「思えば剣を握れなくなる」
大森林 作戦地点より1km
ダガーリーダー
《ダガー2より
「了解、目標へ接近し索敵せよ。オーバー」
《了解、発見次第報告する。アウト》
さて、始まってしまったか。
減音機付きの小銃を構えて深呼吸する。作戦中は名前も役職もない、今の俺はただのダガー1だ。
「今ごろ連中は
「行きたかったのか」
「いや、撃つのが鹿でいいなってな」
「この殺しに意味なんかないさ。あるのは結果と思惑だけだ。俺達はこれから仕事をする。それだけ…やるぞ、仕事を」
「了解」
8人で構成されたダガー隊は正面から攻める4人と偵察と狙撃を行う2人、別方向から火力支援を行う2人に分かれている。ダガー1こと俺は正面から突入する役回り。ダガー2は狙撃担当。
彼の持つ対物ライフルはもちろん対人用である。
「保護対象は商人3人、うちアイルーが1人。内部に監禁されている。突入後は速やかに捜索し確保するぞ」
だがこの作戦のメインは行方不明になった商隊メンバーの保護だ。彼らに危害があってはいけない。そうなる前に敵を排除したいが…
《こちらダガー2、目標と思われる建造物を発見した。木造の平屋、出入り口が2つ。外側に2人、内部には少なくとも5人。窓から確認した。オーバー》
《ダガー7は配置についた。前進し機関銃を設置する。オーバー》
「了解。…一気にやる。何か動きがあれば報告せよ。アウト」
少なくとも7人か。
あの大層な装備を持った敵が、7人以上か…
基地を訪れるハンターたちが纏う装備はゆうに100キロを超え、軽々と振るう大剣も推定150キロ以上。合金製の"わかりやすい"ものでこの性能、モンスターの素材を用いた装備に至っては推測不能。ジャギィやランポスならサンプルがあるが、それ以外はわからない。
そんな相手が、7人。
気を抜けば一刀両断されてしまう。
しかし躊躇していては保護対象を殺されかねない。
ギルドナイトから聞いた事前情報では密猟者ならば迷わず人質の殺害を選ぶということだ。それは絶対に避けねばならない。
だから一気にやる。外の敵を狙撃で排除し、すぐさま突入し制圧、迅速に保護対象を確保。敵は全て排除。
付近に潜在的な敵対勢力を居座らせるメリットはない。
「敵の防御力が不明だ。頭部や関節を狙って動作を妨害し仕留めろ。LAMの使用も視野に入れる。何があっても敵を近づかせてはならない」
「了解」
「また、ボウガンを警戒しカバーは忘れるな。重ねて言うが敵装備の詳しい性能が不明だ」
「…了解」
不安だらけだが、やるしかない。取引と安全のためだ。
「作戦行動を開始する」
◆ ◆ ◆
『前の狩りはシケてたな』
『この頃はどうにも不景気だ…』
『仲間ももっと必要だな』
『ああ』
外にいる二人の会話を収音マイクで聞く。真面目に警備をしているわけではないらしい。我々にとってはありがたいことだ。
そして悪いが真っ先に消えてもらう。
片方は金属製の装備を纏って大剣を背負い、もう片方は赤紫色のモンスター革を使用した鎧を着ている。柄から見ておそらくジャギィのものだろう。
ジャギィの革は小銃でも抜けるからいいとして問題は金属鎧。
地球の同レベルの金属鎧ならば小銃弾でも簡単に貫通できたが彼らはハンターと同等の装備を纏う密猟者、ある程度厚みがあるとするなら小銃で立ち向かうのは厳しい。
《ダガー2、いつでも撃てる》
故の狙撃。対物ライフルの対人使用。
12.7mmの貫通力で打破可能か否かを見定めさせてもらう。
ただ、仕留められないと厄介なため狙うのはもちろん急所だ。
「了解、有効打にならなかった場合は突入する。オーバー」
《3カウントで撃つ。3…2…》
刹那、一筋の光条が走る。
ズダァン!
バカンッ!
12.7mmの弾丸は敵の頭部にまっすぐ突き刺さりスイカのようにカチ割るとそのまま地面に穴を作る。頭部を守っていた兜もひしゃげて弾け飛ぶ。
ばら撒かれた脳髄の中に倒れ込む亡骸を見たもう1人が呆気にとられて硬直するが、その隙を逃す筈なく再び銃弾が飛ぶ。
ズダァン!
バシュッ!
今度は胸に命中し、胴体に開いた特大の破孔からこぼれ落ちた内臓が草の上に転がった。吹き出す鮮血は仕留めた証。俺はハンドサインで突入を指示する。
窓を避けて死角から入り口付近へ。内部から接近する足音に姿勢を低くしてカバーする。小屋の入り口がある面の側面に張り付いた我々はこれから外に出てくる者たちには見えなくなるはずだ。
『何だこの音は!』
『ボウガンか?』
勢いよく開いた扉から飛び出したのは2人、黄土色の装備と板金をつなぎ合わせたような装備、どちらも詳細不明。位置関係から狙撃は行えないが、ダガー7率いる機関銃隊の射角には入っている。
《射撃開始!》
ドガガガガガガッ!
『伏せろッ!あがっ!』
『おいマイク!うわっ…バッ!』
こちらの準最大火力であるM2機関銃の射撃をまともに受けて密猟者たちは地に伏す。何発かが装備に防がれたように見えたが耐えきれずに弾け飛び、人体を捉えた弾丸が奴らの命を刈り取った。
もう一人の防具も破壊して殺傷。12.7mmの威力があれば問題ないようだ。
だが今手元にあるのは7.62mmのライフル、これで同じことはできない。
「…!」
内部からの圧を感じた俺は咄嗟に距離を取る。
『そこにいるな!』
ドガッ!
小屋の壁が吹き飛んで密猟者が現れた。数は3人。壁から離れていなければ吹き飛ばされていただろう。
気づかれた原因は足音か、無線を聞かれたか。今考えている暇はない。
「撃て!」
タタタタタンッ!
ズダダッ!
『!』
前方の1人はこちらが
素材片や金属で強化されているそれを貫くのはライフル弾では難しく盾に当たったものは全て有効打にならない。しかしモンスターと闘うことを考慮された小盾は全身を覆いきれるものではなく、手足や頭部に数発が命中。
昏倒させるには至らなかったものの足止めとなる。
『ぐっ…!?』
「フラグアウト!」
そこへ投げ込まれる複数のグレネード。
起爆までの時間を短く改造したそれは奴らの足元に転がるやすかさず破裂。
『いかん、離れうあっ!』
『があああっ!』
乾いた破裂音と土煙を伴う透明な爆炎が加害範囲内にいた者へと襲い掛かり、衝撃と破片で体をめちゃくちゃに引き裂く。
倒木を盾に隠れた我々には被害がないが後方の木の幹には一つ一つが殺意を持つ破片が大量に突き刺さっていた。それが最も激しい場所にいた者がどうなるかと言えば…
『腕が!あ、足も…おぇ…う…』
『うっ…く、あ…ああっ』
地面に咲く2輪のどす黒い花。俺達は死を待つだけのそれらを踏み越え、破損した壁からの突入を試みる。と、奥の部屋へと逃げていたらしい1人が壁のカゲから顔を出し…その得物を見た全員の表情が固まる。
「カバー!」
『食らえ!』
ダン!
12.7mmとも7.62mmとも違う銃声。
弾丸はこちらを逸れて先程まで掩体としていた倒木に突き刺さりその繊維を裂く。
詳しい威力は分からないがあれは貰いたくない。
俺は部屋の真ん中にあったボロボロのテーブルを押し倒して視界を遮り、仲間はその隙に近くの掩体となる物の後ろに隠れて反撃の機会を窺う。
ダン!ダン!ダン!
テーブルが真っ二つに割れ、ドアと壁に穴が開く。
ズダダッ!
タタンッ!
奥の部屋のドアに無数の風穴が開く。
ダン!
仲間の隠れている場所のすぐ近くに弾丸が霞める。と、敵の動きが止まった。
ズダダダッ!
タタタンッ!
これを好機と敵が隠れているあたりの壁を集中的に狙い穴だらけにする。反撃はない。
しばらく様子を伺い、俺は奥の部屋の床に赤いものが広がったのを見て突入し…
ダン!
「ぐはっ!」
響いた銃声、焼けるような胸の痛み。やられた。
タタンッ!
『ブゴッ…』
仲間がすでに満身創痍だった敵を始末するが、俺は痛みで動けない。見ると弾はプレートで止まっているようだがこの痛みは何本か骨が折れているようだ。
「ダガー1が撃たれた!」
バタン!
ダガー3に引きずられながら痛みに耐えていると部屋の奥の扉が爆発したように開いた。
そこにいたのはもちろん敵、追い打ちをかけるべく走り寄ってきた。
『うおおお!』
長剣を振り上げている。まずい、この距離では…
ズダァン!
ドバシュッ!
と、窓から飛び込んだ対物ライフルの狙撃でそいつは壁に縫い付けられた。
ズダァン!
バシュッ!
とどめの二発目が飛び込み頭部を破壊。力の抜けた手から長剣が滑り落ちカタカタと音を立てる。
《…これはさすがに貸しだな》
「…ありがとう」
今のはさすがに肝が冷えた。
優秀な
しかし今ので8人目、外から見えたものは全員排除している計算になる。先ほどまで感じていた押し殺したような空気や息を潜める感覚といったものもなくなっており、敵は全員排除したのではないかと思えてきた。
だが事前の目標はまだ満たしていない。作戦は続く。
「B室、発見できず」
「A室も目ぼしいものはない」
「C室、何もなし」
痛みを押して戦列に復帰した俺と仲間たちは小屋の内部を虱潰しに探し回る。
やはり敵は全員仕留めたと言ってよさそうだが攫われた商人たちとアイルーがどこを探しても見つからない。アイルーが牽くサイズの荷車と彼らの着ていたであろう服は見つかったが…
まさかハンターが寄越した情報は嘘だったというのか。
「地下室の類もなし…」
「情報では人の出入りは無かったらしいが」
「既に殺された後…か?」
ふと、長剣で切りかかってきた密猟者の死体を見て、気がついた。
気がついてしまった。
一つだけ…最悪の可能性があったことに。
「攫われた商人たちが密猟者の側についていたとしたら、どうする」
口にしてしまって怖ろしくなる。
だが可能性としてあり得る。仲間たちは互いに顔を見合わせると回収した商人たちの私物らしき品々を漁り、俺は死体から身元の分かるものを探す。
すると、驚くほどすんなりとそれは見つかった。
「…通商許可証、そう書いてある」
血にまみれた紙切れは持ち主が行商を行う身であることを表している。
これが意味するところはやはり…
「………」
「………」
「最悪だよ…」
最悪だ。本当に。
やりきれない気分とぐちゃぐちゃの気持ちで何も言えない。
この戦いはいったい何だったのか。
「戦闘データは…取れたさ…」
ダガー4が絞り出すように言った言葉で多少は気が楽になる。本当に多少だが。
で、助けるべきものがもういないのならばあとは戦後処理をして終わりだ。
この場から早く立ち去りたい気持ちが大きくなっているがこればかりは手を抜けない。
「薬莢類は残さず回収、敵装備は片っ端から鹵獲だ。特にボウガンは丁重に扱え」
装備を脱がした死体を専用のバッグに詰めて輸送車に乗せ、損壊の激しいものは集めて掘った穴に埋める。
俺達は敵を撃った、そのはずだった。事実上この場には敵しかいなかった。それなのに。
「畜生…」
この依頼を押し付けたギルドはここまでの情報を知っていたのだろうか。
知っている方がおかしいまである。敵対勢力に攫われた人質の動向を詳細に知れるはずがない。
だがもし知っているとすれば…
「真っ黒だよ」
俺達が身に纏う、漆黒の戦闘服のように。
「そういえば、アイルーの姿が見えなかったが…」
確かに、商隊メンバーは人間2人とアイルー1人の計3人だという話だった。
アイルーが牽くサイズの荷車もあったことだし、確実に存在は…
「…まずいぞ!」
小屋の外に置かれていたはずの荷車が無くなっている。
まさかこれは。
「ダガー2!ダガー7!周囲に不審物は無いか!」
《こちらダガー2!小屋の死角でよく見えない!オーバー!》
「では3時方向には無いか!」
《…!逃走中の荷車を発見!アイルーが牽いている!》
「撃て!止めてくれ!」
《いいのか!?》
「撃ってくれ!」
《…ッ撃つぞ!》
ズダァン!
ひときわ大きな銃声。
《…仕留めた》
本当に最悪だ。
◆ ◆ ◆
その後、戦後処理と言う名の証拠隠滅を終えて輸送車に乗り込むまでには2時間が経っていた。
「アイルーは見つからなかったな」
「確かに手ごたえがあったんだが…」
2時間のうち半分はダガー2が狙撃したはずのアイルーを探す時間だった。
だが血痕や肉片こそあれど本体はどこにもおらず、謎だけが残る結果となる。
しかし十中八九、"何者か"に回収されたのだと皆考えた。
「本当に、本当に最悪だ」
俺は心なしか強くアクセルを踏む。
こんな場所にこれ以上長居したくない。
4号車の"エンジントラブル"はこうして終わりを迎えた。
商隊救出作戦
主要交戦戦力 密猟者
自衛隊
特戦群8名
SCAR-H 8
M2重機関銃1
M82A1M 1
敵勢力
密猟者9名
うちアイルー1名
自衛隊損害
負傷者1名
敵損害
死亡8名
不明者1名
鹵獲
盾 3
片手剣 2
ボウガン1
鎧 2
作戦目標未達成
胸糞回。