【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第5話(3)パワーにはパワー

                  ♢

 

「……という体たらくでして……」

 

「モ、モニタリングさせてい、頂きましたので……お。おおよそは把握しています」

 

 Aブロックの試合終了後、コロシアムの大会関係者席に案内されたわたくしたちは席について一息つきました。わたくしは『ポーズ』、『ヘルプ』と唱え、転生者派遣センターのアヤコさんに相談を試みました。

 

「……ちょっと笑っていませんか?」

 

「い、いいえ、決してそのようなことは……」

 

「……この決勝のレベルの高さは想定以上です。どうしたものでしょうか?」

 

「そうは言っても、始まってしまったわけですからね……」

 

「今更ジタバタしても仕方がないと?」

 

「それでも打てる手はあると思います」

 

「打てる手ですか?」

 

「そうです、例えば出場の順番を変えてみるとか……ルールに目を通してみましたが、順番変更をしてはいけないということは書かれていません」

 

「ふむ……」

 

「とにもかくにも勝ち残ることが出来ました。これから他のブロックを見て、どのような選手が出てくるのかを確認出来るのは大きなメリットです」

 

「確かに……」

 

「相手が順番を変えてくるということは勿論あるとは思いますが、多少のシミュレーションが出来ると考えれば良いのではないでしょうか?」

 

「成程……」

 

「……うん? 遊劇隊の方で動きがあった?」

 

「なんですか?」

 

「すみません、こちらの話です。それではご健闘を祈ります」

 

 アヤコさんは通信をお切りになりました。

 

                   ♢

 

「順番を変えるか……意外と相談してみるものですね」

 

 ポーズ状態を解除したわたくしはボソッと呟きました。

 

「? お嬢様、いかがなさいましたか?」

 

 隣に座るメアリが尋ねてきます。じいやとともにこのコロシアムに来てくれました。

 

「ああ、いえ、なんでもありません。独り言です」

 

「そうですか……あ、そろそろ始まるようですよ」

 

 わたくしが目をやると、実況の方が叫びます。

 

「それでは皆様お待ちかね! 『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝、1回戦Bブロック先鋒戦、選手の入場です‼」

 

「おおおおおっ!」

 

「まずは北口ゲートから入場は、チーム『人間上等』、南方からやってきた獣人、シバだ! リポーターのマールさん、お願いします」

 

「はい、こちらマールです……。シバ選手、意気込みをお願いします……」

 

「あ? 意気込みだあ? へっ、くだらねえ……」

 

 リポーターさんの問いに、ライオンの顔に人間の体をした男性が吐き捨てる様に答えます。わたくしも初めて見ましたが、この世界にはこういう種族の方がいるようです。

 

「この大会に参加した目的は? 富や名声ですか?」

 

「あん? そんなの答える義理あんのかよ⁉」

 

「……出来ればお願いします……」

 

「……ふん! 人間どもに種族の差っていうのを見せつけてやるためだよ!」

 

「……ありがとうございます。お返しします……」

 

「ビ、ビビらねえのか、お前……?」

 

「では、次は東口ゲートから入場の、チーム『剛腕』、バーサーカーとして悪名高い、ガルシアだ! リポーターのシャクさん、お願いします」

 

「はい! こちらシャクです! ガルシア選手、意気込みの程ををお願いします!」

 

「……ああん?」

 

「意気込みをお願いします!」

 

「雇い主の旦那が好きな様に暴れて良いと言った……暴れ尽くすだけだ……!」

 

「え、えっと……とにかくやる気は十分なようで……お、お返しします!」

 

 傷だらけの大柄な男性に凄まれ、リポーターさんは怖がりながらも仕事をこなします。

 

「つ、続いて、南口ゲートから入場は、チーム『美女』、南方のミステリアスな姫君、パトラだ! リポーターのヌーブさん、よろしくお願いします」

 

「は、はい! こ、こちらヌーブです! パ、パトラ選手、意気込みを!」

 

「……退屈しのぎになれば良いのだけどね……」

 

 少し浅黒い肌に美貌を備え、華美なドレスに身を包んだ女性は整った黒いショートボブの髪を優雅にかき上げながらお答えになります。

 

「た、退屈しのぎですか……?」

 

「……まあね、城や館にこもっているのにも飽きたのよ……そうしたらこの国で面白そうなことを始めているじゃない? ちょっと優勝しちゃおうかな♪って思ってね」

 

「じ、自信たっぷりなコメントを頂きました! お、お返しします!」

 

 パトラさんのコメントに会場もどよめきます。

 

「最後に、西口ゲートから入場は、チーム『近所の孫』、記憶喪失の軍人、ウィリアンの登場だ! リポーターのフルカさん、お願いします!」

 

「はい~こちらフルカ~。ウィリアン選手、意気込み適当によろしく~」

 

「が、頑張ります……」

 

「……お兄さん、結構イケメンだね~」

 

「イケメン? あ、ああ、褒めて頂いているのですか? ありがとうございます」

 

 短くまとまった黒髪で軍服を着た痩身の男性が戸惑いがちにコメントされます。

 

「彼女とかいるの~?」

 

「い、いえ、生憎記憶喪失なもので……その辺については……」

 

「え~記憶取り戻すまでの間、彼女に立候補しちゃおうかな~」

 

「あ、貴女のような美人にそう言って頂けて嬉しいのですが、軍服を着ている以上、自分は現在なんらかの任務中だと思われますので、そういう関係を持つわけには参りません」

 

「うまくかわされちゃったな~ま、いいや、お返ししま~す」

 

「さあ、4人がリングに上がりました……審判が今、開始の合図を出しました!」

 

「へっ! 大口を叩いた女! まずはてめえから血祭りに上げてやる!」

 

 シバさんが鼻息荒く、リングの中央に進み出ます。

 

「貴方の方が大きい口をしているじゃないの、子猫ちゃん?」

 

「ライオンだ! 噛み殺してやる!」

 

「はっ!」

 

 シバさんがパトラさんに飛び掛かろうとしたところ、パトラさんが布のようなものを鞭のようにしならせ、シバさんに叩きつけます。

 

「ぐっ⁉ な、なんだ、⁉ おい、審判! なにか鉄製の武器を持ち込んでいやがるぞ! 反則じゃねえか⁉」

 

「噛み殺すのも反則でしょう……」

 

「う、うるせえ!」

 

「試合前に確認してもらっているわ。なんの変哲もないただの布よ」

 

「そ、そんな硬い布があるか!」

 

「わたくしが触れるものは何でも妙に硬くなってしまうのよ、美女の悲しい性ね……」

 

「くっ、ふざけやがって! 布ごと噛み砕いてやる!」

 

「ご自慢の牙が耐えられるかしら!」

 

「どおっ!」

 

「おおっと、パトラが鞭のように振るう布にシバが近づけないぞ!」

 

「……!」

 

「なっ⁉」

 

「ふん!」

 

「⁉」

 

「ああっと、ガルシア! パトラの振るう布を片手で掴み、砕いた!」

 

「……覚悟しろ!」

 

「ああ……降参しますわ 美女というものは諦めも肝心ですから……」

 

「パトラ、敗北! 0ポイント!」

 

「パトラがリングを降りた! 残りは3人の争いだ!」

 

「ちっ……」

 

 ガルシアさんがシバさんに視線を向けます。わたくしはメアリに問います。

 

「あの方、悪名高いと言いますが、一体どんな悪行をされたのですか?」

 

「……詳しくは知りませんが、大勢の方に怪我を負わせたとか……」

 

「獰猛な獣を多数殺したってのも聞いたことあるな」

 

 わたくしの逆隣に座っていたルッカさんが呟きます。

 

「街をいくつも吹き飛ばしたこともあるそうだよ」

 

 ルッカさんの隣に座るシルヴァンさんも口を開きます。

 

「お、思った以上のバーサーカーぶりですわね……」

 

「さあ、ガルシアがゆっくりとシバに歩み寄る!」

 

「悪名高いって言っても人間の中での話だろう! 世界は広いってことを教えてやる!」

 

「……」

 

「なっ! zzz……」

 

「おあーっと、ガルシア! シバの懐に入り込んだと思ったら、頭を優しく撫でて、あっという間に寝付かせてしまったぞ!」

 

「シバ、敗北! 1ポイント!」

 

「な、なんて優しい撫で方!」

 

「ひょ、ひょっとして、動物好きなのか……?」

 

「意外と良い奴なのかもしれないね……」

 

「いやいや、お三方とも、掌返すのが早すぎでしょう! ⁉」

 

「シバを寝かしつけたガルシア! ウィリアンの元に向かう!」

 

 わたくしが見たところ、お二人の体格差は歴然としています。軍人らしいですが、細身のウィリアンさんに勝ち目はないものかと思われました。しかし……。

 

「ガルシア、敗北! 2ポイント! ウィリアン勝利! 3ポイント!」

 

「な、なんと! 体格差で劣るウィリアン、一瞬の早業でガルシアを組み伏せてしまった! 細身とは思えぬパワー! Bブロック先鋒戦はチーム『近所の孫』が勝利! ……さあ、続いては中堅戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」

 

「はい……チーム『人間上等』のアルフォンさん……厳しいスタートとなりました……」

 

「シバの野郎め、まったく、情けない……まあ、あれが獣人の限界だろうな、俺様が鳥人の凄さって奴を見せつけてやるよ」

 

 鷹の頭に人間の体、背中に大きな翼を備えた男性が自信満々にコメントされます。

 

「えっと……チーム『剛腕』のフランソワさん? い、意気込みをお願い出来ますか?」

 

「ウホッ……?」

 

「ゴ、ゴリラ⁉」

 

 わたくしを含め、会場中が驚きに包まれます。


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