乗り込むジャギィ…チビ、一緒に乗り込む長野、煩そうにする権田…

そんな様子を眺めていると前澤さんに肩を叩かれた。

 

「一人の問題じゃない…私達みんなの、仲間の抱える共通の事柄じゃないか。失敗したいわけじゃないんだから、私達はベストを尽くす、それでいい。だろう?」

 

「…そう、だな、ですね」

 

「…あっその、ちょっとつらそうな顔してたから…違ったら…」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

確かに。

 

「そうだ、佐島!武から伝言と手紙預かってるぞ!頑張れってさ!」

 

仲間は。

 

「司令からも皆さんに激励の言葉を預かってますニャ!"気にするな!行ってこい!"ですニャ!」

 

多いほうが、いい。

 

「定刻だ!出発!」

 

 

踏み込んだアクセルは今までで一番、軽かった。

この道は、未来への道だ。

 




3章、区切りになります。
いよいよ4章、物語が動きます。
…予定です。

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