自衛隊inモンハン 異空の守り人   作:APHE

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「この頻度で群れの移動が見られるのは異常だ」

「待て、この進路は…」


7話 都にて

ドンドルマ ハンターズギルド執務室

マレッタ

 

 

青い空のはるか向こうに翼竜が羽ばたく穏やかな昼下り。

大陸最大の都市を照らす心地よい晴れの日はこの執務室にも差し込んでいる。

しかし…

 

「ぬぅ…」

 

私、マレッタは意気消沈していた。

理由は単純、とびきり面倒な仕事を回されたのだ。

それがなければ仕事を早めに切り上げて麓の店で甘味を楽しもうと思っていたのだが、それがもはや叶わないことが確定してしまった。

 

「ジエイタイか」

 

半年ほど前に発見された新たな里、およびその周辺を拠点とする勢力である"ジエイタイ"。

それらに関わる話は突飛なものが多く、ギルド内にはその存在を疑うものもいるほどであるが多くの幹部から腫れ物のように扱われ名前を聞けば顔をしかめるような事実から実際に存在する勢力であることは確かだ。

周辺を交易路とする商人との取引や民間ハンターとの交流もわずかながら存在しているらしく、ギルド所属のハンターの間でも噂程度に扱われている。

 

しかし私が彼らに関して知ることは少ない。

机にうず高く積まれた報告資料の写しには正常に読むことが難しいほどの黒塗りが施され、辛うじて得られたのは彼らが異界から現れた存在であること、現地民との交流があること、高度な技術を持つことくらいだ。

中にはまるごと黒く塗りつぶされたものもあった。廃棄でいいだろうそんなもの。なぜ私に寄越した?

 

そんな感じで無修正のものを探す方が難しく、全く無事なのは彼らに従事したアイルーのスケッチだけだった。

他のスケッチも文章と比べれば修正の無い割合が高かったが依然として真っ黒になっていたものも多くそこから得られる情報は限られる。

それなりの権限を持つと自覚していた私にもこの仕打ち、この件が非常に機密性の高い案件であることは分かった。

 

「…これでなぜ対策できると思ったのだ」

 

私に任された仕事とは一週間後にここドンドルマを訪れる共同調査隊の、具体的にはその中のジエイタイへの対応。

彼らが要求しそうな物品や交流の場を用意せよ…と言われたのだがこんなに情報が少なくては何もできないではないか!

黒塗りの資料を乱暴に叩きつけ、一旦頭の中を整理する。

 

そもそもこの共同調査隊とは行き違いから発生した不信をお互いに拭うため、またイズチが本来の生息域を大きく離れて現れた原因を調べるためにと()()()()()()結成された部隊。

元筆頭ハンターと優秀なギルドナイトで構成された彼らの判断は尊重され、ギルド側からも補充要員と大量の物資を送り計画の推進を図っている。

しかし現地で結成された関係でこちら側があとから対応することになり、うっかり聞いた「まだ早い」という上司の言葉から現場はどうあれ上層部は時期尚早であると判断していることがわかった。

その上で決められた対応要員、それに渡された資料がこれとはつまり何もするなと言われているようなものだ。

正確には()()()()()()何もするな、といったところか。

 

「そこまでの存在なのか?」

 

私にはどうも、ギルド上層部がジエイタイを恐れているように思える。

権限があるとはいえ私とてただの書記、古龍や飛行船の動向についての詳しい情報は掴むことができない立場にいる。だが裏返せばそれ以外の情報は余程のことがなければ観覧が許されているのだ。

つまりこの件は古龍クラス、またはそれ以上の危険があると判断されていることになる。

黒塗りの中の情報は世界を揺るがすほどのものだと言うのか。

 

…単にギルドの慎重気質が情報の開放を遅らせているだけなのかもしれないが。

私は前者に目が行った。

 

「ジエイタイ、気になるな」

 

乱雑に投げ捨てた資料を拾い直す。

来訪対応のことは最早どうでもいい。ギルドの食堂を借りてアイルーに対応させればなんとかなるはずだ。

単純に知的好奇心を刺激された私はジエイタイを調べあげることに決めた。

 

そうと決まれば行動は早い。

私は棚にしまっていた未処理の書類の束を取り出し整理する。

ジエイタイについて書かれた資料は上から受け取ったものだけではない。私には心当たりがあった。

黒塗りを免れていたアイルーのスケッチ、それと同じ画風をとある里の偵察情報として受け取った資料の中に見たことがあるのだ。

まだジエイタイという名前が知れ渡るより前に個人的に受け取ったものなので検閲はない。見立てが正しければ知りたかった情報が手に入るはずだ…

 

「…あった!」

 

少々濡れ跡のあるそれには黒塗り資料と同じ画風のスケッチが多数描かれている。これで間違いない。

これが私のもとに届いたのはひと月ほど前、まだ私がジエイタイを噂程度にしか思っていなかった頃。後で見ればいいかとしまい込んだまま忘れてしまっていたが、スケッチの画風で存在を思い出すことになった。

わざわざ送ってくれた調査員には悪いことをしたな。今から読んでやるぞ。

 

「う~む」

 

にしても、どのスケッチもよく描かれている。描いたものは絵の心得があるな。

細かく書き込まれた…何だろう、これは機械か?表面を滑らかな板に覆われたそれからは細長い棒が飛び出し、その先に四角い部品が6つくっついている。周囲には効果線が描かれ、この部分が何かを発しているような感じだ。

縮尺を明らかにするため描き加えられたと思わしきアイルーと比べるとこれがかなり大きな機械だと分かる。

添えられた説明には『照明』とあるが…私はこの照明が一定間隔で配置されているところを思い浮かべ…

 

「マレッタ、追加の資料だ。当日動かせる人手と資源について上から言及が…」

 

「うォっ!どどどどどどどうした!?」

 

いつの間にか部屋に入ってきていた顔馴染みのギルドメンバーに腰を抜かした。

かっ、鍵は閉めておいたハズでは…

 

「何をそんなに驚いているんだ…ほら、置いておくからしっかり目を通してくれ。普通に送ってもお前は気が向かない限り読まないからな、釘を刺しに来ただけだ」

 

上司から借りたらしい合鍵を揺らしながら述べるギルドメンバーに私は何も言い返せなかった。ジエイタイについて詳細に綴った素晴らしい資料のことをあろうことか忘れ、気が向くまで読もうとしなかった事実があるからだ…

 

「…ん?その資料は何だ?」

 

と、手元の資料を指差される。まずい、これを見られるわけにはいかないのだ。

 

「…これは私物のスケッチ集だ」

 

「いいじゃないか、見せてくれ」

 

「いやだ、なぜお前に見せねばならん」

 

「相変わらずケチ臭いな…」

 

なんでもないふうを装い、単純に拒否することで誤魔化すとギルドメンバーは帰って行った。渡した資料をしっかり読めともう一度釘を刺してから。

…だが、その言葉には従えない。私は気が向かない限り読まないからな。

今はとにかくギルドが隠したがっている何かが何なのか、それが気になってしょうがないのだ。

 

「ジエイタイ、面白いな」

 

私の探求が始まった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「マレッタくんはちゃんと仕事をしてくれそうかい?」

 

執務室から離れた廊下。

威厳のある様式の制服を纏った男が腕を組んで部下と話している。

 

「いーや、あの様子じゃ本来の仕事はしてくれそうにないな…ないですね」

 

「かしこまらなくてもいい、もともと正規の仕事じゃないしな。ギルドナイトもとんだ厄介ごとを持ち込んでくれたものだよ」

 

ジエイタイと呼ばれる者たち、彼らが大森林で発見された当初はここまで話が大きくなるなど誰も思っていなかった。

 

「この段階での民間への周知はいささか早すぎる気がするんだが」

 

「確かに、もっと段階を踏みたかったというのが大方の意見だが交流が始まってしまった以上足踏みもできんのさ」

 

ギルドは彼らの里にまつわることを厄介な案件だと認め、慎重に対応しようとしていた。

しかしどこからか噂を聞きつけた民間のハンターや商人たちが交流を始めたことでギルド側も早急な対応を迫られたのである。

 

「いくつかの商人グループが既に交易を始めているらしいな。まったく、ハナがきく連中だよ」

 

おかげで彼らの警戒もある程度解かれて接しやすくなっているとのことだが。難しいところだ。

 

「彼らの主な商品はドングリだと聞いている」

 

「彼らがアイルーなんじゃないか、なんて噂も立ってるみたいだね」

 

彼らの正体については調査任務に就いたギルドナイトが掴んで…いや、彼ら自身から明かされている。荒唐無稽でとても信じがたいものだが。

この件は彼らの言葉をいったん信じてことを運ぼうとする者たちとそうでない者たちとで揺れている。

もちろん、今後彼らをどうすべきか、どのようなかかわりを持つべきかについても議論が重ねられている最中であり…

 

「マレッタくんや君はひとまずこちら側にいてもらいたい人物だ」

 

「…多くは言いませんがね、俺だって強硬手段は嫌ですよ」

 

「もちろん私もそうだ。が、そう思っていない連中が一定数居るのも確かでな…」

 

一連の出来事で彼らの行動や存在によくない感情を覚えている者もいる。

そういう奴らは挙って勢力を作り、密偵やギルドナイトを使って動向を詳しく探っているようだ。

彼らの出自の怪しさやジャギィの巣を掃討した武力のことを思えばそうなるのも無理はないが、この段階で話し合いを諦めてしまうのは愚策ではないか。

 

現に彼らは衝突を恐れて話し合いの機会を求め、自らの目的や正体を明かしている。執拗に警戒すべき相手ではないはずだ。

 

「穏健派の一端として、彼らとは仲良くしておきたいぜ」

 

「ええ。それに、彼らと我々の問題だけではないんだ。きっとこの出来事は今後のギルドの行く末も決めることになる」

 

この件をめぐる様々な言及はギルド内の強硬派と穏健派、その勢力闘争がジエイタイへの対応と言う形で現れたものだ。これを最終的に制したものが今後実権を握るかもしれない。

 

「飛行船墜落の件もあるっていうのに、俺達は仲間割れか…」

 

「そのことはあんまり口に出すものではないよ」

 

「ああ、こりゃ失敬」

 

「…何かの脅威が迫るやもしれない今、皆で協力すべきというのは全面的に同意するけどね」

 

男は窓の外側を覗く。

要塞としての機能も持つこの都市に近づく災いは古の龍か、はたまた…

 

 




ギルド内部は一枚岩ではありません…
それぞれが動き出しています。
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