【完結】ウマ娘プリティーダービー企画短編集ーAutumnー   作:またたね

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不思議な日曜日

 

 

 残業明け。そういうにはあまりにもお天道様が上から見ていた。

 

 三月の春の陽気というには少しだけ暑い気温。散りそびれた桜の花弁を運ぶそよ風。閑散とした公園。そして仕上げにだらしなくスーツを着た俺をベンチに添えれば、インスタント不審者の完成である。

 

 閑散としているとは言っても、公園である以上誰かが……今日は子連れの奥様方がいて真昼間からベンチでくつろぐ俺を訝しげな視線で見ている。まぁ、目の下に濃い隈作った男がこんな時間にいれば怪しくも思うよなぁ。不審者の報告も相次いでるのに怖い怖い。でも奥様方許してください。つい数時間前まで残業とかいう名のデスマーチしてたからもう身体が言うこと聞かないんですわ。

 

 電子タバコの蒸気を吸い、身体を隠すように吐き出す。ニコチンもタールもないから身体に安心なメンソールフレーバー。本物の煙草はコスパが悪かったので断念したのは記憶に新しい。

 

「あぁ、俺以外の世界は今日も平和ですねー……畜生め」

 

 仰ぎ見る空の青さが心に染み入るなぁ、なんてすかした言葉が出そうになったが似合わなさにゾッとして電子タバコの蒸気と共に呑み込んだ。こういうのは17歳程度の主人公補正持ってる美形の高校生が言うべきだな。少なくとも、20過ぎの冴えない社畜が言うもんじゃないな。

 

 電子タバコの蒸気を空に吐き出す。カートリッジの容量が少なくなっているのか、吐きだした蒸気の量が少ない。

 スーツの胸ポケットからケースを取り出してカートリッジを交換しようとしたが、運悪く、今使っているのが最後のようだ。

 

「マジですかい……。ここら辺にこのカートリッジ扱ってる店ないんだが……」

 

 家には一応ストックがあるにはあるんだが、如何せんこの公園から家は遠く、まだ俺にはそこまでたどり着く元気は戻っていない。まぁ別に中毒ってわけでもないから一日どころか一週間は余裕で我慢できるしいっか。

 

「けど無いなら無いで口が寂しいんだよなぁ」

 

 もう殆ど液体がなくなった電子タバコを吸いながらベンチに浅く座る。肩甲骨に背もたれが当たってるのかちょっと痛い。

 

 遠くではしゃいでる子供の声を聴きつつ、これからどうしようかと考える。コーヒーでも買いに行くか? ああ、でも近くの自販機のメーカーじゃお気に入りのコーヒーは売ってないしどうしたもんかね。

 

 ため息と共に蒸気を吐き出す。瞬間、視界に影が差す。

 

 その時の事は今でも鮮明に思い出せる。空の色も散りかけの桜の木の様相も微かに聞こえる誰かの笑い声も。見上げた時に俺を見ていたとびきり輝いてた金色の瞳が忘れさせてくれない。

 

 

「あなた、あたしとマーベラス探しに行きましょう!!」

 

 

 懐から取り出したスマホで即座に緊急通報モードを起動して、後で国家権力からお叱りを受けた事も忘れてやるもんか。

 

 

 

 

「————はい……はい。本当に申し訳ございませんでした。今後このような事が無いよう慎重に判断していきます。……はい。申し訳ございませんでした」

 

 よく営業マンが取引先との通話中に見えもしないのにお辞儀をしているのを見て小馬鹿にしてきたけれど、まさか自分がそうする日が来るとは思いもしなかった。この行動はもしかして人間に備わっている生得的行動の一つなのかもしれない。

 通話を切って張り詰めてた緊張の糸を緩める。脱力した身体は自然とベンチへと腰を下ろしていた。

 

「あたし、電話しながら頭を下げる人を初めて見ちゃった。なんで謝ってたのかは分からないけど……なんだかとってもマーベラスっ☆」

 

「……いやまぁ、確かに軽率に通報した俺が謝るのは道理ですけどね? だけどその原因の貴女は面白がる権利はないものじゃないんですか?」

 

 ていうかマーベラスって何? 最近若者の間で流行の言葉か何か?

 

「? あたし何かしたかな?」

 

「この……っ。無自覚不審者の素質持ちかよ」

 

 声をかけれてよく考えもしないまま美人局かカルト集団の構成員だと思って通報したのは軽率だったとは思うよ、うん。けどさ、真昼間の不審者情報がある公園で、不審者みたいな声かけしてくる奴を不審に思うのは自然な事だと思いませんか? 俺は思う。

 

 横目でいつの間にか勝手に座っていた少女を見る。人目をこれでもかと惹き寄せるボリュームのあるツインテールとそれを結っている赤いリボン。そして星でも宿しているのかと疑う瞳は一点の曇りもなくて、いっそ怖いくらいに純粋な輝きを秘めていた。

 

「……それで、当たり前のように居座ってるわけだけれども、アンタはどこの何者なんですかね? 見た所小学生、もしくは中学生に見えるけど」

 

「あたしはアンタなんて名前じゃないわっ。あたしはマーベラスサンデー! トレセン学園中等部所属なの! そういうあなたの名前は?」

 

「こいつはご丁寧にどうも。でも悪いが、ヤバそうな奴には名前書かれて殺されるから言うなって漫画で教えられてるんでね。お好きなように呼んでくださいな」

 

「そう? じゃあ、おじ様って呼ぶことにするわ!」

 

「うっそ。俺そんなに老けて見えます?」

 

 確かに昔から老け顔って言われてたし、今も無精ひげが若干生えてるから年取ってるように見えるかもだけどさ……ギリ三十代じゃない? え、もしかして今の若い人達の間では三十ってもうおっさん?

 

 軽くショックを受けている横でマーベラスサンデーと名乗ったウマ娘は何が面白いのか、ニコニコとこっちを見て足を揺らしている。言葉を信じる限り中学生なんだろうけど、童顔と子供っぽい仕草とは裏腹に、何処とは言わないけれど、異様に発達した不釣り合いな部分も同時に揺れるせいで非常に困る。具体的には第三者から見た絵面がヤバいせいで奥様方の視線が厳しくなったのが困る。え? 警察呼ばれないよね?

 

「で、だ。マーベラスサンデーさんは俺に何か用だったのか? マーベラスをどうとかこうとか言ってたみたいだけどさ」

 

「ええそうよ。あたし、あなたとマーベラス探しをしたいのっ」

 

「うん。さっきから気になってたけど、君の言うマーベラスって何?」

 

「? マーベラスはマーベラスだよ?」

 

「あー……オーケーオーケー。ドゥーユーアンダスタンドジャパニーズ?」

 

「あたし英語はわからないよ」

 

 一度この小娘どついてやろうか。

 いや、でも東京のトレセン学園と言えばURAの御膝元なわけだし、やめておこう。一時の気の迷いでせっかく手に入れた職を失うのはまずい。例え光さえ吸収するほど黒い企業だったとしても収入源は大切なのだから。

 

 さて、状況を整理しよう。まず今日は三日に及ぶスーパー残業タイムから解放されて休憩のために公園に寄った。そこで俺はいつの間にか近づいてきてた謎のウマ娘の存在に気づけず、田舎のヤンキーも逃げ出すよくわからない絡まれ方をされて、今現在逃げる術を持たない。……えぇ、これが治安大国日本で起きる出来事ってマ???

 

「何この摩訶不思議な状況……こっわ」

 

「ふしぎなこと? なら不思議を解明しようっ! 不思議の解明……実にマーベラスね!!」

 

「うーん、小学生探偵呼んでも解明できるか分からないから遠慮しときますぅ」

 

 きっと小学生探偵も彼女に出会えばご自慢のシューズを脱いで逃げ出すだろう。というか、どういった教育受けたらこんな不思議ちゃんに人間って育つの? トレセンの一般教養大丈夫?

 

 ぐるぐるぐるぐるぐーるぐる。電子タバコで多少クリアになった脳の一部で考え込んでみるが、どうにも中学生が20代の冴えない男性を遊び?に誘う理由が思いつかない。唯一考えられたのはこの子が罰ゲームとして俺に話しかけたという線だが、軽く見回してもこちらを見ている視線はな──くはなかったが、見ているのはさっきの奥様方でこの子の知り合いと思わしき人物は見当たらない。

 

「まぁ、取り合えずあれだ。なんで俺? 一緒に遊ぶならそこにいるちびっこ達の方が適任じゃないです?」

 

「そうね! あの子たちも一緒の方がもーっと楽しくなりそう!」

 

「別にもっと人集めようぜって遠回しなお願いじゃないから。ちゃんと捕球して俺に投げ返して?」

 

「ねぇ貴方達! あたし達と一緒にマーベラス探しに行かない?」

 

「ヘイガール? もしかして耳から脳までの回線状況悪かったりする? 回線工事会社に連絡しようか?」

 

 子供達の所へ突撃しようとするマーベラスサンデーをすんでのところで引き止める。しかし、先ほどから不審がっていた奥様方は今の一連の行動から子供を近づけるわけにはいかないと判断したのか、子供の手を引いて公園を出て行ってしまった。

 

 この僅か数分間に起きた奇々怪々な出来事に、思わず額に手を当てて小さく唸る。あぁ、神様。何で貴様は死ぬほど疲れてる男の下にこの未知の生命体を送り込んできたのですか。疲労と心労で今すぐ倒れそうなんですけど。

 

「あら、どこか行っちゃった。何か用事でも思い出しのかな?」

 

 当の本人は、声をかけた子供たちが親に連れて帰られた事に対して見当違いの解釈をしている最中だった。きっと優しい大人は彼女の勘違いを優しく教えてあげるのだろうけど、俺は少し頭痛のする自分にかける優しさしか持ち合わせてない。……まぁ身も蓋もない言い方をすれば、できるだけ関りを薄くしてこの場から離れたかった。

 

 ……さて、思考を巡らせろ。ここは公園で、身を隠すような物は近くにはない。つまり退散しようとすると彼女に見つかる可能性が極めて高いと言事になる。俺から目を離している今がチャンスではあるが、黙って退散しようとする、もしくは全力ダッシュで逃げ出したとしても、相手はウマ娘なのだから逃げ切ることはほぼ不可能。ならば退散理由を話して穏便に分かれるのが理想だが……悲しいかな、今のところこの子とまともな会話できた記憶もなければ、疲れた頭にはいい感じに騙して退散する理由が思い浮かばなかった。

 

「ねぇ」

 

 あ、ヤバ。こっち見た。

 彼女の瞳が再び俺を捉える。活力のある虚ろなそれは、俺に「マーベラス」を要求して爛々と輝く。……勘弁してくれよ。

 

「あの子達はどっか行っちゃったけど、あたし達だけでマーベラス探しをしましょ!」

 

「あー……ほら、俺はあれだよ。シューキョージョーのリユーみたいなあれで、あれがあれだから遠慮しときますわ」

 

「そうなの? でも大丈夫! マーベラスな気持ちに宗教も種族も関係ないわっ!」

 

「死ぬほど便利だなマーベラス」

 

 取りあえずこの子の言う「マーベラス」が本来の意味合いに近い形容動詞だということが分かったのは大きな進歩ではないだろうか。けどまぁそんなことはどうでもいいから誰か助けてください。この際電話かけてくるとかでもいいんで。

 しかし、残念ながらいつもは追加の案件付きの着信で煩いスマホは俺を助けることはなく、静観を決め込んでいる。

 

「それじゃあどこから探しに行こうかしら?」

 

「どこにも行かないというのはいかがでしょう?」

 

「あ、あっちの川の方に行きましょ!!」

 

「オッケー。マーベラスサンデーさんはそっちの川、俺は隣に住んでる川村さんの方に行く感じで分かれて探そう」

 

「レッツゴー!」

 

「I'm not ready」

 

 もういっそ清々しいほどのガン無視である。警察の事情聴取だって任意だってのに、とんだ独裁者の国に迷い込んでしまったようだ。いや、迷い込んではないか。武田信玄もびっくりの怒涛の進撃してきたんだわこのウマ娘。

 冷たい手錠の代わりにぬくもりのあるマーベラスサンデーの手で拘束された俺は、無理矢理振りほどけるわけもなく、手を引かれるままに市中引き回しが始まった。

 

「あー、マーベラスサンデーさん。この際もう川に連行されることは諦めるんだけれども、具体的には何をさせられるんですかね? 三月はまだ水温低いから川遊びは遠慮したいんだけど」

 

「うーん……あ! あたし流れるプールっていうのに興味が──」

 

「お嬢様。とても大事なことだから無礼を承知で言わせてもらうのですが、この時期の水温はまだ低いので水を浴びる系はマジでやめて?」

 

 数多ある選択肢のうち一番あり得ないであろう選択肢を、常識では考えられない切り口から提案しようとするこのマーベラス中学生マジで怖い。というかやっぱり俺の話は聞いてないんですね。やめようって言ったじゃん、川遊び……。

 

「そうなの? じゃあ何しようかな?」

 

 うっきうきで他に川でできることを考えるマーベラスサンデー。ただ川に行くだけでこんなに心躍らせる事ができるのは、やはり子供の特権というものなのだろうか。いや、中学生ってもっと性格擦れてるものではないだろうか。俺が中学生の時はもっとこう自分は特別な力を持ってると思って──うん、この話はやめよう。昔の傷口が開いて痛むわ。

 

 そうこうしているうちに目的地のただの川に到着した。もう一度言うが、本当にただの川だ。しいて言うなら整備されているので川岸もなければ土手もない、そんな川。

 

「……で? マーベラスサンデーさんや、橋から眺めることしかすることがなさそうな川に到着したわけだけれども、何するんで?」

 

「踊りましょうっ!」

 

「貴女はお金はいらないかもしれない。でも、今の俺にはこれしか上げるものがないから……だから……だから今の手持ち全部上げるのでその手を放して俺を家に帰らせてください……!!」

 

 まぁいくら常識が欠如してるといっても、そこまで突飛な事をするわけないかと高を括っていた連行される前の俺を呪いたい。『川+マーベラス=踊ろう』の方程式はフェルマーも考えるのやめて逃げ出すレベルでしょうよ。

 ……しかし、あれだな。ここまで突飛すぎると逆にどういう思考を経て出した答えなのか気にもなってくるな。どうせ逃げられないんだし、社会的冥土の土産として聞いてみるか。俺は振りほどこうと必死に上下左右右回転左回転と動かしていた腕を止めて、いたって平静を装って問いかける。

 

「マーベラスサンデーさんや、どうして急に踊りたくなったんだ? 気でも触れた?」

 

「? 気に触れると踊りたくなるの?」

 

「うん、その答えをこの場で一番知りたがってるのis俺ね? じゃなくて、さっき川で楽しいこと探すって言ってたのに、急に川関係ないことしようとするから気になったんだよ」

 

「あら、関係なくないわ! 見て!」

 

 そういってマーベラスサンデーはバッと両腕を広げて声を弾ませる。

 

「すっごく水がキラキラで、この橋がステージみたいですっごくマーベラスでしょ? そう思うとなんだかワクワクして踊りたくなったのよ!」

 

「うんうん、成程ね」

 

 わからん。いや、百歩譲って、確かに今日は天気がいいから水面が太陽光を反射して綺麗なのとちょっと造形の凝った橋が景観と相まって、心の繊細な部分をくすぐっているのは分からなくもない。が、それを差し引いても、日中にステージみたいという曖昧な動機で踊りたくはならない。

 だからこそ改めて確信する。やべー奴に絡まれたのだと。

 

「なぁマーベラスサンデーさんや、それ俺いないとダメ?」

 

「勿論! 一緒にマーベラスになろっ?」

 

「最近は割と世間の厳しい視線になれたつもりではいたけれど、別に世捨て人になった覚えはないからほぼ百楽しめないが?」

 

「ヨステビト……? よくわからないけど、おじ様は踊ってもマーベラスにはならないのね?」

 

「マーベラ……いや、まぁそういう事になるかな」

 

「じゃあ一緒に歌いましょうっ!!」

 

「君実は幼稚園卒業したてだったりしない? 好奇心に身をゆだねすぎて行動パターンが確実に園児と同じなんだけど」

 

 楽しいことしたくて踊ったり歌ったりって、ほぼ幼稚園のお遊戯会じゃん。少なくとも世間の目を気にしなければならなくなってくる中学生の行動とは言い難い。

 けれども彼女はどうやら休みの日もしっかりと学生証を持ち歩くタイプだったらしく、どこか誇らしげに見せられたトレセン学園の学生証には、証言と嘘偽りのない生年月日が印字されていた。初対面の男に何のためらいもなく個人情報曝け出すところも含めて、やはり中学生とは信じがたいんだがなぁ……。

 

「よし、降参だ降参。いやまぁ、まだ踊るとか歌うとかには全力で抵抗するんだが、これまでのマーベラスサンデーさんの狂げ──言動から察するに、マーベラスな事……楽しいこととかができればいいんだな?」

 

「ええ、そうよ! あたしはマーベラスなことをいーっぱい見つけて全世界をマーベラスな気持ちでいっぱいにしたいの!」

 

「オーケー。スケールのでかさと手段のアバウトさは全然オーケーじゃないけど。この際目を瞑ると今は俺が楽しくなってマーベラスになれればいいんだな?」

 

「ええ、ええ! 公園で見たおじ様は全然マーベラスを感じてなかったんだもん。だからおじ様、あたしと踊って歌って、あたしたちが出会えたマーベラスを思いっきり楽しもうっ!」

 

「……成程、ね」

 

 スゥッと息を吸って、ゆっくり吐き出す。肺の中の空気を全て吐ききった後に懐から残り少ない電子タバコを取り出し、メンソールを取り込む。

 クリアになった脳で彼女の言葉を日本語訳してみる。つまるところ、公園で独り荒んでいた俺を見て元気づけようとした……ってことでいいのか? 凄い好意的に解釈してるから違ってたら死ぬほど恥ずかしいんだけども。

 ……なんとまぁ奉仕精神にあふれたマーベラスな(素晴らしい)心掛けなことで。

 

「……だったらさ、俺は歌って踊るのが苦手なんだけど、見るのはまぁまぁ好きだからさ。マーベラスサンデーさんが踊ってるところを見せてよ。そうすればなんか、こう……マーベラスな気持ちになると思うからさ」

 

「おじ様……!」

 

 きっとこれが最適解。俺は社会的に死ぬことはなく、この子は俺をマーベラスな気持ちにするという目的を果たせる。その答えにたどり着くまでに大分遠回りをしてしまった気もするけれど、それもまた一興というものではないだろうか。

 

 瞳をキラキラと輝かせてこちらを見るマーベラスサンデー。今俺たちは、ようやく分かり合えた気がする。だから────だから早くなんか歌って踊って俺を解放してくれ。

 そんな俺の想いが通じたのか、マーベラスサンデーはにんまりと満足そうに笑う。

 

「それはそれとして一緒に踊ろー!!」

 

 一人の哲学者によって神が殺された世界では慈悲などなかった。

 

「いや、だから俺踊るのも歌うのも勘弁してほしいんだけど……」

 

「マーベラ―スっ☆」

 

「くそっ! ついに日本語翻訳機能を失ったか! って、ちょ、腕引っ張って急に踊るのやめ、おい!!」

 

 俺の手を掴んでくるくると回る。ウマ娘の腕力で振り回される俺はどちらかというとぐるんぐるん振り回される。これが踊りだというのであれば、きっとプロレスはバレエか社交ダンスに名前を解明する必要があるな。遠心力パネェ。

 結局その後やけになった俺は残業明けの身体に鞭打ってマーベラスサンデーとでたらめなステップで踊ったり、ゲームセンターに突撃して片っ端からゲーム筐体で遊んだりと後半の記憶がないくらいには振り回されることになった。

 

 そして気が付いた時には俺は自宅の布団で寝ていた。

 全ては悪い夢だったのだろうか? そう思って着信履歴を見ると確かに国家権力への通報履歴が残っているため現実であったのだと再認識させられた。

 あの後どうやって帰ったのか。疲労困憊であるはずの身体に溢れる活力は何なのか。結局彼女は何がしたかったのか。色んな疑問が浮かんでは消える。

 

「……結局、マーベラスって何だったんだ?」

 

 身支度している間も脳内に響き渡るマーベラスという言葉。結局、俺はその神髄へと至ることはできなかったのだが、何となく今はこのままでもいいような気がした。

 予感がしているのだ。きっとまた俺が残業につかれてあの公園で休んでいると、マーベラスの使者が読んでもないのに来るという予感が。

 

 月曜日に今日も今日とて俺は仕事へ向かう。いつもは重い足取りが、今日は少しだけ軽かった。

 

 

 

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