【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第8話(1)戦略を練った結果

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「お、チーム、『覆面とアホ兄弟』じゃねーか」

 

「アホって言うな!」

 

 控室につながる通路でチーム『覆面と兄弟』の皆さんとすれ違います。煽るルッカさんに対し、ブリッツが噛み付きます。

 

「決勝進出おめでとう」

 

「どうもありがとう」

 

 シルヴァンさんの祝福の言葉にエイスさんがお礼を言います。

 

「決勝で待っていろよ、いつぞやの借りを返してやるからよ」

 

「勇ましいのは大変結構だが……勝算はあるのかな?」

 

 ルッカさんに対し、エイスさんが尋ねます。

 

「ああん?」

 

「……巨人やバーサーカー、ドラゴンなどの力を借りることの出来るような人たちとの相手はいささか荷が重いのではないのかな?」

 

「なんだと?」

 

「やめろ、ここで熱くなるな……ご心配下さってありがたいんだが、勝算はもちろんあるよ」

 

「ほう……?」

 

 シルヴァンさんの言葉にエイスさんが笑みを浮かべます。

 

「いくつかある勝利へのプランからどれを選ぶか迷っているところさ」

 

「それは興味深いね……」

 

「強がりじゃねーの?」

 

「まあ、それは見てからのお楽しみさ」

 

 ブリッツに対し、シルヴァンさんがウィンクします。

 

「へえ、面白そうじゃん」

 

「お手並み拝見といこうか……」

 

「なんでちょっと上から目線なんだよ」

 

「実際上だからだよ」

 

「なにを……このガキ……」

 

「だからやめろって……」

 

 シルヴァンさんが呆れ気味にルッカさんを宥めます。

 

「まあ、とにかく……健闘を祈っているよ」

 

「それはどうも」

 

 エイスさんたちがその場を去ります。お互いチームの最後方にいた覆面の匿名希望さんとわたくしがすれ違います。

 

「……!」

 

 わたくしがはっとして振り返りますが、匿名希望さんはすでに遠くへ行っていました。

 

「控室へ向かおう」

 

「え、ええ……」

 

「どうかしたのかよ?」

 

「い、いえ、なんでもありません。参りましょう」

 

 ルッカさんの問いにわたくしは答えます。きっと気のせいでしょう。わたくしは首を左右に振って、二人の後に続きます。

 

「さて、出場順だが……どうする?」

 

 控室に入るなり、シルヴァンさんがわたくしたちに問いかけます。

 

「1回戦と反対にしようぜ。俺は中堅のままでな」

 

「ということは……俺が先鋒かい?」

 

「ああ、そうだ」

 

「その心は?」

 

 シルヴァンさんがルッカさんに尋ねます。

 

「恐らくだがチーム『赤点』は例の巨人を大将戦に回して、あのアナスタシアという女を先鋒に持ってくるはずだ」

 

「アナスタシア嬢を先鋒というのは1回戦と同じだが、巨人を大将戦に持ってくるというのはどういう読みだ?」

 

「初戦で勢いをつけたいだろうが、その目論見が外れた場合の保険だ。あんな奴が後ろに控えているというだけで、他のチームへの心理的圧迫は半端ない」

 

「ふむ、なるほど……」

 

わたくしはルッカさんの説明に頷きます。シルヴァンさんが首を傾げながら尋ねます。

 

「それで俺が先鋒とどう結びつく?」

 

「まあ聞け、他のチーム……まずチーム『剛腕』だが、ここは1回戦と同様、同じ順番で来ると思う。つまり先鋒はあのバーサーカー、ガルシアだな」

 

「何故同じ順番だと思うのですか?」

 

 わたくしがルッカさんに問います。

 

「あのチームのリーダー、ラティウスは商売人、経営者としても剛腕だったが、慎重な一面も併せ持っていたと聞く……ここで順番をいじってくることはしないはずだ」

 

「なるほど……」

 

 わたくしはまたも頷きます。

 

「最後にチーム『龍と虎と鳳凰』だが、ここも1回戦と同様の順番で臨んでくるはずだ。つまり先鋒はあの太っちょ、ウンガンとかいう奴だな」

 

「何故そうお思いになるのです?」

 

 わたくしが再びルッカさんに問います。

 

「あのチーム……表向きは友人の集まりと言っているが、リーダーのソウリュウと他の二人には明確な身分差がある。ソウリュウを立てる意味でも順番は変わらないだろう」

 

「身分差ですか……」

 

「ソウリュウってのは、あの大仰な服装から判断するに東方の大国の王侯貴族の者なんだろう。ただ、豪商の子やそれなりの寺院の僧なら、ガキのころからの付き合いが続いていても不思議はねえ。だが、それはそれとして、上下のケジメはきっちりつけるって話だ」

 

「おお……」

 

 わたくしはルッカさんの淀みない説明に頷きます。シルヴァンさんが口を開きます。

 

「それで俺が先鋒だという理由は?」

 

「アナスタシアは実力者だが、頭に血がのぼりやすそうだ、うまく挑発すれば、こっちのペースに巻き込めるはずだ。得意だろう、挑発?」

 

「こういう形で女性を挑発するのは気が進まないが……他の二人は?」

 

「ガルシアはやべー相手だが、それをうまいことウンガンとぶつければ良い。どうなるか分からないが、恐らくガルシアが勝つと見ている。漁夫の利を狙え、得意だろう?」

 

「人をなんだと思っているんだ……まあ、弱ったところを狙うのも立派な戦略だな……」

 

「どうだ?」

 

「いいだろう、提案に乗るとしよう。それで構わないね?」

 

「ええ!」

 

 シルヴァンさんの問いにわたくしは力強く頷きます。

 

                  ♢

 

「さっきの今ですみません!」

 

「……何事でしょうか? そろそろスイーツを食べようと思っていたのですが……」

 

 アヤコさんは若干面倒そうにわたくしに答えます。

 

「わたくしたちも戦略を練りました!」

 

「そんな、はじめてのお使いがうまくいきましたみたいなテンションで言われても……」

 

「これはわたくしたちにとっては大きな進歩ですよ! その喜びを伝えたくて!」

 

「……それは良かったですね ただ……」

 

「ただ? なんでしょうか?」

 

「いえ……ご健闘をお祈りしております。失礼します」

 

                  ♢

 

 アヤコさんの言葉が若干気になりましたが、気を取り直して、わたくしは声援を送ります。

 

「シルヴァンさん、頑張って下さい! ……あら?」

 

 周囲を見ると、アンナさんに封印を解かれた巨人さん、フレデリックさん、ラティウスさんと熱い抱擁を交わして歩きはじめるゴリラさんもといフランソワさん、軽い足取りで歩いているゲンシンさん、三者の様子が目に入ります。ルッカさんが苦笑を浮かべます。

 

「こ、これは……」

 

「全て外れだ! 逆に凄いね!」

 

 シルヴァンさんはルッカさんに文句を言いながらリングに向かいます。


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