《引き続き発光信号を送れ》
駐屯地 情報科オフィス
半田陸士長
「これは?」
「ジャギィ!」
「これは?」
「ランポス!」
隊員が差し出した革を見てその持ち主の名前を答えるネコ…アイルー。
ここ情報科では彼らの言語と知識を司令から直々の指示により急ピッチで解析中である。
現行の作業を中止してでもという指示に不満を持った隊員もいたがこの案件の大きさを見れば何が何でも最優先にというのもわかる。
「ウニャ!」
彼らには本当に驚かされる。
理解力と応用力が非常に高く、例えばホワイトボードの使い方を教えたところ瞬時に理解して活用しながら言葉の説明を始めたのだ。
今は何か大きな生き物の絵を描いている。
「アイルーか…」
僕、半田虎徹(はんだこてつ)は傍らのデスクを見る。
普段PCが並んでいる場所には代わりに大量の巨大ドングリが並んでいた。
ドングリの表面には壁画のように絵が描かれている。
どうやら順番があるらしくアイルーたち本人に並べ直してもらったところ絵が繋がって1つの物語になった。
その内容は『青』改め『ランポス』と『赤』改め『ジャギィ』に襲われているアイルー達を自衛隊が助けるというもの。
場面と絵柄から見て最初のランポスの襲撃や先日起こったジャギィの大規模襲撃の事だろうか。
そういえば『青』…ランポスの襲撃の前に目撃された歩くネコ。
あれは彼らの仲間のアイルーだったのだろう。
ランポスに追われて逃げた先に僕達がいたので助かった、と。
僕達はいつの間にか思いがけず彼らを救っていたらしい。
そして外の世界に打って出る機会を狙っていた僕達とは逆に彼らはこちらに接触する機会をずっと伺っていたようだ。
それにしても、言葉が通じないことを見越して絵を描いて持ってくるとは。
しかし意外だったのはこの世界にも『人間』がいるらしいということだ。
これはかなり重要な情報だ。
本当ならば僕達のこれからの動きはかなり変わってくる。
話によれば彼らの住処に訪れて交流や交易をする者もいるらしく、この世界の人間たちとアイルーは長らく共存関係にあるそうだ。
その文明レベルについては未知数だが、少なくともアイルーたちと同程度かそれ以上に強力な戦力を有していることは間違いない。
…と色々言ってはみたが6割以上推論である。
話の雰囲気や手振り、絵での会話である程度の相互理解は進んだもののいまだ根幹となる彼らの言語の理解に至っていない。
そのためお互いに伝えられる情報とコミュニケーションに限界があるのだ。
現在アイルーたちの協力のもと全力で解析中の言語、呼称『ネコ語』だが、最初にこちらに話しかけたときにもこの言語は使われていた。
彼らのことだから、それはこちらにその言語が通じる可能性があると踏んで使用されたはず。
つまりアイルーたちの話す言語がこの世界の人間にも通じることは想像に易い。
ひとまず、この世界の人間と接触するというのはまだ時期尚早だろう。情報が少なすぎる。
どこからの支援も見込めないようなこの状況で敵対しようものならきっとお互いろくでもないことになる。最悪、行き着く先は死だ。
万が一現地人の方から出向いてきたとしたら…アイルーたちに仲介を頼むしかない。
僕はどうしてここまで悩まなければならないのだろうかとぼやきながらこの事を報告書に記した。
「にゃ!」
水性ペンを握ったアイルーに袖をくいくいと引っ張られた。
どうやらあの絵が完成したようだ。
「どれどれ…んん!?」
ホワイトボード一面を使って描かれた巨大生物は翼を持ち、炎を吐いている。これはまるで…
「ドラゴンだ…」
隣に描かれているランポスと大きさを比べると(縮尺があっていればだが)かなりのサイズだ。
ジャギィのリーダー個体を見て大きいぞと焦っていた僕達には笑い事ではない。
唖然とする僕達をよそに、その絵を書いたアイルーが誇らしげにこう言った。
「リオレウス!」
その日を境に駐屯地の対空警戒は5倍になった。
不定期更新。