【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3話(1)市場で液体を売る勇者

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「お金がない……」

 

 道端に停めた馬車の荷台で俺は頭を抱える。

 

「なんでまた勇者様の一行がそんな情けないことに……」

 

 アパネが馬に草を食べさせながら、呆れ気味にこちらを見てくる。

 

「……さあ、なんででしょうね」

 

「お金は計画的に使わないと~」

 

「何分イレギュラーな事態に見舞われましたもので……」

 

「イレギュラーな事態?」

 

 アパネは首を傾げる。黙っていたスティラが立ち上がって声を上げる。

 

「アパネ、貴女の食費ですよ!」

 

「ええっ⁉ ボクのせいなの⁉」

 

「誰々のせいとは言いたくはないのですが……貴女、いくらなんでも食べ過ぎです!」

 

「だってさ、ほら、僕って夜は力が3倍になるじゃない?」

 

「それがなにか?」

 

「その分、その後の食欲もおのずと3倍になるんだよ~OK?」

 

「成程ね~って、なんですか! そのわけの分からない理屈は!」

 

「ええっ、わりと筋は通ってない?」

 

「通っていません! 通行止めです!」

 

「ショ、ショー、スティラがまるで鬼のようだよ……」

 

 アパネが馬に隠れながら、俺に助けを求める。俺はため息をつく。

 

「無理もないでしょう……」

 

「ショー様からもなにか言って下さい!」

 

「ショ、ショー、勇者は細かいことは気にしないよね!」

 

 全然細かいことはないのだが、ここでスティラに同調し、アパネを責めたてても事態は何一つ好転しないだろう。俺はゆっくり口を開く。

 

「スティラ、そんなに大きな声を出すとそれだけでお腹が空きますよ、ここは我慢してください……アパネもそういう特殊な胃袋事情は前もって伝えていて欲しかったです」

 

「ショー様がそうおっしゃるのならば……」

 

「う、うん、悪かったよ、今度から気を付ける……」

 

 二人のトーンが落ち着いたところで、俺は考えを求める。

 

「というわけで、金策が必要です! 二人とも良い考えがあればお聞かせ下さい!」

 

 俺の言葉を受け、スティラが荷台に地図を広げ、ある一点に指を差す。

 

「今わたくしたちがいるのはこの辺り……ここから南西ほど近くに大きな町があります」

 

「ほう、大きな町ですか!」

 

 スティラの言葉に俺は頷く。スティラが言い辛そうに話を続ける。

 

「そ、そこで働き口を探してみるなどは如何でしょう……?」

 

「臨時的雇用者ですか……」

 

「ちょ、ちょっと、まさか勇者様に汗水かいて働かせるつもりなの⁉」

 

「事態が事態なのです! ここは地道に稼いでいく他ありません!」

 

「その町に何か月滞在するつもり?」

 

「半年分の路銀は確保したいですから、そうですね、三か月くらいですかね……」

 

「その間に魔族や魔物が活動をさらに活発化させたらどうするの?」

 

「それは……では、アパネはどうするおつもりなのですか?」

 

「この地域の野良モンスターを狩りまくる。ゴブリンなんかは結構金品を持っているからね。ひと月半も町の周辺をうろついていたら、それなりに貯まるんじゃないかな」

 

「……例えばその間の食事はどうするのです?」

 

「狩ったモンスターを片っ端から煮て焼いて食う! 幸い荷台には調理器具が一通り揃っているしね。なかなか良い考えじゃない?」

 

「却下です。わたくしは文明的な食事を希望します」

 

「お嬢様だな~ショーはどう思うの?」

 

 俺に話を振らないでくれと思ったが、まさか考えを述べない訳にはいかない。俺はヒートアップする両者を落ち着かせつつ、自身の意見を述べる。

 

「町の規模が正直分かりません。ここは町に入ってから考えをまとめましょう」

 

「お金はないんじゃないの?」

 

「安宿ならば数日くらいは滞在できるほどはまだ残っています」

 

「そうですね……では町に向かいましょう」

 

 俺たちは馬車を南西の大きな町に向かわせる。しばらくするとその町に着いた。かなり人通りの多い町だ。俺は感心する。

 

「これはなかなか賑わっているようですね」

 

「ええ、話に聞くよりもうんと立派な町です!」

 

 スティラが弾むような声で答える。このような規模の町に来たのは実際のところ初めてなのだろう。俺たちは町の外れにある安宿を見つけ、チェックインする。

 

「うお~久々のベッドだ~!」

 

 部屋に入り、アパネはベッドに勢いよく飛び込む。スティラが嗜める。

 

「アパネ、はしたないですよ」

 

「それでショー、これからどうするの?」

 

「そうですね……」

 

 俺は腕を組んで考え込む。思っていたよりも規模の大きい町だ、それだけ行動の選択肢も増えるというものだろう。

 

「とりあえずは観光がてら、各々この町を巡ってみましょうか。夜に集合しましょう」

 

「分かりました」

 

「オッケ~♪」

 

 三手に分かれ、俺たちは町に繰り出す。夜、部屋に戻ってきた俺は二人に尋ねる。

 

「さて……何か成果はありましたか?」

 

「ええ……」

 

「うん、まあ……」

 

 二人とも浮かない顔である。

 

「スティラ、どうかしたのですか?」

 

「ええっと……町の広場のような所で演奏をしてきたのですが……」

 

「演奏⁉」

 

「スティラ、楽器出来るの⁉」

 

 スティラが自分の荷物から竪琴を取り出して軽く音を奏でて見せる。良い音色が響く。

 

「おお、上手じゃないですか」

 

「ほんの嗜み程度です。集落ではもっと上手な方がいましたよ」

 

「成程、その演奏でお金を貰ってきたんだね⁉」

 

「そういう狙いだったのですが……生憎全く……」

 

「ええ⁉ ゼロ⁉」

 

 アパネの驚く声にスティラが悲し気に頷く。俺は首を傾げる。

 

「十分見事な演奏だと思いますけどね……」

 

「ショー様の軌跡を詩にして、合わせて歌ったのですが……」

 

「ん? 歌?」

 

「……ちょっとスティラ、一節歌ってみてくれる?」

 

 怪訝な顔をしたアパネがスティラにリクエストする。

 

「はあ……それでは……~~~☠☠☠」

 

「うおっ⁉」

 

「ス、スティラ、ストップ、ストップ!」

 

 俺とアパネは思わず両耳を塞ぐ。スティラは不思議そうな顔をする。

 

「どうかしましたか?」

 

「無自覚⁉ どうかしたもなにもないよ! 死霊でも呼び出すのかと……むぐ!」

 

「こ、この町の方々の好みには少々合わなかったのでしょう!」

 

 俺はアパネの口を抑えて、オブラートに包んだ言い方でスティラに告げる。

 

「はあ……?」

 

「ところでアパネはどうだったのですか?」

 

「! い、いや、ボクは特に……~~~♪」

 

「分かり易い誤魔化し方! 何かやらかしたのでしょう!」

 

「大丈夫! 追っ手はしっかり撒いてきたから!」

 

「追われている時点で全然大丈夫じゃないのですよ!」

 

「一体何をやったのです、アパネ!」

 

 俺とスティラの詰問に、アパネは観念して白状する。

 

「町の東端に大きな市場があったんだ、これは良いやと思って……」

 

「思って……?」

 

「町の外で狩ってきたモンスターの肉を売り捌こうとしたんだ。そうしたら、市場で許可なく商売を行うのは禁止だって、町の自警団?みたいな連中が言ってきて……」

 

「な、なんてことを……」

 

 スティラが頭を抑えてふらつく。

 

「罰金を払えって言うからさ、そんな余裕ないじゃん!」

 

「だからと言って逃げ出したら、もっと大事になるでしょう! ねえ、ショー様!」

 

「そうですよ、私はキッチリと払いました」

 

「ほら! ……って、えええっ⁉」

 

 スティラが素っ頓狂な声を上げて俺を見る。アパネが尋ねてくる。

 

「ショ、ショーは何をやらかしたの?」

 

「私は町の南端の市場で、ナナコの木の樹液を売ろうとしたところを注意されて……」

 

「樹液を売ろうとしたのですか⁉」

 

「樹液を毒消しの薬にする製法が分かりませんでしたので……あ、器は近くの道具屋で見繕って、それに移して売ろうとしましたよ? 流石に直売りというのはね……」

 

「ち、違う、違う! 問題はそこじゃないって!」

 

 アパネが手を左右に激しく振る。

 

「少ない罰金で済みましたよ、勇者ということでいくらか割引してもらいました」

 

スティラが頭を抑えながら呆れ気味に呟く。

 

「どこの世界に樹液を売ろうとして罰金を割引してもらう勇者様がいるのですか……」

 

「少なくともここにいるね、ハハッ」

 

「笑い事ではありません……」

 

「ヒィ!」

 

 スティラの低い声と鋭い眼光にアパネが怯む。スティラが俺に視線を移す。

 

「ショー様……まさかと思いますが……?」

 

「そのまさかです。ほぼスッカラカンです!」

 

「どうするのですか⁉」

 

「心配ご無用! 二人とも私についてきて下さい」

 

 俺は二人をある場所に連れていく。その場所に着いた二人は首を傾げる。

 

「ねえ、ここって……?」

 

「ショー様?」

 

「見ての通り、ギャンブル場です! 罰金どころか、路銀も稼いでみせます!」

 

 俺は満面の笑みで右手の親指をビシッと立てる。


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