一体いつからここに居るのか。
いつまで繰り返すのだろうか。
例え終わりが有ったとして、どこへ行き着くのだろうか。
普通の心を持っていれば狂ってしまうような時間の奔流の中、「それ」或いは「彼」は己の好奇心のみを原動力にしていた。
それは、強い心を持っているというより、
(今度はどんなニンゲンだろう?)
(みんなとオトモダチになって地上に出る奴? みんなを殺して回る奴?)
(……誰だっていいか。)
普通なら同じ時間を何千何万と繰り返されていれば気が狂ってしまうだろうが、
それともとうの昔に狂ってしまっているからか。
長年の地下の住人の希望、地上への脱出すら彼にとってはどうでもいい事となってしまった。
彼の記憶には、確かに地下の皆が地上へ出ることができ、自身も後悔なく終わることのできた時間軸もある。
『向こう側』の存在に懇願までしても、結局全てが巻き戻されることを防ぐことは叶わなかった。
(誰か、ボクに、まだ見たことのない何かを見せてくれ)
まだ見ぬ物を求めて、
あの未知に溢れた世界をもう一度。
本当に……?
(!?)
彼に響く誰かの声。
何処で、聞いたことがあるような……
彼は思わず後ろを振り向くが、そこには見慣れた遺跡の壁とドアしかない。
しかし、こんな声が聞こえてくるなど今までに全く起こったことのないことだった。
(もしかしたら、今回こそこの世界を変えてくれる何かが!)
失くしたはずの心が、弾んだような気がした。
聴き慣れた、ニンゲンが落ちてくる音。
もしかしたら、今までと違うニンゲンが落ちてくるかもしれない。
(あの横縞の服着た糸目のニンゲンはもう見飽きたよ。あいつが辿る
(もし、違うニンゲンが落ちてきたら、違う展開、いやもしかしたらリセットからの解放だって……)
心が無いからといって精神的な負荷が無い訳ではない。
既に狂ってしまっているとしても、度重なる世界のリセットで彼の精神は少しずつ削られていっていた。
ほんの少しの希望に大きすぎる期待をしてしまう程に。
彼が振り向いた、その視線の先にはー
横縞の服を着た、糸目のニンゲンがいた。
「ハロー!」
「ボクはフラウィ。」
「おはなのフラウィさ!」
いつも通りのセリフを言って、いつも通りニンゲンを騙す。
やはり、何も変わらないのだろうか。
加えて、今このニンゲンは
それは、このニンゲンが“知っている“ことを表している。
この世界が繰り返されている事を思い知らされる。
(何か変わると思ったんだけどな…)
ドサッ!
いつもより一際大きい音が遺跡に響く。
ボクは咄嗟にそちらに顔を向ける。
「クソっ!何が起こってんだ!?」
「…生きてる」
どうやら、ボクの予感は当たっていたらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……7秒ぐらい落下していた筈なんだけどな…
なぜだか体のどこも痛くない。
着地した場所がよかったのかな?
そう思って下を見て、漸くザックが自身の下敷きになってしまっていたことに気が付いた。
慌てて彼の上から退く。
「ザック、大丈夫?」
「お、おー」
よかった、ザックも無事みたい。大きな声で悪態をついていたから大丈夫だとは思ってたけど。
私とザックが落ちたところは小さな金色の花畑があった。流石にこれだけで衝撃を和らげれるとは思えない……
それはさておき、まずはここが何処なのか知らない限り、安心するのはまだ早い。そう思って周りを見てみる。
「花?と子供……」
そこには、こちらを見ているかわいい顔の付いた花と、10歳ほどだろう子供がいた。
しかも、子供の周りには白い弾のようなものが浮いている。
……
よく分からない……
とりあえず一番気になって近くにある白い弾に触れてみる。
「痛っ!?」
触った瞬間指先に鋭い痛みが走り、血が出る。
握らなくてよかった……
「おいレイ!大丈夫か!?」
起き上がったらしいザックが駆け寄ってくる。
「少し血が出たぐらいだから大丈夫。ザックもこの弾を触らないでね。」
「毒とかねーだろーな…?」
確かに。その可能性は考えてなかった。でも毒だった場合もう手遅れ。考えても仕方無いから周りを見てみるけれど、紫色っぽい壁と花と子供しかいない上、そのどれも驚いているのか微動だにしない。
見た目からしてどれも作り物なんて事ないと思うし…
そう考えていると、奥の扉が開き人影が出てきた。
ザックと同じくらいの身長かな?
大人の人。
もしかして映画か何かの撮影中だったのかな?だとしたら撮影の邪魔しちゃった。
訂正する。大 “人”じゃなかった。
着ぐるみかな?
白い毛並みに、擬人化した山羊のような容姿。
その人は構えをとったかと思うといきなり花に向かって火を放った。
「おわっ!火!?」
火に驚いたザックが飛び退く。ザックは火が特別苦手だからしょうがない。
火が花に着弾する。火事の心配とかはしていないのかな?
「ギャッ!」
…今花から悲鳴が聞こえた気がするんだけれど……
「情けないわね……罪もない子供たちをいじめるなんて……」
……罪はある。だけれど、今言うのは違う。
「怖がらなくても大丈夫よ」
「私はトリエル。この遺跡の管理人です」
「毎日ここを見回って、落ちてきた子がいないか確認しているの。」
注意も何も入らないところを見ると撮影ではないみたい。
毎日って、そんなに人が落ちてくるのかな?
だったら山に注意書きでもしておくべきだろう、と思ってから、たとえあったとしても読めるほど視界がいい状況ではなかった事を思い出す。もしかしたらあったのかも…
「ニンゲンがこの世界に来たのは本当に久しぶり。」
「一度に3人もだなんて、初めてよ!」
そんな頻度でしか来ないのに、毎日見に来てるんだ…… 習慣になってるのかも。
「さ、行きましょう!遺跡を案内してあげるわ!」
ついて行って大丈夫かは分からないけれど、どのみちそれ以外できる事も無いかな。
この子とも情報共有したいから、話しかけてみよう。と思ったら、先に行っちゃった…
私もザックも話すことはあまり得意じゃないし、話しやすい子だといいな。
……たとえこの先何が起こっても大丈夫。
だって、私にはザックがいるもの。
「ザック、行こう。」
「おー…… 何が起こってんのかゼンゼンわかんねー。 レイ、こりゃどういう状況だ?」
「私にも分からない……」
「じゃ、オレにわかるわけねーな! 来い、レイ!」
そう言って、ザックはトリエルさんに追いつこうと走り出す。
何が起こるかなんて分からないけれど、私に不安はない。
「待って、ザック!」
そう言って、私も走り出す。
きっと、楽しい冒険になるに違いない。