【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第10話(3)決戦前夜の風景

「……ハサンさんが意識を取り戻されたので、色々と伺ったお話によると……あの八本の塔は人々の生命力をわずかずつではありますが吸い取るようですね」

 

「生命力を吸い取る?」

 

 ムスタファ首長国連邦の首都クーゲカのメインコロシアムにほど近い病院にいるわたくしは病室から出てきたリリアンに尋ねます。

 

「この国に住む人々から力を奪っているのですか……」

 

「何の為にそんなことを?」

 

 エイスさんにブリッツが尋ねます。エイスさんが首を傾げます。

 

「さあな……ただ、力を蓄えるためだけではないだろうな……」

 

「力を放出するということかい?」

 

 シルヴァンさんがリリアンに問いかけます。

 

「……ハサンさんも塔の詳細な仕組みについてまでは存じ上げないようですが、あの八本の塔は都市防衛兼迎撃用の兵器みたいなものだそうです。今おっしゃられたように、溜め込んだ力を何らかの力で放出するということも考えられますね。しかも……」

 

「しかも?」

 

 わたくしが首を傾げます。

 

「あの八本の塔は包囲した土地ごと移動出来るらしいのです」

 

「ええっ⁉」

 

「ではこのクーゲカの街ごと移動出来るってわけだ」

 

 シルヴァンさんの言葉にリリアンが頷きます。

 

「そうです。地上を移動する戦艦、要塞として活用することも可能なようです。もっとも、それなりの力を要するので、時間はかかるだろうというのが、ハサンさんの見立てです」

 

「じゃあその間に住民や滞在者を避難させれば良いんじゃない?」

 

 ブリッツが考えを述べ、それについてリリアンが答えます。

 

「軍の懲戒部隊が確認したそうですが、八本の塔が見えない線のようなもので繋がっていて円形になっています。結界魔法なのか、その円の外には出ることが出来ないようです」

 

「ええっ⁉ 閉じ込められたってこと⁉」

 

「首都を包囲し、そこの住民の生命力を奪える……首都を丸ごと人質にとったようなものですね。イフテラム卿が『国ごと手に入れられる』と言ったのはそういうことですか」

 

 エイスさんが眼鏡を抑えながら呟きます。ルッカさんがリリアンに対し口を開きます。

 

「よく分からねえけど、とにかくあの八本の塔をなんとかしなきゃマズいってことだな?」

 

「概ね当たりです。ただ、それぞれの塔は八闘士という強者が守っているようです。その者達を倒さないと、塔を制圧出来ません。しかも出来れば同時に倒さないとならないそうです」

 

「あの四戦士よりも強いという八闘士を同時にですか……どうすれば……」

 

「……ちょうど良い連中がこの街にはいるじゃねえか」

 

 頭を抱えるわたくしの横でルッカさんがニヤっと笑います。

 

                  ♢

 

「聞いた、コウ? 塔を攻略してくれって話……」

 

「ああ、聞いた……」

 

 コウは宿舎の中庭で稽古をしながら、ベンチに座るリーファの問いかけに応える。

 

「私たちにそこまでする義理はないんじゃないかしら?」

 

「無事成功の暁には協力者に対してかなりの報酬を支払うとのことです……」

 

 リーファの隣に座るアドラが呟く。リーファが大袈裟に両手を広げる。

 

「命には代えられないわ、私は遠慮したいわね……⁉」

 

「……邪魔するぞ」

 

 ソウリュウたちが入ってきた為、リーファは慌てて跪く。ソウリュウが首を捻る。

 

「なんだ? 余は極普通の旅行者だ、そのようにかしこまることはない」

 

「普通の方が余とか言わないでしょ……」

 

 リーファが俯きながら小声で呟く。ソウリュウがコウに尋ねる。

 

「コウとやら……貴様は塔の攻略に赴くのか?」

 

「強者と戦える機会はそうはないからな……そちらは?」

 

「塔の仕組みに興味がある……この国に恩を売っておいても損はあるまい……」

 

「えっ! 行くの⁉」

 

 リーファが顔を上げて露骨に嫌そうな顔をする。コウが呟く。

 

「無理強いはしないぞ」

 

「食事代未払いのアンタから目を離すわけには行かないでしょ。気が進まないけど」

 

「お店の宣伝になると思えばいいだで。商機は意外な所に転がっているものさ~」

 

 ウンガンが笑う。ゲンシンが長身を屈めてアドラに尋ねる。

 

「えっと……アドラちゃんだったっスか? 占いではどう出てるっスかね?」

 

「お知りになりたかったらお代をお願い致します……」

 

「有料っスか? しっかりしているっスね……」

 

 手を差し出すアドラにゲンシンは苦笑する。

 

                  ♢

 

「あら? じゃあお兄さんたちは塔に行かないの?」

 

 とあるホテルのバーラウンジでコスタ兄弟の間に座ったフジが尋ねる。

 

「分の悪い賭けはしない主義でね……」

 

 ダビドが肩を竦めながら答える。タカが呟く。

 

「賞金稼ぎとしての血が騒がないのか?」

 

「その前に鼻が利く……こいつはヤバいってな」

 

 ダビドは笑いながら自らの鼻をこする。エドアルドが口を開く。

 

「……情報を十分に集め、諸々の条件が整った時に仕事をします。今回は不確定要素が多い」

 

「ふむ……理には適っているな」

 

 タカがエドアルドの補足に納得する。ダビドが笑う。

 

「ヤバいことはこの国の連中に任せて、お姉さんたちと楽しく飲みたいのさ」

 

「楽しく飲むのも良いけど……もっと良いお酒じゃないとね……」

 

「お、それだとちょっと懐が寂しいな……待ってな、地下のカジノで稼いでくるぜ」

 

「ギャンブルがお好きなの? ……塔を無事攻略した暁には、私たちと一夜を共に出来るっていうのはどうかしら?」

 

「⁉」

 

「ね、姉さん⁉」

 

 タカとナスビが揃って驚く。ダビドがだらしない笑みを浮かべる。

 

「美人三姉妹と一夜を過ごす……男の夢だな……エドアルド、塔の情報を集めるぞ!」

 

「やれやれ……まあ、報酬も出るというし、悪くはないか……」

 

 コスタ兄弟が揃って席を立つ。タカが怒りを抑えてフジに問う。

 

「姉上……! どういうおつもりですか?」

 

「使える手駒は多い方が良いでしょう? 財宝は無理そうだからせめて報酬をね……」

 

「顔は悪くないけど、品性が……弟さんはまだしも……よくあの兄弟と一緒にいますね」

 

「ん? まあ、端から見てると結構楽しいものだよ」

 

 ナスビの問いにモニカは酒を飲みながら笑う。

 

                  ♢

 

「だから! 私はちょっと遅めの優雅なアフタヌーンティーを楽しもうとしているの!」

 

「そんなことは良いから、頼む! 俺にバリツを教えてくれ!」

 

 とあるホテルのカフェテラスでケビンがシャーロットを追いかけ回す。

 

「フフフ……な、仲が良さそうで微笑ましいですわね……」

 

「ソフィアさん、カップの持ち手、砕いちゃっていますよ」

 

 ジェーンが冷静に告げる。シャーロットが声を上げる。

 

「あ~もう、仕方がないわね! いいわ、どこからでもかかってきなさい!」

 

「よし! どわっ⁉」

 

「甘いわね!」

 

「! おい、小娘! 可愛い弟ちゃんに何をしとるんじゃ!」

 

 シャーロットがケビンを投げ飛ばしたことに激昂し、ソフィアが席から飛び立つ。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ああいう気性の方は私の専門外ですね……ウィリアンさん、ホテルから追い出される前にさっさと食事を済ませた方が良いですよ」

 

「ふっ……あのような活発な子であったな……」

 

 グラハムが目を細めてシャーロットを見つめる。ウィリアンが首を傾げる。

 

「であった? 過去形ですか?」

 

「俺の家族は五年前、とある事故で亡くなった……」

 

「す、すみません! とんだ無礼を!」

 

「いや、いい、気にするな……」

 

「……あの姉弟とはどういうお知り合いなのですか?」

 

 食事がひと段落したジェーンがグラハムに尋ねる。

 

「『隣の島まで舟を出してくれ』と札束を渡してきてな。危なっかしくて放っておけないまま、この遠い砂漠の国まできた……家族を守れなかった分、あの二人は守ってみせる……」

 

「あの姉君なら大概のことは大丈夫そうだと思いますけどね……」

 

 ジェーンはカフェテラスで場違いな大立ち回りを演じるソフィアを見て呟く。

 

                  ♢

 

「がははっ! 美味い酒だ!」

 

「おおっ、フレディ! 巨人らしく豪快な飲みっぷりだな、気に入ったぜ!」

 

 コロシアム近くの原っぱでフレデリックとガルシアが酒を酌み交わす。もっともフレデリックはグラスではなく、酒樽をそのまま飲み干している。フレデリックは声を上げる。

 

「こんなんじゃ足りん! もっと持ってこい!」

 

「ウホウホ……」

 

 フランソワが両肩に酒樽を何本も抱えてくる。ラティウスが礼を言う。

 

「すまない、フランソワ。フレデリック、追加の酒が来たぞ」

 

「しかし、旦那よ……酒代は大丈夫なのかよ?」

 

「流罪になる前に財産の一部を信頼出来る友人に預けていた。ちゃんと残しておいてくれたよ、やはり持つべきものは友だな。ガルシア、君へのギャランティーも心配しないでくれ」

 

 ラティウスは酒を飲みながら嬉しそうに呟く。ガルシアが笑う。

 

「ふははっ! そうか、それなら遠慮なく飲めるな!」

 

「とはいえ、ほどほどにしてくれよ、塔攻略は明日なのだからな」

 

「明日⁉ それはまた随分と急な話だな」

 

「やはり聞いてなかったな……ハサンなる者が言うには、時間が経過するほど、向こうに有利になるそうだ。よって早期決着を狙う……そういえばアンナ、君たちも参加するのか?」

 

「このままここに閉じ込められている訳には参りませんから……」

 

「ふへへ~アーニャ~」

 

 アナスタシアがアンナに抱き付く。アンナが驚く。

 

「ナ、ナーシャ⁉ お、お酒臭い……ラティウス卿! 未成年に酒を飲ませるとは!」

 

「い、いや、断じてそのような非紳士的なことはしていないぞ!」

 

「え? ではまさか……臭いを嗅いだだけで酔ってしまったの? あ!」

 

「母ちゃん!」

 

「ウホッ⁉ ……ウホホホ」

 

 おもむろに抱き付いてきたアナスタシアに初めは驚いたフランソワだが、優しく抱きしめる。アナスタシアは安心したように眠りにつく。


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