「俺が売ったのはな、恩だよ。大口購入のお返しだ」
駐屯地西部 仮設農場
細田二等陸士
「よし、10分休憩!水飲めよ!」
「ふぃ〜…」
だいぶ広がってきた仮設農場、腰を下ろして見渡せば本当にこの世界で暮らすのだなと思う。もう何度目だろうか。
今では朝から汗を流すのは国の為でなく明日自分たちが食う飯のため。
ライフルを振り回してタコだらけになっていた手が鍬の柄へと順応するのはまだまだ先だ。
「手遅れにならなくてよかったな」
自分は新たな主食となったナンをかじりながらしみじみと思う。
味つけも何もない、素材そのままの素朴な味だがなかなかクセになるし栄養価も高い。
これを数百単位注文された商人が目を丸くしていたのはひと月前の話、無事に供給が始まって食いっ逸れることは無くなった。
それまでお世話になっていた野外炊具1号2号と災害派遣用の非常用食品はもうほぼ底をついている。いやはや、本当に助かった。
さらに農業計画が本格的な成果を上げたことで今では食料備蓄が逆に増えていっているぐらいだ。
アイルーたちの狩猟部隊が採ってきてくれた魚や木の実もあわせて簡単な定食くらいならもう自己供給できるようになっている。
そう、主食となる穀物までも自給成功している。
それを使って需品科がさっき食べたナンと同じものを作ることにも成功している。
こんな短期間でそのような芸当ができのは新たに持ち込まれた作物の功績によるところが大きい…というか100%そう。
「…バケモンだよな」
イネ科のような細長い葉の間から沢山の実を内包した穂が突き出たそれ、見た目通り麦ではあるのだが普通の麦ではない。
商人から100粒4000z(高いのか安いのかわからんが軽食のドーナツが50z、ギルドの定食が一食200z程度で食べられるそうなのでたぶん高い)で譲り受けたというこの『ワンパク小麦』と呼ばれるらしいイネ科穀物は区画分けされた農場を埋め尽くすほどの勢いで増殖していた。
この麦、分蘖頻度が半端ないようでどんどん増える。増えるわ増える。
最初に株間をだいぶ離して植えたはずがミッチミチに詰まっていて足の踏み場がない。
他の区画ではチラホラ見かける雑草もその生命力に駆逐されてしまったようで一本も(表面からは)見ることができない。
その上成長がすこぶる早く、植えて2ヶ月ほどなのにもう収穫が終わって次の作付けが始まっている。トウモロコシの約2倍のサイクル。やっぱりバケモンだ。
それでいて実がスッカスカとかそういうことは無く、主食に耐えうる品質と量を兼ね備えているのだからスーパー作物である。これを日本に持ち込めば自給率がかなり改善するんじゃなかろうか。
ブロロ…ガラガラ…
と、荷台にどんぐりを満載したトラックがいくつか
足元に転がってきた一つを拾い上げてボールのように抱えてみる。重い。
当然だがちゃんと中身の詰まった木の実だ。スカスカの空っぽじゃない。
…こんなのを週1ペースで山ほど実らせる木があるんだからスーパー麦があっても不思議じゃないけどやっぱり感覚は狂うよね。
一回目の収穫の時に幹部が感動とかじゃなくて困惑してたのを覚えてる。
毎度お世話になっている化学科の隊員からはテロメアがどうだとか分裂周期がどうだとか細胞核の構造が特殊だとかの話を聞いたが、要は非常に成長速度が速い種類なんだそうだ。
この世界の肥沃すぎる土壌の影響もあるようだが遺伝子レベルの違い、根本的に現代の地球の植物とは違うということらしい。
理解できない話ではない、確かに恐竜がいた頃の地球にもとても早く成長する植物がごまんといたという話は知っている。
生物の存続に必要な栄養を賄っていたのはいつでも生産者である植物、この時だって植物。無数に存在する巨大生物の需要を満たせるよう(正確にはたくさん食べられても自分たちが子孫を残せるように)植物はものすごい勢いで茂っていたのだろう。
木を押し倒して丸ごと食べる恐竜もいたし、一週間で成木になるシダの大木もいた。そういうことだ。
モンスターが無数に存在するこの世界ではこの生き生きとした自然が世界を支えているのだろう。
「休憩終わり、作業再開だ!」
そして、今後は自衛隊の食糧事情を支えてもらうとしよう。
…あとは、そうだな。
種モミを売ってくれた商人にも感謝。
「隣の区画に麦が侵入してるじゃないか」
「今週で何度目だよ、勘弁してくれ」
「もうどっちが雑草かわからんぞ…」
「麦テロやめろ」
…うん、感謝。
モンハン不思議作物シリーズその2。
本編では実際に採取できるポイントが少ない感じですが雑草マシマシの劣悪環境で群生を作るほどに力強いワンパク麦、環境を整えてやれば爆発すると思います。
現実にこんな穀物があれば…