「お前の部屋に置いたらさぞかし浮くだろうよ」
「覚えとけよ」
駐屯地 西端 ドングリの巨木
半田陸士長
「どうぞ」
「ありがとニャ!」
玉のように丸く、ピカピカと茶色の光沢を放つ綺麗なドングリ。
それを受け取ったアイルーはぱあっと表情を明るくし、軽い足取りで居住区へと戻って行った。
「ふぅ…」
軽いため息をついて振り返るとそこには巨木、そしてトラック。
その荷台にはうず高く先ほどのドングリが積み上げられていた。
自衛隊所属のアイルーたちにはこのドングリ、この世界で"まんまるドングリ"と呼ばれる木の実で給与が支払われている。
アイルーたちの間ではこのような形の良いドングリが通貨や金券、貴重品のように扱われているということだが我々からすればやはりただの木の実、本当にこれでいいのだろうかという声が絶えない。
というのもトラックの脇に生えた巨木、ここから産地直送なのだ。
ドングリの巨木は約2週間のペースでこれでもかとまんまるドングリを実らせるために彼らの給与は実質無償なのである。
彼らの協力が始まってからと言うもの、手始めに各科の雑用のほとんどが彼らによって消滅し単純に人手が必要な仕事などは二分の一以下の労力に。
勤勉でよく気が付く彼らは地味に面倒な仕事というものを片っ端から片付けてくれた。
他にも活躍を上げればきりがなく、その土地勘から資源探査や水源確保に大きく貢献し、諜報騒動発生時には自衛隊の部隊運用を模倣したパトロール隊を自主結成し、現地住民との交流開始後には通訳、仲介などで大いに貢献してくれた。
彼ら無しでは生き残れなかった、と言うのも過言ではない。むしろ彼ら無しで何とかなったという方が過言だ。
で、あるからして…
「それでいいのか!?」
存分に誇っていいことであるはずのそれを彼らは『ジエイタイの皆さんのお手柄だニャ!』『またしても自衛隊の勝利なのニャ!』と飛び跳ねて喜ぶもんだからなかなかに複雑な気持ちになる。
そこで彼らが自衛隊と協力体制を結ぶ際に唱えた言葉を思い出してみる。
『ボクたちはみんなジエイタイのオトモになるのニャ!』
当時オトモとはどういうことか考えているものは誰もおらず、この世界の文化なのだろうと彼らの自主性に任せて軽んじられていた。
しかしオトモ、この場合のオトモアイルーとは本来ハンター志望のアイルーたちが研修のために契約を結ぶというものでギルドの法に則るならばアイルーと人間の立場は同じでなければならないのだ。
ではこの雇用関係はどうだろう。
…まあ、圧倒的にこちらに有利だ。
ハンター見習いのオトモアイルーたちにも『討伐したモンスター素材の優先権は雇用主のハンターにある』『依頼報酬の取得権は雇用主のハンターにある』等あるらしいが『人間とネコ獣人』ではなく『ハンターとハンター見習い』という同じ土俵の上の条件である。
そこで我々はアイルーたちを自衛隊アイルー科所属の隊員として管理することで立場の統合を狙っているのだがこれがあまり進んでいない。
「あの〜」
「おッ!」
不意に肩をつんつんされてびっくりして振り返るとそこには"司令のオトモ"を自称し実際アイルーたちをある程度纏めている本人のにゃん太が立っていた。
「アイルー統合計画についての意見書をまとめてきたのニャ、目を通してほしいのニャ」
「ああ、ありがとう」
「計画自体に対しては肯定意見が多かったのニャ。でも体制変更についてはあまり…いや、正直に言うニャ。反対意見が多かったニャ」
彼の手から資料を受け取ると確かに反対意見のほうが多い。
それぞれの意見書には全て統合には賛成/嬉しいとの枕が書かれているが後に続くは内容への反対意見。
それが大きく分けると3種類あり、
給与をドングリからゼニーに切り替えるのは反対、という意見。
これ以上の生活向上は望んでいないのでリソースを他に使ってくれという意見。
扱いを迷うくらいならこき使ってくれという…意見?
「ドングリから切り替えたら今の自衛隊に安定して払えるのか不安、自分たちのために無理をさせるのは良くないので反対する、という意図のようですニャ」
「…だいぶ突っ込んでくるね」
確かに入手の目処が立ったとはいえまだ通貨を安定して手に入れるのは難しい。交易によって少量は定期的に得ることができているのだが…
「…お金をもらっても使うものがないのニャ。ここで買えるもの、買いたいものは自衛隊の皆さんの信頼だけですニャ」
敬礼しながらそう述べるにゃん太。
そんな彼に僕も敬礼を返す。
…全く、頼りになるね君たちは。
ドングリの木にはまだまだお世話になりそうだ。
「そういえば交易品の中身を司令に聞いていなかったのニャ」
「ああ、あれドングリ」
「ええ…」
…ドングリの木にはまだまだお世話になりそうだ。
あんたら、実はアイルーなんじゃないか?
〜民間ハンターの言葉〜
アイルーたち
恩義と尊敬と仲間意識で運命共同体。
どんぐり1つで命を散らす覚悟でいる。
…が自衛隊は彼らがそこまでの覚悟であることを知らない。
曰く、"お供"。
アイルーたち(自衛隊視点)
どんぐり1つ未満で雑用、労働、献身し尽くす勤勉すぎる猫たち。
転移初期からの仲間であり、共助の観念から最も尊重すべき相手。
受ける恩義と尊敬が大きすぎて報いてあげなければと焦りが来る。
曰く、"お共"。