【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第8話(1)方針確認

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「つ、着いた……」

 

 へとへとに疲れ切った俺はオールを放り投げて砂浜に倒れ込む。

 

「思っていたよりも速く着いたわね」

 

「魔族が本気を出せばざっとこんなものよ」

 

 笑うメラヌにアリンは事もなげに答える。

 

「じゃあそのままでも良いから、あらためて経緯と現状を説明するわね」

 

 メラヌは箒から地上に降りて話し始める。俺は仰向けになってその話に耳を傾ける。

 

「私が転移魔法を使用して、魔王ザシンからの攻撃をなんとか回避することが出来たわ。ただ咄嗟のことだったので、細かい場所の指定までは出来なかったんだけど……」

 

「お陰で助かったのですから贅沢は言えません」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 メラヌは俺に対して頷く。アリンが問う。

 

「なんで私まで転移したの?」

 

「我ながら柄にもなく慌てていたからね。近くにいた貴女も魔法の対象に含めちゃったのよ……まあ結果オーライだったんじゃない?」

 

「結果オーライ?」

 

 腕を組むアリンに対してメラヌはウィンクする。

 

「話を聞いた限り、貴女は魔王討伐派と考えてもいいんでしょ?」

 

「討伐派……事態がこうなってくると、まあそうなるわね」

 

「勇者さんたちに協力してくれるってことね?」

 

「他はともかく……ダーリンの力にはなってあげるわ」

 

「ダーリンねえ……?」

 

 メラヌがニヤニヤしながら俺を見てくる。俺はわざとらしく咳払いして話題を変える。

 

「皆は無事なのですね?」

 

「ええ、今のところはね」

 

「それは良かった」

 

 俺は安堵のため息をつく。もっともあの面々は俺なんかよりも遥かに生命力や戦闘力が高いのでさして心配する必要も無いと思うが。

 

「まずは合流することが最優先ね。時間はあまり残されていないのだけど」

 

「と言いますと?」

 

「あの魔王との遭遇から三日程経っているの」

 

「もう三日も経っているのですか!」

 

「ええ、魔王の復活に勢いを得た魔族の軍勢……いわば『魔王軍』はメニークランズ各地へ向けて侵攻を開始……約三分の二がその支配下に置かれたわ」

 

「み、三日で三分の二が⁉」

 

 俺は驚愕する。メラヌは両手を広げて呟く。

 

「そう……まさに破竹の勢いってやつね」

 

「各地の状況は?」

 

 アリンが冷静に尋ねる。

 

「大きな被害は現在確認されていないわ。魔王軍との圧倒的な戦力差を目の当たりにして、本格的な戦闘に入る前に各自降伏したようだから。戦闘力などを持たない一般民衆のことを考えれば賢明な判断だと言えるかもしれないわね」

 

「民衆の様子はどうなの?」

 

「魔王軍の恐怖に怯えているのが実情よ。魔王軍もあまり無理をせず、平定を優先している方針なのが不幸中の幸いと言ったところね」

 

 メラヌが淡々と答える。俺は立ち上がって問う。

 

「残りの三分の一の状況はどうなのですか?」

 

「この海岸から見れば北東、メニークランズ全体から見れば南東に位置する部分にはまだ魔王軍の手はほとんど及んでいないわ」

 

「南東というと確か……?」

 

 俯いていたアリンが顔を上げる。メラヌが頷く。

 

「そう、大きな河を挟んで、長い歴史を掛けて造り上げられた大きな二つの城塞都市、『ホミ』と『トウリツ』があるところよ」

 

「成程、そこに皆集結しているわけね」

 

「たとえ魔王軍と言え、容易には攻め落とせないわ」

 

「で、では……そのどちらかの都市に入って籠城戦ですか?」

 

 俺の問いにメラヌが首を振る。

 

「籠城戦は救援に駆け付ける軍勢やしっかりした補給線があって初めて成り立つものよ」

 

「そ、それは確かに。ですが……現状、彼我の戦力差は厳しいものがあるのでしょう?」

 

「そうね……」

 

「で、でしたら、他に打つ手は……!」

 

 俺は不意にアヤコとかわしたやり取りを思い出す。

 

                  ♢

 

「喧嘩の時、不利な状況に置かれたらどうします?」

 

「唐突に物騒なことを聞いてくるな……」

 

「是非お考えをお聞かせ下さい」

 

「逃げるというのは無しなんだろう?」

 

「そうですね」

 

「どうにかして有利な状況を作り出す」

 

 アヤコはため息をつく。

 

「その、『どうにかして』の部分を聞きたいのです……」

 

 俺は腕を組んで考え込み、やや間を空けてから答える。

 

「……何を以って不利なのかにもよるが、数的に不利ならば、少数でも勝てる策を練る。戦意的に不利ならば、相手の戦意を挫く」

 

「ふむ、まあ良しとしましょう。参考になりました」

 

「参考って何だ?」

 

「こちらの話です……」

 

                  ♢

 

「少数精鋭で魔王を討つ……!」

 

 俺の言葉にメラヌは頷く。

 

「そう、そういうこと」

 

「そんなことが可能なの?」

 

 アリンが首を傾げる。メラヌが説明する。

 

「二つの城塞都市を陥落させるべく、各地の魔王軍の主力部隊も集結しつつある。この二つの都市の北方にある高山に位置する古城『カダヒ』を中心にね。逆に考えれば、これが魔王軍を瓦解させる最大にしておそらく最後の機会!」

 

「魔王の復活で意気が上がる軍勢……魔王を討てば、その意気は一気に萎むと……」

 

「そんなに上手くいくかしらね?」

 

「やってみる価値はあると思うわよ」

 

 尚も首を傾げるアリンにメラヌが微笑む。アリンが尋ねる。

 

「で、少数精鋭っていうのは?」

 

「こちらの勇者さんのナ二……もとい、名の下に集まった彼女らの力が必要だわ」

 

「私とダーリンの邪魔されたくないんだけど……仕方がないわね。どうすればいい?」

 

「私の使い魔が案内してくれるから、それに従って頂戴」

 

「馬車が無いので移動が面倒ですね……」

 

「私の魔力も大分戻ってきたわ、飛んで行けるわよ」

 

 アリンが掌をパッパとしながら俺に告げる。

 

「それは頼もしい!」

 

「他の女のところに向かうってのがいまいち気に食わないけど……」

 

 アリンはブツブツ言いながら背中の翼をバサッと広げる。

 

「それじゃあよろしくね」

 

「メラヌは行かないのですか?」

 

「ちょっと調べることがね……後で合流するわ」

 

「はあ……?」

 

「じゃあ、飛ばすわよ、ダーリン!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! うおおおっ⁉」

 

 急に勢いよく飛び立ったアリンの足に掴まり、俺は不恰好ながら空高く舞い上がった。

 

 


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