【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第6話(2)ランクとかそういうのじゃないから

「あ、し、失礼しました……」

 

 俺は頭を下げる。メラヌが尋ねる。

 

「間に合っているということは既に?」

 

「うむ、我が領内の別の町にいる神官や僧侶、また親交関係にある他の領主たちが召喚した転生者のパーティーがちょうど昨晩こちらに到着したのだ」

 

「転生者のパーティー?」

 

 俺は顔を上げる。そんなことがあり得るのか? 領主が側に控える少年に尋ねる。

 

「彼らは今どこか?」

 

「セントラ様と一の客間で歓談中でございます」

 

 少年は淀みなく答える。

 

「そうか、こちらに呼んで参れ」

 

「かしこまりました」

 

 少年が一礼し、応接の間を出る。程なくして、五人の若き男女と一人の老人が応接の間にやってきた。並ぶ場所を変えた俺たちとちょうど向かい合うような形になる。

 

「セントラ、こちらへ」

 

「はっ……」

 

 セントラと呼ばれた禿頭の老人が領主の下へ歩み寄り、何やら小声でやりとりを交わす。やりとりを終えた後、セントラは軽く一礼して、領主の側から離れる。領主は頷いた後、俺たちの方を申し訳なさそうな表情で見つめ、こう告げてくる。

 

「……メラヌ、申し訳ないがそなたらを援助することは出来ない」

 

「……大方の察しはつきますが、せめて理由をお聞かせ下さい」

 

 メラヌの淡々とした問いに対し、領主はあご鬚をさすりながら答える。

 

「ふむ、説明が無ければ納得出来ぬだろう……理由は二つ。一つは外交的理由だ」

 

「外交的理由?」

 

「先程も申したように、こちらのパーティーの中には他の領主たちが召喚した転生者もいる。そこを我が方から半ば無理を言って、貸し出してもらっているような形なのだ」

 

「借りたということですか、何故に?」

 

「転生者一人でも十分強力ではあるが、パーティーを組ませた方がより強力になるだろう……と、こちらのセントラから提案があってな」

 

「成程……」

 

 メラヌは視線を向けるとセントラは軽く頭を下げた。

 

「ここでやはり他のパーティーを援助するとなると、我らを信用してくれた他の領主たちとの関係がまずくなる恐れがある」

 

「戦力は多いに越したことはありません。双方を援助してもらうわけには?」

 

「そこでもう一つの理由、財政的な理由だ」

 

「財政的理由ですか……」

 

 領主は俯き加減に話す。

 

「見事、魔王討伐を成し遂げた暁には、ただその労をねぎらうだけではなく、それなりの褒美を取らせなければならない。世間体もあるからな。しかし、あまり大きな声では言えぬが、我が方には二つのパーティーに同等の報奨金を支払う余裕はとても無い」

 

「そうですか……」

 

「これで納得してくれたか?」

 

 メラヌは少し間を空けて答える。

 

「領主様、こちらのショー=ローク殿は富も名声も欲してはおりません」

 

「⁉」

 

「なんと⁉ まことか?」

 

 メラヌは俺の方に振り返り、軽くウィンクしてくる。広い応接の間にいる全ての者の注目が俺に集まる。ここで俺の『良い恰好しい』スキルが発動する。俺は領主に告げる。

 

「領主様、たった今メラヌ殿が申したように、私たちは富も名声も欲しくはありません」

 

「私たちと言ったな、他の者もか?」

 

「ええ、例えばこちらのスティラは自分自身の見聞を広める為、私に同行してくれました。そうですよね、スティラ?」

 

「は、はい……山奥の集落出身の為、世間知らずなところが多々ありまして……」

 

「こちらのモンドは己の武芸の研鑽が何よりの目的です。ですよね、モンド?」

 

「全くもっておっしゃる通りでござる」

 

「アパネは一族の為、武勇伝を増やすのが目的です。ね、アパネ?」

 

「え? ま、まあ、そういうことにしておくかな……」

 

「最後にルドンナ、彼女はただ好奇心を満たすのが願いです。そうでしたよね?」

 

「ちょっと待ってよ。それじゃあアタシ、単なる奇人変人じゃない……」

 

「ルドンナ」

 

「はい、はい、そうです、まったく勇者様の仰せの通りでございます」

 

 ルドンナがやけくそ気味に頷く。俺は領主の方に向き直る。

 

「お聞きの通りです。私たちは富も名声も欲しません。ただ一つ望むのは……」

 

「望むのは?」

 

「今朝の戦闘で生じた被害に対する補償です。無論、我々に対してではなく、宿屋やホテル、市場の方々への損害補償です」

 

「なんと、それだけで良いと申すか!」

 

「ええ」

 

 俺はこれ以上ないほどの笑顔で頷く。ルドンナの軽い舌打ちが聞こえたが気にしない。

 

「これはこれは、想像以上の人格者……噂などまったく当てにはなりませんな」

 

 セントラが口を開く。どんな噂が流れていたんだろう? 聞かないでおこう。

 

「ご領主様、如何でしょうか? 彼らも討伐に向かってもらうというのは?」

 

「そなたがそれを言うのか?」

 

「ええ、正直私は胸を打たれました。なんと言っても彼らのお陰で、昨夜から今朝にかけての騒動でも死傷者を0に抑えることが出来ました。実力の程は疑いようがありません」

 

 領主は腕を組んで首を捻る。

 

「とは言っても、報奨金を全く出さぬという訳にはいかぬだろう……」

 

「地方全体の危機と一領地の財政危機、天秤にかけることでしょうか?」

 

「それもそうだな……よし分かった! 両方のパーティーを援助することにしよう。詳細についてはセントラ、そなたの方で決めておいてくれ」

 

「かしこまりました……」

 

 セントラが頭を下げる。領主は応接の間を出ていく。頭を上げたセントラが告げる。

 

「では場所を移しましょう。会議の間にご案内します」

 

 俺たちはセントラに続いて、会議の間と呼ばれる部屋に移動する。各自、思い思いの座席につき、セントラからの説明を受ける。

 

「こちらのローク殿たちには急な話となりますが、三日後に魔王討伐へ出発して頂きます。それまではこの城内でお過ごし下さい。必要なものなどあれば申し出て下さい」

 

「魔王の場所に見当がついているのですか?」

 

 俺の問いにセントラが頷く。

 

「この領内の南端に位置する古代神殿……そちらに魔族やそれに与する連中が集結しつつあるという報告を受けています。実際のところは不明ですが、恐らく魔王の完全復活までもはやそれほど猶予は残されていないと考えて宜しいかと……」

 

「そうですか……」

 

 セントラは説明を続ける。

 

「この都市の南に広がる広大な森を抜けた所に、古代神殿はあります。森などに出没する下級モンスターなどは我が方の兵が片付けます。言ってみれば道中の露払いですな。その後の神殿周辺や神殿にいるであろう上級魔族のお相手を皆様にお願いしたいのです。戦い方などは一任致します。それぞれのやり方があるでしょうからな……今日の所はお疲れでしょうから、顔合わせの挨拶などは明日以降としましょう。甚だ簡単ではありますが、説明は以上とさせて頂きます」

 

 その後、俺たちは決して広くはないが狭くもない部屋にそれぞれ案内された。三日後の出発まで英気を養えということであろう。やや遅めの昼食を終えた俺は腹ごなしに城内を散策することにした。立派な中庭が目に入ったところで、背後から声を掛けられる。

 

「おい、口だけのヘボ勇者」

 

 振り返ると、銀色の甲冑に身を包んだオレンジ髪の男がニヤニヤして立っている。

 

「……なんでしょうか?」

 

「上手く取り入りやがって。手柄を横取りしようとしたって、そうはいかねえぞ」

 

「貴方も転生者なのですよね……転生者同士で揉めても致し方ありません」

 

 俺は冷静に答えるよう努める。

 

「はっきり言って、お前らの出る幕は無えぞ。手柄は俺たちのものだ」

 

「別にそれはいいです……それにしても随分と自信たっぷりな物言いですね。まるで魔王討伐を確信しているかのようだ」

 

「当たり前だろ、俺を誰だと思っている? SSランク勇者、アザマ様だぞ?」

 

「⁉」

 

「あそこで筋トレしている坊主頭のマッチョがSランク戦士のエレッツオ、ベンチに腰掛けて、これ見よがしに小難しい魔導書を読んでいる眼鏡がAAAランク僧侶のレイトゥ、柱に気怠そうにもたれかかっている女が、AAランクのビーストテイマー、獣使いのキコハだ」

 

「な……!」

 

 俺は思わず絶句してしまう。他の転生者と同じ異世界で遭遇するのはそう珍しいことではないが、俺がこれまで会ったのはBランクの遊び人が最高だ。Aランク以上を見たのは初めてだ。サインとか貰いたいくらいだ。っていうか、Aランク以上になるとそこまで細分化されるのか、全然知らなかった。アザマが俺に顔を近づけてくる。かなりのイケメンだな、良い匂いもするし、恰好も全体的にシャープでオシャレな感じだ。なんかずるい。そんなことを考えているとアザマが口を開く。

 

「顔とかはその都度変化するとして……ショー=ロークねえ……聞いたことが無えなあ、お前、ランクはいくつだ?」

 

「……cランクです」

 

「ええっ? なんつった?」

 

「か、限りなくB寄りのcランクです……」

 

「ぶつぶつ言って聞こえねえんだよ!」

 

「わ、私はその、アレですから! ランクとかそういうものに囚われてないですから!」

 

「! 急に大声出すなよ! ランクに囚われてないってなんだよ!」

 

「その……個性とか、気持ちの面を主に見てもらいたいなって思っていますから!」

 

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえぞ!」

 

「……アザマ、合同鍛錬の時間……」

 

「「⁉」」

 

 いつの間にか俺たちの近くに黒いローブを着た小柄な女の子が立っていた。フードを目深に被っており、その表情は伺いしれない。女の子はスタスタと歩き去っていく。

 

「か、彼女も転生者ですか?」

 

「いや、この世界の奴だ、名前はアリン。気配を消すのが得意な変わった女だ。腕は立つから、パーティーに加えた……まあいい、お前ら、くれぐれも俺たちの邪魔をすんなよ」

 

 アザマが立ち去る。エリートぶった気に食わないやつだ、まあ実際エリートなんだが。しかし決まった時間に合同で鍛錬とか意識高いな、油断も慢心もないじゃないか。本当に俺たちの出る幕はなさそうだな……俺は頭を軽く抑える。


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