【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】   作:阿弥陀乃トンマージ

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第11話(1)本日のラッキーサモン

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「さて、塔攻略だな……俺たちはこの北西の塔担当か……」

 

 コウが拳を握りしめながら呟く。

 

「三人より六人はいた方が良いってのは分かるが、なんだってこの組み合わせなんだ?」

 

 アナスタシアがアンナに問う。現在この場所には『三国一』と『赤点』の二チーム、計六人がいる。アンナが眼鏡を触りながら答える。

 

「ハサンさんから八闘士の情報は全てではありませんが得ることが出来ました……その情報をもとに相性が良さそうなチームを割り振った結果です」

 

「なるほどね……まあ、アタシらの場合、そいつがいるからどこでもいけそうだけどな」

 

 アナスタシアがアンナの持つ小瓶を指差す。アンナは頷く。

 

「もちろん、試してみます……!」

 

 アンナは小瓶からフレデリックを解放する。フレデリックは笑う。

 

「ふん、この塔をぶっ壊せば良いのだろう?」

 

「おう、いっちょド派手に頼むわ」

 

「おらあ! なっ⁉」

 

 フレデリックの振るった拳は塔に傷一つ付けることが出来ない。アンナが呟く。

 

「強力な障壁魔法を張っている……外から壊すのは無理なようですね。戻って下さい」

 

「どおっ!」

 

 アンナは小瓶の中にフレデリックを戻して、皆に告げる。

 

「やはり当初の想定通り、中に入って攻略するしかないようです」

 

「うむ……」

 

 コウが深々と頷く。

 

「よっしゃ! 暴れ回ってやるぜ!」

 

 五人(と一人)が塔の内部に入ろうとする。

 

「お~っと、『三国一』と『赤点』の二チームが塔に入るみたいだね~頑張って~」

 

 白髪の女性が拡声器を使って、その様子を伝える。リーファが首を傾げて呟く。

 

「あの娘は確か……フルカとかいうリポーターね。なんでこんなところに?」

 

「彼女たちには各自の状況を伝える役割を担ってもらっています。他の塔の応援に向かったり、逆に応援を要請するような事態も想定されますので」

 

 リーファの問いにアンナが答える。リーファが呟く。

 

「結構危険な役割なのに……」

 

「彼女たちにとっては国の危機ですから、自ら志願されたそうです」

 

「見かけによらずなかなかの愛国心の持ち主のようで……」

 

 リーファが感心する。アナスタシアが塔の扉を思い切り蹴破る。

 

「よし! 突入だ! ん⁉」

 

 アナスタシアは驚く。塔の中には人の形をした黒い影がいくつも蠢いていたからである。

 

「人の生命力を吸い取ったことによって出来上がった影……塔の警備兵のようなものですね。特に名称などは無いようですが……仮に『ブラックシャドウ』とも呼びましょうか」

 

「ブ、ブラックシャドウって……」

 

 リーファが思わず吹き出す。アドラが呟く。

 

「頭が切れる方なのに……ネーミングのセンスはいまひとつの様ですね……」

 

「! ……」

 

 アンナが無言でアナスタシアの胸に顔を埋める。アナスタシアが声を上げる。

 

「お、お前ら、そういうこと言うな! アーニャはその辺気にしているんだからよ!」

 

「わ、悪かったわよ!」

 

「申し訳ありません……」

 

「……アンナ、この影たちは倒して構わないんだな?」

 

「……はい、問題ありません」

 

 コウの問いに、気を取り直したアンナがズレた眼鏡を直しながら答える。

 

「数が多い! 一気に片付ける! 『風雲拳』!」

 

「!」

 

 コウの振るった右腕から放たれた衝撃波が黒い影たちを吹き飛ばす。影は霧消する。

 

「よし! 上の階層に向かうぞ!」

 

「……げっ! さっきより影が多いわよ!」

 

 リーファが叫ぶ。アナスタシアがアンナに問う。

 

「もうフレディを解放しちまった方が良いんじゃねえか⁉」

 

「下手に塔が崩れたら我々も危険ですから……」

 

「囲まれたわよ!」

 

 リーファの言葉通り、多数の黒い影が彼らを包囲する。

 

「突破するぞ! 『風雲拳』!」

 

「たくっ! 『千客万来脚』!」

 

 リーファが物凄い速さで蹴りを繰り出し、群がる影を撃破する。

 

「……『投擲』!」

 

 アドラが水晶玉を思いっきり投げつける。アナスタシアが驚く。

 

「しょ、商売に必要な小道具なんじゃなかったのか⁉」

 

「スペアは幾らでもあります……問題はないです」

 

「そ、そういうものなのかよ……! アーニャ!」

 

 アンナの周りに影が群がる。アンナは小瓶をかざし呟く。

 

「お願いします……」

 

「⁉」

 

 小瓶からフレデリックの大きな手だけ出てきて、影を薙ぎ払う。リーファが戸惑う。

 

「そ、そういう部分的な解放もありなのね……」

 

「……上に向かいましょう」

 

 アンナに促され、皆は進む。いくつかの階層を経て、多くの影を撃退すると、大きな空間の階層にたどり着く。リーファが呟く。

 

「……ここが最上層かしら?」

 

「……まさかここまで来るとはね」

 

「誰だ⁉ ……ウサギ?」

 

 コウは驚く。ウサギの顔にマスクを被った全身タイツ姿の獣人が立っていたからである。

 

「私の名は『マスクド・コネホ』……かつてはある地域の興行レスリングで活躍していたのだけど、今は古の八闘士の一人に名を連ねているわ」

 

「かつては? 今は古の? 貴女の言っている意味がよく分かりませんが……」

 

「高額なギャラで引き抜かれたのよ。前任者が別の所に移籍しちゃったんだってさ」

 

「そ、そういうものなのですか、八闘士って……」

 

 コネホの答えにアンナが戸惑う。コネホが笑いながら話す。

 

「この塔の番人ってのは意外と退屈でね……だから貴方たちが来てくれて嬉しいわ」

 

「こっちは嬉しがっている場合ではありません……この広さなら……お願いします!」

 

「おおっ⁉」

 

 アンナがフレデリックを解放する。コネホが驚く。

 

「ふん、八闘士とか大層なことを言ってウサギの獣人か! すぐに終わらせてやる!」

 

 フレデリックが拳を振るう。

 

「ふんぬ!」

 

「なっ⁉」

 

 フレデリックは驚く。普通の人間の大きさくらいのコネホがフレデリックの拳を真正面から受け止めたからである。

 

「巨人相手はあまり経験がないけども……そらっ!」

 

「なに⁉ お、俺を持ち上げただと⁉」

 

 コネホがフレデリックの後方に素早く回り込み、左脚を持ち上げる。

 

「大分変則だけど……『レッグロックスープレックス』!」

 

「がはっ⁉」

 

 コネホがフレデリックの巨体を持ち上げて、後方に倒れ込みながら、フレデリックを地面に叩き付ける。フレデリックは気を失う。

 

「さてと……次はどいつだい? ……そこの二人かな!」

 

「なっ⁉」

 

 コネホは一瞬でアンナとリーファとの距離を詰める。

 

「ちっ!」

 

「良い蹴りだけど当たらないね!」

 

 リーファの繰り出した蹴りの連撃をコネホは事もなげに躱してみせる。

 

「これならばどうです⁉」

 

「うおっ⁉」

 

 アンナが小瓶の口をコネホに向ける。封印魔法の応用形である、封印エネルギーの逆放射である。コネホは壁に向かって吹っ飛ぶ。リーファが叫ぶ。

 

「壁にぶつかる!」

 

「そう簡単には行かないよ!」

 

「なっ⁉」

 

 コネホは体を反転させ、壁を蹴って、その反動を利用して再びアンナたちに迫る。

 

「ロープアクションの要領よ! 『ラリアット』!」

 

「「!」」

 

「ぐっ!」

 

 リーファとアンナがコネホの攻撃で吹っ飛ばされ、壁にぶつかりそうになるが、周り込んだコウが二人の体を受け止める。

 

「女を守るなんて色男だね~♪」

 

 コネホが口笛を鳴らす。アナスタシアが悔しそうに呟く。

 

「パワーもスピードも桁違いだ……これが八闘士! どうすれば……」

 

「……」

 

 アドラが前に進み出て水晶玉を取り出す。アナスタシアが慌てる。

 

「い、いや、玉投げつけるだけじゃ意味ねえって!」

 

「『召喚』……!」

 

「はっ⁉」

 

 アドラの掲げた水晶玉から頭が七つある巨大な蛇が飛び出し、コネホに絡みつき、その動きを封じる。アドラが呟く。

 

「本日の『ラッキーサモン』はナーガでしたか……ツイていますね」

 

「ちょ、ちょっと待て! お前、その水晶玉、雰囲気作りじゃなかったのかよ⁉」

 

「本来はこういう使い方ですよ……言ってなかっただけです。それよりも好機では?」

 

「あ、ああ……コウのおっさん!」

 

「お、おっさんだと⁉ 俺はまだ……」

 

「どうでもいい! アタシに向けて衝撃波を放ってくれ!」

 

「む……『風雲拳』!」

 

 ジャンプしたアナスタシアの背中に衝撃波が当たる。

 

「この勢いを利用して突っ込む! 喰らえ!」

 

「がはっ⁉」

 

 アナスタシアの強烈な蹴りが炸裂し、コネホは地上に落下して、動かなくなる。

 

「はあ、はあ……やってやったぜ……」

 

 地上に降りたアナスタシアは座り込みんで笑みを浮かべる。


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