【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第5話(2)熱戦⁉Aブロック

「ふん……次はお前だ!」

 

「おっと、ティエラを叩き落としたグラハム、次の標的はコウだ!」

 

 呆然としているわたくしの耳に、実況の方の声が聞こえてきます。

 

「『風雲拳』!」

 

「どおっ⁉」

 

「おおっと、コウの右腕からなにやら衝撃波のようなものが飛び出したぞ! それを喰らったグラハムの巨体が倒れた! 審判が駆け寄る!」

 

「完全に気を失っている! グラハム、敗北! 1ポイント!」

 

「へえ……今のは魔法かい?」

 

「魔法? 違う、俺が長年の修業の末に編み出した技だ。自分より巨体な相手とわざわざ組み合うのは不利だからな」

 

「修業で編み出せんのかよ……そんな相手と接近戦はごめんだな、『フラッシュ』!」

 

「ダビド、コウに向かって五枚のカードを投じた! 放物線を描いて飛んで行くぞ!」

 

「はあっ!」

 

「カ、カードが勢いを失って落ちた⁉ な、何をしやがった……?」

 

「気合いを発して、カードを弾いただけだ」

 

「き、気合いって……」

 

「今度はこっちから行くぞ!」

 

「ま、待った、待った! 審判! 降参するぜ! 俺の負けだ!」

 

「! ダ、ダビド、敗北! 2ポイント! よって、コウ、勝利! 3ポイント!」

 

「せ、先鋒戦は意外な決着! 勝者はチーム『三国一』のコウだ!」

 

 実況さんの驚きに満ちたアナウンスが響き、会場がどよめきに包まれます。立ち上がったわたくしの近くで、コウさんとダビドさんが会話をかわしていました。

 

「何故逃げる? 相当出来るはずだろうに……」

 

「分の悪い賭けはしない主義だ……上位2チームが上がれる。無茶する段階じゃない」

 

「そういう考え方もあるのか……」

 

「まあ、アンタにはおすすめしないよ……」

 

「さあ、続いて中堅戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」

 

「はい……チーム『三国一』のリーファさん……幸先良いスタートとなりました……」

 

 拡声器を向けられた黒髪を2本のおさげにまとめた女性は笑みを浮かべて答えます。

 

「アホが良い仕事をしたわね。次も3ポイント取って、さっさと勝ち抜きを決めるわ」

 

「リーファさんはご実家がお国では有名な食堂だとか……」

 

「あら、宣伝していいの? ちょっと遠いけど、味は世界一よ、店名は……」

 

「すみません……スポンサーの関係でそれ以上はNGです……」

 

「じゃあなんで聞いたのよ⁉」

 

「こちら、東口ゲートです。チーム『バウンティハンター』のエドアルドさん、意気込みの程をお願い出来ますでしょうか? それとダビドさんの判断についても」

 

 拡声器を向けられた黒いスーツ姿の整った短い頭髪の男性はため息交じりで答えます。

 

「どうせ、卸したての白いスーツを汚したくないからっていう考えでしょう……まあ、兄の尻拭いはいつものことです……3ポイントを取って、優位に立ちたいと思います」

 

「お、お兄様と違って、チャラついていないですね……」

 

「よく言われます。恐らく兄は橋の下で拾われた子なんでしょうね」

 

「真顔で冗談言うのやめろ! 結構傷付くんだからな!」

 

 エドアルドさんの後方から、ダビドさんの声が聞こえてきて、会場に笑いが起きます。

 

「こ、こちらは南口ゲートです! チーム『ボイジャー』のケビンさん! か、かわいいですね……じゃ、じゃなくて、意気込みをお願いします!」

 

 拡声器を向けられたのは茶髪で小柄な少年です。リポーターの方がおっしゃったように、かわいらしい顔立ちをしておられます。

 

「……おれ、かわいいって言われるのが、嫌いなんだ!」

 

「す、すみません!」

 

「あ、いや、怒っているわけじゃないよ……強い男になりたくて家を飛び出したんだ!」

 

「ケ、ケビンさんのお国では、旅行のことを家出と言うんですか?」

 

「な、なんでそうなるんだよ!」

 

「お、お姉さんがご一緒だから……ご家族同伴の家出って聞いたことないなって……」

 

「か、勝手についてきたんだよ! その話はもう良いだろ!」

 

 ケビンさんはプイッと顔を逸らします。その仕草に「かわいい~」と歓声が飛びます。

 

「は~い、西口ゲートで~す。チーム『悪役令嬢』のルッカ……ムビラン⁉ マジ⁉ 有力貴族じゃん! お兄さん、合コンしない⁉」

 

「な、なんだよ、合コンって?」

 

「おお~知らないのもますます貴族っぽいね~良いじゃん、良いじゃん♪ 合コンってのはね~複数の男女でお酒を飲んだり、食事をしてワイワイ楽しむことだよ~」

 

「……なんの為にそんなことするんだ? 本当に楽しいか?」

 

「そりゃあ……ねえ? フィーリングが合えば、もっと楽しいことをするとかさ~」

 

「なっ⁉ は、破廉恥だな! 嫁入り前の女がそんなこと考えるなよ!」

 

「あらら、見た目と裏腹に結構お堅いね~」

 

「俺には心に決めた女がいるんだよ! ……って何を言わせんだよ!」

 

「勝手に言ったんじゃん……まあ、いいや、お返ししま~す」

 

「あ、ありがとうございました……さあ、中堅戦に臨む4人がリングに上がりました……今、審判が開始の合図を出しました!」

 

「女に手を上げる主義はねえ! エドアルドとやら、てめえを潰す!」

 

 ルッカさんが殴りかかります。わたくし何度も手を上げられた気がするのですが。

 

「ふっ……」

 

「ぐはっ⁉」

 

「おっと、ルッカが倒れ込んだぞ! 何かがリングに転がっている! あ、あれは……コイン⁉ なんとエドアルド、コインを弾いて攻撃した⁉」 

 

「子供の頃、コインを投げて悪党を懲らしめる奴の話を聞いてね。独学で習得したのさ」

 

 エドアルドさんが髪をかき上げます。リーファさんが声をかけます。

 

「色男さん、それ、わたしにもやってみてよ」

 

「女性を痛めつけるのはあまり気が進まないけど……まあ、連続で3ポイント取られるわけにもいかないしね……!」

 

「はっ! ……大したことないわね……」

 

「け、蹴りの風圧でコインを落としただと? そ、そんな芸当が……」

 

「小銭が多いお客様って、正直困るのよね」

 

 リーファさんがふっと笑います。

 

「隙有り!」

 

「せいっ! ……坊や、筋は悪くないけど、蹴りで私に勝とうなんて五年早いわね」

 

「ぐっ……」

 

 リーファさんに蹴り掛かったケビン君でしたが、あえなく返り討ちにあってしまいました。ケビン君は蹴られた箇所を抑えて悶絶します。すると意外な事態に発展しました。

 

「ケビン君かわいそう!」

 

「おさげ女! ちょっと美人だからって何やっても良いと思っているの⁉」

 

「おおっと、女性客からリーファへ大ブーイングだ!」

 

「ええっ……向かってくる相手を倒しただけでしょう?」

 

「BOO! BOO!」

 

「ブーイングが鳴り止まない!」

 

「な、なんだか、凄い罪悪感! こ、こんなの耐えられないわ!」

 

「リーファがリングを駆け下りた! 自らリングアウトを選択!」

 

「リーファ、敗北! 0ポイント!」

 

 ケビン君が痛みをこらえて立ち上がります。

 

「少年! 悪いけど、コインの餌食になってもらうよ!」

 

「……ねえ、そのコインって何なの?」

 

「はっ? 君、コイン知らないの?」

 

「見たことも聞いたこともない」

 

「……君、もしかしてパパがお金持ちだったりする?」

 

「国ではマスカット財閥を経営しているけど……ってパパ、お、親父は関係ないだろ!」

 

「マスカット財閥……聞いたことあるな、貸しを作っておいて損はないか」

 

「何をぶつぶつ言っているんだよ!」

 

「ぐあっ! ……さっきのキックの衝撃がこちらに……審判、ギブアップだ」

 

「エドアルド、敗北! 1ポイント!」

 

「え? な、何? おれが勝ったの? な、なんか気が抜けちゃった……」

 

「おっと、ケビン、再び倒れた! 審判が駆け寄る!」

 

「……ケビン、敗北! 2ポイント! よって、ルッカ、勝利! 3ポイント!」

 

「え? なにがどうしたんだ……?」

 

 ルッカさんが間抜けな顔をして起き上がりました。完全に気を失っていたわけではないので、審判も敗北宣告はしなかったようです。

 

「ちゅ、中堅戦も意外な決着! 勝者はチーム『悪役令嬢』のルッカだ!」

 

「お、俺が勝ったのか⁉ や、やったぜ!」

 

「BOOOOO‼」

 

「おおっと、先程よりも凄まじいブーイングがルッカに対して降り注ぎます!」

 

「そ、そんなこと言われても! 俺だってわけがわからねえのに!」

 

 ルッカさんは涙目になりながらリングを降りてきました。

 

「さあ、残るは大将戦です! 各チーム3ポイントで横一線の状態! 次に勝ち残ったチームが準決勝に残ります! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」

 

「はい……チーム『三国一』のアドラさん、占い師をされているそうですが、占いの結果はどうでしょうか……?」

 

 褐色の肌をした眼鏡の小柄な女性は大きな水晶玉を手にして、呟きます。

 

「『何事もやってみなくちゃわからない、やれば出来る!』とのお告げが出ております」

 

「……ず、随分ざっくりとしたお告げですね」

 

「……まさか貴女、お告げを疑うのですか?」

 

「い、いえ、そんなことはありません……次、お願いします」

 

「東口です。チーム『バウンティハンター』のモニカさん、意気込みをお願いします」

 

「う~ん、よく分からないね~」

 

 日に焼けた肌をした、長身でグラマラスな女性が微笑みながら答えます。

 

「コスタ兄弟の戦いぶりについては?」

 

「う~ん、あんなものじゃないの? よく知らないけどさ」

 

「ご存知ないのですか?」

 

「知り合ったのつい最近だからさ、まあ、あの兄弟といると結構楽しいから、勝つよ!」

 

「こちらは南口ゲートです! チーム『ボイジャー』のソフィアさん! お、お綺麗ですね……じゃ、じゃなくて、意気込みをお願いします!」

 

 拡声器を向けられたのは長い茶髪のおしとやかな女性でなかなかの美人さんです。

 

「ふふっ♪ 精一杯頑張ります」

 

「は~い、西口ゲートで~す。チーム『悪役令嬢』のシルヴァン……アフダル⁉ マジ⁉ また有力貴族じゃん! お兄さん、合コンしない⁉」

 

「せっかくのお誘いだが、心に決めた相手がいるのでね」

 

「あ、そうすか……お返ししま~す」

 

「あ、ありがとうございました……さあ、大将戦に臨む4人がリングに上がりました……今、審判が開始の合図を出しました!」

 

「俺以外女か……やりづらいな……悪く思わないでくれよ!」

 

 シルヴァンさんはそう呟いて小柄なアドラさんに飛び掛かろうとします。

 

「……」

 

「おおっと! アドラ! 水晶玉をかざしたぞ!」

 

「! まさか、なにか召喚するとかか⁉」

 

「ふん!」

 

「ぐほっ⁉」

 

「ああっと! アドラ! 水晶玉でシルヴァンを殴った⁉」

 

「しょ、商売道具じゃないのかよ!」

 

「これは雰囲気づくりの小道具……」

 

「ぶ、物理的にくるとは! 予想外過ぎる!」

 

「おらおらぁ!」

 

「「⁉」」

 

「よくもわたしのかわいいかわいい弟ちゃんに蹴りを喰らわせてくれたな! 後、単に寝ていただけの癖して、ポイント掠め取りやがって!」

 

 試合前の雰囲気とはうってかわって殺気立っているソフィアさんに二人が戸惑います。

 

「それをやったのはリーファ……」

 

「寝ていたのは赤毛の馬鹿だ!」

 

「連帯責任じゃ! お前らまとめてぶっ潰す!」

 

「『ハリケーンキック』!」

 

「「「⁉」」」

 

「うおっと! モニカ、長い脚を一閃! 三人をまとめてリングごと吹き飛ばした!」

 

「いい具合にまとまってくれたから当てやすかったよ、お疲れさん♪」

 

「な、なんという破壊力だ! 審判の判定は!」

 

「ソフィア、アドラ、シルヴァン敗北! それぞれ0ポイント、1ポイント、2ポイント! もろに攻撃を喰らったソフィアは気絶している上にリングアウト! アドラはリングアウト! シルヴァンは気を失ったが、リングには残ったためにポイントの配分は以上の通り! よって、モニカ勝利! 3ポイント!」

 

「……ということは、Aブロック勝者はチーム『バウンティハンター』と『悪役令嬢』に決定! 2チームが準決勝に進出!」

 

 どうやら次に進めるようです。ですが、まったく勝った気がしません。わたくしは普通に負け、ルッカさんは度重なるブーイングにメンタルが折れ、シルヴァンさんも気絶しています。これでどうして喜べるというのでしょうか……。


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